BI_51
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- ビジネスイ ンサイ ツ
2014
2月発行
Vol.
が知恵 を育てる! ﹁無理難題﹂ 知恵 が支えるトヨタ のものづくり力
TOP MESSAGE
株式会社ジェイテクト 取締役会長
新美 篤志
06 BUSINESS ON VALUE
出光ルブテクノ株式会社
5S 活動で組織力強化! 全社一丸で安全文化の定着を目指す
10 Human&Organization
株式会社日東分析センター
新たな風土が組織・チームの一体感・ 生産性向上をもたらす
14 Asianization
CASAPPA HYDRAULICS(上海)有限公司
マネージャー変革で 文化の壁を乗り越え組織力強化
19 iik(いいく)塾 20 顔
- 第 1 回 - 早稲田大学競走部駅伝監督 渡辺康幸氏
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TOP Message
毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点についてお話しを伺います。 インタビュアー:JMAC
代表取締役社長 鈴木 亨
「無理難題」が知恵を育てる! 知恵が支えるトヨタのものづくり力
株式会社ジェイテクト
~今に安住するな!次なるターゲットへのチャレンジこそものづくりの原点だ~
「安住せずレベルアップ」の 繰り返しこそ ものづくりの原点
鈴木:新美さんは、トヨタ自動車で副社長という重責を担 われ、脈々と受け継がれてきたトヨタ流ものづくりを牽引 されてきました。これまでの経験談やトヨタ流ものづくり の原点をお聞きかせください。 新美:私が初めてトヨタ流ものづくり、いわゆる大野耐一 さんが体系化したものづくりに出会ったのは、入社して5 年以上たった頃でした。当時、トヨタ堤工場でコロナのフ ルモデルチェンジのプロジェクトが立ち上がり、私は一担 当者として参画していました。その時に新しいラインを据 えて、計器盤をサブラインで組上げてからメーンラインの 車両に載せていくサブアッシー化と、足回りの自動搭載、 自動締付けを行いました。 計器類のサブアッシー化は当時の生産技術からするとか なり画期的なことでした。ある時、大野さんがそれをご覧 になって怒り、インスツルメントパネルのラインは皆撤去 と言われたんです。当時はなぜ怒られたのかがわからな かった。その後いろいろ経験を経て勉強する中でわかった のですが、ひとつは「完熟させた技術」といいますか、設
備や仕事のやり方も含め、十分に検討しきれていない状況 で導入したこと。もう一つはサブアセンブリラインという のはトヨタ用語でいうと「島」と言うんですが、島は「定 員化」しやすいんです。ですから、中途半端な仕事や半人 前の仕事が残ったりして、 「省人化」しにくくなり、その 点がまだ解決していない段階だったこと。そういう精度を 確認できていない仕組みを量産ラインへ投入したことへの 戒めだったんではないかと思います。 次に足回りの自動化に関するエピソードですが、足回りラ インとその後のファイナルラインとの間のバッファラインが カラカラになっているのを見て、大野さんが「あれはなん だ?」と指摘されたんです。我々は工程内在庫を減らすとい うのが常に頭にあるものですから、リーンに回していました が、足回りラインが止まってばかりで、バッファがカラにな り結局ファイナルラインの可動率が低くなっていました。そ れを見て、バッファが役に立っていないじゃないかと怒られ たのです。それで前工程を改善してスムーズにまわるように なったのですが、今度は前工程が調子よく回るとバッファラ インが溢れてしまう。それをご覧になってまた怒られたんで す。いつまでもバッファをたくさん持つんじゃないと。バッ ファを持てと言ったり持つなと言ったり、当時は皆わけがわ からず混乱したことを思い出します。 結局、 この2つのエピソードは「未熟なものを入れるな」
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創 業 : 1921 年(大正 10 年) 資 本 金 : 45,591 百万円(平成 25 年 3 月 31 日現在) 従業員数 : 連結 : 41,714 名 (平成 25 年 3 月 31 日現在) 単独 : 10,651 名 (平成 25 年 3 月 31 日現在) 主な事業内容:ステアリングシステム、軸受、駆動部品、 工作機械、電子制御機器などの製造・販売
トヨタ自動車時代、生産技術畑で長らくトヨタ流ものづく りを牽引し、最終的に副社長としてものづくり基盤を支え られてきた現(株)ジェイテクト新美会長。世界をリード するトヨタ流ものづくりの原点やその根幹、また、北米で の豊富な経営経験を踏まえ、新美流マネジメント・経営哲 学についてお話しをお聞きした。
新美 篤志
ということと、 「少し調子がよくなってきたからといって そこに安住するんじゃなく、条件を厳しくして次の課題に 取組みなさい」ということが言いたかったわけです。要は 「今の実力で何が一番ムダが少ないかを考える」ことが大 事で、レベルが上がればさらに条件を厳しくし、同じよう に考える。その繰り返しで常によりベターな状態を追求す ることこそ大切だということなんです。それがトヨタのも のづくりの原点だと思います。 のを作ってしまったという反省がまずあるわけです。
取締役会長
大切なことは「一つずつ作る(ロットで作らない) 」こと、 そして「売れるスピードで作る」ことです。そのために少量 でも大量に作るのと同じ原価で作れるよう追求する。 そして、 一つずつ流れるように作り、しかも売れるスピードで作ると なると、不良は出せない訳ですよ。だから不良が出たらその 原因をひとつずつ地道に解析して手を打つ。そして、誰が見 ても無駄がわかるように表面化させる仕組みを生産システム の中に仕掛ける必要があった。その為にいろいろな道具がつ くり出されてきました。そのひとつが 「かんばん」 なんです。 また、よく先輩達に言われたのは「お前の眼は節穴か」 という言葉です。 「あれはなんだ?」と指摘され、自分の 目で見て考えてみろと。それで考えて「わかりました。こ うです」と説明すると、 「じゃあどうしたらよいんだ?」 と言う風な問答になる訳です。要は「こうこうしなさい」 ではなく、考えさせて答えを自分で導き出させてこそ人は 成長するということなんですね。 トヨタでは「創意工夫」という提案制度があるんですが、 その制度を始めた時に募集した会社代表標語で「よい品 よ い考え」というフレーズがあります。よい考え方に基づい て物事、仕事をしないとよい物はできない。よい考えとは、 例えば「安心、安全」とか、使っていただくお客様の立場 からよい品とは何なのかを探求し続けるという考えじゃな
Atushi Niimi
知恵を絞るから よい品ができる
鈴木:トヨタ流ものづくりは世界をリードし続けるトヨタ の根幹です。その基本的な考え方をお聞かせください。 新美:トヨタには「7つの無駄」という言葉があります。動 作の無駄、在庫の無駄、加工そのものの無駄など全部で7つ ありますが、中でも「作りすぎの無駄」が一番ダメだと言っ ています。世界的に見て、在庫は財務上資産としてカウント するでしょう。トヨタも米国式財務諸表に準じているのでそ うしていますが、実のところ生産部隊はあれは不良在庫だと 思っているんです。エネルギーも人件費も使っていらないも
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いとダメなんだと。また、よい品をつくるためには、プロ セスの中で不良が出た時に解決する知恵やアイデアがない とダメだとか。いろんな見方、捉え方があり、この非常に 短いフレーズにいろんな考え方が凝縮されているんです。 そうして知恵を使う。 「人間は知恵を使うから、可能性が 無限にある」というのがトヨタの考え方です。豊田英二さ んが「乾いたタオルでも絞れば水がでる」と言ったという 話は有名でしょう。実は言葉が一つ抜けていて、 「乾いた (よ うに見える)タオルでも、知恵を絞れば水が出る」と言っ たんです。知恵を使うには困らせる。困らせるためにはそ の場に安住せず、次々にターゲットをあげレベルアップさ せる。そのマインドこそカイゼンの元になっているんです。
