ビジネスインサイツ67
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未来を拓くヒントは、 先人の言葉にあり 人と企業を育てる 「十の教訓」
JMACトップセミナー誌上講演より
株式会社 ジェイテクト 取締役社長
安形 哲夫
株式会社ノーリツ 技術シーズ探索で お客様に驚きと感動を 大日精化工業株式会社 技術者の「自覚」と「覚悟」が 組織を変え、未来を変える SEC カーボン株式会社 組織横断プロジェクトで 人をつなぎ、強い工場をつくる
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毎回、革新、成長を続けている企業のトップに 経営哲学や視点について語っていただきます。
JMAC トップセミナー 誌上講演
未来を拓くヒントは、先人の言葉にあり 人と企業を育てる 「十の教訓」
〜 JMAC トップセミナー「先人十訓 ~私が学んだ十の教訓~」より〜
株式会社 ジェイテクト
「今後気をつけます、はダメ ! 」 まずは仕組みをつくれ !
私は 1976 年(昭和 51 年) 、当時のトヨタ自動車工業 に入社しました。トヨタでは生産、営業、海外を転々とし ましたが、ベースは生産管理マンです。トヨタには、トヨ タ生産方式をつくった大野耐一さんがおられました。残念 ながら直接教えを請うことはできませんでしたが、大野さ んのお弟子さんたちがまだ社内にたくさんいた時代に、さ まざまな方に出会い、数々の貴重な教えを受けました。そ れを整理して書き留めたもののうち、10 のエピソードを 選んで持ってきたのが今日の話です。 さて、本題に入ります。1 番目は「今後気をつけます、 はダメ!」という新入社員時代の話です。配属 3 ヵ月目、 私は資材管理課で材料を手配する仕事をしていました。し かし困ったことに、当時はコンピューターから出てくる数 値の精度が低かったので、 毎回修正が必要でした。そこで、 先人十訓①
其の一:仕組創造 今後気をつけます、はダメ! 其の二:徹底追究 「なんでだ?」を 5 回繰り返す 其の三:現場主義 カローラが 500 万円にならない理由 其の四:戦略必勝 儲かっとるかね?
もう修正しなくていいように、システム部に私の担当工 場のデータだけを全部キャンセルしてもらって、自分で 1 からデータを正しく入れ直しました。ところがその処理結 果が出た翌日、社内は騒然。システム部が間違えて全工場 のデータをキャンセルしていたのです。責任を感じてデー タの復元を手伝いましたが、3 日間夜通しの作業は本当に たいへんでした。 やっと一件落着して課長のところに行き、 「今後、こう いうことがないように気をつけます」と言うと、 「君がガ ンバったことはわかっているけど、その『今後気をつけま す』というのは気に入らないね」と言われたのです。 「気 をつけますというのは、 マネジメントの道から外れている。 マネジメントの第一歩は、ボーッとしていても異状があれ ばそれを知らせるランプがついて、そこに飛んでいけばい い仕組みをつくることだろう」と。あれは私にとって最初 の洗礼でしたが、ずいぶん勉強になりました。今でも忘れ られない教訓です。
「なんでだ? 」を 5 回繰り返し 真因を追究する
2 番目は「 『なんでだ?』を 5 回繰り返す」という話で、 いわゆる 5why、5 なぜです。資材管理の次は生産企画に 行きましたが、そこの係長はトヨタでも有名な「なんで
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設立:2006 年1月 資本金:45,591 百万円(2018 年 3 月現在) 従業員数:連結 49,589 名 単独 11,763 名(2018 年 3 月 31 日現在) 事業内容:ステアリングシステム、軸受、駆動部品、工作機械、電 子制御機器などの製造・販売
