ビジネスインサイツ66
- ページ: 1
- Vol.
66
「諦めない心」 が世界初を生み出す
イノベーション あるところに チャレンジの歴史あり
JMACトップセミナー 「科学技術で社会に貢献する」より
株式会社島津製作所 代表取締役会長
中本 晃
株式会社 AIRDO 「北海道の翼」にふさわしい オンリーワンのエアラインを目指す 株式会社オカムラ 女性活躍からダイバーシティ&インクルージョンへ 「目指す姿」の実現にチャレンジし続ける 大建工業株式会社 「改善マインド」の育成で 工場の持続的成長を目指す
JMAC EYES Special Information
- ▲TOP
- ページ: 2
- 2
TOP Message
毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点について語っていただきます。
JMAC トップセミナー 誌上講演
「諦めない心」 が世界初を生み出す イノベーションあるところにチャレンジの歴史あり
〜 JMAC トップセミナー「科学技術で社会に貢献する」より〜
株式会社 島津製作所
イ ノベーシ ョ ンと企業経営は 「車の両輪」 新価値創造でビジネスを永続させる
私は、企業の第一の目的は 「人そし て社会に役立つものを 提供し て、豊かな社会づく りに貢献すること 」であると考えて います。島津製作所はこの目的を実現するために、 「科学技 術で社会に貢献する」 という社是のもと、 今日までイ ノ ベーショ ンへの取組みをやり続けてきま した。本日は、 当社のイ ノベー ションへの取組みの歴史を踏まえ、イ ノベーションの創出に ついてお話ししたいと思います。 イノベーションは、 「社会・顧客の課題解決につながる革 新的な手法 (技術 ・ アイデア) で新たな価値 (製品 ・ サービス) を創造すること」であり、豊かな社会づくりの「エンジン」 と言えます。一方で、企業は事業を永続させるために “ 稼 ぐ力 ” をしっかり身につけて、短期ではなく長期にわたっ て継続的に利益を上げていかねばなりません。そのために は新たな価値を生み出すイノベーションへの取組みが不可 欠です。つまり、イノベーションと企業経営は「車の両輪」 であるとも言えます。そして、イノベーションを起こす原 動力は、 なんと言っても 「チャレンジ精神」 です。ベンチャー 企業として始まった当社は、創業当初よりチャレンジ精神 でイノベーションへの取組みをやり続けてきました。 創業者の初代島津源蔵は、理化学器械の製造販売で科学 技術の普及に貢献しました。日本で初めて有人軽気球の飛
揚に成功するなど、島津製作所発展の基礎を築いたと言わ れています。日本初となる理化学器械の目録(カタログ) には、最終ページに「此外様々御好次第、何品ニテモ製造 仕候」と記載し、早くから顧客第一の精神を貫きました。 この精神は今にも受け継がれ、 「Best for Our Customers =すべてはお客様のために」というスローガンとして、社 員の行動原則になっています。 息子の 2 代目源蔵は、レントゲン博士が X 線を発見し てからわずか 11 ヵ月後の 1896 年 10 月に X 線の写真撮 影に成功し、1909 年には日本で初めて医療用 X 線装置を 開発しました。また、産業の発展には電力の安定供給が不 可欠と考え、鉛蓄電池(商標:GS バッテリー)の開発・ 製造に全力をあげています。 この創業者 2 人のパイオニア精神を受け継ぎ、当社は 142 年間事業を継続してきました。 それができたのは節目、 節目で危機を回避すべくイノベーションで変化できたから だと言えます。次は、事業を長く続け、社会に貢献し続け るために取り組んだイノベーションについてお話ししたい と思います 。
「選択と集中」でイ ノベーションを加速 強みを活かした “ 重点投資 ” がカギ
当社は、1990 年ごろまでは事業の多角化を進めてきま
- ▲TOP
- ページ: 3
- TOP Message
3
設立:1917 年 9 月(創業 1875 年 3 月) 資本金:約 266 億円(2017 年 3 月期) 従業員数:グループ合計 11,528 名(2017 年 3 月 31 日現在) 事業内容:分析機器、計測機器、医用機器、航空機器、産業機器の 開発・製造・販売
「科学技術で社会に貢献する」― ―島津製作所はこの社是のもと、142 年にわたりイノベーションに取り組み続けてきた。 「企業は長く存続 して人々に働きがいの場を提供するとともに、人そして社会に役立つ ものを提供し続けなければならない」とする中本晃氏(代表取締役会 長)の言葉には、事業継続と新価値創造への熱い想いが込められてい る。 イノベーションの創出に求められるものは何か。 事例を交えながら、 企業におけるイノベーションの重要性、そして人材育成と組織運営の あり方についてお話しいただいた。
中本 晃 氏
したが、 それ以降から現在にかけては、 「事業のポートフォ リオの見直し」と「選択と集中」を行い、事業の集約を図 りました。そして、2002 年からは戦略機種への重点投資 でイノベーションを一気に加速させました。ここでは、当 社事業の中で最も長い歴史を持つ「医用機器」と、当社事 業の最大の柱である「分析機器」についてお話しします。 2000 年、医用機器事業は赤字に転落しました。企業規 模に見合わない機種拡大が、開発技術者の不足を招いたこ となどが原因です。そこで 2002 年、歴史があって技術の 上でも強みが発揮でき、かつ今後新興国でも大きな需要が 見込める X 線事業へ集中することを決断し、MRI などか らは完全撤退しました。ほぼすべての技術者を X 線事業 に投入し、画質・品質・独自性で「世界一の X 線」を目 指すことにしたのです。 その結果、2003 年には世界で初めて直接変換方式 X 線 平面検出器(FPD)の開発に成功し、2005 年には可搬型 FPD を搭載した院内回診用 X 線装置を世界で初めて製品 化しました。これは北米で当社最大のヒット商品に育って いきました。こうした特徴ある X 線装置を市場に投入し 続けることで、現在の売上高は約 650 億円となり、赤字 転落前の最高売上高を上回るまでに成長しています。 分析機器は、各種産業の発展に大きく貢献することで 共に成長発展してきました。そして、分析機器の市場は、 1990 年代後半から医薬・食品・ヘルスケアといったライ フサイエンス分野を中心に大きく拡大してきましたが、当 社はこの分野で必要とされる質量分析装置について大きく 出遅れていました。そこで 2002 年頃、当社が強みを持つ “ タンパク質の構造解析 ” に威力を発揮する質量分析装置 開発への重点投資を決断し、開発技術者の増強や外部研究 機関との連携強化などを行いました。 その結果、 2004 年には 3 モデルだった質量分析装置は、 現在では 9 モデルになり、クロマト分析装置全体の売上 高も 490 臆円から 1100 億円と 2 倍以上に拡大すること ができました。この重点投資の中で開発したイメージング 質量顕微鏡と超臨界 SFE/SFC システムは、世界初かつオ ンリーワンの製品であり、産学官連携の大きな成果と言え るでしょう。 このような 2002 年の決断が大きな変化を生み出し、2 つの事業の成長につながりました。それでは、こうしたイ ノベーションの創出には何が必要なのでしょうか。次は、 2 代目島津源蔵とノーベル化学賞を受賞した田中耕一シニ アフェローを例にとって、革新的な技術を生み出す研究開 発についてお話しします。
代表取締役会長
革新的技術を生み出す “ 原動力 ” は何か 2 代目源蔵と田中耕一氏の共通点
2 代目源蔵は、 鉛蓄電池用鉛粉の大量製造法の発明により、
Akira Nakamoto
- ▲TOP
- ページ: 4
- 4
1930 年に第 1 回 「日本の十大発明家」 の一人に選ばれました。 それから 72 年後の 2002 年、 当社の田中耕一シニアフェロー が、世界で初めてタンパク質を分解させずにイオン化する ことに成功したとして、ノーベル化学賞を受賞しました。2 人の過ごした時代は大きく異なりますが、研究開発に取り 組む姿勢には、いくつかの共通点があると私自身は感じて います。まず、2 人とも好奇心が人並み外れて強いというこ とが挙げられますが、ほかにも 3 つの共通点があります。 1 つ目は、 「明確な目標の設定」です。源蔵はエネルギー 需要を支え産業を発展させるために、田中さんはライフサ イエンス研究を発展させるためにと、明らかに社会貢献に つながる明確な目標を持っていました。そしてこの高い目 標に向けてチャレンジしていったのです。 2 つ目は、 「諦めない」ということです。2 人とも最初 からうまくいったわけではありません。何度失敗してもく じけることなく、集中力を切らすことなく、工夫の限りを 尽くしました。これが成功を生み出したと言えます。 3 つ目は、 「優れた観察眼」です。源蔵は鉛粉をつくる ために鉛の玉の粉砕機を制作していたところ、たまたま鉛 の玉の投入口に塵のように積もっているパウダーを発見 し、蓄電池用鉛粉の製造法に至りました。田中さんは、タ ンパク質をイオン化するために混ぜる材質を間違えました 講演後の質疑応答・意見交換より
