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失敗しない組織改革のススメ―問題意識を起点に対策を立てる―

第4回 意欲の連鎖が感じられる組織にする

  • 人事制度・組織活性化

才木 利恵子

全社方針が浸透し、組織が一丸となって改革に取り組むには、第2回・3回で書いた「組織と個人の目標の連動」「健全な危機感」のほかに、「達成意欲の連鎖」が重要です。

「達成意欲の連鎖」とは?

「達成意欲の連鎖」(図1)とは、トップ層の率先垂範や上司の積極的な姿勢を従業員が感じ、それが職場の意欲を全体的に引き上げ、自分の目標意識・達成感につながっていく状態のことです。

図1 達成意欲の連鎖



ところが、C社で行なった従業員意識調査では、図に示した「自分の目標をいつも意識している」が80%以上と高いのに、そのほかの4つについては40%に達しない低さでした。その結果をみたトップ層は、ショックを受けてこう言いました。「みんな、自分だけが意欲的にやっていると思っているのか......」
C社では、全社あげての改革に取り組んでいたのですが、従業員の目には、以下のように映っていたようです。

  • 改革は表面的には取り組まれているが、トップ層はどこまで本気なのか、よくわからない
  • 職場の上司は上から指示された施策に取り組んではいるものの、根本的な問題には目をつぶっている
  • 職場のみんなも疑心暗鬼で、どこまで本気で改革に取り組むのか、様子見の状態だ
  • 自分は、やっているという姿勢は見せないといけない
  • しかし、今のままでは達成感はない

従業員は、「自分だけがやっていると思っている」のではなく、「‟やっている"と言わないとまずいだろう」という忖度をしながら、「会社は本気で変わるつもりなのか?」という投げかけをしているようです。それが従業員意識調査の数値に表れていると言えます。


「達成意欲の連鎖」を起こすには

C社では、上記結果を受け、以下の取り組みをされました。

① 今までのコミュニケーション施策を見直す
C社では、改革のために、改革方針を示したメッセージを発信したり、そのメッセージについて職場での検討会をしたり、トップ層が直に現場をまわって説明会などのコミュニケーションの場をつくったり、さまざまな工夫をしていました。しかし、活発なディスカッションにはほとんどつながらなかったのも事実です。そこで、以下のような取組みを始めました。

ⅰ)改革方針を示したメッセージに都合の悪い情報もプラスし、全社で共有する
「本当に改革は進んでいるのか?」という疑問を従業員らは持っています。だからと言って、都合の悪い情報を隠して「上手くいっています」といっても、社内で噂は広まります。そのため、上手くいっていないことは何か、上手くいっていることは何かを可能な限り公開することにしました。
当初、部下を不安にさせる情報を与えることに反対する人もいましたが、社内で広まった噂ではなく公式の情報を共有することで、トップ層とのコミュニケーションの場でねぎらいや応援の言葉も出るようになりました。

ⅱ)職場での検討会では、上司同士が改革のために侃々諤々で議論する姿をあえて見せる
新たな方針のもとでの改革では、意思決定の際にさまざまな異なる意見が出て然るべきです。職場では、現場の問題点を抱えた上司と、上司が招聘したその上司(部門長)とが、本気の議論をくり拡げました。
品質問題と納期、働き方改革と顧客満足・業績、顧客満足とコストなど、それらのバランスをとれることが理想ですが、どちらかを選択しなければならない場合もあり、本気の議論の重要性と、そこから生まれた意思決定の重さを感じることができたようです。

② 「今までとは違う」と現場に理解されやすい、現場が混乱する施策をあえて行う
C社では、現場が混乱しないよう組織体制や業務ルールなどの変更については最小限必要な範囲で行なってきました。しかし、それが逆に、「本気で変えるのか?」という疑心暗鬼を生んでいたようです。
そこで、人事の刷新や、あえて現場がざわつくような業務ルールの変更も行いました。これが、現場での議論を活性化させることにもつながったようです。

「全社方針の浸透」のために

全社方針が出されても、それを現場が受け入れ、改革意欲を連鎖させるには、さまざまな取組みが必要です。それは、方針に反対というわけではなく、従来のマネジメントや仕事の仕方がしみつき、知らないうちに個々人の意識・行動を縛っているからです。
どんな問題意識が「改革に向かう人」「組織の障害」となっているのかを見極めることが、改革を進めるための近道です。

図2 改革を妨げる組織風土

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