第12回 “創品創客”に立ち返る! 品質経営マネジメント・システム

全社で見られる夢を設定する モノづくりの喜びが“創品創客”の原動力

現場が直面するグローバル化 企業は長期的・体質的強化を求められる

品質に限らず、もっと広い視野でモノづくりの現場を俯瞰してみると、事業環境の変化、とくにグローバル化による影響がさまざまな面に大きな影響を及ぼしていると、宗はいう。「具体的には、短期的利益の追求や形式化された経営手法への依存、一体感の欠如といった経営思想の転換による影響、新興国の急速な技術力向上による付加価値の低下や技術・技能の流出や喪失、中堅・基幹人材の空洞化という競争の激化による影響ですね。製品品質の向上に取組む際に感じる課題も、こうした大きな変化のなかで起きていることの一部に過ぎません。今後モノづくりを行う企業にとっては、あらゆる分野で、長期的・包括的・体質的側面を強化していくことがとても重要になります」グローバル化が進む世界のなかで、どのような位置づけで、どんな強みを発揮していくのか。品質経営は、今後の自社を考える上でひとつの指標になるだろう。
とはいえ、品質経営は単に目先の問題を解決するために提案されるものではない。JMACでは、品質経営の将来として“創品創客の実現”をみているのだ。「品質に対する取組みは、後追いであった是正という時代から、はるかに進歩してきました。是正を第一世代とするなら、再発防止を目指したのが第二世代、未然防止と予防を目指す現在は第三世代といえるでしょう」TQC(Total Quality Control、現在はTQM)やISOというツールを使って製品保証を行ってきた第二、第三世代は、次のステップに向かおうとしている。「JMACが考える第四世代こそが品質経営の時代。求められる品質を予知し、発生するギャップを解消する経営システムを実現する、品質本意の考え方です。そして、品質経営が進んでいくことで、自社の人員すべてが品質についての意識を高くもつようになります。そこで、事業開始時の原点である“創品創客”に立ち返ることができるのです」JMACでは、この段階が事業の原点であることから、第五ではなく、敢えて第零世代と呼んでいるそうだ。

解決すべき3つの壁 創品創客にいたるまでの課題とは

品質を高めることが競争力強化において重要であることを認めない人はいないだろうが、それでも第零世代に至るためには、大きな壁が3つは存在する、と宗は現実の課題を提示する。「まず、現在よく見られる状況として、品質を経営上の問題としてはとらえない企業が意外と多いということです。現場だけでは追いつかないテーマであるにもかかわらず、『品質は、現場や品質保証部門で解決すべき問題ではないのか』という感覚でいる経営陣は少なくないのです。しかし、お客さまの考える品質を定義し直すプロセスが入るのですから、本当はとても大きな経営課題なのです。全体として取組むという意識をもつべきでしょう。次に、第四世代である品質経営を実現していくなかで、システムの形にしていく必要があります。品質経営というのは、やる気のある一部の人だけが手がけるのではできないことなのです。全員で、組織として取組むことが大切であり、組織として取組むという姿勢、体質にもっていかなくてはなりません。最後に、常に利益を生み出していく創品創客を企業の戦略として統合・融合し経営に組み込んでいくところでも、壁があるだろうと考えています」
宗は、実際に企業のサポートをした経験から壁を越えるためには幾つかのキーがあると考えている。「少し例をあげてみましょう。一番重要なのは、トップである経営側に品質を重要視した経営方針を採用する強い意志があるかどうか、という点です。実はコストの方を重く見ているというのでは、やはり大きな改革は難しいわけです。品質が大事だ、という強い意志は、大きな要素です。また、品質戦略・ロードマップの策定をどのように描けるか、ということもありますね。品質を中心にして経営戦略を考えること自体、想像もしていない企業は珍しくありません」ある企業で世界を対象にした品質戦略に携わったとき、宗はそのことを実感したという。「品質戦略であるのに、経営的な視点で品質をみるという発想がなかったのです。どういう国に、どんな品質のものを提供していくか、経営戦略に取入れるときにもひとつの壁があるのです」

モノづくり企業はどこに向かうのか 達成感が高品質を生む

つい先頃まで、ほとんどの企業はみな効率の追求という方向を見ていたといえよう。しかし、今では、企業が新たな切り口を模索しはじめたという手応えを宗は感じているという。企業が求める、次なる方向性、価値のあり方といったことに、宗はひとつの答えを用意しつつある。「モノづくり企業は、本来“より良いモノをつくる”ことで、持続的に成長し、発展していきたいと願っているはずだと私は考えます。これは、“モノづくりのありたい姿”といっていいでしょう。この願望を叶えるのは、簡単なことではありません。たとえば、強力なリーダーシップをもった経営者が号令をかければ、複数の壁をものともせず、実現できてしまうかもしれません。そういうタイプのモノづくり企業も存在しますが、ほとんどの企業ではそういうわけにはいきません。それに、組織が大きくなっていくと、一人ひとりに浸透させて同じものを目指そう、というのは本当に難しいことなのです」
願望を現実にする手段として、宗は“モノづくりの喜び”がブレイクスルーになるのでは、という感触をもっている。「これは、モノづくりが本来もっているワクワク感や達成感のことです。お客さまの望むモノをつくり、喜んでもらうという企業にとって原点ともいえる部分ですね」一人ひとりが“モノづくりの喜び”を実感できる仕組みを用意できれば、彼らは無意識のうちにお客さまに満足してもらうために、よりよい品質、より求められる製品について考えることになる。それは上司や会社に要求されたから行うのではない、自発的で自然な仕事への取組みだ。「全員が、そういう気持ちでモノづくりに従事できれば、“モノづくりのありたい姿”に近づくことができます。それには、社員みなが共有できる未来や夢というべきものを用意し、経営陣は目標を明示することが必要でしょう。当然、目標を実現可能にする組織としての仕組みも整備しなければなりません。しかし、長期スパンで環境を整えることで、考えて行動できる人員を生む土壌をつくることができると考えています」宗のいう、“モノづくりのありたい姿”を実現するためには、具体的にどのようなステップで、どう実施していけばいいのだろうか? 今、宗は品質経営という文化を企業のなかに根づかせるための手法に取組んでいるという。「近い将来、品質経営をもとめる企業に、解決策としてご提案できると確信しています」モノづくりの喜びを軸に、夢をかなえる―― それが、次の世代に新しく必要な価値を提供し続ける企業に求められる文化なのではないだろうか。

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