ビジネスインサイツ66
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1930 年に第 1 回 「日本の十大発明家」 の一人に選ばれました。 それから 72 年後の 2002 年、 当社の田中耕一シニアフェロー が、世界で初めてタンパク質を分解させずにイオン化する ことに成功したとして、ノーベル化学賞を受賞しました。2 人の過ごした時代は大きく異なりますが、研究開発に取り 組む姿勢には、いくつかの共通点があると私自身は感じて います。まず、2 人とも好奇心が人並み外れて強いというこ とが挙げられますが、ほかにも 3 つの共通点があります。 1 つ目は、 「明確な目標の設定」です。源蔵はエネルギー 需要を支え産業を発展させるために、田中さんはライフサ イエンス研究を発展させるためにと、明らかに社会貢献に つながる明確な目標を持っていました。そしてこの高い目 標に向けてチャレンジしていったのです。 2 つ目は、 「諦めない」ということです。2 人とも最初 からうまくいったわけではありません。何度失敗してもく じけることなく、集中力を切らすことなく、工夫の限りを 尽くしました。これが成功を生み出したと言えます。 3 つ目は、 「優れた観察眼」です。源蔵は鉛粉をつくる ために鉛の玉の粉砕機を制作していたところ、たまたま鉛 の玉の投入口に塵のように積もっているパウダーを発見 し、蓄電池用鉛粉の製造法に至りました。田中さんは、タ ンパク質をイオン化するために混ぜる材質を間違えました 講演後の質疑応答・意見交換より
Q:社内の「オープンイノベーション」で、メンバー の知識や経験を集める方法は? 中本:社内でも事業分野や部が違うと、何かを共同で ずは会社内で社内オープンイノベーションをやろうと
が、いつもと違う分析データが出てきたことを決して見逃 さなかった。このことは 2 人とも優れた観察眼の持ち主 であったことを示しています。 このような優れた観察眼は、 やはり、この仕事が好きで常に集中力を高めて仕事に取り 組んでいってこそ生み出されるものと私は考えています。 このような姿勢を大切にする風土が会社にあったから、 時代が大きく異なる 2 人が社会に役立つ革新的な研究開 発に成功したのだろうと思います。次は、このような人材 が出る社内風土について考察します。
イ ノベーショ ン創出に必要なのは 「再挑戦を後押しする文化」
イノベーションの創出には、社員のモチベーションを高 める社内風土が必要です。当社では毎年、社員を対象にア ンケートを実施しています。その中の「自分の仕事は社会 に貢献している」 「島津製作所の社員であることに誇りを 持っている」という質問に、 90%以上の社員が「そう思う」 「どちらかと言えばそう思う」と回答しています。これは、 アンケートを始めた 10 年前から変わりません。 この結果は、当社社員の仕事へのモチベーションが全体 的にかなり高いことを示していると言えます。これは当社 の主な事業領域が医療や医薬、 食品、 環境、 エネルギーといっ た社会や人の生活に密接に関わるものであること、そして その発展を「科学技術で社会に貢献する」という社是のも と目指していることが関係していて、それが一種の社内風 土のようになっているのではないかと考えています。 イノベーションの創出には、こうした社内風土ととも に、次のようなことができる人材育成が必要だと考えてい ます。 まずは何をやるにしても、 それが 「社会の役に立つか」 を繰り返し自問すること。常にこれを頭に染み込ませて仕 事をすることが大事です。次に、 「他の人と同じことはや らない」ということ。同じことをやっていては社会の役に 立つことにはなりません。 「他の人と同じことはやらない」 を、しっかり実践することが大事です。そして、 「常に新 しいことにチャレンジする」こと。これは必須です。常に 高い目標を設定し、どんなことにも関心を持って、広い視 野でよく勉強することが大切です。今、IoT や AI がよく 言われる時代ですが、真にいろいろな分野の勉強をするこ とがこれまで以上に必要になってきています。 これらの実行がイノベーションを創出できる人材育成に つながると思いますが、個人、個人に押し付けてもうまく
やろうとしてもうまくできないことが多いのです。ま する雰囲気づくりが必要だと思います。そのうえで、 やろうとするプロジェクトのテーマを明確にし、自部 門で不足している知識や経験を開示し、手を挙げた人 る部門などに粘り強く参加を働きかけます。そして決 が所属する部門、またそれを保有していると推測され まったら、全メンバーを計画書に役割と合わせて明記 し、メンバー全員がプロジェクトに責任を持つことを 明示することが大事だと思います。
Q:優れたアイデアを事業につなげる方法は?
中本:大切なのは、マネジャーの「よし、この新しい
ことに絶対にチャレンジしよう」という強い意志です。 そして明確なビジネスモデルを立案し、実現に向けて のストーリーを立て、その中でアイデアを事業にする ために乗り越えなければならないと思われる壁を明確 にして、それに充てるリソースも考えるなど、周到な
計画を立てて、経営層に提案することが必要だと思い ます。
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