Q:社内の「オープンイノベーション」で、メンバー の知識や経験を集める方法は? 中本:社内でも事業分野や部が違うと、何かを共同で ずは会社内で社内オープンイノベーションをやろうと
が、いつもと違う分析データが出てきたことを決して見逃 さなかった。このことは 2 人とも優れた観察眼の持ち主 であったことを示しています。 このような優れた観察眼は、 やはり、この仕事が好きで常に集中力を高めて仕事に取り 組んでいってこそ生み出されるものと私は考えています。 このような姿勢を大切にする風土が会社にあったから、 時代が大きく異なる 2 人が社会に役立つ革新的な研究開 発に成功したのだろうと思います。次は、このような人材 が出る社内風土について考察します。
イ ノベーショ ン創出に必要なのは 「再挑戦を後押しする文化」
イノベーションの創出には、社員のモチベーションを高 める社内風土が必要です。当社では毎年、社員を対象にア ンケートを実施しています。その中の「自分の仕事は社会 に貢献している」 「島津製作所の社員であることに誇りを 持っている」という質問に、 90%以上の社員が「そう思う」 「どちらかと言えばそう思う」と回答しています。これは、 アンケートを始めた 10 年前から変わりません。 この結果は、当社社員の仕事へのモチベーションが全体 的にかなり高いことを示していると言えます。これは当社 の主な事業領域が医療や医薬、 食品、 環境、 エネルギーといっ た社会や人の生活に密接に関わるものであること、そして その発展を「科学技術で社会に貢献する」という社是のも と目指していることが関係していて、それが一種の社内風 土のようになっているのではないかと考えています。 イノベーションの創出には、こうした社内風土ととも に、次のようなことができる人材育成が必要だと考えてい ます。 まずは何をやるにしても、 それが 「社会の役に立つか」 を繰り返し自問すること。常にこれを頭に染み込ませて仕 事をすることが大事です。次に、 「他の人と同じことはや らない」ということ。同じことをやっていては社会の役に 立つことにはなりません。 「他の人と同じことはやらない」 を、しっかり実践することが大事です。そして、 「常に新 しいことにチャレンジする」こと。これは必須です。常に 高い目標を設定し、どんなことにも関心を持って、広い視 野でよく勉強することが大切です。今、IoT や AI がよく 言われる時代ですが、真にいろいろな分野の勉強をするこ とがこれまで以上に必要になってきています。 これらの実行がイノベーションを創出できる人材育成に つながると思いますが、個人、個人に押し付けてもうまく
やろうとしてもうまくできないことが多いのです。ま する雰囲気づくりが必要だと思います。そのうえで、 やろうとするプロジェクトのテーマを明確にし、自部 門で不足している知識や経験を開示し、手を挙げた人 る部門などに粘り強く参加を働きかけます。そして決 が所属する部門、またそれを保有していると推測され まったら、全メンバーを計画書に役割と合わせて明記 し、メンバー全員がプロジェクトに責任を持つことを 明示することが大事だと思います。
Q:優れたアイデアを事業につなげる方法は?
中本:大切なのは、マネジャーの「よし、この新しい
ことに絶対にチャレンジしよう」という強い意志です。 そして明確なビジネスモデルを立案し、実現に向けて のストーリーを立て、その中でアイデアを事業にする ために乗り越えなければならないと思われる壁を明確 にして、それに充てるリソースも考えるなど、周到な
計画を立てて、経営層に提案することが必要だと思い ます。
- ▲TOP
- ページ: 5
- TOP Message
5
中本 晃
1969 年 株式会社島津製作所入社 2000 年 執行役員就任、分析機器事業部長 2001 年 取締役就任、環境計測事業部担当補佐、分析機器事業部長 2005 年 常務取締役就任、分析計測事業部長 2007 年 専務取締役就任、社長補佐、リスクマネジメント、広報、経理、法務担当 2009 年 代表取締役社長就任 2015 年 代表取締役会長就任
Akira Nakamoto
進みません。これができるような社内文化の醸成も必要で す。私がとくに大切だと思うのは「失敗を許容し、挑戦を 後押しする文化」です。失敗を許容するところまでだとま だ半分で、そこからもっと大事なのは、 「再挑戦する人を どうやって後押しするか」です。失敗したときこそ、マネ ジャーや上司が論理的で納得感あるサジェスチョンができ ることが重要です。失敗にくじけずチャレンジを続けるに は、本人の強い意志はもちろんのこと、周りのサポートも 大切なのです。
重要です。これからはお互いが企業として本当に生き残っ ていけるのかということを考えたら、ものをつくって納め るというこれまでの形態に留まらず、お互いが、それぞれ 独自の強い技術を育て上げ、それらを持ち寄って、まだな い独創的なものをつくり上げていくような仕組みが大事な のではないかと思います。
革新的な製品・サービスの提供で 社会に貢献し続ける
現在当社は創業 142 年になります。2075 年には創業 200 年を迎えることになりますが、そのときのあるべき 姿をこう考えています。現在は分析機器でも医用機器でも 研究室や実験室、あるいは検査室といった「特定の場所」 で 「特定の人」 が使用することが当たり前になっています。 しかし、50 ~ 60 年後には大幅な技術革新で、各種装置 が小型化やロボット化され、 さらには高感度化、 ネットワー ク化が進み、 「もっと身近な場所」で「誰でも」使えるよ うになっていることが望ましいと考えています。たとえば 診察室に行くと自然に分析装置があるような、そういう形 態で人の健康を常に見守ることができるようになりたいと 思い描いています。 そのためには、これからも人の健康のために医用と分析 の技術を融合し、幅広い領域において当社にしかできない 革新的な製品やサービスの提供を行えるよう、徹底して努 力していきたいと考えています。
本稿は 2018 年 3 月 6 日に開催した JMAC トップセミナーの基調講演を もとに作成したものです。
オープンイ ノベーショ ンと 社内資源の活用で生き残れ
そして、これからの時代にイノベーションを創出してい くためには、オープンイノベーションの推進も重要です。 オープンイノベーションと言うと社外ばかり考えますが、 よく考えると社内には多様な人材がいますから、まずは社 内でオープンイノベーションを推進することが大切です。 また、社外に目を向けると、産学官連携の共同研究・開 発も重要で、当社もかなりの件数を行っています。成功す るかどうか見極め難いものが多々ある中でやっていきます から、一本足打法的ではなく、常に複数のテーマを走らせ るようにしています。その中から 1 つずつでも製品につ ながったらいいのです。ですから、社内外からいろんな提 案があったときに、これは価値がありそうだと感じたもの に関しては「まずは共同して新しいものをやっていこう」 と言える仕組みや雰囲気は大切です。 社外との連携という意味では、取引企業との切磋琢磨も 講演を聴いて
経営はその後押しを心掛ける、これが島津製作所を長い間事業発展させてきた所以だ と思います。これからも好奇心を持ち諦めない社風がイノベーションを起こし、革新 的な製品とサービスで社会に貢献し続けていくと確信しました。
JMAC・代表取締役社長
中
本会長のお話を伺い、経営は思想であることを痛感しました。 「科学技術で 社会に貢献する」という社是のもとに社員が一丸となって活動をしている、
- ▲TOP
- ページ: 6
- 6
〜「CS 行動指針」の実行で、お客様に感動の空の旅を〜
ビジネス成果に向けて JMAC が支援した 企業事例をご紹介します。
「北海道の翼」にふさわしい オンリーワンのエアラインを目指す
株式会社 AIRDO
「北海道の翼」を目指し、1996 年に新規の航空会社として設立 された AIRDO。その後の環境変化を踏まえ、同社は 2017 年、 これは、各部門から選出された CS リーダーたちが、経営層か スを受けながらも、ひたむきに議論を重ね、つくり上げたもの さらなるサービス向上を目指し、 新たな CS 行動指針を策定した。 ら文言について「表現が硬い」 「とんがり過ぎ」などのアドバイ である。今回、CS 向上推進会議に参画し、指針の策定や推進に 深く関わってきた代表取締役副社長の草野晋氏に、活動への想 いと今後の展望を伺った。
草野 晋 氏
新たな「CS 行動指針」の策定で 原点に立ち返り、サービスを見つめ直す
AIRDO は、 北海道札幌市に本社を置く航空会社である。 1996 年、札幌—東京間の航空運賃を各社が一斉値上げし たのを機に、 「道民のために、 北海道経済の活性化のために、 安い航空運賃を実現するには、新規参入しかない」との想 いから設立された。国内で新たに航空会社が設立されたの は実に 35 年ぶりで、2 年後の 1998 年には第一便を就航 し、札幌—東京間の運賃を下げたことで航空業界に大きな 影響を与えた。当初 1 機だった航空機は現在では 13 機に 増え、札幌—東京間を中心に道内 6 都市、本州 4 都市を 結ぶ 10 路線で 1 日 58 便を運航している。 こうした中、AIRDO は 2016 年から新たな CS 行動指
