ビジネスインサイツ67
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安形 哲夫
Tetsuo Agata
1976 年 2004 年 2008 年 2011 年 2013 年 2013 年
トヨタ自動車工業株式会社(現・トヨタ自動車株式会社)入社 常務役員 専務取締役 株式会社豊田自動織機 取締役副社長 5 月 株式会社ジェイテクト 顧問 6 月 取締役社長(現任)
意識しています。 8 番目は、 「まあそこへ座れ!」です。私が新車進行管 理部で課長をしていたときの部長の話です。そこは進行中 のプロジェクトの問題解決をする部署だったので、上へは 悪い情報しか来ません。その部長は、誰かが飛んでくると 机の上をさっと片付けて、 「まあそこへ座れ」 と。で、 ニカッ と笑って「どうしたんだ?」と斜めではなく必ず正対して 聞いてくれました。あの姿勢は今でも忘れません。 その後、何代か後に私もそこの部長になりましたが、つ い顔に出てしまいますね。 部下は悪い話を持ってくるとき、 ものすごくナーバスになっていますから、こちらの顔がピ クッとしようものなら二度と来ません。ニカッと笑って受 け止めてあげなければいけない。だから、誰かが飛んでき たら、下を向いて「1、2、3」と 3 回深呼吸して、ニカッ とする努力をしました。魅力的な人のマネはしなくてはい けないと思っているので、現役の間はこの努力を続けよう かなと思っています。 9 番目は、私の師匠たちの師匠である大野耐一さんのエ ピソード、 「大野さんは答えを教えてくれなかった」です。 トヨタの現場改善で若い人をどう育てているのか、有名な 話があります。 問題のあるラインがあっても答えは言わず、 ラインの前にじっと立たせて、わかるまで考えさせるので す。厳しい中にもフォローがあって、人が育つ。私は 65 歳になった今でもつい答えを言いたくなってしまうので、 これは反省しなくてはいけないと思っています。
最後、10 番目は「競争力はあるのか?」です。のちに ダイハツの会長になった方の話です。この方がトヨタの副 社長だったとき、みんなで生産技術の改革を一生懸命や りました。その成果について「このようにして生産性を 2 割上げました」と報告したら、 「それで競争相手に対して どれだけ競争力を確保できたんだ?」と言われたのです。 このとき、ベンチマークがない改善目標は意味がなく、自 己満足でしかないということを厳しく教え込まれました。 この発想は、今でも経営計画を考えるときに活かされて います。競合相手がどのぐらい伸びるのかを予測し、それ より上に行かなければなりませんから、5 年の中期経営計 画を毎年見直して、常に 5 年先を見据えた戦略を立てて います。さらに、10 年、15 年先には世の中や競争相手 はどう変化しているのかを学習・議論する場もつくりまし た。こうした仕組みをつくっておくと、私がいなくなった あとに誰が社長をやっても、最低限のパフォーマンスを保 証できます。それができなければ企業は永続的に発展でき ませんから、この会社に来たときに社長として真剣に、そ して何よりも先に考えたのがこういうことでした。 今日は、 私がこの 40 年近い間にいろんな方にしごかれ、 叱られながら得た教訓を、そして自分自身が今でも大事だ と感じて思って実行していることを申し上げました。何ら かのご参考になったとすれば幸いです。
永続的な発展を目指し、 今、何をすべきか考え続ける
講演を聴いて
本稿は 2018 年 8 月 3 日に開催した JMAC トップセミナーの基調講演を もとに作成したものです。
にとって大きなインパクトがあった事実に対して参加者の皆さんが共感を持たれ、自 分の振る舞いと照らし合わせて、自分の十の教訓に昇華されたのではないかと思いま す。トヨタの人の育成、人材の層の厚さも改めて認識させてもらいました。
JMAC・代表取締役社長
安
形社長のお話のうまさもさることながら、先人の十の教訓、それぞれを自分 が正にその場にいるような臨場感を持って聞くことができました。安形社長
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