電動パワーステアリングの世界トップシェアを誇るジェイテクトは、 2006 年、光洋精工と豊田工機が合併して誕生した。安形氏は 2013 年 の社長就任以来、トップマネジメントを担ってきたが、そこには自身 がトヨタ自動車時代に学んだ教訓が色濃く反映している。トヨタ生産 方式、経営戦略、コミュニケーションの極意など、その 1 つひとつが 管理職の心得、経営者が持つべき視点に至るまで、エピソードを交え 余すことなくお話しいただいた。
Tetsuo Agata
実体験を通して得た貴重な教訓となった。新人時代の失敗談に始まり、
安形 哲夫 氏
だ?」 おじさんでした。 これはよくするたとえ話ですが、 「機 械が壊れました」 「なんで壊れた?」 「機械を駆動している モーターが焼きつきました」 「なんで焼きついた?」 「モー ターを駆動しているオイルポンプが詰まりました」 「なん でオイルポンプが詰まった?」 「オイルが汚れていました」 「なんで汚れた?」 「オイルをきれいにするオイルストレー ナーが破れていました」 。ここまで来て「トヨタにはもと もと定期的にオイルの清浄度をチェックする仕組みがな かった」という真因にたどり着くわけです。真因まで辿り 着かないで対策をやっていると必ず再発しますから、真因 を追究する文化、習慣はとても大事です。 3 番目は、 「カローラが 500 万円にならない理由」です。 生産企画部で、ジェイテクト初代社長の田さんが係長、 私が平社員の時の話です。ある日、田さんに呼ばれてこ う言われました。 「現場には 9 割の理があるが、現場の言 うことをそのまま『そうですね、たいへんですね』と聞い ていたら、今ごろカローラは 500 万円になっとるぞ。現 場には『そうは言っても、こうすべきだ』と押し返せ。そ れをやっているからカローラはいまだに 150 万円ででき るんだ」 と。ここまでは割とわかりやすい “ べき論 ” です。 ここからまだ先があります。時の田係長は 「だけどな、 現場が本当に困っているときには、現場が泣いてくる前に 行って助けてやれ。それができたら現場のお前に対する信 頼は盤石なものになる。いつもはお互いの主義主張から綱 引きをしているが、本当に困っているときには絶対に助け てくれる。そういう管理者になれ。だから現地現物で、毎 日足すり減らして現場をまわれ。誰よりもよく現場を理解 していなかったら、マネジメントできないぞ」と。これは 厳しく言われました。もちろん、今でも守っています。時 間を惜しみ、 1 つでも多くの現場に行くようにしています。
取締役社長
笑顔の 「儲かっとるかね ? 」は 綿密なス トラテジー (戦略)
4 番目は、 「儲かっとるかね?」です。入社 6 年目の時 にトヨタ自動車工業とトヨタ自動車販売が合併して、私は 合併後の第 1 期生で車両の営業部に配属されました。そ この部長は販売店さんが来るとニコニコしながら「儲かっ とるかね?」 「儲けにゃいかんよ」と言うわけです。そし て実際、われわれが儲かっていない販売店さんに張り付い て、一生懸命に経営改善をやっていたら、3 年後には販売 店全体で史上最高益が出ました。 これを部長に報告すると、 「大至急、販売店向けの節税 策を考えろ。来週みんなを集めるから」と言われたので、 税務の本を読みまくり、急ごしらえで節税マニュアルをつ くりました。 結果、 販売店の手元には純利益がしっかり残っ た。すると部長はこう言ったのです。 「この儲けたお金の 使い道は 2 つだけだ。借金を返すか、店舗をきれいにす