代表取締役副社長
Susumu Kusano
針の策定に動き始めた。 代表取締役副社長の草野晋氏は 「当 社は 2015 年度から 2018 年度の中期経営戦略で、 『北海 道の翼にふさわしいオンリーワンのエアラインを目指す』 というビジョンを掲げています。 『大手でもなく LCC(格 安航空会社)でもない、独自性のある航空会社になろう』 と努力を続けている中で、新たな行動指針の策定に着手し ました」と語る。それまでも「AIRDO Style」という名 称の行動指針があったが、なぜ見直そうとしたのか。草野 氏はその理由を 3 つ挙げた。 1 つ目は「事業環境が大きく変わったため」だ。当時、 競合他社の攻勢や LCC の台頭などにより、AIRDO の基 幹路線であり原点でもある東京—札幌線の利用率が低下
- ▲TOP
- ページ: 7
- 7
し続けていた。 「われわれを育ててくださった北海道在住 のお客様に、かつてのような強い支持を得られなくなった のは大きな問題でした」 2 つ目は「原点に立ち返るため」だ。 「これまで規模を 拡大する過程で、十分に目が行き届かなかった社員一人ひ とりの想いや組織のあり方、そして何よりもお客様の気持 ちに寄り添ったサービスができているかについて、原点に 立ち返って見つめ直すべきだと考えました」 3 つ目は「安全行動指針と両輪となるような行動指針を つくるため」だ。 「安全」と「顧客満足」は AIRDO の事 業運営上の両輪で、 その行動指針も重要な位置づけにある。 しかし、当時は「安全行動指針」が浸透している一方で、 「AIRDO Style」は複雑で十分に活用されていなかったと いう。 「そのため、安全行動指針と両輪となるような、わ かりやすい行動指針をつくりたいと考えました」
また、若手中心の CS リーダーにこうしたプロジェクト の経験者がいないことも関係していた。時間をかけて検証 することで、 「実態はどうなっているのか」 「これはそもそ もどういう意味でつくったのか」などの共通認識を持って 議論ができるようになった。 草野氏は 「いきなり議論に入っ てまとまらなくなるリスクを感じていたので、最初に基本 的な方向性を決めてから議論に入るということはかなり意 識しました。策定の実質的な議論をする前に、 CS リーダー たちが『行動指針はこうあるべきだ』というところを認識 できたのもよかったと思います」と述べる。
経営層からのアドバイスで再検討も 一言一句を吟味し、想いを込める
方向性が決まった後は、策定のための討議に入った。こ こでは、CS リーダーが提出した案を CS 向上推進会議に 提示し、経営層で議論をしてアドバイスするという方法を とった。 最終的に策定された CS 行動指針は次のとおりだ。 【CS 行動指針】
なぜ定着しなかったのか
時間をかけて徹底検証する
そこで、策定にあたっては外部の支援を受けることに決 め、選択の際には 4 つの点で評価したという。 「1 つ目は プロジェクトへの 『熱意』 、 2 つ目はわれわれの想いへの 『理 解度』 、3 つ目は当社との役割分担がイメージしやすいか、 経験豊富なコンサルタントが責任を持って取り組んでくれ るかという『進め方』 、 4 つ目は『他社事例の経験数』です。 この 4 点について数社から企画書をいただいて、総合的 に判断して JMAC を選びました」 こうして 2016 年 7 月、 AIRDO は JMAC をパートナー として新たな CS 行動指針の策定に乗り出した。 プロジェクトは、各部門から選出された CS リーダー 19 人で進めることになった。策定にあたりまず行ったの は、当時の「AIRDO Style」の検証だ。全社員へのアン ケートや顧客満足度調査を実施したうえで、なぜ浸透しな かったのか、 内容的に妥当なのかを 2 ヵ月かけて検証した。 検証に時間をかけた理由について、JMAC の蛭田潤(シ ニア・コンサルタント)はこう説明する。 「新しい CS 行 動指針を策定する前に、 『もともとあったものがなぜ定着 していないのか』といったメカニズムも含めて見ていかな ければ、 せっかくいいものをつくってもまた忘れられたり、 定着しなかったり、ということになりかねません。そのた め、検証に重点を置きました」
■お客様のために、
高い志と情熱を持ち、 自分ができることを考え抜いて行動します。 強いチームワークで、 期待を超える満足を創造します。 北海道の翼として、 新たな価値の実現に挑戦し続けます。
この中で、まず論点になったのが「行動指針の対象は誰 か」だ。 「世の中の経営論ではすべてのステークホルダー に使命を果たしなさいと言われていますが、わかりやすい 行動指針にするために、対象をお客様に限定しました。こ れがひとつはずみになって、 大きな方向性が決まりました」 (草野氏) 次に論点となったのは、 「社員全員が共感できる言葉選 び」 だ。お客様と直に接しない事務系や整備系の社員にも、 顧客満足を意識してほしかった。そこで、特定の部門の仕 事を想起させる文言は入れず、さまざまな場面・職種で使 える「自分ができることを考え抜いて行動する」とした。 もうひとつ論点になったのは、 「北海道の翼」という言
- ▲TOP
- ページ: 8
- 8
CS 行動指針策定に携わった CS リーダーの声
・行動・創造・挑戦と 3 つのキーワードと CS リーダーみんなの想いからつくり上げ た CS 行動指針です。AIRDO 全体に浸透し、みなさんに活用してもらえることを期 待しています。 ・新しい CS 行動指針は「自分のため」 「チームのため」 「会社のため」 、そして何より 「お客様のため」のアクションをまとめたツールです。みんなで AIRDO らしさを体 現していきましょう。 ・どうすべきか迷ったときに、この CS 行動指針を思い返し、みなさんのすべての行 動が「お客様のために」へつながるようになれば最高です! (AIRDO 社内報より抜粋・編集)
も「日本一好感度の高い航空会 社を目指し、全部門で顧客満足 度の向上に資する具体的な取り 組みを実施する」とした。施行 後は、 CS リーダーが先頭に立っ て部門独自の活動に取り組んで きた。月 1 回の定例ミーティン グでは、活動実績を発表し、水 平展開を図っている。 こうした活動の中で、草野氏
葉を入れるかだ。特定の地域へのこだわりはかえって事業 展開の制約につながるとの意見もあった。しかし、 「大手 でもなく LCC でもない、独自性のある航空会社」を目指 す AIRDO にとって、キーファクターは北海道であること を明確にした方が、 会社の方向性がわかりやすいと考えた。 また、この行動指針は「個人」 「チーム」 「企業」の三層 構造になっているが、 この点について草野氏は 「個人はチー ムを、チームリーダーは会社全体をというふうに、それぞ れが一段上の立場から物事を考え、行動してほしいと思っ ていたので、JMAC から『キーワードを三層にわけましょ う』とアドバイスを受けたときには、 『とてもいい、これ はいける』と感じました」と語る。 これらの草案を練る際には、経営層と CS リーダーとの やりとりが幾度となく行われた。草野氏は「CS リーダー がモチベーションを持って主体的に決めていくという基本 方針がある一方で、これはたいへん重要な経営テーマでも あることから、そのバランスをどうとるかに非常に苦労し た」と振り返る。とくに初回は双方のイメージのギャップ が大きく、 「ほぼ出直しだ」と差し戻した。 「最初の頃に CS リーダーから出てきたものは網羅的で、力が入りすぎ てゴツゴツした印象でした。経営陣としては、もっと『日 常的に血となり肉となるような言葉にしてほしい』という 意識が強く、そこのギャップが大きかった」 こうして議論を重ね、考え抜いて策定した CS 行動指針 は、2017 年 2 月の CS 向上推進会議において満場一致で 承認された。
が一番大きな変化を感じたのは「お客様と直に接しない社 員も、顧客満足を強く意識するようになった」ことだと語 る。整備部門から CS 推進室に対して「機内設備の不具合 に関するお客様の声を、四半期に一度まとめて教えてほし い」と初めて要請が来たことに加え、その分析結果をもと に「社員が私用・社用で搭乗したときには機内のオーディ オを試し、不具合があったら知らせてほしい」という提案 があったという。 オーディオサービスは乗客が期待するサービスの上位に くるが、安全には関わらないため定期的な整備点検が求め られていない。ゆえに整備士が不具合に気がつくことは難 しく、乗客に指摘されない限り発見できないという実態が あった。CS 推進室は早速この提案を社内報で発信し、全 社員に共有した。草野氏は「お客様と直に接していない整 備の人たちからの声だったことに驚きましたし、うれし かったですね。特定の部門の仕事を想起させないで、みん なで共感しようということをねらった行動指針から、良い 成果が生まれました。これがほかの部門に火をつけてくれ ると、とてもいいですね」と期待を込める。
