第4回 中国ビジネスで生き残れ!〜巨大なアジア市場を攻略する〜

アジアのなかの日本 そこから見たアジア・リージョン戦略

アジアをホームグラウンドに! 現地での共生をめざす

アジアのさまざまな局面において“日本抜きのアジア”が進行しているというのが、富永の懸念だが、まだ取返しは可能と考えている。「日本は中国・アジアに地理的に近接しており、また文化的な背景においても近しいものを持っているなど、欧米に比べて優位性があるはずですが、それをいかしきれていない現状があります。日本はアジアの一部であるという再認識に基づいて、JMACでは、日本を含めたアジアをホームグラウンドにするアジア・モノづくりネットワーク、アジアをターゲットにしたアジア市場戦略、アジアとともに成長するアジア共生経営を三位一体としたAsianization戦略(Globalizationに対する造語)を提唱しています」(富永)経営基盤を日本国内からアジア全土へとシフトすることで、事業展開スピードも大きく変化する。従来、事業部単位など“点”で展開していたアジア進出を、アジア各国に広がる“面”のネットワークとして最適化していく。共生というキーワードも重要だ。富永は進出した地域社会への関わり方が重要だという。「それは受身の社会貢献活動ではなく、その地域社会に対するより積極的で戦略的な投資であるべきです。たとえば学校建設などは、すぐに利益に結びつく投資ではありませんが、その国・地域の人材や市場を育成することで将来のビジネスメリットが期待できます。日本企業には、アジアの地域社会とともに成長していく視点を持って欲しいとは考えています」(富永)事実、アジアで成功している日本企業では、こうした積極的な社会貢献活動の例が多く出ている。

海外の優秀な人材を活かせる経営がポイント

現地の人々から見ると、自分たちが日本企業で活躍できる機会は少ないと感じるという。「アジアの優秀な人材、たとえば中国人が就職先を考えるとき、台湾やアメリカなどのグローバル企業がまず対象になります。それらと比較すると、日本企業は自分たちが活躍しにくいという印象があるのです。欧米企業では、たとえば、北米の拠点を経験したあと、一旦中国に戻り、その後再びシンガポール拠点の上級管理者として赴任するというようなモデルがあり得ます。けれど、現地要員以上には考えることができない日本企業ではどうでしょうか。優秀な人材が、自己実現できる広く自由な舞台を求めるのは無理もないことです」と、銭はリアルな声を届ける。日本企業は、その技術力や品質は海外人材からも評価されているものの、職場・仕事としての魅力を感じにくい。活躍の機会があれば、海外の人材は、日本企業に大きな利益をもたらす働きができるはずだ、と銭は考えている。
また、もうひとつ現地でいわれている問題がある。日本企業はアジア重視を口にする一方で、実は日本国内中心という考え方が変わっていないケースが人事配置を見ると多いという。「海外の拠点、特に中国・アジアの拠点には、最適な人材がなかなか派遣されないという状況がおきがちです。まず、日本国内の本社や拠点に人材を配置して、その余力でアジアの拠点をという発想から抜け出せていません。現地のスタッフからすれば重要視されていない、という失望につながります」(銭)アジア戦略遂行の重要性を感じながらも、経営レベルでは行動に移せない日本企業のジレンマが、そこにある。「Asianizationでは、経営の意識改革が必須です。そのために、現地・現場の事情をより的確に把握した上で方向性を再検討するということから始める必要があります」(富永)

日本とアジア、距離と事情の違いがつくる問題の複雑性

アジア各国では法律や文化、慣習のほか、インフラなどの環境が異なる部分も多い。したがって、現地化が基本となる。しかし現地化だけではこれからの発展に十分ではない。日本とアジア各拠点の間での国境を越えたネットワークがポイントになってくる。「特定の中国拠点の問題が目立つため、現地の経営管理や現場の改善のご依頼が多いのですが、単に現地で発生している問題を解決すれば全体がよくなるかというとそういうわけではありません」と富永はいう。根底には、組織全体が持つべき共通認識や情報の不足、お互いの違いへの理解不足が存在する。多くの日本企業では本社の視点と現地の視点でのベクトルの違いが発生している。「わたしたちは、個別の問題解決の視点を通じて、実は日本本社とアジア拠点とのネットワークの再構築を促しています。文化の違いから、コミュニケーション不全を起こす、などは回避しにくい問題ではありますが、それに具体的にどう向き合っていくか、それが重要だと思います。正面から取組んでいる企業が少ないというのが実態ではないでしょうか」と銭はいう。
JMACでは対処療法的な解決策のみは提案しない。工程や部門といった単機能の問題解決を越えて、本質的な原因に対する問題解決を図る姿勢を大事にしている。アジアにおける成長戦略を推進する課題は複雑だ。本社と支社、いくつかの部門、経営陣と現場など複数の要素が複合した状態に、総合的な視点から改善案を提出する。「拠点や機能の選択と集中を行う必要がありますが、全体の成長のためには一時撤退するという決定を提案することもあります。ひとつのオペレーションや部門を越えて、複雑な問題に対し総合的な解決を提案できるのは、企業のオペレーションや人材問題に精通し、グローバルなネットワークを持つJMACだけの特色だと思います」と富永は自信を覗かせた。

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