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国内の成熟市場で成長するために

第7回 成熟市場の中で各業界はどのような取組みをしているのか?

寺川 正浩

 消費者の意識や行動の変化を感じ取った企業は、成熟市場の中でどんな取組みをしているのでしょうか? 消費者の変化にもっとも敏感な小売業界の取組みを確認していきましょう。

消費を動かすコンビニエンスストアに学ぶ

 小売業界についてはこれまでいくつか事例を紹介してきましたが、非常に変化が激しい業界です。その中でも変化のスピードが際立つのがコンビニエンスストア業界です。

 現在、コンビニエンスストアの利用者における50歳以上の利用者比率は3割を超えています。しかし30年前は1割にも達していませんでした。逆に当時は20歳未満が3割近くを占めていました。現在は1割程度です。確かに私が10代の頃はコンビニエンスストアといえば若い世代が利用する、あるいは時間を潰す(?)イメージしかありませんでしたが、今ではそのイメージはほとんどありません。

 この30年間で人口動態、そしてライフスタイルが大きく変わったということはもちろんあります。しかしそれよりもコンビニエンスストアが消費者変化をいち早くキャッチし、新たな需要を喚起する商品やサービスを考え、結果としてそのときどきで「消費を動かす店づくりをしている」というのが実態なのだと思います。

col_terakawa_07_01.jpg ここ数年はカウンター前のいれたてコーヒーやドーナツは注目を浴びましたが、たとえば、惣菜の強化でどの業界よりも先に高齢者と女性の取込みを行ってきました。また、粒売り可能な長持ちブドウ、果汁が垂れないトマトなど個食化を意識しての品種改良をコンビニエンスストアが後押ししながら大学や農業試験場が進めています。また「共働き」にいち早く着目し、宅配便の保管や住民票などの各種申請書類の受取りサービスを開始しました。一方、雑誌の売場は縮小し売上は激減しています。こうした取組みの結果、利用者(ターゲット)がこの30年間の間でガラリと変わったのでしょう。

 あるテレビ番組で有名なパティシエが、参考にしているお店を聞かれたときに「コンビニのスイーツはいつも気にしてチェックしています」と即答して周囲を驚かせていました。まさにコンビニエンスストア業界は「ニーズ創造型企業」の集合体なのだと思います。

成熟市場ではシームレス化が進む

 コンビニエンスストアの変化の中身とはまた違いますが、業界内の変化が著しいのがドラッグストアです。

 第2回目のコラムで、ドラッグストアの変化を少し紹介しましたので少し振り返りますと(筆者でも前に書いたこと毎回振り返っているくらいですから、覚えている方は誰もいないと思いますが)、かつては薬しか売っていなかった店舗に今ではワインが並んでいたり、精肉コーナーが展開されていたり、日配や低温商品が売上の5割を超えているドラッグストアも普通に見かけるように、という話です。中食需要が増える中、弁当店と提携するなどして、弁当・惣菜の販売にも力を入れている店舗もあります。また、健康志向の中、化粧品コーナーの一角にオーガニック化粧品を充実させている店舗も多く見かけるようになりました。

 こうやって成熟市場の中で成長し続けるために、コンビニエンスストアやドラッグストアがスーパーマーケットの市場に入り込んでくる中、スーパーマーケット各社はただ指をくわえて眺めているだけではありません。スーパーマーケットも大都市を中心にコンビニエンスストア感覚で入れる食品中心の小型店の出店を強化しています。

 こうなってくると品揃えだけではスーパーマーケットなのか、コンビニエンスストアなのか、ドラッグストアなのか、区別がつかなくなってきました。まさにシームレス化を感じる典型的な業態です。

 一方で、シームレス化が進めば、当然競争環境は激しくなるわけで、シームレス化の中にいる企業は何らかの特徴を打ち出していかないと、領域は拡げたものの広い市場の中に埋没してしまいかねません。

 実際に、最近までもっとも元気のあったドラッグストアですら、この3年間は連続して1店舗当たりの売上が減少しています。食品や飲料の安売りも集客の目玉になりにくくなっているのでしょう。そのあたりの危機感のあらわれか、ドラッグストアは食品を充実させた日常の買い物ニーズ対応型、ヘルスケア視点での付加価値提供型、そしてその中間のバランス型とタイプが分かれ始めたようです。

 たとえば、ネイル・エステのサービスを行ったり、相談コーナーを設けてサプリメントの組み合わせの相談に栄養管理士が対応したり、検体測定器を設置して血液検査や口腔内環境チェックを行うなどの店舗もあり、これから各企業の個性が出てくるのではないかと想像します。

シームレス化の中でどのような特徴・個性を出していくか

 成熟市場におけるシームレス化は、他の小売に関しても同様です。消費者の財布の紐がなかなか緩まずに苦戦しているアパレル業界においても業種をまたいだ取組みに各社着手しています。

 健康志向の中でスポーツウェアを普段着としておしゃれに着こなす、アスレチック(運動)とレジャー(余暇)を組み合わせたアスレジャー市場にアパレルメーカーや靴メーカーなどが参入し始めています。市場の拡大規模によっては他の業界も入ってきて、もっと広い概念のものになっていくかもしれません。

 また、アパレル事業ともっとも親和性が高く相乗効果も見込める「化粧品事業」に参入したアパレル企業もここ最近いくつかでてきました。

 さらには、電子繊維を衣類に混ぜてウェアラブルで健康管理を行う衣類の開発は、アパレルメーカーだけでなく、健康機器メーカー、スポーツメーカーも含めて関与する市場です。異業種ですが、それぞれが協業メーカーにもなりえますが競合メーカーにもなりうるわけです。

 こうなってくると従来の業界概念ではなく、今の、そしてこれからの消費者目線でのカテゴリー区分で自社の商品・サービスを見つめ直して特徴を打ち出していく必要がでてくるでしょう。アパレル業界であれば、エコロジーという切り口で括り直してみたり、テクノロジーという切り口で括り直してみたり、ということです。少なくともニーズ創造型のアパレル企業であれば、これと似たような発想でアパレル事業にこだわらないビジネス展開を考えているはずです。

 次回は、「ニーズ後追い型企業」がどのような観点で自社の戦略を立てるべきかを紹介します。

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