定着に向けて、これからが勝負だ
お客様への貢献を実感できる活動に
これまでの活動を振り返り、草野氏は「JMAC には本 当に親身に関わっていただきました。策定中は、CS リー ダーミーティングをスムーズに進める丁寧なファシリテー トや、熱い想いを込めた数多くの文章案の提示をしていた だきましたし、策定後にはワークショップに関わっていた だいたことで、 浸透を促進することができました」と語る。 とはいえ、まだまだ浸透途上であるとし、 「せっかくわ かりやすく身につきやすい行動指針ができたので、今後こ
「お客様の声を聞かせてほしい」 率先して動き出した整備士たち
新たな CS 行動指針は同年 4 月から施行され、経営方針
- ▲TOP
- ページ: 9
- 9
の指針が社員の血となり肉となり定着化させていくため に、これからも実践的なアドバイスをしていただきたいと 思っています。浸透させることが一番難しいので、これか らが勝負です」と今後を見据える。 JMAC の蛭田は「CS リーダーミーティングでは活発な 議論が行われ、まさに部門の垣根を超えた相互刺激の場と なりました。今後 AIRDO の中堅として経営の一翼を担っ ていく方々の相互刺激の場としても、とてもよかったので はないかと思います。浸透・定着に向けて、お互いの行動 をきちんと見て認め合い、常日頃から『今までにない高い 志と情熱でやっているね』 『チームワークよかったね』と コミュニケーションしていくことが大切です」と述べる。 今後は、 「社内啓発説明会」 「研修」 「CS 行動指針賞」の 3 つの施策を通じて浸透を促進し、定着させていくことに なる。 「社内啓発説明会」では、CS リーダーの活動や CS 調査結果を説明して社内啓蒙活動を深め、新入社員を含め た階層別の「研修」でも、顧客満足や行動指針に従って行 動することの重要性を伝えていく。 「CS 行動指針賞」 では、 CS 行動指針を体現した人を表彰して裾野を広げることを 目指す。 「やはり、体現した人がほめられることで浸透す るルートも必要です。今後は、社員一人ひとりがお客様へ の貢献を実感できるよう、お客様からおほめいただいたこ とがもっとダイレクトに本人に伝わるようにしていきたい と思っています」 (草野氏)
2018 年 12 月 に 就 航 20 周 年 と い う 節 目 を 迎 え る AIRDO。草野氏はこの 20 年を振り返りつつ、 「企業とい うのは難しいもので、ずっと成長を続けていると、どこか に歪みが生じます。当社はこれまで路線を拡大し続けてき ましたが、運航乗務員の確保が追いつかず、路線便数を見 直す必要に迫られました。今は次の 20 年の飛躍に向けて、 いったん足元を見つめ直し、成長に伴って追いついていな かった部分をしっかりと安定させるときだと考えていま す」と語る。 今後の経営課題については「われわれは『北海道の翼に ふさわしいエアラインとは何か』を常に考えなくてはなら ないと思っています。私自身は『北海道に AIRDO があっ てよかった』 『北海道には AIRDO があるんだぞ』と誇り に思っていただけるような会社になろうよ、ということだ と思っています。その実現にあたっては、経営陣はこうし なさいと指示するのではなく、大きな方向性を明示するに とどめて、具体的なことは社員一人ひとりが自分で考えて 行動できるような会社にしていきたいと考えています」と 語り、社員たちの「新たな価値の実現への挑戦」に大きな 期待を寄せているとした。 「北海道の翼」——就航から 20 年目を迎える今もその 信念は変わることはない。オンリーワンのエアラインを目 指し、AIRDO はこれからも独自の道を歩み続ける。
「北海道の翼」にふさわしい オンリーワンのエアラインを目指す
担 当 コ ンサルタントからの一言
いますか?
体現して
行動指針を
一人ひとりが
行動指針は自社 “らしさ” 実現と働きがい向上の源泉
理念や行動指針は多くの企業にありますが、浸透や実践まで至らず「空文化」 している残念な例も見受けられます。 AIRDO様では中堅社員であるCSリーダー を中心に経営陣との対話を通じて、これまでの行動指針の徹底的なレビューを 行い、 「AIRDO らしい」CS 行動指針を策定しました。そして現在進行中の CS 一人ひとり・チーム・企業全体が CS 行動指針を体現することによって、 「お客 が向上する」という好循環が重要と考えます。 行動指針に込められた想いに全社員が共感し、実践する活動をされています。 様から AIRDO らしさを認めていただく→社員の貢献実感が高まる→働きがい
蛭田 潤
シニア・コンサルタント
- ▲TOP
- ページ: 10
- 10
人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
女性活躍からダイバーシティ&インクルージョンへ 「目指す姿」の実現にチャレンジし続ける
〜誰もが個性と能力輝く会社への変革〜
製造業ゆえの女性社員の少なさ 「女性社員の活性化」を目指す
2018 年 4 月、岡村製作所は社名を「オカムラ」に変更 した。1945 年(昭和 20 年)の創業以来、オフィス家具 の製造販売で国内トップを走り続けてきた同社だが、社名 から「製作所」をなくすことで事業領域をさらに広げ、次 の飛躍へのきっかけとしたい考えだ。ブランド名「オカム ラ」と社名を統一して認知度を高めるとともに、優秀な人 材の確保もねらう。 オカムラは 2016 年 4 月の女性活躍推進法施行を機に 同年 8 月、ダイバーシティ推進プロジェクトを発足した。 その背景についてプロジェクトリーダーの望月浩代氏(管 理本部 人事部 ダイバーシティ推進室 室長)は「当社は そもそも女性社員が少ないということもありますが、とく に営業職の女性が少なく、定着率も低い傾向にあります。 一方、デザイン部門では女性が半数を占め定着率も高いた め、そのギャップをどう埋めていくかが課題でした。これ から労働人口がどんどん減っていく中で、女性社員を増や し、子育てをしながら働ける環境を整えていくことは会社 の存続に必要不可欠であると考え、きちんとプロジェクト を立てて改善に取り組んでいくことになったのです」と説 明する。
「ダイバーシティなのになぜ女性だけ?」 モヤモヤしながらプロジェクトスタート
一緒にプロジェクトを進めるメンバーは、事務局と望月 氏が選定した。 「事業部や職種を超えて多岐にわたる女性 10 人に声をかけました。いずれも各事業部の意見の発信 や吸い上げができ、ここで一緒に力を発揮できると思った 人たちです」 (望月氏) 順調にスタートを切ったかに見えたプロジェクトだった が、当初メンバーはみな「ダイバーシティ推進なのに女性 だけに特化してもよいのだろうか」という疑問を持ってい た。2019 年 3 月までに女性従業員比率 20%という数字 目標はあるものの、具体的にどうプロジェクトを進めてい くべきか、方向性が定まらずにいたのだ。 この状況を打破すべく JMAC に支援を依頼したという望 月氏はその理由について、 「何から手を付けてよいのかわ からない中で、きちっと順序立てた提案をしていただけま した。過去の実績を拝見したり、コンサルタントの笠井さ んからお話を伺ったりしたうえで、最終的に JMAC さんに お願いすることに決めました」と説明する。このときのこ とをプロジェクト事務局の尾﨑佑衣子氏(管理本部 人事部 人事企画課)は「われわれが置かれている状況を見極めた うえで、寄り添った形で提案していただけたのがとても良 かった」と語る。
- ▲TOP
- ページ: 11
- 11
株式会社オカムラ
社会環境が変わり、 生き方や働き方が多様化した現代において、 ダイバーシティ推進は企業の重要課題のひとつとなっている。 しかし、それをどのように進めればよいのか頭を悩ませている 企業は少なくない。そうした中、オカムラがダイバーシティ推 進で着実に成果を上げている。女性リーダーと 10 人の女性プ
ロジェクトメンバーが会社全体を巻き込み、在宅勤務制度の導 入や大規模な「ワークショップ」開催など、いくつもの「オカ 土を目指すオカムラの、活動の軌跡と今後の展望を伺った。 ムラ初」を実現してきた。男女ともに誰もが活躍できる組織風
管理本部 人事部 ダイバーシティ推進室 室長
望月 浩代
Hiroyo Mochiduki
氏
こうして、オカムラは JMAC をパートナーとしてダイ バーシティ推進プロジェクトを加速していった。
