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第5回 学び合い、活かし合える多面的な関係をつくる

 職業柄、悩みや困り事の相談を受けることが多いが、その一方でクライアント先を訪問したときにポジティブな事例や前向きな取組みに触れることもあり、そんなときは嬉しくなる。最近は多くの職場でかつてと比べると限られた人数で業務に取り組むようになっている。そのため、OJTなどもなかなか充実させられない環境のところが多い。しかし、そのような環境下でも若手社員たちが自発的に後輩へ教育を申し出て取り組んでいるところもある。時折、このような話を耳にするのだが、同じ職場、相手、業務であっても、相手の自発性の発揮に頭を悩ますことがあれば、一方で相手が自ら進んで提案、行動してくれることもある。

行動してみようと思わせるには

 上記で紹介した若手社員のケースを例に、エンパワーの視点から考えてみる。あくまで推察の範囲ではあるが、以下のような「実感」が1つないしはいくつかが高まり、行動してみようと背中を押したのでは......と考えることができる。

  • 限られた経験の中でも後輩の育成に携わることができそうだという自己効力感
  • 若手なりの現場観からみた教育内容に対する効果性、意味(有意味感)
  • 自分たちの経験、知識でも役に立てそうな実感、貢献感
  • 自分たちが教育プログラムを組み立て、実行できる自己決定感
  • 組織が掲げる目標との連動感
  • 仲間との共同体験を通じて得られる一体感

 同じ後輩に対する教育も突然上司に言われて行うのであれば、業務負荷が高いタイミングでは負担感が高まるだろう。また有無を言わせない関係の中で、やるのが先輩の務めとばかりに役割を渡されると「やらされ感」になるおそれもある。考えるきっかけをつくるために、まとめて任せたとしても意図が十分に伝わらなければ、丸投げされたと受けとめられかねない。

リーダーとメンバーが共同で「実感」できる機会をつくる

 メンバーに対する機会づくりの際に大切にしたいことは、「やらせる人-やる人」「評価者-被評価者」などの一面的な役割認識の関係からいったん離れて、メンバーが"主役になって"動ける機会を意図的につくることである。

 メンバーにとっては任せられ矢面に立つ機会や自ら壁に直面し乗り越える経験をしなければ実務で通用する実力は蓄積していかない。リーダーの細かな進捗管理や出来不出来ばかりチェックしていては、顔色を伺うような動きを誘発してしまう。

 実際に業務を任せる際にはDo(実行)の部分だけの役割を任せるのではなく、小さくとも一連のPDCAを担う機会をつくることや、そこに本人の意図や実感が反映され、それらがにじみ出るようなプロセスをつくることが望ましい。そのためにはリーダーは日頃から相手の行動をよく観察し、意欲の状態にも関心を向けておく必要がある。また、目標や納期を提示し作業を任せ管理するだけではなく、PDCAのP(Planning)とC(Check:振り返り)をしっかり任せて、相手に実感を持って検討内容を説明してもらったり、実践からの気づきを語ってもらえる状態をつくることが大切である。もしリーダーからみて任せる相手の経験や意欲が十分でないと感じるならば、P(Planning)とC(Check:振り返り)はリーダーとともにつくり出すのでもよい。そういった機会を持つことは次のリーダー養成にもつながる。

 実際のコンサルティングの支援場面でもこのようなことを意図的に組み込むことがある。リーダーが時に応じて関わり方を変えることで、メンバーが主役を演じる機会を得て自力で取り組む経験を積むことができる。任せるが手放さずやり遂げさせ、フィードバックの機会をつくるのである。

 大切にしたいのは、リーダーとメンバーが力を合わせるという共同的な体験の機会を持つことである。いつも決まった主従関係の中でその役割を担うだけではなく、経験やそこから得た教訓、本人の資質、持ち味を発揮し、相手に貢献できる機会を持てること、自分が役に立てる実感が持てることである。

 リーダーがメンバーに対してこのような関係、機会をつくることは、それぞれの主体性の発揮、エンパワーメント実感の促進サイクルにつながる(下図)。

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