ビジネスインサイツ49
- ページ: 17
- Asianization
17
けで、サプライヤーがサプライしきれなかった部分という のを、我々が入って資金的に余力ができたことで、今商売 が広がっているわけなんです」 (為田氏) 為田氏はさらに次のように分析する。まず、住友商事が 資本参加して強化された強みはファイナンス力だと。 農業は種をまいて作物ができるまでそれ相応の時間がか かる。収穫してそれを売って初めてお金になる訳で、運転 資金がなければ農業は成り立たない。 「資金調達は農家の 自己資金、 国、 銀行、 流通業者の4つしかない。東欧の場合、 もともと国がやっていたのが急になくなったわけで、市場 はスカスカの状態でした。そんな中で我々が入っていった ときに、資金調達においては他に比べて圧倒的に有利でし た」 。このように規模とファイナンス力については、この モデルで絶対に負けない自信があった。 一方で、住友商事の力をもってしても勝負できない点は 「人脈や地縁」だった。そこで、買収後も現社長にこれま で通り会社の顔を務めてもらい、社員達にも継続して勤め てもらえるよう、住友商事は黒子に徹した。 「当時、サプ ライヤーからも日本品しか扱わなくなるんじゃないかとい う疑念の声が上がりました。我々は自ら価値を毀損するよ うなことはしないし、マネージメントも戦略もかわらない と説明したんです」 (為田氏) いざ仕入れ段階になると、従来より条件もよく、これま で供給できなかった部分をカバーしたり、買いの条件も よくなったと顧客からも好評だった。 「アルチェドがこれ まで築いてきた顧客とのよい関係を変わらず継続できたの は、買収の進め方やその後の入り方によるところが大き
「農業生産マルチサポート事業」の 世界展開を視野に
住友商事がアルチェドを傘下に収め、まもなく 2 年が経 過する。2012 年は売上高前年比 20%アップなど順調な推 移を見せているが、本領発揮はまだこれからだ。買収後、 穀物を保管するサイロを増設し、貯蔵量や買取量を増やす 取組みや、農機の取扱いも始めた。 「これが即ビジネス上 の収益に直結する訳ではないですが、これぞ最大のサービ スで、何より顧客離れ防止につながると思うんです。農機 についても、特定の品を担ぐのでなく、彼らがほしい物の 間に入る。その部分もファイナンスという感じですね」 (為 田氏) こうして川下の農家へ、必要とするものをワンストップ で提供するという新たなビジネスは、今後は農業関連資材 に留まらず、保険や金融サービス、生活資材にまで広げて いく余地がある。これはいわゆる「農業生産マルチサポー ト事業」とも言えるだろう。 今後、住友商事では今回のルーマニアでの成功事例を各 国でカスタマイズしながらグローバル事業として展開する ことを目指している。この新たなビジネスモデルが住友商 事農薬事業の柱になるだけでなく、各国の農家の安定経営 への貢献や、世界の食糧不足問題改善の一翼を担うことに もつながるだろう。今後の同社の農業ビジネスの事業展開 に大いに期待したいところだ。
プロセスの理解は 人 の 理 解 で あ り、 ビジネスの 見通しである。
かった」と為田氏は語る。
担 当 コ ンサルタントからの一言
可視化 はビジネスの A to Z (見える化)
新興国へ進出する、サプライチェーンのポジションを拡張するなど、新たなビジ ネスへのチャレンジには必ずリスクが付きまといます。正しい戦略が、正しくプ ロセスに落とされてこそ、成功が見えてきます。さらに、流通チャネルや現状 の業務プロセスと、新たなビジネスモデルの相違など、関係者が共通に「見え る」ことで、議論が進み、知恵も生まれるのです。大きなチャレンジを、無謀 ではなく、 知恵を出し合って推し進める。成功のスタートは 「可視化」 あります。 住友商事さんは、 ファイナンスだけでなく、 事業の中身にまで踏み込んで評価、 判断され、経営に携わられた点が成功のポイントでありました。
才川 哲治
チーフ・コンサルタント
- ▲TOP