経費削減策のみのリスク 有効な営業戦略と拡販活動こそが打開のキー
不況に伴う需要環境の悪化に対して、ここ数年、企業はさまざまな手段を講じている。多くの企業では、経費削減といった“インプットを減らす”のみの対策に終始しているのではないだろうか。しかし、青木はこの方向性に疑問を投げかける。「営業部門の経費削減は、短期的な収益確保には有効だが、一方で不況時の営業戦略も検討されていないと片手落ちです。経費削減策のみで景気の回復を待つという、いわば“受け身”の戦略だけでは営業部門のモチベーションが下がったり営業力が弱体化してしまったりといった、思わぬ副作用をもたらすことがあるのです」たとえば、10あった営業拠点を5つに統合することでコストの節約は可能だが、減った拠点の数だけ、営業活動は縮小することになり、異動した人員に余剰人員意識をもたらし、モチベーションも下がる。また、今だけではなく将来の営業機会も減らすことにつながってしまうのだ。「一般的に、営業力は一度弱体化してしまうと、もとのレベルにまで回復するのにその3倍もの時間がかかるといわれています」
これまでの経営戦略ではなかなか状況を打開できず、経費削減にも限界とリスクがあるとしたら、ほかにどのような方策があるというのだろうか。青木は、「インプットを減らして景気回復を待つというような従来の“受け身”の戦略から大胆に発想を転換して、この不況時だからこそできる、そして、将来の成長につながる積極的な営業戦略と拡販活動が必要ではないでしょうか」と指摘する。「本来、営業活動は、はっきりした成果が出るまでに時間がかかってしまうものです。需要回復の兆しが見えた時点で動き始めるのでは、もう遅すぎるのです。すでに他社は行動を開始しているかもしれません。だからこそ、ピンチをチャンスととらえ、今、このタイミングで、拡販につながる新たな営業戦略と戦略行動化のための拡販活動を展開していくことがとても重要になってくるのです」
新たな営業戦略を打ち立てるポイントとして、青木は不況による需要減で生じた営業部門の余力に注目する。発生した営業余力を余剰やコストと考えてしまうと、別の部門に配置転換したり、リストラの対象とすることで利益の確保を目指すかもしれない。けれども、青木の意見は180度異なる。「営業余力を、エリア戦略や市場開拓などの新たな営業戦略に結びつけた拡販活動に有効活用するのです。案件数が減ったことでできた営業部門の余力を負ととらえず、プラスの戦略に用いることが大切です」
案件情報を掘り起こし 種まき活動で需要回復に備える
では、新たにめざす拡販活動とは、どんなものなのだろうか。「ひとつの方向として、ニーズ喚起の『案件創出型営業』への転換が考えられますね」と青木はいう。「案件創出型営業は、将来の需要を掘り起こすとともに、減少した需要を確実に受注に導き、需要回復に備えることにもつながります」
すでに述べたように、現在進行中の営業活動が成果になるまでには、タイムラグがある。だからこそ、需要の減った時期に将来の営業に結びつけるための組織的な種まき活動をすべきだ、と青木は主張する。「種まき活動というのは、お客さまへの講習会や勉強会、PR訪問といったプロモーション活動や顧客企業の抱えるお困りごとへの徹底したお役立ち提案活動などです。ほかには、設備機器を納入している顧客企業であれば、無償点検などのメンテナンス活動も指しますね。こうした活動は、コスト削減のために中止する企業も少なくないのが現実です。しかし、不況のときこそ行うべき性質のものだと、私たちは考えています」
そこにも、JMACならではの逆転の発想がある。設備機器が客先でフル稼働している状態であれば、徹底したメンテナンスなど不可能だ。「発注が減ったので、一部の機械を休ませている現場も多いでしょう。動いていれば製造を止めてまで点検など、なかなかできるものではありませんが、時間もあるので、お互いゆっくりとチェックができるわけですね」そこから部品交換や設備機械の更新など、今まで見えなかった需要の顕在化に結びつく例は、実は意外なほど多いという。「種まき活動は、直接の利益を目的とはしていませんが、実際にやってみると案件情報に結びつくことが珍しくないものなのです。こうした様々な種まき活動を新たな営業戦略に結びつけて、市場に仕掛けていく時にキーとなるのが、案件創出型営業活動ともいえます」
生まれ変わる営業 必須となる3つの変革
しかし、変革を実現するには留意しなければならない点がある。青木は、そこで3つのポイントを提示する。
「まず、この変革の時期に、これまで慣れ親しんでいた『引合対応型』営業から脱却する必要があるのです。というのは、『引合対応型』営業では客先からもたらされる案件情報を待って営業プロセスを回すという形になります。一般的に生産財営業などでは案件のうち8〜9割は「引合対応型」によるものです。不況時には案件が極端に減るので、こうした待ちの姿勢の営業だと成果の落ち込みが激しくなります。けれども、見方を変えれば、今だからこそ、どんな環境下でも有効となる『案件創出型営業』への思い切ったシフトの必要性を実感するのではないでしょうか」
青木は、ふたつめとして“需要源へのアプローチ”をあげる。「需要環境が悪化しているとき、確かに需要は減っていますが、ゼロ、というわけではありません。需要が縮小した場合に、需要の源流である顧客ニーズの現場に『案件創出型営業』で直接働きかけることで、いち早く適切な提案を行うことができる、というわけです」減った需要環境の中で引合を待っていては、その間に情報は他社へも流れていってしまう。需要の発生箇所へダイレクトに営業を仕掛けることで、案件数の減少を食い止めることが可能となる。
そして、最後に“従来の成果評価の見直し”があると青木はいう。「『案件創出型営業』とは、直接的な売り込みではなく、ニーズ喚起の種まき的な活動です。短期的成果の追求のみでは、目指す成果がすぐにはあがらず、中途半端な活動に終わってしまいがちです。ですから、『案件創出型営業』に合った、新しい評価制度を取り入れるなど、活動を成功させるための工夫を考えなければなりません」たとえば、プロセス・マイレージやプロセス・ポイント制度など、よい活動・プロセスをマイレージやポイントなどに換算して評価してあげる仕組みを実施していくことが必要なのである。
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