より速くより柔軟にカオス経済を乗り切る! “組織”が鍵になる
競争力獲得にむけてさまざまな取組みがなされているが、バブル崩壊後から今までの間は、M&Aや組織のダウンサイジング、海外進出など、改革の手だてが大がかりになる傾向にある。「企業を取り巻く環境の変化に応じ必要性に合わせて、M&Aや分社化、拠点の移転などが進められました。世の中には成功例も失敗例も多くありますが、どうすれば成功するのかという確信がなかなか形成しにくい時代だと言えますね。たとえば、コストダウンのような改善であれば、効果も対処方法も考えやすいでしょう。企業も当面の対策として必要なので、まずはこのような施策を採るのだけれども、では、この延長線上で事業の成長戦略を創出できるのかといえば、なかなか確信が持てないという状況にあります」
その一方で、最近の経済状況はカオスや乱気流ともいわれるほど、混沌として変化が多く、予測しにくい様相を見せている。企業はたとえ確信をもてなくとも、次の手だてを考え対処していかなければならない。「企業が手がけてきた数々の取組みは、これまである程度の結果は出してきました。しかし、こうした施策は競合他社でも行われており、大きな差をつけることが難しくなってきています。どの企業も、自社ならではのやり方で差をつけ、少しでも成功確率を高める方策を考えていかなければならない、と感じています。企業が求める成功とは、コストダウンなどに限らず、事業開発・事業改革がうまく進み、成長路線に入っていけるということを含みます。成功の可能性を広げるために、どういった改革をすればいいのか……という、いわゆる“What”にかかわることといえるでしょう」
その回答のひとつとして、高原は“事業展開そのもののスピード”をあげる。「たとえば、お客さまの動向の一部に変化が見られたとします。それをいち早く察知してニーズを満たすよう展開できれば、競合他社に先んじることができ、事業を成功に導けます。スピードを手に入れるためには、これまでとは違ったアプローチが必要になるでしょう」事業の方向性を機敏に変更することは、なかなかの難題だ。「この対応速度を実現できる組織構造へと改革することも考えなくてはなりません。カオスな状況下で起きたお客さまの変化を組織として敏感に感じ取って経営方針を方向転換するような、そういったことができる組織のあり方をもっと考え、実践していかなければなりません」
ダイナミックな組織改革を可能に! スピーディな革新がキー
企業経営者は、カオス経済ともいえる状況に対応し得る組織構造がきっとあるのではないかと探し、直観的に何かをしなくてはならないと思っている経営者は多い。「しかし、それがいつも結果につながるとは限りません。また、組織改革を考えて会議をしたとしても、本音をすべてオープンにできるとも限りません。特に組織改革は部署の消滅・縮小や幹部の任免という問題も絡んできます。会議が、部課長を集めて行う場合には、経営者もインパクトのある悩みを口にしにくいという面があることは、ご理解いただけるでしょう。もちろん、これ以外にもさまざまな要素があり、複雑なものを扱っているという難しさがあります」こうした事情を抱えて発表された組織改革計画というものは、何をするためのものなのか、わからなくなる場合も珍しくもない。「それは、本音をベースとして語られていないからですね。当然、それなりの形にはなっているし機能もします。しかし、実は語られなかった部分の方が重要であることが少なくないため、最初の意図からすると違う方向を見ているということにもなってしまうのです」結果、実際に組織改革をしてみても、形式だけが変わり、中身は以前のままの組織運営で事業が進んでいくなどといったことが起きる。これは日本企業の体質というわけではなく、組織改革の際には国を問わずに起きやすい問題でもある。
だが、手間と時間をかけるやり方では、カオス経済には追いつかないだろうと高原は指摘する。「組織改革というと、調査を徹底的に行い、企画を立案し、年単位の時間をかけて構造を変える一大プロジェクトを想像する方もいるでしょう。こうしたやり方は、現在企業に求められている変化対応のスピードを考えると、静的(スタティック)なものにも見えます。時間をかけている間に、状況は変わってしまうかもしれません。カオス経済に対応するには、もっと動的(ダイナミック)な手法が必要です」高原は、ここ数年、経営者とのやりとりのなかから「もっとコンパクトで、素早く、スムーズに組織改革を行う仕組みが求められているのでは」と強く感じるようになっていたという。
目指す組織像とは? 戦略を実現できる組織性能を考える
組織改革を検討する経営者は、組織図と人事の問題につい意識をとられやすい。「事業部制がうまくいかないようだからカンパニー制にしようとか、このポストの人をどうしようか、などという視点で組織改革を考えてはいないでしょうか? それでは本来の目的からかけ離れてしまうこともあるのではないかと思います」高原は、これまで経営者に「いったん、人と組織の問題を切り離す」という視点での検討を提案してきたという。「組織改革というのは、本来、“組織性能”をどうしていくか、という観点で検討するものと私たちは考えています」“組織性能”とは、実際に事業を動かしていく能力を指す。「たとえば、自動車という仕組みは、“道を走る”ために幾つかの能力を備えています。加速性能、登坂性能、停止(ブレーキ)性能といった能力です。これらの性能は、自動車にもともと備わっているもので、運転者の能力ではありませんよね。同じように、企業の組織改革も、運転者(人)と自動車(組織)を分けて考えようということです」
そこで検討されるべきなのは、「組織というのは、どういう能力を発揮できなければならないか」ということだと高原はいう。「たとえば、自動車なら荷物を運搬するトラックと、家庭用の乗用車では、発揮されるべき性能は違ってくるでしょう。性能とは、目的に対して設定されるべきなのです。これまでとは異なる事業戦略に合わせて組織を改革するのであれば、組織がもつ性能も当然変わらなければなりません」JMACでは、企業の“組織性能”を“価値創造性能”、“価値実現性能”、“意志決定性能”、“戦略実行性能”、“情報収集性能”、“学習成長性能”、“問題解決性能”、“意欲高揚性能”、“継続実行性能”の9つに分類している。「同じ業界でも事業戦略が違えば、異なる性能が求められます。たとえば、高級料亭が軽食のチェーン店を始めようとするなら、これまでとは違う“組織性能”が必要なはずです。“組織性能”が合わない組織で取組めば、事業を計画通りに展開できないのは充分考えられることですね」どのような“組織性能”をめざし、それを実現できる組織をどのように作るか、という新しい視点が、組織改革を成功させるためには重要になるだろう。
この課題への回答は、容易に得られるものではないだろうと高原はいう。「経営者と経験豊富なコンサルタントの双方が協力し合い、お互いに知見と経験を深めながら、ともに創り上げていく価値のある課題です。幾つもの試行錯誤と議論を通して、次第に答えが見えてくるような領域だと考えています」
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