目指す方向がキッチリ決まったことでチームがひとつにな れました」と振り返る。尾﨑氏は「メンバー全員で多様な 意見を出し合って議論を重ね、全員が納得できる『目指す 姿』をつくることができたので、その後は施策や制度を検 討するときにも積極的にさまざまな視点からの意見を出し 合うことに抵抗がなくなり、 一気に進みました」と述べる。 本プロジェクト成功のカギとなったのが、 「目指す姿」 の実現に向けた重点課題への取組みだ。重点課題を 3 つ に分けて次の 3 チームで推進している。 ①モチベーションチーム 女性社員の日々の仕事や昇格に対する意欲の後押し (ワークショップ、他社との交流会など) ②コミュニケーションチーム 女性社員と上司・同僚とのコミュニケーションサポート (育休復職者向けセミナー、 キャリア面談用シート作成など) ③多様な働き方チーム 柔軟な働き方を実現するための仕組みづくりと浸透(在 宅勤務制度導入、 フレックスタイム制度のコアタイム廃止、 短時間勤務者へのフレックスタイム制度適用など) 中でも育児・介護者が活用できる在宅勤務制度は、プロ ジェクトにてトライアルを実施し、スタートから 10 ヵ月 で導入を実現した。アンケートやヒアリングからヒントを 得た施策や企画をミーティングで発表・議論し、決定後は
「スピーディーな支援制度づくり」で 実効性のあるプロジェクトに
その後は、どのような課題があるのかを綿密に調査し、 取り組むべき重要課題を抽出することから始めた。同僚や 上司への草の根ヒアリングや女性社員へのアンケートでは 「女性管理職が少なく、自分がなるというイメージがわきに くい」 「時間に制約がある社員が増加する中、もっと柔軟に 働ける環境であれば」といった意見が多く寄せられた。こ れらをもとにオカムラの女性活躍の「目指す姿」を、男女 ともに目指すべきものとしたうえで、次のように策定した。 ①一人ひとりが自身の目指す姿を描き続け ②あらゆる状況の中でも自分なりの成長を常に意識し ③仲間と共に、組織の発展にさまざまな形で貢献している プロジェクトミーティングとして対話・議論を重ねてい く中で「目指す姿」が決まった瞬間、 「明らかにチームの 雰囲気が変わり一体感が生まれた」と語る望月氏は「それ までみんな何を目指すのか、何がゴールなのかとモヤモヤ していましたが、 『まずは女性活躍推進から始めて、その 先の多岐にわたるダイバーシティ推進もやっていこう』と
- ▲TOP
- ページ: 12
- 12
尾﨑 佑衣子氏 (管理 本部 人事部 人事企 画課)
らなるウェーブを起こした。それが、オカムラ初の試みで ある全女性社員を対象とした「ソダテルワークショップ」 だ。部門を超えた交流とキャリアについて考えるきっかけ の場として開催され、全 6 回で女性社員の 8 割にあたる 約 300 人が参加した。最大 80 名規模での開催もあり、参 加者からは「継続してこういう機会をつくってほしい」と いった前向きな感想が多く寄せられた。 実はこのワークショップ、経営層に打診したときには 「全国からそんなに人が集まるのか?」 「開催は難しいので
尾﨑氏の所属する人事部で制度化するというスピード感あ る対応が、プロジェクトをより実効性の高いものとしてい る。
は?」との声もあった。 「それでも私たちは、絶対に実現 したいという想いでした」という望月氏は、役員と顔を合 わせたときにはなるべくその話をして、想いを共有できる 関係づくりに努めた。結果、ワークショップを実現し、役 員自ら参加してメッセージを発信してもらえるまでになっ た。 「今後も積極的にアクションを起こして経営層の理解 を得ながら、いろいろな場面で巻き込んでいくことが必要 だと感じています」 (望月氏) JMAC シニア・コンサルタントの笠井洋は「中村社長 は『女性が活躍できる業種 ・ 業界なのに女性社員が少ない』 とよくおっしゃっていますが、本プロジェクトに対しても 『他社のまねではなく、オカムラに合った、オカムラ独自 の活動を継続してやってほしい』と期待を寄せています。 経営層の多くが『何かできることはないか』という姿勢で いてくださるのは、やはりみなさんの活動が社内に良い影 響をもたらしているからだと感じます」と述べる。
オカムラ初の「ワークショップ」が熱い! 「巻き込み力」で経営層とも想いを共有
このスピード感とともにプロジェクトで大切にしている のは「オープンなスタンス」だ。 「閉じたところで勝手に 何かが決まっていく」ことがないように、社内の誰もがオ ブザーバーとしてミーティングに参加し、意見を言うこ とができるようにしている。毎回、性別や役職関係なく 誰かが必ずオブザーバーとして参加しており、茨城県つ くば事業所で行ったミーティングでは、メンバー 10 人と JMAC2 人(計 12 人)に対し、20 人以上のオブザーバー が参加した。 ダイバーシティ推進を自分ごととして捉えられるよう工 夫し、情報と想いの共有を図るこの「巻き込み力」は、さ
ソダテルロゴマークに込められた想い
本プロジェクトの愛称は「ソダテルプロジェクト」 。 このソダテルロゴマークには、 「オカムラの社員という う実を結ぶことができるように」という想いが込めら 多様な色・形の花をたくさん咲かせ、企業の成果とい れている。社内の女性デザイナーによるデザインであ るところもオカムラならでは。ロゴシールを所持品に 貼ってプロジェクト賛同の意を表す社員が増加中。
「こうしたい」が形になり 意識が大きく変わり始めた
プロジェクトがスタートして 1 年半が経つ今、 「女性社 員の意識が少しずつ変わり始めた」という尾﨑氏は「セミ ナーに参加したいと自ら手を挙げる人が増えましたし、 『こ ういう風にしてほしい』といった相談も日常的に入ってく るようになりました」と述べる。さらに、マネジメント層 の意識も変わりつつある。所属長も参加する育休復職者向 けセミナーの翌週には、今まで時短勤務者が参加しにくい 時間に実施されていた朝礼の時間を変更して、時短勤務者 も参加できるようにした部門も現れた。アンケートで「ダ イバーシティの方針が明確になっているか」 「今の女性活 躍の取組みに満足しているか」という項目についても、プ ロジェクト開始直後は「はい」がいずれも 10%程度だっ
※本物はカラーです
- ▲TOP
- ページ: 13
- 13
たが、直近では 50%を超えるという大きな変化があった。 望月氏は「社内でいろいろな人から『こんな取組みはいつ ごろになるの』 『男性の自分もワークショップに参加して みたい』と声をかけられるようになりました」と今後への 期待を感じている。 これまでの活動を振り返り、望月氏は JMAC について 「本当に最初はゼロからのスタートで、何から始めたらよ いか戸惑っていたのですが、的確に方向性を導いていただ けたと感じています。内部の人間だけで話し合うと納得で きないことでも、 外部のコンサルタントから支援があると、 ああそうだよねと納得しながら進めることができました。 とても大きな力をいただきましたし、本当にありがたかっ たですね」と述べる。 また、リーダーとしての想いをこう語った。 「最初はメ ンバーがそれぞれ違う方向を向いていたり、想いが違った りしていたので、どうまとめられるか、どうみんなで動い ていけるか、と不安でした。しかし今思えば、まとめる必 要はなかったと思います。メンバー一人ひとりが主体的に 考え、 『目指す姿』の実現に向けて行動した結果、 今に至っ ていると感じます」
かすインクルージョンにも取り組んでいきたいと考えてい ます。そのためには社内への浸透と社外への PR も必要で す。両立支援や育児休暇も女性だけではなく男性も取るこ とができるよう、さらに推進していけるとよいですね。そ のためにはマネジメント層の意識を変えていくことも重要 です」 と述べる。 尾﨑氏は 「ライフキャリアや業務特性など、 性別に関係なく自分の問題として捉えやすい部分をきっか けに活動の理解を促していくことがポイントになると思い ます」と語る。 これからの具体的な施策について望月氏は「これまでは われわれプロジェクトメンバーが中心となってやってきま したが、今後は、何かやりたいと思った方が中心となって 主体的に進めていけるようにサポートし、自主的な活動が 増えていく状態をつくっていきたいですね。 『必ず実現す るという強い意志を持てば何かが変えられる』という組織 を目指していきます」と語る。 女性活躍からダイバーシティ&インクルージョンへ―― 新たなステージを目指し、オカムラのチャレンジはこれか らも加速し続ける。
今後の抱負を楽しそうに語ってくれたお 二人(港区赤坂のオカムラ ガーデンコー トショールームで。実際の製品を見て触 れて体験できます)
ダイバーシティ&インクルージョンへ 誰もが個性と能力輝くオカムラを目指す
今後の課題について望月氏は「もちろん、女性活躍も推 進していきますが、女性だけに着目しすぎず、社員全員の 価値観や経験をお互いに認め合えるようなダイバーシティ 推進をしていきたいですね。これに加え、個々の能力を活
変革の動きへの 関心や周囲の反響 が変革に挑戦する 勇気を育む
担 当 コ ンサルタントからの一言
“貢献意識” と “貢献実感 ” が組織変革を加速させる
ソダテルプロジェクトメンバー 10 人の言動が組織内のダイバーシティへの関心 を高め、組織変革を実践・推進していることに感動しています。変革の源泉のひ とつに『貢献感』があります。これは変革を実践するうえで有用なエンパワーメ
シニア・コンサルタント
ント理論でも重視されています。貢献感は “ 貢献意識(貢献したいと思う意識) ” を高めることと、“ 貢献実感(貢献したことが有用であったという実感) ”を得 ることが重要になります。貢献実感を高めるためには、とくに周囲からのさまざ う組織文化、まさにダイバーシティ経営の実現への期待は尽きません。 まな反響を生かしていくことです。さまざまな視点での反響を伝え、受け取り合
