第15回 継続的に経営目標を達成する! 全社最適型マネジメントシステム

石山 真実(いしやま まさみ)シニア・コンサルタント
これまで、工場改革を主軸に、自動車、自動車部品、電器、食品など数多くの業種で成果をあげてきた。近年では、システマチックな労働生産性向上、材料費低減など総合的収益改革を数多く展開。こうした経験を通して、各種診断技術やコンサルティング技術(生産性向上・原価低減、全社最適型マネジメントなど)における、プログラム開発も数多く手がけている。また、「生産革新コース(IE士認定)」の講師としても教壇にたち、実践的な内容で好評を得ている。

より競争力をもった企業へ! 全社の“最適化”が実現のポイントになる

経営と現場、部門と部門でズレる改革活動 経営者が求める“最適”に答えを!

従来、日本企業は現場改善の力が強いといわれてきた。ある製品の機能を高めようとする品質へのこだわりなどは、その代表的なものといえるだろう。しかし、高い競争力が求められる現在、そこに不整合が生まれてもいる。たとえば競争力向上に対して、営業部門は「コストを下げて低価格にすべき」と考えているが、設計部門は「機能を追加することで品質を高めるべき」と考えているとする。しかし、低価格と高機能はトレードオフの関係にあるため、別々に目標達成を試みたのでは、最終的に矛盾してしまう。各部門は、自分たちの目標のなかで最適化をめざすものだが、それが全社から見たときの目標と完全に一致しているのかというと、必ずしもそうではないのである。このとき、経営者は競争力の高い製品を求めているとしよう。2部門の想いを合わせた“低価格で高機能”を両立させた競争力のより高い製品を実現するには、どうすればいいのだろうか? 経営者たちは、近年、こういった課題に頭を悩ませているという。
「これまで、こうした意思統一と業務への反映には経営計画書などが使われてきました。しかし、ドキュメントに全体目標として経営者のめざすところが書かれていたとしても、それを具体的にどう実現していくのか? という詳細な計画になると、各部門がめざしたい内容になりがちです。結局、各計画の立案は、その部門に任せきりになるからですね。全体の目標と合っているのか、合わせるためにはどうするべきかという視点から立案することができないでいるのです」その背景には、以前と比べてずっと複雑で高度になったビジネスの現状も影響している。「たとえば、製品数ひとつをとっても10種類扱っていたものが100倍…… といった具合に増加しています。数が少ないころなら、経営者も全体を把握して計画の問題点を指摘できましたが、今は各部門の計画内容まで細かく見ていくことは到底できなくなっているのです」その状況が、これからも簡素化することはない。経営目標と具体的な計画のズレは、今後も大きくなっていくだろう。

リードできるか、リードされるか? 解決策を模索する世界

大半の経営者はこの課題に気づいており、どうにかして最適な形にしたいと願っている。しかし、その方法がわからず、困惑している企業が圧倒的だ。「これは日本国内だけの話ではありません。世界各国の企業が、同じような悩みを抱えています。実は、全社最適を模索する動きは同時多発的に起きていて、海外でも『バランス・スコアカード』『シックス・シグマ』という手法が考案されて、どうにかして全社最適の状態にしようと試行錯誤しています」では、それらの手法で問題が解決するかといえば、話はそう簡単ではない。「概念を中心としたこれらの海外発の手法はいくら日本に合うようカスタマイズしても、どうやら日本企業の風土になじまないようなのです」もちろん、すべての企業で確実にそうだというわけではないが、石山は、日本企業になじむ仕組みが必要だと感じるようになったという。
明確な答えを見いだせずにいる経営者たちではあるが、その一方で、将来像については高い理想と強い危機感をもっている。「2006年に実施したモノづくりの実態調査のなかに、それがみてとれました。経営者たちは、今、日本の工場を世界の先生ともいえるマザー工場と位置づけています。けれども、3年後にはほかの国ではつくれないような製品を提供できる、高技術・高付加価値製品の生産拠点になりたいという答えがトップになったのです」近隣各国の技術力が向上したために、日本だけが高品質製品を生産しているという状況ではなくなった。経営目標・戦略に対して全社が最適な活動をできる仕組みをもつことは、国際競争を勝ち抜くためにも必須といえよう。「逆にいえば、ここで遅れをとるわけにはいかないということです」

全社がひとつをめざす! 日本企業の体質・風土に合ったシステム

JMACは、以前からTPマネジメントをはじめとした支援活動を通じて、企業の目標管理に寄与してきた。そのなかで、石山はすでに述べたような部門間のズレを感じ、全社最適型マネジメントの必要性を痛感したという。「経営計画で決められた、あるひとつの狙い…… それに対して全員が同じ目線でもって目標をもてる、そういう構造をつくりたいと思ったのが、TPマネジメントをさらに発展させた全社最適型マネジメントシステム開発のスタートラインになりました」JMACの提案するシステムでは、経営者が設定した目標を部門から現場の作業者レベルまで同一性を保ちながらブレークダウンしていくのだという。「たとえば、ある製品の価格を決めるときに、なぜその数字でなければならないのか、理由をはっきりとさせます。ここが全社の共通認識となり、全社最適の第一歩になります。次に、その価格内で決められた機能を収めるためにはどうしたらいいのか、ということを各部門が考えます。生産部門は、コストを押さえるためにどういう生産ライン・検査方法でなければならないかを検討する、といった具合です。そうしてできた計画を全部横に並べて、不整合がないかチェックします。この方法だと、目標に対して方向性は一致するし、コストを下げたいのに上げているところがあるなどといった矛盾を発見しやすくなります」こうして足並みをそろえた後、計画の実行を管理するのは、従来通り各部門長をはじめとする管理者だ。「実績も、全体目標に対してどれだけできなかったら、どのくらい挽回しなければならないか、確認しやすくなります。事業のサイクルがひとつ終わったところで、最終的な評価をし、次の計画につなげます」しかも、この方法なら経営トップからみても全体を把握しやすい。
ここで言うマネジメントシステムとは、いわゆるITシステムではなく、マネジメントを行う為の仕組みを意味しているが、石山はこの仕組みの核心部分に触れる。それは、 “自律型”であるという点だ。「いわゆる改善という活動は、この部分をこうやりなさいという指示のもとに行うものです。しかしこのシステムでは、指示をされなくても、現場の一人ひとりが自発的に業務のやり方を改革して目標を達成するという体制をつくっていくのです」JMACが提案するこの全社最適の仕組みは、“企業を構成する各人が自律的に全社最適をめざす”という点に大きな特徴があるともいえる。

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