ビジネスインサイツ49
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行ったことがあるという。 それは個室だった社長室を出て、 社員の執務エリアへ席を置いたことだ。 「一人ひとりの顔 も見えますし、電話でのトラブルも全部もれ聞こえる。な んだってすぐに対応できる訳ですよ」 (吉川氏) 。社長は身 近な存在になり、社内の風通しは当然よくなった。 そして、商品開発許可や社内決裁のスピードアップにも 取組んだ。 「開発許可が欲しければダイレクトに社長に持っ ていける。昔の古い体質の時は、1週間かかったものが今 では1日で済むこともあります。とにかくスピーディーな ところが今までと大きく体質が変わった点」と、吉川社長 は話す。すぐに提案が承認されればやりがいも生まれ、当 然マーケットや新製品に対する意識も変ってくる。 そのような中で、今、売れ筋商品も生まれてきた。 「今 回ヒットしたのは、 夏のギフト用のセット商品なんですが、 これは実は 40 代の社員たちが中心となって、前年も試し た商品でした。その上で、売れ筋商品群や価格ゾーンなど を分析し、ボリューム感も出し、商品力を高めた商品だっ たんです」 (吉川社長) 今、この年齢層の社員が中心となり、新たな取組みとし てトライアルしているものがヒットしつつあるという。 「昔 の商品を 2 年、3 年と継続して売り込んで、お客様に買っ ていただける時代ではありません。それを社員が認識して 新商品をどんどん出していくという意識に変わってきてい る。それは改革の賜物であり、その結果こういうヒット商 品も生まれているんです」と吉川社長は話す。
「本物」のカステラ文化・ 伝統を後世へ伝えたい
最後に、これからの商品戦略について吉川社長は語る。 「当社は直営店もありますし、流通チャネルとして百貨店、 量販店もあります。それぞれがどういう顧客をターゲット にしているかで、売れ筋となる商品構成や品ぞろえ、価格 帯もかわってくると思うんです。それを精査しないといけ ない。単に量販店向けが安ければいい訳じゃない。価格は もちろんですが、見栄えやボリューム感といったバランス が大切なんです」 。その上で、フラッグシップの直営店の 存在が意味を持ってくる。 銀座界隈にあり、 ハイクオリティ な商品を求める顧客に支持されているという 「ブランド力」 があるからこそ、 また量販店向け商品も生きてくるわけだ。 文明堂銀座店はまだ改革の真っ最中だ。 「着地点を目標 値へより近づけられるよう、この1年が勝負になります。 なんとか結果を出し、ゆくゆくは次世代の幹部たちへ安心 してバトンタッチできるような基盤がつくれるよう、引き 続き JMAC さんにはサポートいただきたいですね」 (吉川 社長) 古い企業体質改善を図りつつ、カステラの伝統や文化を つなげていく。まだ改革ははじまったばかりだが、 『本物 のカステラ』を後世に残すため、新たな「文明堂銀座店」 として既にチャレンジは始まっている。本物を届ける老舗 店が顧客ニーズやマーケットに対応してどういう商品を投 じてくるか、これからの同社の戦略に期待したい。
「伝統」と「進化」 、
高めて勝ち抜く
顧客目線での
商品力 ・ 販売力を
担 当 コ ンサルタントからの一言
シニア・コンサルタント
「静」から「動」の企業力&体質力が 菓子業界・老舗企業の生き残りの道
菓子業界は、震災影響および第一次顧客である流通業界の構造変化により、 厳しい状況が続いている。その結果、体力の無い・体質変化の出来ない老舗 企業の淘汰が始まっている。 日本人の「食」への要求は、さらに肥えていく。しがらみを捨て、その要求 に足元(コスト)をしっかり固めながら、タイムリー&スピーディーに、老 舗の味とブランドを守り&高めて、必死になって応えていく。ピンチは最大 のチャンス。 老舗企業には、 激しい競争を勝ち抜く潜在的ポテンシャルがある。
溝口 直樹
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