第6回 リスクに強い基盤をつくる!〜利益と信頼性を高めるBCP・BCM〜

BCPからBCMへ 自社のリスクを経営的に管理する

事業継続の確保のために、長期的な視点と経営戦略と絡めた運用を!

BCPの必要性は、業界を問わず理解されやすい。しかし、実際の策定となると話は容易ではない。BCP策定には、一企業のみでは対応しきれない事情のほか、リスクへの備えは、目前の問題よりも後回しにされがちという困難性がある。「リスクには、災害だけでなく、経営方針に対する従業員の不安や不満など、さまざまなものがあります。こうしたリスクは発生するまで、存在することすら意識されないものです。たとえば、優秀な人材を確保できており、安定した経営を続けている企業であっても、明日には離職者が出て、事業継続に影響するかもしれません。ただし、経営者にとっては青天の霹靂でも、現場にとっては長期にわたる不満の結果である例も少なくありません。調査によるリスクの洗い出しで、こうした危機を未然に防ぐことが重要なのです」と大谷はリスクマネジメントがもつ本質的な役割を説明する。リスクが顕在化すると、それは一過性の危機では終わらず、長く企業戦略や業績に影響を与えることになる。こうした背景もあり、BCPを発展させたBCM(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)の導入にも関心が集まっている。
「BCMはリスク発生によって生じた事業の中断に対して、必要なサービスレベルを戦略的に決定し、事業継続の確保を経営管理の視点から実現するものです。BCPは一度策定して終わりというものではなく、徐々に対象リスク範囲の拡大やレベルアップを図っていくべきものです。そのためJMACでは、BCMの一つ手前の段階として、2年目以降の運用サイクルを含めたBCPの提案をしています。リスクは業務実態や時代などにより変動するものです。固定されたBCPでは、現実的な対策にはなりません。毎年内容をメンテナンスし、状況に合わせていくべきものでもあります。そのため、JMACのコンサルティングでは、長期的な視点、経営戦略と絡めた運用などが前提となっているのです」

継続によって生まれる強い企業体質 対応力の強化が現実のものに

BCPは使う機会がなくて済めば、それに越したことはないが、策定し継続してメンテナンスするなかでも、意外なところに効果が出ると大谷はいう。「業務改善などを行うとき、さまざまな面から分析をしますが、サプライチェーン内における役割と影響という視点も新たな切り口になります。また、損失を回避するための工夫から、フレキシビリティの高い工程が生まれることもあります。事実、導入した企業では新たな切り口で見直しをできたという現場の声がありました」
BCP策定のコンサルティングプロジェクトでは各部門からメンバーを集めるが、部分的な活動で終わらないよう、翌年はメンバーを入れ替えるなどの工夫をしている。これによってリスクマネジメントへの理解は自然と広まるそうだ。「数年来お手伝いをしているクライアントでは、リスク管理への意識に変化が起きています。たとえば、以前は意識せずに扱っていた書類も、現在は重要書類をルール通り適切に取り扱うようになったなど、啓蒙の成果が出ています」書類や情報流出による危機も、企業にとっては重要なリスクのひとつだ。また、トレーニングも重要だと大谷はいう。「いざというときスムーズに動けるように、具体的な状況を設定しBCPに沿って訓練をします。毎年違う設定で訓練することで、現場にも浸透していくのです」こうしてBCP策定・見直しを継続することで、リスク発生への対応力は向上していく。それがリスクに強い企業体質を作るのだ。

早めにスタート、そして焦らずじっくり取組む

経済活動がグローバル化していく以上、企業は自社のバリューチェーンを越えてより広い範囲、多様なリスクに対応せざるを得ない。リスクを軽減したい企業は取引先企業にもリスクマネジメントを求める傾向がある。「近いうちに、ISOとして策定しようという動きもあります。その取得が必須になるか、どのレベルで活用するかという問題はありますが、一定の信頼性を得るツールにはなるでしょう。発生したリスクへの対応ができる企業が求められるという流れは、今後も弱まることはないと考えています」
だが、一度に完璧なBCPを作ろうとすると息切れを起こすだろうと大谷は指摘する。「どちらにせよ、リスクは変動するもの。優先順位を決めて、重要なものから取組み、見直しするなかで徐々に範囲を広げていく方法が現実的でしょう。毎年テーマを決めて、自社にあった対策を少しずつ作り上げていくことが大切です」
日本企業ではBCP・BCMの広まりは推進途上だ。それでも、ここ5〜10年の間には、ある程度の規模の企業なら、どこでも設定しているものになると大谷は見ている。「大きな流れで見れば、今は普及のスタート地点。数十年後にはどの企業でも常識になっている、そういう性質のものだと考えています。早めに着手すること、毎年少しずつブラッシュアップし、じっくり育てることです」時間をかけて取組みを続けることが、結果的に企業の信頼性を高める。「継続が成功のキーです。焦ることはありません。ゆっくりと進めていきましょう」BCPからBCMへ。大谷はクライアントの利益と信頼性を確実に高めるために、その企業の状況に応じて理想と現実のバランスを見極め、その企業ならではのリスクマネジメントを提案し続けている。

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