したいわけです。カイゼンをやり始めると、だんだん彼ら も参加してきたんです。自分達の達成感だったり、付加価 値を上げることだったり、一日よい仕事をして胸を張って 帰りたいと言う思いは、国が違っても共通なんだと改めて 感じさせられました。 残念ながら、GM の破たんで 2009 年トヨタは NUMMI から撤退しました。6 ヶ月以上前に生産の打ち切りを従業 員にアナウンスしましたが、今日で最後という日まで何ひ とつ問題となることは起きずに皆よい仕事をしてくれまし た。 そして、 最後に作った車は 3 年後の経年品質評価でトッ プになりました。25 年という歳月の中、労働者もずいぶ ん入れ替わったことでしょう。しかし、このことはトヨタ の思想がきちんと人から人へ受け継がれ、トヨタ流ものづ くりが NUMMI の中に定着していた証拠だと思います。
よい仕事をしたいという 思いに国境はない
鈴木:トヨタで培われた思想を持って、米国でも経営トップ を経験されました。日本とのマネジメントの違いやトヨタ流 ものづくりを定着させる上でのご苦労などお聞かせください。 新美:1983 年、GM との合弁で NUMMI を設立しました。 そこでトヨタ流ものづくりの在り方や思想が果たして現地 で受け入れられるだろうか、上手くいくだろうかと最初は 心配したのも確かです。あちらでは、ジョブ・クラシフィ ケーションといって、保全工、塗装工、溶接工という風に 職務が細かく分かれていて、それを乗り越えて仕事をさせ てはいけませんでした。そこで、何十とあったクラシフィ ケーションを Skilled(保全工) 、NonSkilled(加工 ・ 組立) の 2 つにしました。それにより、必要に応じて人や仕事を 移動させることができるようになったのです。 次のチャレンジが自働化です。トヨタでは不良があった ら人が機械を止めてラインをストップするよう仕組んでい ます。止める権限は現場にあり、どんな理由であれこれは おかしいとか、ちょっと失敗したというものがあれば必ず 止めてくれと言っていました。例えばトイレに行きたいだ とか、集中できないという理由でも止めてよいことになっ ています。その考え方をそのまま持っていくと、サボター ジュになり仕事にならないのではと心配しました。 しかしそれは杞憂に過ぎませんでした。やはり、ものづ くりに携わる現場の人たちは日本人と同じで、よい仕事を
北米ワン・ボイスで パワーアップ
鈴木:北米工場を活性化させるため、具体的にどんな取組 み、働きかけをされたのでしょうか。 新美:当時は親工場制を敷いていました。例えばケンタッ キー工場は日本の堤工場が親工場で、ケンタッキー工場の 困りごとは堤工場の困りごととして全面的にサポートする と。その後 96 年に北米製造統括会社が出来ました。それ ぞれの工場はそれまでそれぞれの親工場と親子でやってき たわけです。そこにポンと統括会社が親会社という感じで のってきましたので、それぞれが主張し合って言うことを 聞かないわけです。 私は 2002 年に社長として北米に行きましたが、それを どう改善しようかと知恵を絞りました。今までのように日 本の親工場の言うことだけ聞くスタイルを変えないといけ ないと考え、これからはアメリカは自立していくんだと言 いました。そのためには、北米工場群というワン・ボイス でないとだめだと。 そんな思いから 「アメリカンマニュファ クチャリング」という概念をつくったのです。統括会社も それぞれの工場も同じ「アメリカンマニュファクチャリン グ」のメンバーなんだ。それぞれの社長は自社の工場だけ でなく、ある人は全工場の品質担当、物流担当、人事労務 担当を兼ねるという風にして、全員が一丸となり、チーム
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Atushi Niimi
新美 篤志
1947 年 1971 年 1971 年 1999 年 2002 年 2009 年 2013 年
生まれ 名古屋大学 工学部航空学科 卒業 トヨタ自動車工業㈱(現 トヨタ自動車㈱)入社 トヨタ自動車㈱生技管理部長 トヨタモーターマニュファクチャリングノースアメリカ㈱取締役社長就任 トヨタ自動車㈱取締役副社長 就任 ㈱ジェイテクト 取締役会長就任
アメリカのセルフリライアンスを目指すことで彼らもダブ ルキャップをかぶってくれました。 何かテーマをつくって、 それを皆で支えるという風に仕向けていくことがチームを つくり、リードしていく上で大切です。その仕掛けは上手 くいき、結果的に非常に力がついたのです。
失いかけても、もう一度高く遠くを見上げれば、また向か うべき方向がわかる。まさに夜空に瞬く「北斗七星」を目 印にするようなものです。
目印は「北斗七星」! 遠方の目標を示す
鈴木:これまでのお話を振り返りますと、従業員一人ひと りを大切にしながら、それぞれの力を引き出し、全体の底 上げを図っていこうという考えが伺えます。新美さんの経 営哲学をお聞かせください。 新美:まずは個々の能力向上が一番です。そのためにも皆 が「無理難題」を抱え、それを解決していく過程の中で、 それぞれが能力を高めていく必要があるでしょう。そして 彼らをどういう風に大きな経営課題へ向かわせて行くか、 その仕掛けをすることこそ経営ではないでしょうか。 その上で、高い目標だったり遠い目標だったり、向かうべ き方向性、つまりビジョンが重要になってきます。今のお客 様もさることながら、未来のお客様にはいずれ今のプロダク ツでは満足いただけなくなるでしょう。ですから、未来のお 客様が欲しいと思うものに向かっていくために、それが何な のか日頃から想像力を磨いていくことが大切でしょう。 少し遠い目標を立てて、そこへ向かう。途中で目標を見
人材育成のポイントは 「皆を困らせているか」
鈴木:最後に、これからの日本を担う経営者、経営幹部に 向けたメッセージをお願いします。 新美:私はいつも若い人達や経営者を目指す人に言うこと があります。それは一人では仕事はできないということ。 つまり、スタッフ一人ひとりの能力を上げ、育成していく 必要があるのです。そのためにもテーマやターゲットに向 かってスタッフに「無理難題」を与え、スタッフがそれに チャレンジしているかに心を配るべきです。 言い換えれば「皆を困らせているか」ですね。できない 理由は言わせない。そんな理由を考えても、何の意味もな いからです。大切なのはどうしたらできるか、どうやれば できるかを考えるように仕向けることです。その過程で困 れば助ける、いっしょに考える、わかるように導いてあげ る。そのためにも経営者はいつもオープン・マインドであ る必要があります。要するにコミュニケーションが大切な んです。それを常に心がけるとともに、どこを目指すかと いう方向性や目標を描き示すことが、何より経営者に求め られていることだと考えています。
鈴木亨の
対談を終えて
対
ひとこと
談からトヨタのものづくりに対する熱いDNAを感じとることができまし た。脈々とトヨタ流のものづくりを継承する風土、その根幹は安住せずレベ
ルアップする意識と、答えを自ら考えさせる仕掛けにあると思いました。また、国境 を越えてものづくりに関わる現場の人たちは皆、 良い仕事をしたいのだというお話は、 グローバル展開の肝であると感じました。
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所属の壁を越えた取組みが 組織の一体感を生む
ビジネス成果に向けて JMAC が支援した 企業事例をご紹介します。
5S 活動で組織力強化! 全社一丸で安全文化の 定着を目指す
出光ルブテクノ株式会社
2010 年 4 月、出光ルブテクノ株式会社は全社を あげた 5S 活動の取組みを本格的にスタートさせ た。スタッフの所属の壁や抵抗感の漂う現場にど のように働きかけ、職場が一体となって 5S を推 進し、浸透を図っていったのか。始動から 3 年が 経過した現在までの取組みや成果、今後の方向性 についてお聞きした。
潤滑油部 潤滑油企画課
Tomoyuki Harada
原田 知幸
岩武 直人
代表取締役社長
Naoto Iwatake
マザー工場は先端を行く 「見せる工場」
出光ルブテクノ株式会社は、出光興産株式会社の潤滑油 製造基幹工場である「京浜ルブセンター」の事業運営会社 として 2002 年に設立された。その後、実用性能評価、試 験分析業務を手掛け、出光グループの潤滑油事業において 重要な役割を担っている。 そんな同社が 2010 年 4 月、全社をあげ本格的な 5S 活 動の取組みをスタートさせた。その背景について前社長の 原田知幸氏(現 潤滑油部 潤滑油企画課)はこう話す。