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るための投資をするか。それ以外は認めない」 ここに至って初めて、やっと部長の真のねらいがわかっ たのです。ニコニコして「儲かっとるかね?」と言いなが ら、実はストラテジー(戦略)があった。預かった販売店 をきちっと財務的に強くして、販売力のあるディーラー群 に仕立てるためには何をしなければいけないか。それを最 初から言ったのではダメで、 「儲かっとるかね?」と言っ ていたわけです。このとき、ストラテジーを持たない経営 はない、ということを肌で学びました。 こうして話していますが、昔は割と無口で、どうしたら販 売店さんとうまくやれるのかな、などいろいろと悩んでい ました。そうしたら上司にこう言われたのです。 「性格を 変えようなんて、そんな大それたことを考えるな。だけど 行動は変えられる。だから、 『あの人いいな』と思う人の 言動を見て、 マネをしろ。それをずっと繰り返していけば、 そのうち板につくから心配するな」 と。 まだ 30 歳前後だっ た私にとってはコペルニクス的転回で、 「ああそうか。マ ネして行動を変えればいいんだ」と思った瞬間、胸のあた りがとても楽になったのを今でも覚えています。 次は 6 番目、 「 『それで?』 聞き上手の言わされ専務」 です。 これも営業時代の話で、国内営業担当の専務に学んだこと です。 その人は部下の話をとても真剣に聞いてくれる人で、 相手の目を見てうなずきながら、 「なるほどね、僕には専 門外だからよくわからんのだけど、 そうなってるの、 へぇ、 なるほどねぇ。それで?」と聞いてくるのです。これが危 険極まりない。この調子でみんな話を引き出されて、全 部話してしまうわけです。 「問うに落ちずに語るに落ちる」 とはこういうことか、と今にして思いますね。 だから私も、部下と話すときには目線を合わせて「で? へぇ、そうなんだ、へぇ」とか言いながら一生懸命マネは しているんですよ。でもあの域には達せられないですね。 ヒアリング力というのはコミュニケーションの第一歩です から、諦めずに努力していきたいと思っています。
魅力的な人を見つけたら マネをし て自分のものにしろ
5 番目は、 「性格なんぞ変わらん。だけど行動は変えら れる!」です。これも営業のときの話です。私は今でこそ 先人十訓②
其の五:可変行動 性格なんぞ変わらん。 だけど行動は変えられる! 其の六:発言促進 「それで?」聞き上手の言わされ専務 其の七:情理尽力 女房を口説いた時のことを思い出せ! 其の八:悪報迅速 まあそこへ座れ! 其の九:観察熟考 大野さんは答えを教えてくれなかった 其の十:自問真価 競争力はあるのか?
講演後の質疑応答・意見交換より
Q:営業部門の生産性や営業力を高める方法は? 安形:ビジネスフローの整理、面当たり営業、引き継
げる体制づくり、の 3 つを実践しています。モノや情 報の滞留をなくすため、仕事の内容と情報の流れを可 視化することは大事です。 「面当たり営業」とは、お 客様のトップには私が、次の営業本部長に対しては営 で当たることを言います。情報源が一人だけだと、 「技
マネジメン ト成否のカギは コミュニケーショ ンにある
7 番目は、 「女房を口説いたときのことを思い出せ!」 です。営業から生産に戻って課長になったとき、上司にま ず言われたのは、 「君たちは『部下と対等なコミュニケー ションを心がけます』などと言うけど、そんなに簡単なも のじゃない。ポジションパワーを意識しなきゃダメだ」と いうことでした。 「べき論だけでは人は動かない。とくに 下の人間に向かっては、女房を口説いたときのことを思い 出せ。 『こんな話をしたらどう思うかな』とか、あのとき ほどコミュニケーションにエネルギーを使ったことはない だろう?」と。 この話は、私も昇格辞令を渡すときに必ずしています。 「昇格したのだから、今まで以上に部下にハンデを与える ようにしてください」と。そのようにしない限り、とくに 下に対するコミュニケーションはできませんから、かなり
業本部長が、というように上から下まで各階層に「面」 術部長が反対していたのを知らず、後で結論がひっく で営業情報を取ることは大事です。また、こうした体 制をつくっておけば、いずれ私や先方のトップがいな くなっても、次につながっていくのです。
り返ってしまった」ということもあり得るので、 「面」
Q:安形社長にとってのトヨタの文化、DNA とは?
