必ず返ってくる人材への投資 5年後、10年後大きな実力差へ企業の付加価値をつけるための投資を考えたとき、さまざまな項目が対象としてあがるだろう。だが、伊藤は「人材への投資だけは無駄になるということがない」と断言する。「たとえば設備投資は需要との関係でマイナスの影響をもたらす可能性があります。けれども、人を育てるという投資は、成長率が予想通りでなかったとしても成果がゼロということはありません。時には、相手が思うようには育ってくれないこともあるでしょう。でもそれでいいのです。人材育成とは、本人の可能性を引き出すことです」また、人と組織が学んでいく力次第で、5年後に5倍、10年後に10倍の成果をあげることも不可能ではない。「同じ年数の社会人経験を積んだビジネスパーソンの間に、数倍の実力差ができることがあります」 学ぶ力をさらに伸ばす ポイントはモチベーションの向上人材育成には個々人のモチベーションをどう維持・向上していくのかという現実的な問題もつきまとう。特に、現在の企業が直面している全世界的な不況のなかでは、どうしても暗いニュースばかりが目立ちがちだ。「未来について無責任なことはいえないものですが、前に進もうというときに必要なのは、将来への意志、そして展望ではないでしょうか」これほど変化が急で先が見えない状況下では、想定外の事態も起きてしまうだろう。しかし、世の中が閉塞している状況だからこそ、企業や経営トップは展望を持つことが重要だ、と伊藤は指摘する。「将来に向けたステップとして具体的な成長がイメージできる目標を見せてあげることです。遠くを見渡せる爽快感が活力になるのです」 開拓と伝承の両輪で生み出される人材育成革新テーマを掲げ、新しいことに挑戦している企業は数多く存在する。だが、それが新たに「教えるに足る事柄」を見出す“開拓”プロセスだと意識している企業は多くはないだろう。同様に“伝承”プロセスも十分にできている企業ばかりとはいえない。「一例をあげれば、高度な職人的技術を必要とするメーカーでの後継者問題があります。採用抑制による後継対象人材の不在もありますが、後継者を育てることが先輩のミッションである、という意識の欠如が最大の原因といえるでしょう。これはごく一般的に見られる問題です」過去の開拓サイクルでの経験や方法が、すべて役立つものとは限らない、だからこそ、開拓サイクルを回し続ける必要がある。伝承サイクルと開拓サイクルの連動が必須となるのだ。「これは育成の大前提ですね。新たな挑戦から教訓を抽出し、それを情報や知識に変えて後進に伝えて人材育成は完結するのです」逆に考えれば、このような開拓と伝承の双方を行える人材を増やさない限り、充実した人材育成を行うことは難しいともいえる。管理職でも、開拓サイクルだけを手がける人材は数多くいるが、本来はどちらもできることが望ましい。「後継者を育成して初めて“マネージャー”といえるのではないでしょうか」 |
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