「私は海外赴任経験を通し、工場は 5S が基本だと感じて いました。特に海外では 2S が大切です。これをいかに定 着させるか。それが工場の安全確保の上で『いろはのい』 です。ですから、マザー工場の『京浜ルブセンター』は当 然ピカピカの工場だろうと思っていたら、想像とあまりに 違う状況に愕然としました」と。 また、代表取締役社長 岩武直人氏は「私は入社が 1978 年ですが、ルブセンターが 1977 年に一新された直後のピ カピカの工場で実習しました。それが 2013 年 4 月に戻っ てきたらグランドオープン時の面影はなく、こんなに古く なったのかと衝撃を受けました」と、当時を振り返る。 潤滑油は車でいうと「部品」に相当する高度で精密なも
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のだ。 「自動車メーカーの部品の監査はとても厳しいため、 監査に耐え得る工場、要するに見せる工場としてモノづく りの先端をいく必要があると感じました」 (岩武氏) このような状況を受け、今こそ徹底的に 5S に取組もう というトップダウンで 5S 活動は始動したのである。
要はトップ次第!率先垂範 なしに5S は定着しない
だが、いざ同社で 5S を推進しようとするも、担当セク ションは日常業務に忙殺され対応が厳しい状況だった。ま た活動を始めた当初は 5S 活動への思いだけが先行してい たと原田氏は振り返る。 「改善活動を推進して行く中で、年 2 回成果発表会を開 催しました。 内容は素晴らしく確かに盛り上がるのですが、 当社と協力会社の間で、ここまではうち、ここからはそち らが…みたいに壁がありました。それに、どこか形式的で “発表のための発表” になっていると感じました」 (原田氏) また、岩武氏も「何か、事故とか災害とかが起こった時は 非常に団結力が強く、一致団結して対処に当たる社風が出 来ています。ですが、経営側としては日ごろから団結して ほしい。挨拶もそう。つまりよい習慣化と言いますか、当 たり前のことだから取組まないんじゃなく、それを習慣と して行動に浸透させたいと思ったんです」と話す。 そんな状況に一石を投じようと、原田社長時代に潤滑油 全体のコンサルティングを手掛けていた JMAC に声がか かった。 「元々当社には前任の岩佐社長の頃から職場環境 をよくしようという改善活動の基盤がありました。 ですが、 実際活動を進めるにはやはり技術やテクニック、ノウハウ が必要です。それが当社だけでは十分ではなかった。それ で JMAC の力を借りようということになったのです」 (原 田氏) そこで担当となったのがチーフ・コンサルタントの芝田 邦夫とコンサルタントの山本真也だった。 まず、全社一体となって 5S 活動を進めるにあたり、何 より乗り越えなければならない壁があった。それはスタッ フの所属の違いだ。工場にはルブテクノの正社員、出向社 員、 派遣社員もいれば、 協力会社のメンバーなど所属は様々 だ。 しかしその壁を越えるのは並大抵のことではなかった。 「当初協力会社から『それは出光さんの仕事でうちが一
▲現場を巡回する事務局メンバーとJMACコンサルタント 緒にやるのはちょっと違うんじゃないか。そもそも契約上 にない』と難色を示されたんです。そうは言っても同じ職 場で仕事をしている訳だから一緒にやっていきましょう と、1年半くらい時間をかけて説得しました」 (原田氏) しかし、そんな経営陣とは裏腹に、当の現場は意識も高 く活動に前向きだった。その状況に協力会社の経営陣も 徐々に意識がかわり、理解を示すようになったという。 「5S 活動は職場全員で取組むものです。しかし、結局は トップ次第。経営陣が一枚岩となって率先垂範していく姿 勢がないと、決してうまくいかないと思います」 (原田氏)
“やらされ感・抵抗感”に どう立ち向かうか!
こうして一つハードルは越えたものの、5S 活動は本来 業務とは別物という“やらされ感”も強く、自発性を引き 出すにはかなりの時間を要した。 開始当時の事務局メンバーの一人、製造部運転管理課 大西 亮二氏はこう振り返る。 「現場を巡回する際、どこの 誰だかわからない 5S 事務局メンバーが 5S 活動対象エリ ア(作業現場)にいきなり来て、 『あそこ、汚いですね』 なんて指摘するものですから、現場も知らないくせに何を えらそうに!と現場担当者に冷たい目で見られ、また本来 あるべき姿を提案したところ、現場担当者とコンサルタン トと口論することが多く、その調整に手を焼いていたこと もしばしばありました。また、通常業務とは別に単純に業 務量が増えたため、 『チームによっては残業や土日出勤も してこんなに頑張っているのに全然現業務に反映されない じゃないか』と厳しい意見を言われることもありました」 とスタート当時を振返る。
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事務局メンバー 1 段目左から 大西氏、坪川氏、佐藤氏、
二段目左から 本橋氏、秋庭氏、小笠原氏
また、原田氏も「最初は『5S 活動があるからこれは無 理、会議も出れない』みたいなことを平気で言う人もいた んです。 そうじゃないでしょうと。5S は仕事そのものじゃ ないかとずいぶん繰り返し言ったんです」と話す。 そういうある種の抵抗感がある中で、どのように 5S 活 動を推進していけばいいのか。 コンサルタントの芝田は 「ま ず、わかりやすさから入ろうと対象を限って始めました。 例えば文房具や机の周りなど、身の回りの物から着手しま しょうと。そして次に紙ベースの情報です。そうすると業 務の話になるので、コミュニケーションも生まれます。さ らに難しい電子情報へ。そういう風に段階を追って業務改 善につなげていきました。また、現場については、業務改 善を設備に置き換えてやっていきました。我々も週1回は 必ず巡回して、 皆さんと話し合い、 時にぶつかりながらやっ ていくことで成果感も生まれてきたんです。結果的にやれ ば楽になる、もっとこうしたら職場がこういう風によくな るんだと時間はかかりましたが自然に意見が出てくるまで になりました」と振り返る。
務局にも参画する秋庭文彦氏はこう話す。 「現場で作業す る中、 普段から自分たちでメンテナンスや保守ができれば、 少しでも業務がストップする時間を低減できるんじゃない かという思いはありました。ですがルールもありそれ以上 踏み込むことができなかったんです。そんな中、5S 活動 が始まってから双方の壁がなくなり、お互いに協力してい こうという機運が生まれました」 こうして、協力会社のスタッフにも保守・メンテナンス をする上で必要な知識習得の機会が提供された。 「出光さ んのレベルで教えていただける内容は出光さんに、またそ の上のレベルになると業者の方を呼んでくださって、専門 教育の場を提供してくれました。今ではちょっとした不具 合が発生した時は習得した技術や知識で対応できるように なりました」 (秋庭氏) また、同じく協力会社で活動始動前から関わってきた ビューテックローリー株式会社所長代理 小笠原 信幸氏は 「とにかく風通しがよくなりましたね。今ではトラブルが あった際、双方の責任者間でコミュニケーションがとれる ようになり、問題意識や優先順位を同じレベルで共有でき るようになっています。それは 5S 活動を通し築かれたも のに他なりません」と、現場の変化をこう評価する。
壁を越え 現場の協力体制が強化
では現場レベルはどうだったのか。それまで、オペレー ションは協力会社が、保守点検は出光と役割がはっきりし ており、たとえ協力会社側で機械にトラブルや故障があっ ても協力会社は一切手を出せなかった。 ルブテクノの協力会社で株式会社シムラの代表として事
活動が進化! 成果は徐々に見えてきた
また今年度から事務局に加わった 3 人のメンバーもそれ ぞれ変化を感じている。製造部業務課 坪川裕詞氏は「コ
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ミュニケーションが数年前と明らかに違う」と感じてい る一人だ。 「顔は知っていても話したことがなかった方も、 5S 活動を通じて、コミュニケーションが図れるようにな りいい環境になっています」と言う。また、品質管理部試 験課 本橋伸一氏も「部署柄いつも試験棟にばかりいて現 場を知らなかったので、現場を知ることで試験のデータの 取り方を工夫したり、お互いに協力する体制ができてきま した」と話す。同じく品質管理課の佐藤智美氏は「初めは やらされ感があったが、だんだんと日頃個人レベルで困っ ていること等を 5S 活動の中で取り入れようと提案するよ うになり、活動そのものが進化してきている」と成果を口 にする。 また、3 ヶ月 1 タームのテーマの中間・最終発表の場で は、当初は 10 分程度の発表時間を 15 分に伸ばしてほし いと事務局にオーダーがあるなど、現場から自発的な声も あがってきている。それも成果の一つだと原田氏は目を細 める。