笠井 洋
- ▲TOP
- ページ: 14
- 14
経営基盤の強化に向けたさまざまな取組みについて、 JMAC が支援した事例を紹介します。
〜「成果の見える化」でモチベーションを高め、活動を定着〜
「改善マインド」の育成で 工場の持続的成長を目指す
“ マンネリ化 ” を解消し、 改善活動の壁を突破する
大建工業は住宅用建材メーカーとして 1945 年(昭和 20 年)に創業し、70 余年もの間、新素材・新技術の開発 に挑戦し続けてきた。今回取材で伺った三重県津市の三重 工場は、木材を使った床材の製造に特化している。一口に 床材と言っても実に多種多様で、大理石のような質感と美 しさを追求した鏡面仕上げの床材や、木材組織にプラス チック樹脂を注入した高強度の床材など、住環境のあらゆ るシーンに対応している。 三重工場では、50 年ほど前から生産性向上に向けた改 善活動を続けてきた。そのときどきで最適だと考える活動 をいくつか実施してきたが、いずれも一時的に成果が出る ものの、なかなか成果を持続できないことが悩みでもあっ た。1990 年代には独自に TPM 活動をしていたが、2000 年代に入ってからはそれもまた徐々に停滞していった。前 工場長の小野世生氏(住空間事業部 三重工場 工場長付) は「当時、 会社の利益目標自体はクリアできていましたが、 活動がマンネリ化し、目に見える改善がされていないとこ ろに問題を感じていました」と振り返る。小野氏とともに 改善活動を主導してきた山村文明氏(同 製造部長)は「か つてわれわれが第一線で現場にいた時代には、自主保全の ための技能を一生懸命習得して、それを現場で伝承してい ました。 しかし年を重ねるにつれ伝承も滞りがちになって、 現場の人たちがだんだん設備に弱くなってきたという悩み がありました。 『やっているけど、なかなかうまくいかな いね』という感じでした」と当時の状況を説明する。 この状況を打開するため、小野氏は三重工場独自の目標 を掲げることにした。 「三重工場を預かっている以上、何 らかの形で『ナンバーワンの工場』を目指そうではない かと。そこで、月生産量を増やして床材シェア No.1 にな ろう、その効果は 5 年で 10 億円のプラスだということで 『5 年で 10 億円を達成し、業界 No.1 工場となる』という 目標をつくりました」 (小野氏) 。そのためには何をすべ きかの項目をつくっていく中で、 「これをやるにはやはり TPM がいいだろう」と考えた小野氏は、JMAC 支援のも と活動を進めることに決めた。TPM(Total Productive Maintenance/ 全員参加の生産保全)は、製造企業が持続 的に利益を確保できる体質づくりをねらいとしており、最 適なツールだった。 こうして、三重工場は JMAC をパートナーとして TPM
▲鏡面仕上げの床材(三重工場のショールームで)
の導入・推進に向けて動き出した。
- ▲TOP
- ページ: 15
- 15
大建工業株式会社
熱心な改善活動で一度は成果が出るものの、 モチベーションが維持できず、 定着には至らない——改善活動に取り組む企業が一度はぶつかるであろう を打開すべく 2012 年に TPM を再導入し、活動を刷新した。5 年が経っ “ マンネリ化 ” の壁は、思いのほか高い。大建工業・三重工場は、その壁 た今、三重工場の人・設備・組織は大きく変わり、業績も順調に伸長して スパイラルアップし続けている秘訣はどこにあるのか。生産現場における 改善マインドの育成方法を中心に、活動への想いと今後の展望を伺った。
いる。悩みの種だった “ マンネリ化 ” を解消して活動を定着させ、さらに
▲住空間事業部 三重工場で。金田正樹氏 (前列右) 、小野世生氏(同左) 、山村文 明氏(後列左) 、中道卓志氏(同右)
「目からウロコの TPM」 幹部を鍛え直して再発進!
TPM 導入を決めたのち、まず行ったのは「幹部の鍛え 直し」だ。小野氏は「今までの改善活動では、 『さあ今日 からやりましょう』と言っても、メンバーもリーダーもそ の上司も、みんな同じようなレベルでした。それがすぐに マンネリ化する原因だと考え、導入にあたっては活動を 引っ張る立場の人間に『TPM とはどういうものか』を徹 底的に学ばせました」と説明する。 実際に JMAC の TPM カレッジコースに通った山村氏 は「最初は『知っていることなのに、なぜ講習を受けなく てはいけないのかな』と思っていました。それまで独自に やっていた TPM のイメージでいたので、 『自主保全だけ』 という考えで行ったのですが、ロスは生産現場だけではな く管理・間接部門なども含めた工場全体で考えるべきであ ると改めて認識しました」と語る。こうして導入準備に 1年をかけたのちの 2013 年 6 月、三重工場は本格的に TPM をスタートした。 活動のスタートにあたり、まず行ったのは推進体制の整 備だ。 「自主保全」 「品質保全」などの活動ごとに 6 つの 部会をつくり、リーダーが現場から選んだメンバーに教育 していく。 これとは別にリーダー全体の推進部会も設けた。 そしていよいよ迎えたキックオフの日——入念な準備 をしてきた上層部の思いとは裏腹に、メンバーたちの反応
は「これまでも改善活動をしてきたのに、またやるの?」 というものだった。しかし彼らは、その 3 年後に始まっ た事例発表大会(大建工業グループ小集団活動事例発表大 会)で改善事例が評価され、全社で第 1 位を受賞するま でになった。いったい、この日から今日までの間に、三重 工場ではどのような活動をし、その中でメンバーたちはど う変わっていったのであろうか。
「一緒にやる」 「時間をとる」 がメンバーの心と体を動かす
当初、モチベーションを持てずにいたメンバーの動きは 停滞しがちで、活動は思うように進まなかった。そこで山 村氏は、自分たちが率先して動くことで彼らの動きを促し ていったという。 「たとえば自主保全部会では、 最初に我々 が設備を点検・清掃して見せて、 『初期清掃はこうするん ですよ』と教えるのです。メンバーのモチベーションを上 げるために、とにかく『一緒にやる』 『繰り返し言う』こ とを徹底しました」 また、生産現場の活動時間を確保するため、月に 1 回、 機械を止める時間を設けるようにした。 「改善活動では 『や りなさいと言われても時間がない』というのが現場の意見 ですから、工場長に『1 ヵ月に 1 度だけ機械を止めさせて ください』と交渉し、時間内に少しでも活動できるような 体制をつくりました」 (山村氏)
- ▲TOP
- ページ: 16
- 16
金 田 正 樹 氏( 住 空間事業部 三重 工場 工場長)
らせて『危機感』を、 次は、 あなたたちが必要だという『存 在感』 を、 その次は、 これだけ会社に貢献しているという 『達 成感』を持たせる。これを上の者がうまく与えていくこと ができれば、人は育つのではないかと思っています」 また、TPM ではトップが現場の活動状況を確認・指導・ 助言する「トップ診断」を実施するが、これも改善マイン ド育成の場として活用している。現在の工場長である金田 正樹氏(同 工場長)は「診断では、 『何が問題か』を本人
当初は競争させることで改善意欲を高めようと、改善例 を報告させて表彰したり、三重工場内でコンクールを行っ たりしていたが、今は行っていない。山村氏は「成果が出 始めてからは、自分たちがいいなと思うことを自らやり始 めるようになったので、今はそれらがなくても改善活動が 進むようになりました」と説明する。 活動するうえで、 床材ゆえの難しさもあった。 木材を切っ たり削ったりするため、木くずが機械にたまりやすく、鏡 面仕上げなどの艶の高い床材の塗装では、ほんの少しの埃
ほこり
たちに考えさせるようにしています。本人たちができてい ると思っていることを上の者がきちんとチェックして、 『こ うしなさい』ではなく『これでいいのか』と問いかけをす るのです。上の人間が関心を持ち、見て話して、疑問を投 げかけ続けることが大切だと考えています」と話す。 こうして会社全体で活動を支え続けた結果、意欲と自覚 を持ったメンバーたちは自ら改善活動を進めるようになっ た。会議の様子も以前とは大きく変わったという山村氏は 「昔はリーダーが話して、 他の人はうんうんと聞いて終わっ ていましたが、今はひとり一人がかなり積極的に意見を述 べるようになりました」と語る。また、改善に対して論理 的にアプローチできるようにもなり、前述の事例発表大会 では「現象をしっかり観察して、ポイントをおさえた改善 ができている」点が高く評価された。第一線のメンバー からトップまでの全員参加で TPM 活動に取り組んだ成果 が、全社大会での好成績につながったのだ。
