ビジネスインサイツ63
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激化と、市場で台頭し始めたレーザーやインクジェットの プリンターを自社開発する技術がまだなく、商品のライン ナップが少ないことが原因でした。 「売れる自社開発製品をつくること」が自分のミッショ ンだと思っていた私は、すでに自社開発して売上げ実績の あるファクスをその足掛かりにしようと考え、懇意にして いた販売店バイヤーたちに「どうしたらもっと売れるだろ うか」とアドバイスを求めました。すると、 「競合他社の 半額、399 ドルのファクスだったら売れると思う」といっ た提案をしてくれるところが続々と現れたのです。 「399 ドルのファクスなら売れる」と見込んだ私は、日 本の技術者たちに開発を依頼しました。これまでの半額の ものをつくるのは非常に難しいことだと承知していました が、彼らは快諾し、たいへんな努力を重ねて開発してくれ ました。続いてレーザーとインクジェットプリンターの自 社開発にも成功すると、次はレーザーの複合機、その次は インクジェットの複合機、と毎年新しいラインナップを出 せるようになり、 売上げも 2 割 3 割アップしていきました。 こうしてアメリカのビジネスは 90 年代前半から後半にか けてものすごいスピードで成長を遂げ、工場でつくり切れ ないほどのオーダーが一夜にして飛び込んでくるようにな りました。しかし、 そのときハタと気がついたのです。 「こ の拡大するビジネスの成長を支えるインフラがない」と。 周囲にはインフラ整備に詳しい人がいなかったので、ここ でも 「俺がやるしかない。未知の分野だが、 思い切ってチャ レンジしてみよう」と思い立ちました。 それからは日系米系問わずたくさんの会社を訪問して 「倉庫のオペレーションはどうやっているのか」 「コールセ ンターはどのようにして運営しているのか」と聞いたり実 際に現場を見せてもらったりして、急ピッチで勉強を進め ていきました。そして、テネシーに 100 エーカー(約 40 ヘクタール) の土地を購入して 10,000 平方フィート (930 平方メートル)の巨大倉庫をつくり、その中に工場、研究 開発所、コールセンターなどを集中して配置して、IT 基 幹業務システムも導入しました。こうして 1998 年には巨 大物流拠点を完成させました。6 カ所にあった倉庫が 1 カ 所にまとまったので、 「1 つの倉庫から 1 台のトラックで 商品を運べばよくなった」とたいへん好評でした。 こうして情報通信機器ビジネスは大きく成長し、米国駐 在中に売上げは 25 倍になりました。厳しい時代を経て、 変革を重ねながらここまでビジネスを成長させることがで
きたのは、長年培ってきたお客様や販売代理店との信頼関 係、そしてブラザーのものづくりへの情熱があったからに ほかなりません。 今の私を支えているのは、 トライ&エラー を繰り返しながら、あらゆる業務を一気通貫で経験するこ とのできた、この 23 年間だと感じています。
「オレが頑張らなきゃいかん」 初志を貫きブラザーの ト ッ プに
鈴木:小池さんは 2005 年にアメリカから帰国し、2007 年にブラザーの社長に就任されました。1908 年に創業 した歴史ある企業のトップになったときのお気持ちや決意 などをお聞かせください。 小池:まず思ったのは、 「人間の運命って不思議なものだ な」 ということです。 アメリカで一旗あげようと思って行っ たら、帰ってくるなと言われたのでそのままずっといて、 1999 年にはアメリカの社長になれたので、 「まあ、この まま人生終わるのもありかな」と思っていました。日本へ 戻ってこないかと声がかかったのは、 外から日本を見て 「さ まざまな課題があるな」と感じていたときでもあり、人生 としては結構大きな転機でしたね。家族をアメリカに残し てきたことも、自分にとっては大きな決断でした。 その 2 年後に社長就任の打診を受けたときには、あれ これと迷いましたが、最後に自分を押したのは「オレが頑 張らなきゃいかん」という気持ちでした。もともとトップ になりたくて会社に入ったわけですし、 「自分が社長とし て頑張ることを期待されているんだ」と勝手に思うことで モチベーションを上げて続けていくのが、私の基本的なや り方なのです。 ブラザーは創業 108 年という長い歴史の中で、幾度と なく困難に直面しましたが、従業員同士が知恵を出し合 い、チャレンジを続けながらそれを打開してきました。こ の DNA を伝承し、次世代の人材を育てていくことが私の 使命だと考えています。 そこで人材育成プログラム 「テリー のチャレンジ塾」を社内で立ち上げ、自分のこれまでの経 験を少しずつ伝えていくようにしています。そこでは、 「自 分が与えられた仕事だけではなく、視野を広げて部門を超 えた交流をして、さまざまな新しいことにチャレンジして いきなさい」といつも話しています。とくに「圧倒的な当 事者意識を持つこと」 「お節介をすること」の 2 つは徹底
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