ビジネスインサイツ55
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酒巻 久
1967年
Hisashi Sakamaki
1999年
キヤノン株式会社入社 研究開発部門でVTR、複写機、ワープロ、 PCなどの開発に携わり大きな実績を残す キヤノン電子株式会社 代表取締役社長就任
酒巻:実は、キヤノン電子に来るまでそのような考えは なかったんです。私はキヤノン時代、技術者として自分 がこの会社を牽引しているんだという自負がありまし た。ですから、遠く離れた工場のことは考えたこともな かったのです。 しかし、キヤノン電子の社長になってから、それは大きな 勘違いだったと気づきました。当時は本社が秩父工場に隣接 していましたから、工場の現場をずっと見ているわけです。 設計の不具合を現場が直しながら製品にしていってくれてい る。そんな場面を目の当たりにする中で、自分は偉そうなこ とを言っていたけれど「会社を支えているのはこういう現場 の方たちの努力なんだ」と気づかされたのです。 アンケートを取ってみると、こうやって会社を支えて くれている多くの方たちが、好不況にかかわらず安心し て定年まで働きたいという気持ちを持っているというこ とが分かりました。かたや、当時の管理職の中には、安 住して学ぶことをせずに業務をこなすだけの者が少なく なかった。自分の努力で選択肢を持てる人たちは何もせ ずとも守られている、こんなバカな話はありません。 私は、業績を立て直す際に全体会議で最初に言ったの は、「現場の方たちはどんなことがあっても私が守る」 ということでした。そして現場の人員に手をつけること はせず、管理職には業績が回復したら戻すと約束して関 係子会社などに出向してもらいました。誰一人文句を言 う管理職はいませんでしたし、約束通り業績が回復し 戻ってもらいました。 現場の制度も定年60歳までは100%保証、その後も65歳 まで仕事を続けることができるように整え、賞与も増や
しました。また、老朽化していた食堂やトイレも一新 し、生き生きと気持ちよく働ける環境を整えていったの です。
経営者に一番重要なのは 「やさしさ」である
鈴木:最後に、酒巻社長から次世代を担うトップ、経営 幹部の方へ向けたメッセージをお願いします。 酒巻:経営者に一番重要なのは「やさしさ」です。それ以 外は無いと言っていい。トップになるんだったら、自分中 心ではなく相手の立場になって考えられるようにならなけ れば、部下たちはついてきません。それはたとえば、繰り 返しメッセージを送る忍耐力であったり、現場を大切にす る気持ちだったり、学びの場を与えるということだったり と、さまざまな場面で必要とされるものです。 そして、今の若い社員に多くの勉強の場を意図的に与 えることが重要です。たとえば、本を読むときに本の最 後に掲載されいる引用文献も同時に読めば、1冊で50冊分 の知見が身に付きます。また、コミュニケーションは メールではなく、顔の見える直接の対話で行うことが大 切です。これを徹底すれば、コミュニケーションが円滑 になり、会社の風土も変わります。 次世代のリーダーには、「やさしさ」とその思いを実 行する「強いリーダーシップ」を持って、自分の使命を しっかりと果たしていって欲しいですね。
鈴木亨の
対談を終えて
酒
ひとこと
巻社長の社長室は何か新しい発想がどんどん出て来そうな、まるで図書館 と実験室が同居した雰囲気で、とても居心地の良いお部屋でした。そこで
技術に対する酒巻社長のお話しを伺っていると、私も技術屋の血が騒ぎ、ワクワク してきました。お話しの端々に現場の方々とのエピソードが出てきましたが、現場 の方々への気遣い、酒巻さんの「やさしさ」を実感したインタビューでした。
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