安形: 「5 なぜ」で真因の話をしましたが、もう 1 つ大
事なのは「そもそも何のためにやっているんだ」と真 の目的を追究することで、それらに対する執着力は相 を徹底的に追究する、というところが強みであり、文 化、DNA なのかなと思います。 当強いと思っています。ですから、 「真因」 や 「真の目的」
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安形 哲夫
Tetsuo Agata
1976 年 2004 年 2008 年 2011 年 2013 年 2013 年
トヨタ自動車工業株式会社(現・トヨタ自動車株式会社)入社 常務役員 専務取締役 株式会社豊田自動織機 取締役副社長 5 月 株式会社ジェイテクト 顧問 6 月 取締役社長(現任)
意識しています。 8 番目は、 「まあそこへ座れ!」です。私が新車進行管 理部で課長をしていたときの部長の話です。そこは進行中 のプロジェクトの問題解決をする部署だったので、上へは 悪い情報しか来ません。その部長は、誰かが飛んでくると 机の上をさっと片付けて、 「まあそこへ座れ」 と。で、 ニカッ と笑って「どうしたんだ?」と斜めではなく必ず正対して 聞いてくれました。あの姿勢は今でも忘れません。 その後、何代か後に私もそこの部長になりましたが、つ い顔に出てしまいますね。 部下は悪い話を持ってくるとき、 ものすごくナーバスになっていますから、こちらの顔がピ クッとしようものなら二度と来ません。ニカッと笑って受 け止めてあげなければいけない。だから、誰かが飛んでき たら、下を向いて「1、2、3」と 3 回深呼吸して、ニカッ とする努力をしました。魅力的な人のマネはしなくてはい けないと思っているので、現役の間はこの努力を続けよう かなと思っています。 9 番目は、私の師匠たちの師匠である大野耐一さんのエ ピソード、 「大野さんは答えを教えてくれなかった」です。 トヨタの現場改善で若い人をどう育てているのか、有名な 話があります。 問題のあるラインがあっても答えは言わず、 ラインの前にじっと立たせて、わかるまで考えさせるので す。厳しい中にもフォローがあって、人が育つ。私は 65 歳になった今でもつい答えを言いたくなってしまうので、 これは反省しなくてはいけないと思っています。
最後、10 番目は「競争力はあるのか?」です。のちに ダイハツの会長になった方の話です。この方がトヨタの副 社長だったとき、みんなで生産技術の改革を一生懸命や りました。その成果について「このようにして生産性を 2 割上げました」と報告したら、 「それで競争相手に対して どれだけ競争力を確保できたんだ?」と言われたのです。 このとき、ベンチマークがない改善目標は意味がなく、自 己満足でしかないということを厳しく教え込まれました。 この発想は、今でも経営計画を考えるときに活かされて います。競合相手がどのぐらい伸びるのかを予測し、それ より上に行かなければなりませんから、5 年の中期経営計 画を毎年見直して、常に 5 年先を見据えた戦略を立てて います。さらに、10 年、15 年先には世の中や競争相手 はどう変化しているのかを学習・議論する場もつくりまし た。こうした仕組みをつくっておくと、私がいなくなった あとに誰が社長をやっても、最低限のパフォーマンスを保 証できます。それができなければ企業は永続的に発展でき ませんから、この会社に来たときに社長として真剣に、そ して何よりも先に考えたのがこういうことでした。 今日は、 私がこの 40 年近い間にいろんな方にしごかれ、 叱られながら得た教訓を、そして自分自身が今でも大事だ と感じて思って実行していることを申し上げました。何ら かのご参考になったとすれば幸いです。
永続的な発展を目指し、 今、何をすべきか考え続ける
講演を聴いて
本稿は 2018 年 8 月 3 日に開催した JMAC トップセミナーの基調講演を もとに作成したものです。
にとって大きなインパクトがあった事実に対して参加者の皆さんが共感を持たれ、自 分の振る舞いと照らし合わせて、自分の十の教訓に昇華されたのではないかと思いま す。トヨタの人の育成、人材の層の厚さも改めて認識させてもらいました。
JMAC・代表取締役社長
安
形社長のお話のうまさもさることながら、先人の十の教訓、それぞれを自分 が正にその場にいるような臨場感を持って聞くことができました。安形社長