岩武氏は言う。 「仕組みで事故は防げると言いますが、 最後の砦はやっぱり人。安全とはまさにそうで人の意識を 変えないと実現できないものです。この活動はそのための 土壌づくりであり、個々の能力を引き出し、一体感を生み 出すものです。それができて初めて、仕事も正確にアウト プットされると思うんです」 また、原田氏は「自分の職場は自分で守り、常にきれい に、そして効率を上げていくための維持管理が自発的にで きることこそありたい姿です。それがまた安全文化の定着 へとつながっていくと思います」とゴールを見据える。 誰に言われなくても、自ら率先して整理整頓する。それ は会社のみならず、家でも地域社会でも同様にだ。それを 教え刷り込んでいくことこそ 5S 活動の意義であり、安心 で、きれいで、事故がなく、見える化されていろんな改善 がなされている職場づくりをすることは結果的に企業の差 別化、ひいては競争力へとつながっていくわけだ。 最後に JMAC に対し岩武氏はこう述べる。 「外部の目 から見て当社のレベル感はどうなのか。内部にはない視点 から当社が強化すべき点を今後も遠慮なく言ってもらいた い。そしてこれまで通り現場第一主義で我々の進化の過程 をフォローしてもらいたいですね」 出光ルブテクノの取組みはまだ目指すべきゴールの道半 ばであるが、 5S 活動を通し全社一丸となって “見せる工場” を目標にさらなる進化を目指して行く。
目指すゴールは 「安全文化」の定着だ
こうして 5S 活動始動から 3 年が経過した。1 クール 10 チームとして単純計算すると、3 年で 120 に上るテーマ数 となり、これは協力会社を含めほぼ全員が何らかの形で取 組んだという計算だ。その中で、職場の風通しの良さや一 体感を感じられるようになったのは、皆それぞれが体感し ている成果だろう。だが、この先さらにルブテクノが目指 すゴールがあり、今はまだその通過点に過ぎない。
5Sの真の 成果はメンバーの 考え方の変化です
担 当 コ ンサルタントからの一言
チーフ・コンサルタント
“経営者の強い信念と継続”が 5S活動成功のカギ!
5Sに取組んでいる事業所も多いと思いますが、実際にうまく進捗していないと いう話も耳にします。出光ルブテクノ様で成功されているポイントは、関連会社 も含め、経営トップの方々の「この活動を成功させる」という、ゆるぎない信念 と率先垂範があったからです。会社の壁を越えベクトルを合わせるためには、時 間を要しましたが、活動への思いを一つにしたことが成功へのカギとなりました。 また、事務局を含め活動体制を明確に構築し、どのような意見があろうとも挫折 することなく継続推進したことが成功へと繋がっています。
芝田 邦夫
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Human
&
人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
Organization
新たな風土が組織・チームの一体感・ 生産性向上をもたらす
〜課題を抽出!脱「個人商店」で信頼される知的サービス企業を目指す〜
顧客ニーズに応えるには 「組織・チーム」の仕事が重要
日東分析センター(以下 NTC) は、1974 年に現日東電工 株式会社(以下 Nitto)から技術調査、分析部門を分離し、 日東技術情報センターとして設立された。その後 2000 年に 現社名へ変更し、主に Nitto グループの受託分析サービス を担う知的サービス企業として、現在 7 拠点、約 150 名の 社員で構成している。近年は Nitto グループ外の販売にも 力を入れ、新規市場へのビジネス拡大を図っている最中だ。 そんな NTC が 2010 年、 「生産性向上を目指した組織力強 化」を掲げ、組織基盤強化に向けた取組みに着手した。その 背景について管理部特命 山村 隆氏は「これまで受託分析業 務は個人のスキルに依存した、いわゆる『個人商店型』の仕 事の進め方が中心でした。例えば人と話合い、協力して仕事 を進めるというやり方ではなかった」とその理由をあげる。 また、 代表取締役 川﨑 隆志氏も 「分析は 『人の数』 × 『あ る一定の係数』で全体の生産量が決まります。機械を動か しておけば、自ずと結果が出る訳ではなく、依頼を受けた “人”が分析の方法を考え、前処理をし、分析・解析して報 告書として提出する。圧倒的に人のスキルによるところが 大きい業務」と語るように、個々のスキルに依存する割合
が高い分、生産性向上に結びつけるには今の「個人商店型」 のやり方を変えるしかなかった。 さらに、取り巻く環境やニーズが変わってきたと言うの は取締役 解析センター長 兼 管理部長 川島 哲哉氏だ。 「昔 は『分析』そのものの依頼が多く、単に『分析』を行え ばよい時代でした。しかし、今では誰でも簡単に使える装 置があり、簡易な分析なら自社で対応できるようになりま した。では、どういう依頼が当社に来るのか。それは一つ の装置で解決できない複合的な分析だったり、多くの専門 家が集まって知恵を出し合いソリューションを導き出すと いった、複雑かつ高度なものへと変わってきているのです」 時代の変化と共に顧客のニーズが変わる中、個人で完結し ていた仕事の進め方から脱却し、組織やチームで仕事をし ていく方向へと転換していくことが、今後の成長シナリオ を描く上で NTC には不可欠だった。
課題を抽出!他責の念が 自責の念へ変わった
そのような背景の下、2010 年 NTC は「生産性向上を目 指した組織力強化」 実現に向け、 「わくわく Work」 プロジェ クトを始動させた。 「わくわく Work」という柔らかいネー
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株式会社日東分析センター
「個人商店型」の仕事の進め方からチーム・組 織で連携した仕事へ。2010 年、日東分析セン ターは生産性向上を目指し、組織基盤強化の為 「わくわく Work」プロジェクトを始動させた。 自社の課題と向き合い、互いに助け合う風土づ くりから始まった本プロジェクト。3 年を経過 した今、組織・チームの変化と今後の将来展望 についてお話しをお聞きした。
代表取締役 取締役 解析センター長 管理部
Takashi Kawasaki
川﨑 隆志
Tetsuya Kawashima
川島 哲哉
Yutaka Yamamura
山村 隆
ミングと、もくもくした雲に虹が射した鮮やかな色合いの ロゴの下に 「夢が湧く、 わくわくする活動」 と書かれている。 そこに込めた思いを川﨑氏は「ただ単に『生産性向上運動』 という形だけだったら、やる方も嫌気がさしますよね。だ から、ちょっとした遊びの要素も取り入れ、この活動を通 してまず皆が気づきを持ち、チームワークやコミュニケー ションの大切さを理解し、結果的に生産性向上に結び付け たいと思ったのです」と話す。 実は 2007 年から NTC では全社員対象に宿泊研修を行っ ていた。そこで毎回議論をするテーマを変えて取組むのだ が、出てくる不満は一緒だったと言う。 「いつも研修で皆不 満をぶちまけたらそれで満足してしまって、誰もそれを根 本的に解決しようとしない。それで終わりということが 3 年続きました」 (山村氏) これではダメだ、根元にある問題を解決しなければなら ないという強い思いで、相談を持ちかけたのが JMAC だっ た。 「最初、コンサルタントの吉野さん、梶間さんに相談し た時、不満を全部出し切る活動をしましょうという話にな りました。それが『わくわく Work』の最初の活動でした」 (山村氏) そうして、約半数の社員が多忙な中時間を割いて、上期 ・ 下期で 10 時間程度議論の場を持ち、会社の課題を出しきっ た。 「コミュニケーションが悪い、挨拶ができない。最初は
