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「製造業のサービス化」で事業成長を目指す

第9回 「製造業のサービス化」の進め方(2) —サービス業化どのように検討するか—

渡邉 聡

 前回、サービス化の進め方(1)として、モノ起点でのサービス化の目指し方についてお話ししました。今回は、本コラムの主題であるサービス業化、つまり、「企業側が価値の源泉であるモノをつくって売り、顧客が対価を払って消費するというモデル」ではなく、「モノ+サービス+体験によって企業と顧客が価値を共創しようというモデル」の進め方について考えてみましょう。

(2)サービス業としてのビジネスモデルを目指す場合

 サービス業化へビジネスモデルチェンジを図る視点については、第7回を参照してください。進め方としては、第8回でお話ししたモノ+サービスの考え方をベースにしながら、以下のように考えられます(下図)。

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カギを握るのは自社らしい経験価値の明確化

 ポイントの1つは、「自社らしい経験価値の明確化」です。これまでもお話ししてきましたが、サービス化の重要な視点は体験価値の創出です。その際、体験を真に成果につなげるためには、どのような体験をしてもらうのかという企画設計が重要です。顧客にとって新しい体験、有益な体験積み重ねてもらうことは当然重要ですが、そこに自社らしさがなければ競合との差別化などにはつながっていきにくくなります。自社らしい経験価値を描くために、以下のような視点を参考にしてください。

①顧客洞察視点

 「ターゲットとなる顧客像を見定め、販売やコールセンターといった自社との接点だけでなく、製品使用場面などに深く踏み込んで「自社から見えている顧客の向こう側」までを捉える意識でトータルに顧客経験を描く」

 たとえば、革新的な調理器具は新しい料理の可能性を広げます。しかし、それは表面的なことに過ぎず、その料理がふるまわれた場面では新しい体験価値が生まれているはずです。そういったことを描くことが重要です。

②飛躍視点

 「同業種だけでなく、全く異なる商品やサービスの成功事例などを参考に、自社であればどんな経験が考えられるか、少し飛躍した発想を引き出す」

 たとえば、世の中で流行していることがあった場合、その本質的な価値は何か?

 を考え、その体験価値から自社にできることを発想してみる、といった考え方です。

③理念・戦略視点

 「社会への貢献、実現したい世界、競争に勝ち抜くビジョンと戦略から発想する」

 これはわかりやすい着眼点だと考えます。ただし、実際には競合他社に置き換えてみても通用するような内容になることが多く、「自社らしさ」を出すのが意外に難しいことが多く見られます。

④リソース視点

 「自社リソースの活かし方自社以外のリソースの活かし方をとことん発想する」

 企業としてさまざまなリソースがあるはずです。技術、人脈、顧客ネットワーク、施設・設備......こうしたリソースを活用して新しい体験が生み出せないかを考えてみてください。工場見学などはその一例だと言えます。



価値共創実現のためのデザインをする

 2つ目のポイントとして、自社らしい経験価値が描けたら、それを実現するために大きく2つのことを考えます。

①CXのデザイン

 CXとはカスタマーエクスペリエンスのことで、文字どおり「顧客体験」という意味です。自社らしい体験をどのようにしてもらうのか、それをデザインする必要があります。オーソドックスには、いわゆるカスタマージャーニーマップなどを使って、顧客の利用行動における接点で設計するという考え方があります。

②SCMのデザイン

 一方でサプライチェーン側の設計も必要になります。目指す体験創出のためのモノの流れ、情報の流れ、サービスの流れなどを設計します。ここに含まれることとして重要なことの1つは課金の方法です。誰がサービスコストを負担し、誰がメリットを享受するのか、などを設計する必要があります。



経験価値をマネジメントできるようにする

 3つ目のポイントは、経験価値マネジメントシステムを構築・運用することです。

 価値は顧客の体験を通じて共創されるものだとすれば、共創の瞬間である体験場面をマネジメントする必要があると考えます。場面の観察評価、アンケートによる顧客評価、モニタリングやミステリーショッパーによる評価といった従来の品質管理手法に加え、思い出・記憶の確認、共創された価値の内容など、体験がもたらしたものを広く・深く把握する必要があります。また、新たな経験価値の共創や蓄積をしていく仕組みも構築することになります。経験価値の共創や蓄積についてのR&Dが必要だという言い方もできるでしょう。



既存のモデルを変える難しさ

 今回は、既存の製品についてサービス業化を目指す場合のポイントをお話ししました。もちろん、前回お話ししたモノ+サービスの考え方と共通する部分も多くあります。しかし、この進め方の難しい点は、すでに現状のビジネススキームが確立されている中で、どのように新たなモデルへ移行していくか、ということにあります。これまでの無料保証サービスを有料化にするとなれば当然抵抗もあるでしょう。このあたりを丁寧に考えていく必要があります。

 逆に、新たにサービス業化のビジネスを立ち上げるほうが、この点においてはやりやすいと考えます。サービス業化のポイントはどちらの場合も大きく変わりません。したがって、3つ目の進め方である「(3)新ビジネスを立ち上げる」も基本的には今回と同じポイントで検討してみてください。

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