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〜「この研究は私がやる」 一人称の「やりたい」が新価値を生みだす〜
ビジネス成果に向けて 企業事例をご紹介します。 JMAC が支援した
技術シーズ探索で お客様に驚きと感動を
株式会社ノーリツ
開発は「楽(らく) 」ではないが、 「楽しい」――技術者のもの ゆえに開発の現場においては、技術者が「やりたいこと」と企 業が「求めること」をどのようにつなぎ、成果に結びつけるか づくりへのモチベーションは、こうした想いに支えられている。
が重要となる。ノーリツでは、技術者たちが本当にやりたいこ しつつある。そこには、実業務とプロジェクトの両立に悩みな の軌跡と今後の展望を伺った。
とを追究できる場をつくり、技術シーズ探索で一定の成果を出 がらも、活動を楽しむメンバーの姿があった。今回、その活動
取締役 兼 常務執行役員
腹巻 知 氏
Satoshi Haramaki
ミッションは新価値創造 それは 3 人の特命チームから始まった
ガス給湯機器でおなじみのノーリツは、戦後間もない 1951 年(昭和 26 年)に創業した。 「お風呂は人を幸せ にする」という想いを原点に、戦後の復興期に人々の生活 環境を向上させるべく、日本における風呂文化の普及に尽 力してきた。創業から 67 年経った今、 「NORITZ」のロゴ とともにわれわれの生活に浸透した自宅風呂文化は、日本 の良き習慣として定着した。 しかしこの 10 年で、ノーリツは大きな環境の変化を迎 えた。新築着工件数の減少とともに国内需要も減りつつあ るのだ。結果、原価低減に注力する時代が長く続いた。こ
うした中において、開発部門の技術者たちは目先の業務に 忙殺され、 「新しい価値を生みだす」という本来の研究開 発にはなかなか取り組めずにいたという。 この現状を変えるべく、動き出した人物がいる。腹巻知 氏(取締役 兼 常務執行役員 研究開発本部 本部長 国内事業本部 温水事業部 部長)だ。腹巻氏は 35 年前 の入社以来、技術畑を歩んできた。グループ会社での社長 を経て 7 年前にノーリツの研究開発本部に戻ったとき、 「開 発部門はコストダウンするための部隊ではない。新しい機 能を開発し、 商品に付加価値を生んでいくことこそが、 ミッ ションのはずだ」と感じたという。 そこで腹巻氏は翌 2012 年、 「先行技術や商品の付加価 値を生むための部門」を発足した。それは 3 名の特命チー
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ムからなる小さな組織だった。そして、すべてはここから 始まった。 た。活動目的は、 「お客さまに驚きを与えるシーズアイデ アの探索」 。全体でテーマの方向性を決めたうえで、チー ムごとに自由な切り口で行うこととした。JMAC の高橋は 定期的にノーリツを訪問し、チームごとに面談をした。そ の中で、ディスカッションしながら「筋の良さ」を見るた めの視点をレクチャーして、次のステップへ進めるテーマ の選定をしていった。 事務局を担いながら 2 年目のメンバーとしても活動し た浜岡益生氏(同 メカユニット研究室 第 2 グループ) は、実際の活動について「最初にどのようなことを調べる のか大枠を決めて、その中で自分の興味のある技術を深堀 りしていきました。 たとえば、 “ 街中で見つけた技術 ” や “ 他 社が使っている技術 ” で気になったものを深堀りしていっ て、 『これをやってみたい』と思ったものをどんどんテー マとして選んでいくのです」と説明する。 社外の有識者に話を聞きに行き、それを取り入れて自分 なりに実験して新たな発見をしたこともあった。また、さ まざまなことを調べていくうちに、自社内で埋もれていた 技術を発見することもあったという。 「社内で過去にやっ ていた人がいると、すぐに話を聞きに行けたのがよかった ですね。 『このときはなぜこうだったか』 『どんな問題点が あったのか』 『その技術は今だったら使えるかもしれない のか』などを知ることができたので、いい発見ができまし た」 (浜岡氏) 今回のようなシーズ探索活動では、未確立の技術を調査 するため、 直近のニーズにマッチすることはなかなかない。 しかし、先のケースでも見たように、そこで得た技術的知 見は、いつか役に立つときが来るかもしれない。そこで、 この活動では 「誰が調べたか」 「検討プロセス」 「得た知見」 などを「技術カタログ」と呼ぶ統一のフォーマットに整理 して、蓄積することにした。濱田氏は「われわれは新規事 業を次々と興す会社ではないので、この活動では事業提案 ではなく 『技術を財産として残す』 ことを目指しています。