皆自分のせいとは思わず、悪いのは全部会社だという意見 が多く出ました。それを繰り返していくうちに、徐々に他 責から自責の念へと変わっていきました。自分が変わらな きゃダメだ、変えなきゃいけないという気付きが芽生えて きたのです」 (川﨑社長) このような「問題点の吐き出し」で 525 件にも上る問題 点が抽出された。それらを集約し、 「Would( 個人がやりた いこと ) の明確化」 、 「Could(できること ・ 能力)を伸ばす」 、 「Should( (会社として)すべきこと)の明確化」の 3 つに JMAC が整理した。 それを NTC、 JMAC ですり合せをして、 解決手段に落とし込んだのがこの 「わくわく Work」 なのだ。
「わくわく Work」で 組織力向上を目指す
では、具体的に「わくわく Work」の内容を紹介しよう。 まず先述の「問題抽出、 共有ワークショップ」をはじめ、 「経 営方針の明確化」や「行動指針策定合宿」 、少し柔らかな要 素として「人権標語への応募」 「障がい者雇用促進」など本 プロジェクトは 9 項目で構成されている。 実は、山村氏が Nitto から NTC へ来た際、メンタルヘ ルスの面で課題を抱える現状を見て、改めて人の大切さや
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NTC 本社にてお話いただいた、川島氏(左) 、川﨑 氏(中央) 、山村氏(右) 。
胸ポケットには「わくわく Work」のロゴバッジを 付けられていました。
相互に助け合う風土づくりの必要性を感じ、その要素も盛 り込んだと言う。 その一つが「人権標語への応募」だ。 「皆、当初は人権標 語には関心がなかったのです。とにかく1年に1度でいい から人権について考えようと促し、最近では率先して出し てくれるようになりました。それだけでも人に対する考え 方は違ってくる。 『個人商店型』では、隣の人が悩んでいて も “我関せず” になりがちです。障がい者雇用もそうですが、 人を大切にするという風土は結果的に組織力向上につなが ると思うのです」 (山村氏) また、ワークショップや宿泊研修をサポートする JMAC チーフ・コンサルタント 吉野 克彦は「これまで 3 年の宿 泊研修では、初年度は『should』 、つまりすべきことがまだ 明確ではなかったので、自分達の行動指針をつくろうと取 組みました。その次に NTC の夢や将来のビジネスを考え たり、3 年目はこれまでで良かった事例をストーリーにま とめ、物語をつくり演劇したりしたのです。そして、次の
自らの「夢、思い」は 明確になっているか?
Would やりたいこと
4 回目は中計の達成に向け、自分たちの思い、やりたいこ とを 『チャレンジ ・ 行動宣言』 として表明する予定です」 と、 段階を追った取組みを話す。
誰もが実感!変わりつつある 会社風土
さらに 2012 年からは「マネジメント力強化」を視野に、 中堅リーダークラス研修、経営層向けマネジメント強化研 修、人材育成研修も実施した。 NTC で人を動かし、実際仕事の中心となっているキーマ ンは室長クラスだ。だがこれまで室長クラスが一堂に会す る機会は一度もなかった。そのため、各研究室ごとにマネ ジメントにばらつきがあり、隣の部屋が何をしているかさ えもわからない状況だったという。そこで、室長、室長補 佐クラスを一堂に集め、互いの研究室のマネジメント方法 や事例の共有を図った。 「各室、 『えっ?そんなことをやっ ていたの?』という気付きが生まれただけでなく、室長自 身の刺激となったり、 室と室とのコミュニケーションもアッ プした」 と、 山村氏は中堅リーダークラス研修の効果を語る。 もちろん、活動当初から全員が積極的に取組めたのかと いうとそうでもない。 「現場の室長やそれ以下のクラスは 遊びの部分も入っていましたし、割と抵抗なく活動に入れ
Could できること
Should すべきこと
自らの 「強み、特性」は 明確になっているか?
「ビジョン、方針」 は明確になっているか? 共有できているか?
たと思います。ただ、彼らをマネジメントする立場の層は、 これが会社の業績や売上げの面で本当に貢献するのかと懐 疑的な部分もあったと思います」 (川島氏) しかし、時間を経る中で、この活動に感化され自ら行動
Would, Could, Should を明確にし、すり合わせる
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を起こすようになった人が出てきたのも確かだ。そういう 人たちが中心となり、 周りをけん引していった。また、 室長、 室長補佐の人たちが顧客と直接接する機会を増やし、その 中で問題や課題にぶち当たった時はチームや周囲に相談す るなど、組織として連携が取れてきたと川島氏は NTC の 風土の変化を肌で感じている。 2012 年度の宿泊研修後のアンケートでは「わくわく Work」の取組みで NTC の風土が変わったか?という問い に対し、ほとんどの人が「変わった」または「変わりつつ ある」と答えたという。 「この 3 年はいろいろ我慢もしまし たが、たった 3 年で会社の風土を変えられるなんて、それ 自体すごいことだと思っています」 と、 山村氏は目を細める。 今では自発的に勉強会をしようというメールが飛び交っ たり、拠点を超えたワーキンググループで悩みを解決する など、会社全体の風土が変わりつつあることを誰もが実感 として感じられるようになってきているのだ。
また、ノウハウや事例の蓄積と活用目的で「NTC ナレッ ジ」という DB を立ち上げた。これまで人の経験や知識の 中に留まっていた技術やノウハウは継承して初めて価値を もたらす。それを組織にきっちり残し、活用していくこと を目指している。 「現時点では、こちらが載せる情報は見て くれているかもしれませんが、まだ自分達でこういう風に DB をつくっていこうとか、提案してもらう段階までには 至っていません。これからいいものになってくれると期待 しています」 (山村氏) さらに DB に付随して、これまで文書だった作業手順書 を動画に撮って DB に載せる取組みも推進中だ。文章で読 んでもわからないことが、実際に動画で手順を見れば一目 瞭然ということは多いためだ。 「新入社員の育成など、ある程度彼らが戦力となるまでの 教育期間は現場で皆の負担になっていたんです。例えば動 画を見てもらってから説明すると、時間的な負担も減りま すし、理解度も違います。今後そういう活用にもつなげた いと思います」 (川﨑氏) 現時点で目指すべきゴールの半分をやっと超えたのではな いかと話す川﨑氏。 「将来的に、この人に相談したらなんで も解決してくれる…そんな NTC の顔になるような人が何人 か出てきてほしいと思っています」と今後の抱負を語る。 やったことがない、難解な分析だからこそ NTC にお願 いしようとお客さまに言っていただけるよう、信頼される 企業ブランドづくりに向け、これからも NTC の全社をあ げた取組みは続いていく。お客さまと一緒に考え、自ら提 案し、共に発展する NTC の今後が楽しみだ。
目指すゴールは見えてきた!信 頼される NTC を目指して
こうして、組織基盤という土台が築かれる中、新たに NTC が取組み始めたことがある。その一つが「工程管理シ ステム」の導入だ。これまで各室単位でやっていた工程管 理を全社で見える化し、今どの案件がどの段階にあるのか という情報を共有し、生産性向上を狙うものだ。最初は試 験的に数パターンで運用し、2014 年度に本格導入を検討し ているところだ。
行動を
変えていく。
一人ひとりの
語り合いが
腹に落とす
担 当 コ ンサルタントからの一言
「語り合い」で各人・各層の思いをつなぐ
今回は生産性向上が求められた中での取組みでした。まず第一歩目 に腰を据えて取組んだのが、組織基盤の強化でした。職場や階層の
異なる人が各人どんな思いや可能性を持ち、不安を抱えて仕事をしているの
か。泥臭い取組みながら、 経営、 現場の思い、 期待、 可能性を語り合い、 「Would」 吉野 克彦 「Should」 「Could」の関係を地道につなぐ場を作り、丹念に紡いでいくこと が生産性の高い一致団結した組織づくりに繋がったと思います。風土は一日 にして変わらず。しかし、地道な取組みを日々続けることで、よき物語が生 まれ出し、風土も気づけば大きく変わっていくものです。
チーフ・コンサルタント
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Asianization
アジアを中心に「戦略」 「マーケティング」 「人材養成」の 3 視点から JMAC が支援した企業事例をご紹介します。
~イタリア発…中国事業での成功体験をグローバル展開へ生かす~
