アジアをホームグラウンドに! 現地での共生をめざすアジアのさまざまな局面において“日本抜きのアジア”が進行しているというのが、富永の懸念だが、まだ取返しは可能と考えている。「日本は中国・アジアに地理的に近接しており、また文化的な背景においても近しいものを持っているなど、欧米に比べて優位性があるはずですが、それをいかしきれていない現状があります。日本はアジアの一部であるという再認識に基づいて、JMACでは、日本を含めたアジアをホームグラウンドにするアジア・モノづくりネットワーク、アジアをターゲットにしたアジア市場戦略、アジアとともに成長するアジア共生経営を三位一体としたAsianization戦略(Globalizationに対する造語)を提唱しています」(富永)経営基盤を日本国内からアジア全土へとシフトすることで、事業展開スピードも大きく変化する。従来、事業部単位など“点”で展開していたアジア進出を、アジア各国に広がる“面”のネットワークとして最適化していく。共生というキーワードも重要だ。富永は進出した地域社会への関わり方が重要だという。「それは受身の社会貢献活動ではなく、その地域社会に対するより積極的で戦略的な投資であるべきです。たとえば学校建設などは、すぐに利益に結びつく投資ではありませんが、その国・地域の人材や市場を育成することで将来のビジネスメリットが期待できます。日本企業には、アジアの地域社会とともに成長していく視点を持って欲しいとは考えています」(富永)事実、アジアで成功している日本企業では、こうした積極的な社会貢献活動の例が多く出ている。 海外の優秀な人材を活かせる経営がポイント現地の人々から見ると、自分たちが日本企業で活躍できる機会は少ないと感じるという。「アジアの優秀な人材、たとえば中国人が就職先を考えるとき、台湾やアメリカなどのグローバル企業がまず対象になります。それらと比較すると、日本企業は自分たちが活躍しにくいという印象があるのです。欧米企業では、たとえば、北米の拠点を経験したあと、一旦中国に戻り、その後再びシンガポール拠点の上級管理者として赴任するというようなモデルがあり得ます。けれど、現地要員以上には考えることができない日本企業ではどうでしょうか。優秀な人材が、自己実現できる広く自由な舞台を求めるのは無理もないことです」と、銭はリアルな声を届ける。日本企業は、その技術力や品質は海外人材からも評価されているものの、職場・仕事としての魅力を感じにくい。活躍の機会があれば、海外の人材は、日本企業に大きな利益をもたらす働きができるはずだ、と銭は考えている。 日本とアジア、距離と事情の違いがつくる問題の複雑性アジア各国では法律や文化、慣習のほか、インフラなどの環境が異なる部分も多い。したがって、現地化が基本となる。しかし現地化だけではこれからの発展に十分ではない。日本とアジア各拠点の間での国境を越えたネットワークがポイントになってくる。「特定の中国拠点の問題が目立つため、現地の経営管理や現場の改善のご依頼が多いのですが、単に現地で発生している問題を解決すれば全体がよくなるかというとそういうわけではありません」と富永はいう。根底には、組織全体が持つべき共通認識や情報の不足、お互いの違いへの理解不足が存在する。多くの日本企業では本社の視点と現地の視点でのベクトルの違いが発生している。「わたしたちは、個別の問題解決の視点を通じて、実は日本本社とアジア拠点とのネットワークの再構築を促しています。文化の違いから、コミュニケーション不全を起こす、などは回避しにくい問題ではありますが、それに具体的にどう向き合っていくか、それが重要だと思います。正面から取組んでいる企業が少ないというのが実態ではないでしょうか」と銭はいう。 |
|