第10回 イタリアで広がる日本発のメソッド! イタリアコンサルティング事情

文化と気質の違いに対応 日本発のメソッド“技術KI”

イタリアで新たなる形に進化 技術KIからビジブル・プランニングへ

イタリア上陸以後、成功事例を重ねているJMAC手法の顕著な例として、技術KIが挙げられるだろう。この手法は、イタリアでは主にR&D分野のプロジェクト・マネジメントの領域で活用されている。「ある製品を開発するときは、開発部門だけでなく、前後の工程を担当する部門との連携が重要です。複数の部門に対して横断的に情報を共有化し、意思の疎通を図るために使用しているのです。私たちは、この手法を特に“ビジブル・プランニング”と名づけました」ビジブル・プランニングによって、製造部門からのフィードバックを受けて起こりうる問題を設計段階で解決したり、設計者が変更したときに過去の問題点や課題を把握したうえで、業務を開始できるなどの利点が生まれ、プロジェクトがスムーズに進行するのである。
導入の際、日本生まれの手法だという点に抵抗感はなく、むしろ『過去にさまざまなマネジメント手法を導入したが効果があがらなかった。これは新しい視点を持っているのでやってみたい』という反応があったという。
その背景には、ビジブル・プランニングの持つわかりやすさがあげられるだろう。プロジェクト管理というと、複雑なソフトウェアを使って取組んできた企業も多かった。しかし、ビジブル・プランニングで用いるのは模造紙とポストイットだけだ。誰もが簡単に見ることができる場所に貼り出され、状況を記入していく。「使い始めてから、技術部長やプロジェクト・マネージャーから驚かれることがありますね。『これまで、いろいろなソフトウェアを使ってみたけれども、誰も計画通りにはできなかった。それがポストイットでできるようになるなんて』といわれたこともあります」それには、マネージャークラスの人材がその有効性をきちんと理解していることが必要だが、この手法は適用できる業界を選ばず、B to B、B to C、どんな企業でも効果を発揮できるので、着実に成功例を増やしているのだ。

上司にもはっきり意見するイタリア人気質 調整と共通理解が重要なポイント

日本ではコンサルティングを進めるにあたり、お客さまのチーム内でのコミュニケーションを活性化し、積極的に意見を出す様に進めていくことは大変重要であるが、イタリアではそれを特に意識する必要性はないという。「イタリアでは、はっきり意見を述べることには、全く問題はないですね。たとえ上司が決めたことでも納得できなければ“NO”ということにためらいがないんです。最近、ビジブル・プランニングを導入したある企業でのことですが、キックオフの日に10人くらい集めて説明をしていると、参加の予定がなかった技術部長がやってきて『うちの技術者を連れて行って何をしてるんだ。こんなことは時間の無駄だ。仕事が進まないじゃないか』と怒るのです。取締役がビジブル・プランニング導入を決めたのですが、技術部長は無駄と考えて反対したのです」意見をいわせることへの苦労とは無縁というわけだ。結局、このときは、その技術部長もビジブル・プランニングに参加をさせ、同じことができるようにレクチャーし、効果を納得してもらえるまで毎日ランチも付き合って、理解を求めたという。「日本では、こういうことは起きにくいのではないでしょうか。イタリアでは、誰でも必要だと思えばはっきり反対するので、そういう人たちも巻き込んで、理解してもらいながら、全員の賛成を得ていくこともコンサルタントの業務のうちですね」
その一方で、モンタナーリは別の問題によく直面する。「イタリアでは、逆にコミュニケーションが活性化し過ぎるんですね。さまざまな意見が出るのはいいのだけれども、それらを検討して統合し、結論を出すまでに至らないことがあります。たとえば、会議などでも終了時間を気にせず話をするので、予定が30分、1時間と延びていってしまうのです。会議の効率化も、私たちの支援対象ですね」

柔軟性のあるイタリア人気質 導入後に起きた思わぬ効果

ビジブル・プランニングの事例として、モンタナーリはおもしろい例をあげた。「北イタリア山地にある企業では、とても熱心にビジブル・プランニングに取組み、業務全体の根本的な改革まで実現できました。ビジブル・プランニングを高く評価してくださったんですが、なんと工場の移転作業のときにまでビジブル・プランニングを使って進行管理をしたんですね」実はイタリアでは、立てたスケジュール通りにすべて物事が運ぶということが非常に少ない。多少の遅れは気にしない面があるのだ。「だから、一番驚いたのは、移転作業が本当に予定通りに進んだということでした。これはイタリアでは驚くべきことですね」とモンタナーリはいう。模造紙に書かれていた移転終了の日時に合わせて、ぴったり作業が終わったのだそうだ。「そして、最後に新工場の電源を入れるべく、責任者がスイッチをオンにしたのですが、残念ながら、電力会社のミスで電気が通っていませんでした」
これは笑い話だが、一方でこの柔軟性をもっているところがイタリア企業の特徴だとモンタナーリはいう。「たとえば、急な打ち合わせが入っても、なんとか時間の都合をつけるのがイタリア人です。仕様変更による設計の修正や追加も、やってくれといわれたら嫌だとはいいません。そこで断らず、素早く対応するんですね。この柔軟性の高さが個別化の高さを生むので、お客さまのニーズにぴったり合った製品を提供することになるのです」だが、それが行きすぎると結果として納期の遅れを生み、プロジェクト完了に支障をきたしてしまう。また、担当者が個人の頑張りによって解決することにもなりがちだ。「最終的な成果にも影響を与えては意味がありません。こうした部分には私たちが支援をしていくニーズがあると考えています。場合によっては、経営者が技術部長を飛び越えて、設計者に依頼しているケースなどもあるので、関係がこじれないようにコミュニケーションをとりつつ調整をすることもあります」人間関係の調整は、どの国のコンサルタントにとっても課題のようだ。

ページ上部へ