マネージャー変革で 文化の壁を乗り越え組織力強化
CASAPPA HYDRAULICS(上海)有限公司
2005 年中国上海に進出した Casappa を待ち受けてい たのは、中国特有の文化の壁だった。 「チーム」より「個」 を重視する風土、目標や責任、部下の管理の必要性を当時 理解していなかった中国人マネージャーを変革するため、 2012 年 JMAC と改革に乗り出した。その過程での試行錯 誤や見えてきた成果、今後の展望を紹介する。
Lean Manufacturing Accounting Manager, Casappa S.p.A. (前 General Manager, Casappa Shanghai) General Manger Casappa Shanghai
Andrea Amaini Davide Bruschi
「文化の違い」こそ 中国進出最大の留意点
Casappa はイタリアに本社を置く部品メーカーである。 1952 年 Roberto Casappa により創設され、油圧ポンプの 製造を手掛けるところからその歴史は始まる。現在ではト ラック、 建機などのギア、 ピストンポンプ、 モーター、 フィ ルターなどを製造するメーカーとして本国イタリアだけで なく、アメリカ、ドイツ、フランス、韓国、中国、ブラジ ル、インドなどに拠点を要し、グローバルに部品を供給し ている。取引先は、CATERPILLAR、DAIMLER、日本
ではコマツ、ヤンマーなど世界の名だたる企業が名を連ね る業界のリーディング企業である。その経営方針は全世界 をカバーするネットワークを有し、顧客満足の追求を第一 のミッションとして掲げている。 中国への進出は 2005 年 7 月、中国現地のニーズ、生の 声を聴き、いち早く取り込むことを目的とし、グループ 会社である Walvoil 社との合弁で Casappa 上海駐在員事 務所が設立された。更に 2008 年アジア市場の拡大を目指 し製造拠点である CASAPPA HYDRAULICS(上海)有 限公司を設立。現在は約 150 名の従業員が従事している。 文化、価値観、仕事の進め方、経営スタイル、全てがイタ
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リアとは違う中国でその運営をし、品質を安定させ定着化 させることは想像以上に厳しいものであった。 中 国 法 人 設 立 後 に着任し 2013 年 10 月まで General Manager を務めた Andrea Amaini 氏は、当時を振り返 り「着任前に前任者からは、製造についてどのように把握 するか、経理の会計管理の仕方などについては何も説明が なく、ただ文化の違いに配慮するようにとだけ言われまし た。あわせて『中国での礼儀作法』という本を、中国赴任 前に社長の Renato Casappa 氏から渡されました。読んで みると、その時点ではサービスやマーケティングの仕事を する人に相応しい内容で、製造業、製造計画の遂行はイタ リアで行っていたことと同じように推進すればよいのだか ら、自分には当てはまらないという感想でした」と語る。 しかし、着任後その考えは大きく覆される。 「今なら、 中国で会社を運営しビジネスを行う上で難しいこと、そ れは一番に『文化の違い』を挙げたいと思います」と Amaini 氏は笑うが、それほど中国での文化の違いは手ご わいものだった。
制を作り直す必要があった。Amaini 氏は、中国の現実と 直面し模索する中で、この課題に共に臨むパートナーを探 し始める。その際イタリア本社から候補として挙がった 1 社が JMAC であった。製造業での支援実績と、世界のど の地域でも同じサービス提供ができる点、中国での競争力 が判断基準となった。そして決め手となったのが、並行し ながら次に進める予定の製造現場の生産性向上に関する知 見、特にリーン生産にも特化し、両方の課題を関連づけた 施策の提供が可能だったことだ。
改革始動!鍵は 「中国人マネージャー」変革にあり
2012 年 4 月 Amaini 氏が改革に向け JMAC と動き出す。 まず始めにリーン生産に関するワークショップ型研修、そ の後もリーン・マネジメントに関する実務研修を JMAC の支援を受け実施。並行して人材マネジメントに関する改 革にも着手。人材マネジメント改革では JMAC の人材マ ネジメント診断プログラムにもとづき中国人マネージャー に対してアンケート、 インタビューを行い診断が行われた。
壁となった「チーム」より 「個」を重視する風土
何が異なっていたのか、それは中国ではグループやチー ムよりも個人を優先させる特性があるということだった。 「ヨーロッパや今までに経験のある国では、問題に対して チームで対処し、共にその問題について議論するのが常で した。 しかし中国ではそれが難しい。 中国人メンバーはチー ムで働くことに慣れていないかったのです」と Amaini 氏 は振り返る。 中国では一般的によく聞く話だが、 中国人の社員から 「な ぜチームとして他の人と働くことが大事なのか?」 とか 「な ぜチームワークが重要なのか?」といった質問を受けると いう。中国のことわざに「中国人は一人では龍、十人にな ると虫になる」というものがあるが、チームで物事を進め るという概念が薄いということを理解したうえで事業を運 営しなければならない。 Amaini 氏は、着任後ほどなく数人の中国人マネー ジャーが退職するという経験をした。そのうちの一人は職 務に適さない人材を配置転換したところ退職したという。 中国人マネージャー層の立直しを図るために採用を行 い、実務のマネージャー層がチームとして仕事ができる体
▲ CASAPPA 社の製造部品
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CASAPPA HYDRAULICS(上海)有限公司の本社、 製造拠点
その結果、人材育成制度、コンプライアンス等の項目は高 く評価されているものの、労使の信頼関係に関する課題が 浮き彫りになった。具体的には、経営層から中国人マネー ジャーに対する権限移譲の不足と、中国人マネージャーの 将来のキャリアの見通しが不透明であるといった点が重要 な問題として挙げられた。これらは中国人マネージャーに とって自分達に仕事をまかせてもらえないことに対する失 望感と将来が見えない不安感が、経営層への不信感に繋 がったものだった。 診断結果を受け、先に全中国人マネージャー層に対する 権限移譲プロジェクトが立ち上げられた。これは中国人 マネージャー個人のスキルアップと共に、中国人マネー ジャー層全員がチームとして考え共に動くことを目的とし たものだ。 JMAC が作成した自己評価を各中国人マネージャーが 行い、JMAC のファシリテーションのもと Amaini 氏が 一人ひとり面談しながら、できている項目、スキルアップ が必要な項目を洗い出した。合わせて能力開発に向けた 個々のアクションプラン作成も進められた。 並行し、 マネー ジャー層には役割の目標設定をし、責任も持たせることを 行った。 「新規採用の中国人マネージャーも含め、目標を 与え、部下の働きを精査する方法を教えることで、彼らに 自分の責任を認識させました。また、この目標と責任を達 成して初めてマネージャーとしての仕事をしたことになる という意識合わせをし、 その他にも、 全中国人マネージャー に共通の目標設定もしました」と Amaini 氏は仕掛けの一 つを話す。 しかし、手強い中国の文化の中でそうそう簡単にことが 進んだわけではない。 「難しかったのは、まず自分達にも問題があると認識し
てもらうことでした。最初は会社に対し非常に批判的で、 心を開いて話ができるまでには会社に対する多くの不満を 聞くことから始まりました」という。 また、ある部門の取組みで一定品質の製品の製造と、原 価管理、統制をとるための規則やガイドラインを定めた。 「こうして下さい」 「なぜそうするのかわからないのですが …」 「いえ、気にしないで言われた通りにして下さい」と いうやり取りで最初は問題なく進んだように見えた。しか し後から問題が噴き出してきたのだ。 Amaini 氏はいう。 「中国人マネージャー達は納得して いなかったのです。また、なぜ仕事をするだけではなく管 理しなくてはならないのか理解していなかった。仕事をし たらそれで終わり、終わったら次の指令を待ってその先も 言われた事をするだけです。これが中国人マネージャーと 西洋人のマネージャーの大きな違いの一つでした。西洋人 マネージャーにとって、仕事をする際にその結果を管理す ることは、極めて普通のことです。これは一種の PDCA ですね。仕事をしたら、その結果が良かったのか、そうで ないのかチェックしなくてはなりません。しかし中国では 管理をするという概念がなかったのです」 ここでも文化の違いに苦戦する。これらは自国のやり方 をそのまま中国にあてはめようとするとうまくいかないこ とを学んだ出来事だった。 “権限移譲”は人材マネジメントのみならず企業経営全 体に大きな影響を及ぼす可能性があるセンシティブなテー マだと JMAC CHINA のコンサルタント 林 恵琪はいう。 「コンサルタントとして、常にプロジェクトが軌道から外 れないように、そして何より感情的に衝突が生じないよう な冷静な対応を心がけました。また、メンバーのパッショ ンを維持することがプロジェクト推進にとって欠かせない