が混じることも許されない。ゆえに、一般的な製造現場よ りかなりシビアに清掃を行う必要がある。特に苦労してい るのは、 塗装用着色料の飛散防止対策と、 汚れの清掃だ。 「防 ぐことが難しい飛散も多く、いくら清掃してもすぐに汚れ てしまうのです。みなさんには清掃も改善の一環であるこ とを納得してもらって、綺麗に掃除して汚れをそのまま放 置しないようにしています」 (山村氏) 事務局の中道卓志氏(同 製造部 製造管理担当)は、当 初はなかなかうまく回らなかった活動が、途中から回るよ うになったことについて、 「たとえば、設備を改善するこ とでたくさん出ていたゴミが出なくなって作業がしやすく なり、 『あ、やったらいいことがあるんだな』という実感 を持つようになって、少しずつ動き出すようになったので はないかと感じています」と語る。
簡単なようで実は一番難しい 「当たり前のことを当たり前に」
TPM 導入から 5 年が経った今、三重工場の人・設備・ 組織は大きく変わった。当初の目標である「5 年で 10 億 円」は 4 年で達成し、その後も業績を伸ばし続けている。 小野氏は「TPM 導入後、1 年半で成果が出始め、回り出 してからは早かった」と振り返る。そして、活動が定着し た最大の秘訣を「当たり前のことを当たり前に」続けてき たからであると述べる。 これは小野氏が TPM 導入時から掲げてきたスローガン であるが、なぜ今回はマンネリ化せず活動を定着させるこ とができたのであろうか。小野氏は「やはり、リーダーが メンバーをしっかり引っ張ってくれたからだ」と語る。三 重工場では「リーダーの覚醒」が活動の成功には不可欠で あると考え、リーダーの意識改革にも注力してきた。事務 所の 5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の徹底もそのひ
「危機感」 「存在感」 「達成感」 3 つの 「感」で人材を育てる
三重工場で TPM が定着した秘訣は、もうひとつある。 トップからの積極的な働きかけだ。社員に対して常に「今 の三重工場の姿」をオープンにしているという。小野氏は 「使った費用や売上げ、そこから最終的にはいくらの利益 が出たかを朝礼でも伝えますし、現状を隅々まで知らせる ようにしています」と述べ、 こうしたときには 3 つの「感」 を持たせるように心がけているとも話す。 「まず現状を知
- ▲TOP
- ページ: 17
- 17
とつだ。山村氏は 「毎日の定点撮影を通じて、 『この状態で いいと思いますか』と問いかけをしながら、毎日忘れずに 少しずつ動くことの大切さを伝えてきました」 と振り返る。 金田氏は、三重工場にとって TPM は「やるべきことを 系統だってやるための手段であり、成果をしっかりと見 せるための道具である」と説明する。 「前回の TPM では、 初期清掃などの作業にこだわるあまり、自分たちの姿が見 えていませんでした。しかし今回は、闇雲にやって自分た ちが今どこにいるのかわからないということがない。最後 の目標がしっかりあって、途中の工程の成果もはっきり見 えるので、それが本人たちのモチベーションにつながった のだと思います。この成果を測る手段を明示してくれたの が、今回の TPM の一番いいところだと思っています」 JMAC の TPM コンサルタント・西原政美は「当たり 前のことを当たり前にという大建工業さんのスタンスは、 TPM の自主保全にマッチしています。当たり前をコツコ ツ進めていきながら、現場での改善意欲、改善のアイデア や発想が生まれる土壌もあるのが特徴」と見ている。 にマンネリ化して続かなくなるということがないように、 まさに最初のスローガンである『当たり前のことを当たり 前に』を 10 年後もやり続けることが大切だと思っていま す」と述べる。また、 「マンネリ化したときに何を変えて いくかが重要である」ともいい、 「ポイントは、会社の利 益目標などの方針と TPM をうまくブレンドして、 『自分 たちのありたい姿』をはっきり明示するところにあると考 えています。全グループの生産目標に照らし合わせると、 三重工場はこれから 2 割以上生産量を上げていかなけれ ばなりません。それが何年でできるかを見えるようにする と、10 年後の姿も見えてきます。最終的に日本でダント ツ No.1 の工場になるという想いがありますので、それに 向かって改善し続けるのみです」 小野氏は「ダントツ No.1 になるためには、シェアだけ ではなく、商品においても他社より抜きんでたものがない といけない。今後は新しい床材開発にも挑戦し、目標達成 に向けて全社一丸となって取り組んでいきたいと考えてい ます」 「当たり前のことを当たり前に」——TPM 活動で培っ た改善マインドと全社一丸のパワーは、近い将来、三重工 場をダントツ No.1 へと導くに違いない。
小 野 世 生 氏( 住 空間事業部 三重 工 場 前 工 場 長、 現工場長付)
目指すは “ ダントツ ”No.1! 新時代の床材開発に挑戦
「5 年で 10 億円」を 4 年で達成し、床材シェア No.1 となった今、三重工場の新たな目標は単なる No.1 ではな い、さらに差をつけた「業界ダントツ No.1」の工場にな ることだ。そのため、現在は TPM 活動と並行して設備の 強化も進めている。設備を入れ替えながら、一部設備につ いては増設も視野に入れ、さらなる生産性向上をねらう。 今後の経営課題について金田氏は「この TPM 活動をい かに伝承・定着して続けていくかが課題です。前回のよう 担 当 コ ンサルタントからの一言
ひとつになります
トップと現場が
成果の見える化で
あるべき姿の工場のイメージを全員で共有する
TPM の自主保全は「何事も徹底する」という姿勢がないと定着しません。た とえば、定置化、見える化など、やれることをとことん徹底するということで す。 そのためにはトップダウンとボトムアップをうまく回す必要がありますが、 大建工業・三重工場のトップの方々は、そのやり方が非常にうまいですね。現 場をひっぱりながら、 現場の主体性を生かしています。 あるべき工場の姿をトッ プから現場の従業員まで共有している点も評価できます。そのせいか、現場の
西原 政美
TPMコンサルタント
改善意欲が高く、改善のアイデアや発想に、いつも驚かされます。さらに要因
を突き止める力(解析力)を向上させれば、 もっと大きな成果が出るはずです。
- ▲TOP
- ページ: 18
- 18
JMAC EYES
最新のコンサルティング技術・事例・実践方法などについて コンサルタント独自の視点で語ります。
イノベーションを起こすには 何が必要か?
経営構造転換センター センター長 シニア・コンサルタント
松田 将寿 Masatoshi Matsuda
人材は豊富なのになぜイノベーショ ンが起きないのか?
「イノベーション」といったときに、 その定義やイメージはさまざまですが、 結局のところ企業のなかの「人」や、そ の人たちが生み出す「アイデア」によっ てイノベーションは生まれます。日々さ まざまな事例を研究している高度に訓練 された同じ組織内の人たちが、特定の方 向性でアイデアを出していけば、いろい ろな新しいものが生まれやすくなるはず です。 では、なぜイノベーションが生まれな いのでしょうか。「ウチにはイノベー ションがない」と経営陣が口癖のよう に言っていても、戦略の方向やイノベー ションで生み出したいものが曖昧だと、 イノベーションは起きにくいのです。
客に思わせ、結果としてブランド価値を 高め、市場シェアも獲得していく。これ こそがイノベーションの目的です。 参考となるのはシュンペーターが述べ た「新結合」、そして最近では「逆転 換」(価値創造のために視点を変えて物 事を組み合わせる)の視点です。AとB を組み合わせて新しい技術やプロセスの 結合を開発するというケースもあれば、 逆に、何を強く打ち出し、何を小さくす るか「逆転換」という発想で成功させる ケースもあります。いずれにせよ、新し い価値の創出や再構成を図ったり、新し い市場を生んだり、新しい顧客を生み出 す状態を創り出せれば、イノベーション は成功すると言えます。
【経営陣】
⃝イノベーション戦略=イノベーション の方向性を定め、ライフサイクルを見極 め、ポートフォリオをデザインします。 ビジョンやイノベーションの範囲を従業 員にきちんと示すことも重要です。 ⃝イノベーションの管理=企業文化は、 イノベーションの再生産に大きく影響し 文化としてどうイノベーションを築き上 げていくか、これらをデザインします。 【従業員】 ます。理念や思想を継承しながら、企業
⃝現場のイノベーション=それぞれの現 場でアイデアの「芽」を生み出し、イノ ベーションを創造・開発していくことが 必要です。 ⃝イノベーションの実現=アイデアをビ ジネスまで昇華させるには「創造段階」 と「実現段階」に分けて管理します。プ レーヤーや報酬、チーム構成、リーダー シップ、経営資源など、会社が大きくな るほどマネジメントを分けるとうまくい く可能性が高まります。
イノベーションをどう管理(マネジ メント)していくか?
うまくイノベーションが起きたとして も、情報や技術の普遍化で、優位性が長 く続かないことが多いです。イノベー ションは短命化していて、変化の激しい 市場を常にリードしていくには、絶え間 なくイノベーションを起こす必要があり ます。これらの管理について、大きく経 営陣と従業員に分けてみます。
何のための イノベーションか?
