ビジネスインサイツ55
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この2つを目標にして会社を建て直そうと決めましたが、 受動的な社員をすぐに能動的に変えるのは非常に難しいこと です。そこでまずは無駄をなくすことに専念しました。目標 はシンプルに 「世界トップレベルの高収益企業になろう」、 そのための手段として、 「TSS1/2」 (TSS=Time&Space Saving) と決めて社員に呼びかけました。 TSS1/2のカギは現場の生産性向上にありますから、私 は毎日のように工場に通い、現場のメンバーに「今作る のに4秒掛かっていたら、どうやって2秒で作れるか考 えてね」などと伝え続けました。半年くらい毎回毎回繰 り返していると、「社長、なんでもいいから半分にすれ ばいいんでしょ」とこちらが言う前に言ってくれるよう になりました。こうやって、思いを現場に根気強く伝え 続けた結果、マネージャー層にもこの考えが浸透して いったのです。 そのうち、現場のメンバーは自分で考えてどんどん作 業工程を改善していくようになりました。あるとき、技 術の進化でパーツが小さくなり、それに対して以前から 使用しているメッキ容器が非常に大きかったので「この 無駄何とかならないかな」とつぶやいたのです。そうし たら工場に長く勤めていたメンバーが、「自分達も小さ く作り替えたいから予算をくれますか」と言ってきまし た。任せてみると、ホームセンターで購入したパーツで 自作し、外注では数千万はかかるところ500万円で設備を 作ってしまったのです。さらに大きなメッキ容器のため に無駄になっていた5kgの金を削減してくれました。 私は、このような成果を上げた社員がいたら、すぐに幹 部全員を集めて表彰します。皆の前で彼らに発表させるん ですね、すると幹部たちも感動します。そして本人には表 彰状、奥様には手紙と贈り物を添えて感謝の気持ちを伝え ます。とにかく、成果を上げたらすぐに褒めることが重要 です。すると、次から次へと意欲的な提案が出てくるよう になり、能動的な人間が増えていくのです。 現場のメンバーの意見は非常に貴重ですし、彼らが変 わることが会社全体を変えていく原動力になります。本 社でも朝7時過ぎから誰でも自由に参加、意見交換がで きるような朝会を私の社長室でしています。お菓子を食 べながら、上下の関係なくざっくばらんに意見を言い合 うコミュニケーションの場で、若い社員などはここで 日々ダメだしをされながら、切り返す術を身に付けて
いったりと別の成長もあります。
「気づき」の場を与え、 管理職を育てる
鈴木:現場が変わることでマネージャー層も変わると言うこ とですね。しかし、マネージャー層からは自分たちの意見も 聞いて欲しいというような不満はなかったのでしょうか。 酒巻:最終的には上の者が変わらない限り、現場がよい 方向へと変わり続けることはできません。ですから、マ ネージャー層ともコミュニケーションを取り、身につけ るべき判断力、実行力を養うための教育をしています。 このときに大事なのが、教えるのではなく気づかせると いうことです。 我が社では現場からの提案制度を推進していますが、課 長職には提案への拒否権を与えていません。そのかわり、 課長の責任は問わず、社長である私が全責任を負います。 本当は拒否した方が良いと思った提案がうまくいった場 合、彼らは自分の判断が間違っていたと反省します。反省 し、原因を考える人は伸びます。そして、周りの意見に耳 を傾けながら慎重な判断をするようになるのです。経験か ら判断力を身に付けて欲しいという考えです。 もうひとつ行っているのが、課長以上の週報を通じた マネージャー教育です。週報を読めば、彼らが今何を考 えどう実行しているのかが把握できます。毎週月曜日の 午前中は、全てに目を通しコメントを書いてフィード バックをしています。 人は自分で気づかないと行動を変えることはできませ ん。とにかく、本人の気づきの場を与えること、そして コミュニケーション、これが大切です。
「現場の人は私が守る」 ―酒巻イズムの根底にあるもの
鈴木:お話を伺っていると、酒巻社長は現場が大事なんだと 一貫してお話しされています。そこを実践されているのは、 ご自身の今までのご経験があったからなのでしょうか。
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