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原動力となりました」と語る。
が進んでいます。共に働く姿勢を持ちながらリーダーシッ プを発揮できるマネージャーが育ってきていると思いま す」と Bruschi 氏は語る。 Amaini 氏は今回の活動を通して「JMAC は、効率化の 実践と成果や、プログラムを提供するだけでなく、中国人 マネージャーを社内コンサルタントに育成してくれまし た。プロジェクトが終了した後も、自走できるように、マ ネージャーが育ってきてくれていると思います」と話す。 また Bruschi 氏も「JMAC は効率化だけではなく、そ の一歩先の展望を持っており、経営サポートなども支援 してくれたことが他社との大きな違いだと思います」と JMAC を評価する。 JMAC アジア・センター センター長 西岡英樹は「プロ ジェクトを通じてイタリア人経営陣と中国人マネージャー が正面から向き合いました。本音で語り合うことで、時に 文化や価値感の違いから衝突することもありましたが、そ れがあったからこそ、相互の信頼関係が改善されていった のだと思います」と重要なプロセスだったことを語る。ま た、経営陣が人材を単なる資源(リソース)ではなく、企 業にとって最も大切な資産であることを再認識し、その考 えを企業内に発信したことで、企業文化の変革の動き始め たという。
全マネージャーに 「変化の兆し」が見えてきた
そんな中、少しずつではあるが、変化が出始める。 「プロ ジェクトの初期はとても難しかったのですが、プロジェク トを進めるうちに初めてマネージャー層が自分の考えを躊 躇せず言えるようになったのです。これが一番の成功点で すね。時間と共に中国人従業員、経営層、JMAC が皆一丸 となりプロジェクトが動き出しました」と語るのは、2013 年 11 月から General Manager に就任した Davide Bruschi 氏だ。Bruschi 氏は Amaini 氏の下、Operation Supervisor という立場で 3 年間苦楽を共にしてきた腹心である。 Amaini 氏は今回の全部署のマネージャーに共通の目標 を設定したことに関して「他の人と共通の目標を持つこと で、互いに共有するものができ、クロス・ファンクショナ ルな活動に繋がると思いました」とその思いを語る。 「目標や KPI の中には、チームで取組まなければならな いものがあります。ひとつの取組みとして、品質保証プロ ジェクトを行いました。全ての部門が関わり品質マニュア ル作成を行うものですが、部門間の協力なしには進められ ません。事業運営にとっても根幹といえる品質に全マネー ジャー層が取組むことで、チームとしての意識が醸成され るきっかけになったと思います」 (Amaini 氏) その後も純利益を上げるための取組みもスタートする。純 利益を上げるためには、それぞれの部署が最適な決断をしな くてはならない。営業部門は売上を増やし、製造部はコスト 削減を行う。人事部は良い人材を適正な給与で雇わなくては ならない。 「このプロジェクトにより、全マネージャーが自 分の目標と成果を理解し、管理することの意味、結果にこだ わる意識が醸成されてきました」と Amaini 氏は話す。
中国での経験を糧に 目指すはさらなるグローバル企業
想像以上に手ごわい中国での経営ではあるが、中国が持 つパワーを最大限に生かすことが成功への第一歩だとい
リーダーシップ発揮! マネージャーが育ってきた
さらに、サプライ・チェーンを巻き込んだプロジェクト も立ち上げ取組んでいるが、その中でも変化が見えてい るという。 「まだ第 1 段階ではありますが、中国人マネー ジャーのリーダーシップにより、自部門メンバーだけでな く、部門を超え人材や情報が円滑に共有されプロジェクト ▲ Casappa 上海受付にて。 中央はアジア事業本部 アジア ・ センター センター長の 西岡 英樹
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ムを作り上げてきたこの 3 年間は、私の人生の中でも特に プロ意識を必要とする時間でした。Casappa にはリーン なプロセスが必要でしたが、それだけではなく、全部門の マネージャーと従業員全員の考え方を変える社内哲学が必 要だったと思います」と。 Casappa はさらにグローバル企業へと変革を遂げよう と進み続けている。 「中国での困難を通して、得たものは 非常に多いと思います。特に一番大きな事は、文化の違う 人を理解する方法です。それは今、私の DNA となり、価 値観でもあり、能力にもなっています。以前よりもチー ムを率いて仕事をし互いを理解する力が向上したと思っ ています。さらにこの中国での成功経験を本社や世界の 活動を推進された HR & Admin Manager の Angela Sun (孫瑾)氏(左) 、Andrea Amaini 氏(中央) 、 Davide Bruschi 氏(右) う。 「中国はものすごいスピードで走り続けています。そ の流れを止めてはいけない。そのスピードの中で出来る限 り指針を示し、統制をとる。そんな中国のパワーを生かす 経営が必要だと思います」そのためには、ベースとなるコ ミュニケーションが不可欠だともいう。 「人間関係は自国 で同じ言葉を話す人同士でも難しいものです。チームを率 い人々を管理することは、経営者にとって最も能力が試さ れることです。チームを作りやすくするために、年齢や今 までの職務経験、バックグラウンドが似ている人を採用す ることで、非常にチーム作りが進めやすくなりました。そ して経営の役割は、Casappa の価値観を全メンバーに浸 透させることだと思います」と話す Amaini 氏。 改革を引継いだ Bruschi 氏は「私たちが共に優れたチー Casappa で生かしたいと思っています」と Amaini 氏は グローバル展開を見据える。 一方引き継ぐ Bruschi 氏は「今回の JMAC との活動を 通して、イタリア本社と現地マネージャーの信頼関係が培 われ、将来を見据え従業員が希望を持てるよう、共に働 く土壌が出来ました。さらに強固なものにするため、ク ロス・ファンクショナルなチームに育てることが必須だ と思っています。現状に満足せず、常に上を目指すのが Casappa の DNA なのです」と語る。中国でのプロジェ クトをきっかけに、本社イタリアでも方針管理プロジェク トが JMAC ヨーロッパの支援で動き始めた。さらなる進 化を遂げ、グローバルで展開される Casappa のクロス・ ファンクショナルな活動が楽しみだ。
中国人の価値観や 文化を理解し、 相互の信頼関係を 構築することが、 成功のための 大きなポイントです。
担 当 コ ン サルタントからの一言
現地従業員との信頼関係構築は 海外拠点マネジメントの王道
海外に進出する企業は自国のマネジメントやオペレー ションをそのまま進出先でも実施しようとする場合が あります。個々の企業の強みやコア・コンピタンスはも ちろん海外に進出しても堅持しなければなりませんが、 一方、 進出先の国の文化、 価値観、 習慣などを考慮せず、 自国のやり方を押し通しても上手くいかないことは明 白です。
JMAC CHINA コンサルタント
林 惠琪
「経営の現地化が重要」と言われて久しいですが、現 地従業員との信頼関係こそが基盤となります。Casappa 上海様では、相互信頼関係の醸成を目的に挙げ、その 線上に中国人マネージャーに対する権限移譲や権限移 譲に必要な能力向上を位置づけたことが、軌道から外 れずプロジェクトを推進できた要因だと思います。
