ビジネスインサイツ59
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道場に集まることで 人と人との接点が生まれる
岩田氏が「道場」に期待している機能は、単に個人が知 識・技術・技能を習得することだけではない。大きなねら いとして、 岩田氏は「道場に人が集まり、 コミュニケーショ ンを取ることが重要」と語る。 確かに岩田氏の若いころと違い、今では設備の大型化・ 自動化で製造現場の人の数が少なく、コミュニケーション も少なくなっている。コミュニケーションがないと「教え 合い学び合う」機会もなくなる。大崎も「設備高度化の流 れは、人づくりと逆行する面もあります。故障が起きても 部品を交換するだけで、再発防止のための解析が不十分な ままになっていることが少なくないし、故障を放置してい ても誰も指摘しなくなる。人がいないからと言えばそれま でですが、だからこそまず道場に人を集めることで、人と 人の接点やつながりを意識してもらうことが大切です」と 岩田氏のねらいに賛同している。 「環境や設備が変わるのは、仕方のないことだと考えて います。しかし、それらがどう変わってきても、われわれ のような上の立場の者が最重要視すべきことは、人づくり です」と岩田氏は断言している。岩田氏が、これからの人 材育成面で力を入れていきたいのは、技能や技術力だけで なく「人間力」を伸ばすことだという。 岩田氏は「マネジャー層・リーダー層には、現場に足を 運ばず、現場の状況を知らないまま、机のパソコンで処理 する人が増えてきました。管理指標を学び・見るだけでは なく、リーダーにはものづくりのイロハのすべてを学んで もらいたいのです」と育成への思いを語る。組織がひとつ になって大きな目標に向かっていくときに、リーダーシッ プ・部下への思いやり・コミュニケーションによる「人間 力」が大切であることを、岩田氏は自身の活動経験から身 に染みて感じている。
を実施している。目的はスタンプそのものではなく、現場 に足を運んでライン長・安全担当者が作業員に声をかけ、 コミュニケーションを取ることにある。このコミュニケー ションが全員の安全意識の向上に役立っている。 さらには、 管理者が現場に足跡(気づき)を残し、潜在的な危険・見 えないリスクを抽出することで、不安全行動や不安全状態 の改善にも大きく貢献している。 「素晴らしい活動を思いついても、それを実行して定着 させなければ意味がありません。活動を定着させるために は、管理者がどれだけ現場に通うかで決まります」と岩田 氏は現場主義を強調する。 さまざまな仕掛けづくりをしてきた岩田氏が今年のテー マとしているのが「考える力」だという。岩田氏は「標準 によるものづくりが定着して、当たり前に製品ができてい くため、考える機会がなくなっているのではと危惧してい ます」と語る。そこで、改善活動を通じて考える力を伸ば すことをねらい、現場改善王の表彰を昨年度から行ってい る。 「私が製造現場でものづくりをしていたころ、自分が 考えた改善が職場の中で活用されていることが非常にうれ しかった。この喜びを皆に味わってもらいたいのです。ま だまだこれからですが、 現場 9 大任務〔P(生産性) ・ Q(品 質) ・ C(原価) ・ D(納期) ・ S(安全) ・ M(設備) ・ M(道徳 ・ 志気) ・E(環境) ・E(教育・訓練) 〕の向上のために、もっ と現場が知恵を絞るようにしていきたいですね」 (岩田氏) 。 標準があるとはいえ、現場は生き物なので状況は一様で はない。標準を守るだけは対処できないケースも少なから ず出てくる。 「考える力があると、イレギュラーに対処す る選択肢の幅が広がります。 その対処が良い事例となって、 道場などの教材で共有化され、次の改善のヒントになって いくはずです」 (大崎) 。
ゼロ災を目指して 全員が参画する活動を
岩田氏がこうした道場の設置やさまざまな「仕掛け」を 打ち出してきたのは、環境・ライフラインカンパニー 12 工場の安全を担当していたことに由来する。そのころ半期 で数件の不休災害があり、何がなんでもゼロにしたいと目 標を定めた。 「ゼロにするために何をしたらよいか? そのためには、
知恵を絞った改善で 考える力をつける
こうしたコミュニケーションは道場だけでなく、仕事上 でも必要なため、同工場では「安全巡回スタンプラリー」
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