BI_51
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- 第 1 回
「忍耐」と「意識改革」
「70%の我慢」を学んだ 監督一年目
た。目標を尋ねると「優勝したい」「強く なりたい」「オリンピックに行きたい」 「金メダルを取りたい」こんな夢のような 答えしか返ってこないのです。零細企業が 何の準備もなく大手企業相手に勝とうとい うようなものです。それは「夢」、「夢」 を持つことも大切ですが、「目標」と分け て考えるべきだと私は考えています。手の 届く範囲の現実的な「目標」を一つひとつ 細かく刻んで成功体験を重ねていくことで 個人もチームも強くなると思います。チー ムの目標には10位以内のシード権を掲げ、 個人の目標は一人ひとりと丁寧に面談をし ながら、まず自分の実力を現実的にわから せ、春のトラックレースで5 0 0 0 m、 10000mの目標タイムを設定していきまし た。そして、クリアしたら次の目標、クリ アできなかった時は、原因が何か教えてい く。そんな地道な作業を繰返しました。 「意識改革」「競技力向上」の両輪が選手 を育てると考えていましたが、結果とし て、意識改革ができればおのずと競技力も 向上することを学びました。 更に、目標を持たせた練習で大切なの は、目標や練習の「Know How」だけでな く、「Know Why」 、つまりこれは何のた めなのかをしっかり理解させることです。 モチベーションを保たせながら、地道に目 標へのサポートをする、それが監督、マネ ジメントの役割だと私は考えています。 今回の第90回箱根駅伝では、結果的に 東洋、駒沢、日体と3強の一角をくずせ ず4位と残念な結果に終わりました。その 中でも、下級生が沢山の経験をしてくれ たことが収穫です。経験者が多数残るこ とを強みとして「Know Why」をしっかり 根付かせ、新たな目標に向って走りだした いと思います。 田中:渡辺監督は、2004年に監督に就任 され、当初4年連続シード権のない状況か らスタートされました。どのようにチーム の立て直しを図ったのでしょうか。 渡辺: 私がチームを預かった2 0 0 4 年当 初、早稲田は4年連続シード落ちの弱小 チームでした。当時のチームは覇気がな く、基本の挨拶もできない、グラウンド・ 宿舎は汚い、弱いからスポンサーもつかず 強化費もない、だから有力選手も集まらな い。監督一年目は零細企業のような状況か らのスタートでした。 私がまず取組んだのは環境の整備、そし て練習メニューの変更でした。練習は自分 がかつてやってきたハードな練習を全て選 手に課し、結果、予選会はトップで通過。 しかし、最終的には故障者が続出しチーム に一体感も出ず、監督一年目はシード落ち という苦いスタートとなりました。 まだ経験も浅い私は、自分の選手時代の 成功体験をそのまま押し付けてしまってい たのです。チームをマネジメントする者は 選手を100%の状態でスタートラインに立 たせることが役割であり、そのためには、 個々人の実力を判断して自分が求める指導 の70%で我慢するという忍耐も必要だと学 んだ監督1年目でした。
マネジメントに必要なのは
人間集団である組織を動かし成果を出す。 それはスポーツの世界にも通じます。 「個」と「組織」の最高のパフォーマンス が要求されるスポーツの一つが日本発祥の 競技である『駅伝』 。襷をつなぎゴールを 目指す姿は、私たちのマネジメント活動に も参考になると思います。今回の「顔」は 早稲田大学駅伝競走部 渡辺監督にフォー カスしました。(3回シリーズ)
早稲田大学競走部 駅伝監督
(わたなべ・やすゆき)
渡辺 康幸氏
1973(昭和 48)年、千葉県生れ。92 年、市立船 橋高校を卒業し、早稲田大学人間科学部入学。競 走部に入部し、1 年生で箱根駅伝総合優勝。4 年 時は競走部主将として 2 区で 8 人抜き。96 年、 エスビー食品に入社。 2002年、 現役引退。 2004年、 早稲田大学競走部・駅伝監督に就任。
大切なのは「現実的な目標」と 「Know Why」
田中:シード落ちの時代を乗り越え、見事 2007年には三冠を達成されました。選手 (人材)の意識や能力を高めるために、ど のような取組みをされたのでしょうか。 渡辺:当時の選手は「目標設定」「自己管 理」という基礎ができていない状況でし
田中 實の
マネジメントの基本である、現状把握、それに基づく高い目標+現 実的な目標を設定し、個人に目標を十分理解させた上で実現に向け
ここが
Point
たサポートを実践され、結果を出されています。特に Know Why をベースにした 意識改革 は、読者の皆様のマネジメントのヒン トになると思います。
Business Insights Vol.51 2014年 2月 発行
編集長:大石 誠 編集:石田 恵、井上 美和子
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