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ことを大切 JMAC では、一人ひとりの「意」を「育てる」 す。 いま にしています。これを「iik 塾」とよんで タントの「意」 このコーナーでは日々奮闘する若手コンサル を様々な視点でご紹介します。
(い いく)塾 i ik
本質を「速く」 「正確に」見抜く力を鍛える
私は日頃新しい業界のお客様をご支援 することも多く、お客様を知るベースと なる業界の情報収集を担当することがあ ります。入社当時は情報収集に時間がか かり試行錯誤の日々でしたが、やはり今 でもお客様の業界やそこで使われている 専門用語を理解するうえで必要だった、 と考えています。 ネット上の公開情報・有料情報提供サ イト、書籍・雑誌だけでは情報が見つか らない業界の場合は、MDB(Marketing Data Bank)、 ジェトロ、国立図 書館、 業界団体に直接足を運ぶなど、様々な方 法を駆使して情報を集めています。収集 した情報は、関連しそうなキーワードを 想定して付箋を貼ったり、情報ソースを リスト化しながら資料を読み進めます。 この時、頭の中にもキーワードがイン
経営・事業戦略センター
います。お客様に情報ソースやその調べ 方を聞かれることも多くなってきました し、自分なりの情報収集テクニックも身 についてきたと思っています。 今は情報があふれています。だからこ そ、 多くの情報の中から、 本質を「速く」 「正確に」見抜く力が必要なのだと思い ます。私も何年かにわたり 続けている 中で、少しずつ目が養われ、自分が欲し い情報までのアクセス速度が上がってい ると実感しています。 情報収集を常日 頃から行うことは、私自身コンサルタン トとしての広い知見と深い洞察力を身に 付けるベースになっていると思います。
プットされるので、あとからもう一度確 認する際に役立ちます。 これまで多くの業界を手がけました が、こういった情報収集は今でも続けて
北村 大輔
成長には「愚直」と 「素直」が欠かせない
コンサルタントは常に学び成長し続けることを使命づけられ ている職業であるといえます。 私は、この成長には、日々の情報収集 / 蓄積とコンサルティ
経営・事業戦略センター
栗栖 智宏
説検証・振返り・技術化です。 新しいプロジェクトに臨む時、お客様の成果創出が第一義の
ング現場での実践・振返り・技術化のサイクルを継続させるこ とが重要だと考えています。 情報収集 / 蓄積に於いては、書籍により体系的な情報蓄積の
枠組みを作り、雑誌やインターネット等で最新のトレンドを抑 実践のプロジェクト現場の経験、 えます。そのベースを踏まえ、 先輩の指導から固有の暗黙知を学ぶことが成長に繋がると思い ます。
「自分が取組む上で 「お客様の課題解決のキーポイントは何か」 の課題は何か」を日々仕事先に向かう前に設定し、仮説検証を これらプロジェクトでの実践を振返り、 行っています。そして、 技術にまとめること、個人のスキルレベルを高めていくことを 日々の積み重ねの中で大切にしています。
目標です。目標達成のコンサルティングの技術課題と、合わせ て自身の成長課題を設定して取組む工夫をしています。例えば
先輩方は後輩への指導や育成意識が非常に高いのですが、当 然1から 10 まで懇切丁寧に教えてもらえるわけではありませ
先輩から教えて頂いた事、 今では後輩コンサルタントも増え、 私なりの工夫も合わせて伝えていくことで自分の幅も広がると 思っています。
ん。そこで私が心がけていることは、プロジェクト現場での仮
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「忍耐」と「意識改革」
「70%の我慢」を学んだ 監督一年目
た。目標を尋ねると「優勝したい」「強く なりたい」「オリンピックに行きたい」 「金メダルを取りたい」こんな夢のような 答えしか返ってこないのです。零細企業が 何の準備もなく大手企業相手に勝とうとい うようなものです。それは「夢」、「夢」 を持つことも大切ですが、「目標」と分け て考えるべきだと私は考えています。手の 届く範囲の現実的な「目標」を一つひとつ 細かく刻んで成功体験を重ねていくことで 個人もチームも強くなると思います。チー ムの目標には10位以内のシード権を掲げ、 個人の目標は一人ひとりと丁寧に面談をし ながら、まず自分の実力を現実的にわから せ、春のトラックレースで5 0 0 0 m、 10000mの目標タイムを設定していきまし た。そして、クリアしたら次の目標、クリ アできなかった時は、原因が何か教えてい く。そんな地道な作業を繰返しました。 「意識改革」「競技力向上」の両輪が選手 を育てると考えていましたが、結果とし て、意識改革ができればおのずと競技力も 向上することを学びました。 更に、目標を持たせた練習で大切なの は、目標や練習の「Know How」だけでな く、「Know Why」 、つまりこれは何のた めなのかをしっかり理解させることです。 モチベーションを保たせながら、地道に目 標へのサポートをする、それが監督、マネ ジメントの役割だと私は考えています。 今回の第90回箱根駅伝では、結果的に 東洋、駒沢、日体と3強の一角をくずせ ず4位と残念な結果に終わりました。その 中でも、下級生が沢山の経験をしてくれ たことが収穫です。経験者が多数残るこ とを強みとして「Know Why」をしっかり 根付かせ、新たな目標に向って走りだした いと思います。 田中:渡辺監督は、2004年に監督に就任 され、当初4年連続シード権のない状況か らスタートされました。どのようにチーム の立て直しを図ったのでしょうか。 渡辺: 私がチームを預かった2 0 0 4 年当 初、早稲田は4年連続シード落ちの弱小 チームでした。当時のチームは覇気がな く、基本の挨拶もできない、グラウンド・ 宿舎は汚い、弱いからスポンサーもつかず 強化費もない、だから有力選手も集まらな い。監督一年目は零細企業のような状況か らのスタートでした。 私がまず取組んだのは環境の整備、そし て練習メニューの変更でした。練習は自分 がかつてやってきたハードな練習を全て選 手に課し、結果、予選会はトップで通過。 しかし、最終的には故障者が続出しチーム に一体感も出ず、監督一年目はシード落ち という苦いスタートとなりました。 まだ経験も浅い私は、自分の選手時代の 成功体験をそのまま押し付けてしまってい たのです。チームをマネジメントする者は 選手を100%の状態でスタートラインに立 たせることが役割であり、そのためには、 個々人の実力を判断して自分が求める指導 の70%で我慢するという忍耐も必要だと学 んだ監督1年目でした。
マネジメントに必要なのは
人間集団である組織を動かし成果を出す。 それはスポーツの世界にも通じます。 「個」と「組織」の最高のパフォーマンス が要求されるスポーツの一つが日本発祥の 競技である『駅伝』 。襷をつなぎゴールを 目指す姿は、私たちのマネジメント活動に も参考になると思います。今回の「顔」は 早稲田大学駅伝競走部 渡辺監督にフォー カスしました。(3回シリーズ)
早稲田大学競走部 駅伝監督
(わたなべ・やすゆき)
渡辺 康幸氏
1973(昭和 48)年、千葉県生れ。92 年、市立船 橋高校を卒業し、早稲田大学人間科学部入学。競 走部に入部し、1 年生で箱根駅伝総合優勝。4 年 時は競走部主将として 2 区で 8 人抜き。96 年、 エスビー食品に入社。 2002年、 現役引退。 2004年、 早稲田大学競走部・駅伝監督に就任。
大切なのは「現実的な目標」と 「Know Why」
田中:シード落ちの時代を乗り越え、見事 2007年には三冠を達成されました。選手 (人材)の意識や能力を高めるために、ど のような取組みをされたのでしょうか。 渡辺:当時の選手は「目標設定」「自己管 理」という基礎ができていない状況でし
田中 實の
マネジメントの基本である、現状把握、それに基づく高い目標+現 実的な目標を設定し、個人に目標を十分理解させた上で実現に向け
ここが
Point
たサポートを実践され、結果を出されています。特に Know Why をベースにした 意識改革 は、読者の皆様のマネジメントのヒン トになると思います。
Business Insights Vol.51 2014年 2月 発行
編集長:大石 誠 編集:石田 恵、井上 美和子
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