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技術者の知的生産性向上と職場活性化の現実

第7回 崖登りのマネジメントスタイルになっていませんか

星野 誠

 本コラムでは、技術部門の職場の現実を直視しながら「技術者の知的生産性向上と職場活性化」を考えていきます。「慢性的に忙しく元気がない」職場を真に活性化するためのヒントを提案していきたいと思います。第7回目は、自職場のマネジメントスタイルについて考えてみたいと思います。

今年の新入社員のタイプは?

 よく今年の新入社員のタイプは「○○型」などと、何かにたとえた表現が話題になります。

 公益財団法人日本生産性本部が1973年から毎年発表している調査によると、ここ数年の新入社員のタイプは、「ドローン型」「消せるボールペン型」「自動ブレーキ型」「ロボット掃除機型」......のように、技術革新の成果を表すようなたとえも多いようです。過去を振返ると、昭和51年(1976年)は「たいやきクン型」、昭和62年(1987年)は「テレフォンカード型」など懐かしいタイプも並びます。

 画一的にレッテルを貼られるのもどうかと感じる方もいるかと思いますが、その時々の時代を切り取り、変化や現実をたとえようとする一つの試みとしては興味深いものがあります。

 今年はいったい何にたとえられてしまうのでしょうか?

うちの職場のマネジメントスタイルは?

 新入社員のタイプは、どちらかというと先輩方からの評価目線で、「最近の若者は××」との世代ギャップの話題につながりかねない雰囲気もやや含んでいるように思います。「最近は××しない」「最近は××が苦手」のように、若手社員に対する人材育成上の問題認識とも一部重なるところがあるかもしれません。

 ただし、実際の職場の中では、新入社員だけが評価され、上から一方通行にギャップを眺めているだけでは、現実を正しく捉え切れません。現実を捉えるためには、職場全体を感じ取る必要があります。たとえば、上司と部下との関係、またそこを行き来して日常業務をやり取りしている関係を捉えるのです。そうすれば職場の中で相互に情報と感情がどのように流れ、どのように風土がつくられているかがわかってきます。さらにどこに問題が顕在化し、どこに潜在的な問題があるのか、職場の全体像が見えてきます。

 現実を捉えるために、まずはみなさんの職場の今のマネジメントスタイル、上司のマネジメントスタイルにも名前をつけてみてはいかがでしょうか。

 技術部門によくあるマネジメントスタイルには、

  • これもあれもヤレとあふれんばかりの仕事がポイポイと渡される「やれ型」
  • 上司の指示どおりに動く(指示どおりにしか動かない)「鵜匠と鵜飼型」
  • リーダーが自分でやらないと気が済まず下に任せられない「抱え込み型」
  • 上司が中身もわからず助けもない「丸投げ型」
  • アウトプットにケチはつけるが火が噴く現場が見えていない「報告待ち型」

などがあります。

 日常業務上のやりづらさや愚痴の多くは、職場や上司自身のマネジメントスタイルの表れなのです。

崖登りのマネジメントスタイルとは

 すでに職場の風土として染み付いてしまい、見えにくい、気づきにくいスタイルもあります。たとえば、言葉には出さなくとも歴代の上司・先輩たちの「オレが登ってきた崖を登れ」が染み付いている職場です。こうした風土のもとで暗黙のマネジメントが行われていないでしょうか?

 ベテランの方々には、過去に修羅場をくぐり抜け、崖を登ってきた方々が数多くいます。部長や課長くらいになるといくつかの「武勇伝」をたまに語ってくれたりもします。ただし、職場の全員が同じ道を目指すものではないですし、時代背景が異なるうえに仕事への向き合い方も変わってきています。ワークライフバランスやメンタルヘルスなどの用語もなかった時代の働き方とは変わり、今日的な仕事のやり方、職場環境のつくり方、人材育成の仕方を考えていくこと自体が職場の重要な機能だと思います。

 「育てるために修羅場を経験させる」「仕事は自分でやるのが当たり前」などの大義名分のもとに、百戦錬磨の先輩たちと同じような崖登りが求められ、「自分たちの仕事のやり方はこんなもんだ」との歴史が繰り返されていないか、周りに崖登りを強いてないか、改めて現実を直視して自覚してみたいところです。

裏のルートを見つけよう

 マネジメントスタイルと密接な「人の成長」に関していえば、職場の一人ひとりがどのようにチャレンジングな経験をしていくかも重要です。

  • 上司も背景や期待、目標を語り、本人も先の見通しを持ったうえで経験する
  • 一人任せにするのではなく、周囲・チームのサポートを受けながら経験する
  • より良いやり方を探索し、作戦を立てながら経験する

のであれば、くじけずに道に迷わずに生産性高く登れると思います。

 時代とともに、いつの間にか裏道に新しい登山道が整備されているかもしれませんし、日々進化している最新の道具への買い替えも有効かもしれません。

 自職場のマネジメントスタイルの現実を正しく捉え、裏のルートを見つけ出し続ける職場を目指して頂きたいと思います。

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