第12回 “創品創客”に立ち返る! 品質経営マネジメント・システム

宗 裕二(そう ゆうじ)シニア・コンサルタント
モノづくり企業を中心に「経営成果に直結する革新活動の実践」を目指して20年あまりにわたりコンサルティングを推進。特に、品質を機軸とした経営を志向し、品質問題の解決に力を入れている。

品質とは何か? それが今、改めて問われている

品質をとりまく状況の変化 モノづくりの土台にも影響

日本企業が提供する製品の品質には、これまで内外から高い評価が与えられてきた。多くの日本企業では、今も高品質なアウトプットへの希求力は高いポテンシャルをもっている。その一方で、日本が誇る“品質”にかげりを感じている人々も少なくない、と宗はいう。「従来の品質管理や仕組みでは間に合わないと感じている企業、さらには何をどこまでやれば十分な品質といえるのか、わからなくなっている企業が増えているのです」その背景には、品質をとりまく状況が大きく変わってしまったことが関係している。「製品のライフサイクルが短くなったり、市場が拡大したことによって顧客要求がこれまで以上に高度化していることがひとつ、海外の法規制や規格などに代表される情報量の増加といった品質を保証するための難易度があがっていることがふたつめの理由です」問題は、社外の環境にとどまらない。社内に目を向ければ、熟練工や技術者の定年退職、定着率が低下し流動化している雇用の状況など、リソースにも変化がある。「とくにリソースに注目すると、かつては活発だった小集団活動が不活性化していることがあげられます。当たり前のように行っていた改善活動、気づきの発生自体が低下しているのです」こうしたベクトルの合わない条件のもとで品質を維持するには、従来のやり方では追いつかなくなっているのだ、と宗は現状を指摘する。
当然だが、企業側も60年代から築き上げてきた品質保証の仕組みのまま対応しようとは考えていない。ISOをはじめとする標準的な仕組みを導入し、品質保証部門の機能向上を目指してきた。しかし、最近では、このような仕組みが形骸化したり、肝心の品質保証部門は大きくなりすぎた役割をどう担っていけばよいのか困惑している例が見られるという。「そこには、品質を意識し、考えて行動する人員が相対的に減少しているという現実があるのです」

現場からもあがる懸念 品質における3つの課題とは

JMAC生産マネジメント革新本部本部長として、さまざまな生産現場に携わった経験から、宗はここ数年、現場から品質について懸念する声が増えてきていると感じている。「『自分たちは本当に社会に対してよい製品を提供しているといえるのか、自社の位置づけがわからない』という声、これからを背負う若手について、『品質改善ツールの使い方は知っているけれども、それを使ってよいものを作ってやろうという気概や雰囲気が感じられない』という声、また、問題や品質についての認識の仕方、つまり定義にズレを感じるという声、さまざまな意見を聞きます」宗は、現場が抱えている問題は大きく3つに分けられると分析している。「1つ目は、品質についてどのような方向性で、どのレベルまで品質保証・向上を目指すのか明示されていないということ。2つ目は、提供後の製品を想定し、保証すべき品質を予測できるプロが少なくなってきているということ。3つ目が同じ企業のなかでも品質の定義にもバラつきがあり、その共有化もできていないということです」
現場の声として聞かれるなかでは、“考える”ことに消極的な態度を感じている話が多いという。これから検証していかなければならないとしながらも、宗は独自に「創品創客に取組める人材が減少しているのではないか」という仮説を立てている。「たとえば80年代に創立した企業があるとします。最初は“創品創客”、つまり、市場に受け入れられる製品を創造し、それを求める客層を創っていく、そういうことを同時に考えることから始めますよね。企業が成長するうちに、創品創客を担った人材は全体の改善やシステム化など異なる役割にシフトしていきます。新しく入った人材は、創品創客ではなく、すでにある程度できあがったビジネスのなかで働くことになります。組織が大きくなれば、その分効率化は進みますから、失敗と試行錯誤を繰り返して得た創品創客のノウハウをもつ人材は相対的に減ってしまいます。近い将来には、創品創客を考え実行できる人材が、企業内で不在になる……という危険性まであるのです」事実、JMACのセミナー“経営幹部へのメッセージ〜未来に向けた6つの視点〜”では、『自分で考えて行動できる人材が自社内で減っていることに危惧をいだいている』と共感を示す声があがったという。

“創造作”の新モデルへ! 変わるモノづくりの定義

これらの課題を、どう解決していけばいいのか?宗は、これら現場の声に対しては3つの方向性を示している。「1つ目に、品質経営を行い、“成熟度モデル”をもつことが必要です。これは、企業全体で品質について同じレベル感を共有するということですね。2つ目には、その製品品質について、予防的・予知的アプローチと問題解決を行っていくこと。最後に、品質とは何か? ということを再定義し、現在の自社を取巻く環境に合わせて多面的・俯瞰的な視点を身につけることがポイントになるでしょう」
そこには、時代の変化を受けてモノづくりの定義自体を見直す時期にきたという大きな流れがあると、JMACでは考えている。「50年代までのテーラーと大量生産の時代には、デザインし、製造し、販売するという一方方向の流れでお客さまに製品が届くプロダクト・アウト(Product Out)型で生産が行われていました。それ以降近年までは、販売のあとにリサーチが入り、その結果をデザインに渡すという循環する円の動きをもったマーケット・イン(Market In)型になりました。しかし、十分な製品を提供するには、もはやマーケット・イン型では間に合わないのです。新しい時代に合う定義として、今後は、“創造作”の3要素によるサイクルがモノづくりの定義になるのでは、と考えています」従来の定義と比較すれば、“創”はデザインに、“造”は製造に、“作”は販売に相当するという。この3要素は一部役割を融合させつつ、円の動きで“情報”を次の要素に渡すことによって機能する。「その情報とは“品質”についての情報だと、私たちは考えています。“創”で、どういう品質のものを生産するのかを決定し、その品質情報を“造”にわたして、実際の製品を製造します。“作”に完成した製品の品質情報を伝え、それにふさわしい市場や展開を検討し実行に移すといった形で、販売をめざしていくのです」どの企業でも高品質の製品を生産しようと、さまざまな努力をしている。けれども、モノづくりの仕組みとして品質を中心にしたやり方をしている企業は、少なくなってしまったのだそうだ。「これからは、品質を重視した経営のあり方がこれまで以上に重要性を増していくと見ています」

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