そもそも、何のためのイノベーション なのでしょうか。競争優位性の実現、コ ストの差別化、魅力的な商品開発の先に あるのが「マインドシェアの獲得」で す。「あの会社の製品が一番いい」と顧
リーダーシップこそが イノベーションを喚起する
結局のところ、イノベーションの管理 に必要なものは、経営者の意思やリー ダーシップです。「何をやるのか」を従 業員にきっちりインプットし、イノベー ションが起きやすくするために、組織の 構造を変えたり、体制を変えたりして、 奨励・支援できるようにすることが求め られます。失敗しても成功してもみんな で認め合い、共有できる企業文化を創る ことが理想の姿だと思います。
松田 将寿プロフィル
早稲田大学大学院法学研究課修士課程修了後、1994 年 JMAC 入社。製造業を中心にコンサルティング経験 は 20 年超。支援企業は製造業を中心に国内外(海外 は現地企業含む)あわせて 100 社を超える。主要領域 は、製造業の経営戦略策定、経営戦略・経営改革実現 支援。とくにその企業のマネジメントモデルとビジネ スモデルの両面を描き戦略を実現していく支援が特徴。 ほかに品質保証マネジメントシステム、 サプライチェー ンマネジメントシステムなどクロスファンクショナル 領域の支援に強みがある。
本記事は JMAC のホームページで連載中の「JMAC EYES」の要約版です。完全版は www.jmac.co.jp/jmaceyes で。
- ▲TOP
- ページ: 19
- nformation
編集部からの耳より情報
JMAC トップセミナーのご案内
〜経営革新を推進する先人から学ぶ〜
「JMAC トップセミナー」は、日本を代表する経営トップの方をお招きし、実際に改革を断行していく苦難や成 功体験をお話しいただく経営トップ向けセミナーです。
8月 3
(金) 2018
15:00 〜 18:30
日 開催
基調講演
株式会社 ジェイテクト
取締役社長
安形 哲夫
氏
8月 3 日 (金)の 「JMAC トップセミナー」では、株 式会社ジェイテクト 取締役社長 安形 哲夫氏をお招き し、 「先人十訓 〜私が学んだ十の教訓〜」と題し、ご 講演いただきます。 「経営のヒント」 「改革や革新の視点」など、ご本人か ら直接お聞きできる機会です。ぜひご参加ください。
会 場:ステーションコンファレンス東京 (千代田区丸の内 1-7-12 サピアタワー) 定 員:50 名(お申込み順) 対 象:経営トップ層、部門長の方々 参加料:10,800 円(消費税込)※参加者交流費を含む
URL
www.jmac.co.jp/seminar/
好 評 発 売 中
2018 年版 日本製造業 IoT 実態調査
日本 能 率協会コンサルティング (JMAC) は、 製 造 業における IoT (Internet of Things)への取組み状況の調査結果をまとめた報告書 『2018 年版 日本製造業 IoT のオンラインストアで発売中です。 実態調査 2015-2017』を発刊しました。JMAC の新しい WEB サービス ・GO! JMAC 本書では、2015−2017 年の 3 年間にわたる IoT への取組みの実態を明らかにしてい ます。企業規模別・主要8産業別に取組みの傾向を明らかにし、さらに IoT を推進する ことで得られる成果を 「Ⅰ. 課題解決領域」 「Ⅱ . 最適化領域」 「Ⅲ . 価値創造領域」の
3つに分類して整理しています。また、自社の IoT 化を今後どのように進めればよいの かをイメージしやすいように豊富なソリューションと事例を掲載することで、日本製造業 の未来と課題を示唆する一冊となりました。 【ご購入方法】
■ A4 判、118 ページ、オールカラー ■価格:64,800 円(消費税込み) CD-R 付き 本書の全ページ(PDF)を収録した
下記 URLで JMAC 公式のネットストア 「JMAC
ONLINE STORE」にアクセスし、 会員登録後、 ご注文ください (書店では販売しておりません) 。
URL
go.jmac.co.jp/jos/
GO! JMAC と は、JMAC の コ ン サ ル ティング技術、コンサルティング事例 の閲覧、動画や PDF 書籍などのデジタ ル・コンテンツの購入ができる WEB サービスです。現在、 IoT の情報サイト、 オンラインストアを公開中です。 IoT 情報☞ go.jmac.co.jp/ics/
書籍、雑誌、コミックなど紙媒体の売上げ前年割れが 10 何年も続き、倒産する出版社や店じまいする書店も 増え、もはや「紙の本」を買う行為そのものが廃れつつある状況を見るにつけ、 「ほしいのはドリルではなく穴」 にならって「ほしいのは紙ではなく知識や読後感」であると言い切ってしまいたいが、むしろ「読む」という行 為を特別視することはない、本誌のコンテンツはすべて動画でも提供する! といつか言いたい。
- ▲TOP
- ページ: 20
- Special Information
第4期 「JMAC エグゼクティブ クラブ 」 開催決定
「JMAC トップセミナー」は、生の経営者の講演と交流会として、2013 年 5 月より開催し、おかげさまで 19 回 1,000 名を超える参加者をお迎え することができました。参加者のみなさまからは、 「管掌範囲の広がりから、 もっと幅広い経営の議論をしてみたい」 「異業種とのディスカッションの場 を通じて、 具体的な情報交換をしたい」 などのご要望をいただいております。
第 3 期(2017 年 10 月~ 2018 年 7 月)の開催プログラム(講演者)
〜経営のプロフェッショナルを目指して 〜
JMAC エグゼクティブ クラブとは
「これからの経営を、トップマネジメントの視野・視 座から考える」がテーマ
⃝ 「素晴らしい経営者」の生の体験談を聞き ⃝経営者・幹部同士の「相互啓発」を図るネットワーキ ングの場
座長:元 協和発酵キリン株式会社 代表取締役社長 現 公益財団法人加藤記念バイオサイエンス振興財団 理事長 松田 譲 様 第1回 日時:2017 年 10 月 12 日 株式会社日本経済新聞社 編集局コメンテーター 村山 恵一 様 日時:2018 年 1 月 19 ~ 20 日 第2回 株式会社大和総研 経済調査部長 児玉 卓 様 株式会社 JTB 相談役(前代表取締役会長) 東京商工会議所 副会頭 佐々木 隆 様 第3回 日時:2018 年 4 月 11 日 株式会社松井オフィス 代表取締役社長 株式会社良品計画 名誉会長 松井 忠三 様 日時:2018 年 7 月 13 ~ 14 日 第4回 株式会社ミライロ 代表取締役社長 垣内 俊哉 様 ライフネット生命保険株式会社 創業者 現 立命館アジア太平洋大学 学長 出口 治明 様 ■ご参画の対象 現在および次代のトップマネジメント候補、プロの経 営者を目指す方々
キヤノン電子株式会社 代表取締役社長 酒巻 久 様
第 4 期「JMAC エグゼクティブ クラブ」を、2018 年 10 月~ 2019 年 7 月まで (4 回のべ 6 日間) 開催いたします。 詳細は、下記までお問い合わせください。 【お問い合わせ先】 株式会社 日本能率協会コンサルティング 「JMAC エグゼクティブ クラブ」 事務局 TEL:03-4531-4317 E-mail:bi_jmac@jmac.co.jp
第 50 回の開催を迎えた 「人材育成研究会」
JMAC 中部オフィスが主催する「人材育成研究会」は 2018 年 3 月 16 日に第 50 回の開催を 迎えました。2009 年 11 月にスタートして以来、ものづくり人材の育成に関心が高い中部圏の 製造企業 31 社からメンバーが集い、事例発表、工場見学を通じて交流を深めています。2018 年度は 7 回の開催を予定しています。 ▶︎第 1 回の研究会か ら座長を務める野口 正雄氏(旭化成株式 会社 鈴鹿製造所 企 画管理部 企画グルー プ TPM 推 進 グ ル ー プ長) 。50 回 も 継 続 開催できた秘訣につ いて、 「この研究会は決まった成果をまとめて出していくという ものではなく、メンバーの悩みに対して他のメンバーがアドバ イスしたりフォローするという相談会的な要素が強い。こうし たギブ&テイクのスタイルが受け入れらているからこそ、長く 続いているのでしょう」と語っていました。
☞「人材育成研究会」のお問い合わせは JMAC 中部オフィスまで
2017 年 12 月 19 日に開催した第 48 回の様子(会場:JMAC 中部オフィス) 。今回のテーマは「女性活躍」 。JMAC の増田さ やか(チーフ・コンサルタント)の講演後、製造現場での女性 の活躍推進について、メンバー同士が思い思いの意見を述べ合 いました。今回はメンバー企業から5名の女性がゲスト参加し、 議論に加わっていました。
E-mail:nagoya@tpm.jmac.co.jp
Business Insights Vol.66 2018 年 6 月 発行
編集長:田中 強志 編集:柴田 憲文 ライター:山野邊志保
URL:www.jmac.co.jp Mail:info_ jmac@jmac.co.jp
© 2018 JMA Consultants Inc.
〒 105-0011 東京都港区芝公園 3-1-22 日本能率協会ビル7F
本誌の無断転載・複写を禁じます
- ▲TOP