濱田哲郎氏 (研究開発本部 要素 技術研究部 部長)
「筋のいい開発テーマ」をねらえ
特命チームのトップとして活動したのが、 濱田哲郎氏 (研 究開発本部 要素技術研究部 部長) だ。ミッションは 「新 しいことを企画・開発・管理する」と幅広く、何をすべき か模索するため「とにかくあちこちのセミナーや展示会に 足を運んだ」という。JMAC と出会う前には、外部講師を 入れて、多くの部門・社員を対象に大規模なアイデア募集 を行ったこともあったが、次につながることはなかった。 その後も模索を続け、さまざまなセミナーに参加する中 で、2013 年、ついに今回の活動につながる「自社技術を 活かした新事業セミナー」 (日本能率協会主催)に参加す ることとなる。JMAC チーフ・コンサルタントの高橋儀光 が講師を務めていた。濱田氏は、講義後に高橋にさまざま な相談をする中で、JMAC に支援を依頼することに決めた という。その経緯について高橋は「 『いろいろとアイデア 発想を行ったが、次につながらなかった』と相談を受ける 中で、 『アイデアを実績につなげる活動を一緒にやりましょ う』という話になりました」と説明し、活動のポイントに ついては「アイデアがいくら面白くても、事業戦略がなけ れば出口まで行くことはできません。アイデアを出口まで つなげていくためには、ビジネスとしての『筋の良さ』を 整えることが重要です」と解説する。 2014 年から始まった活動では、 「3 名の特命チームの 中にいわば『第 4 のメンバー』として高橋さんに入って いただいて」 (濱田氏) 、1 年間かけて先行技術開発テーマ の創出を行った。 そこである程度の成果感を得たことから、 さらにスピード感を持ってテーマを増やすため、研究所全 体で行うプロジェクト活動へと展開することにした。 こうして、2012 年に 3 名の特命チームから始まった活 動は、2016 年 2 月、本部直轄のプロジェクトとして新た なスタートを切った。
アイデアが出口までつながる
若手のエース級メンバーを結集 自由なフィールドで開花する発想力
プロジェクトでは、各部門から 30 歳前後のエース級メ ンバーを選抜し、 3 〜 5 名を 1 チームとして 3 チームつくっ
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ところが事務局の悩みです。ただ、エース 級のメンバーに参加してもらっているこ とが、一番大きな成功の秘訣であると思っ ています。一人ひとりがエース級ですし、 彼らもテーマを 20 個出せと言われたら手 を抜かない。横の人たちがしっかりすごい ものを出してくるので、皆競い合って『よ し、私もこれをやろう』と思えてそれがま
浜岡益生氏 (研究開発本部 要素技術研究部 メカ ユニット研究室 第 2 グループ) 矢部文彦氏 (研究開発本部 要素技術研究部 新機 能研究室)
た楽しい、という話は聞いています」と語 る。 JMAC 高橋は、 「 『楽(らく) 』ではない
今後は、 それを参照した人が『これを調べたのはこの人だ。 話を聞きに行こう』という風にしていきたい」と蓄積した 「技術カタログ」 の共有 ・ 活用を積極的に進めていくとした。
けど『楽しい』という感覚ですよね。負荷的には本当にき ついと思います。エースで日常業務もきちんとやらなくて はいけないという責任感もあって、プラス JMAC からの ノルマもある。それでも終わった後に楽しかったと言って くれるメンバーが本当に多く、うれしいですね。メンバー が自己実現できて、それが会社にとってもよい結果につな がるような活動にしていかなければならないと思っていま す」と語る。
「やりたい」を後押しする仕組み
実業務とプロジェクトの両立に苦悩
2016 年 2 月からスタートしたプロジェクトは、今年で 3 年目に入った。その間の変化について腹巻氏は「報告内 容を見ても、確かにこの 3 年でレベルは上がってきてい ます」と一定の評価をする一方で、 「もっと一人称の『私 がこれをやりたいんだ』という気概がほしい」とも語る。 「せっかく『筋のいい開発テーマ』を見つけても、 プロジェ クト終了と同時に事業部に引き継いで本人は手を引いてし まうのが惜しい。実業務を持ちながらのプロジェクト活動 なので、 どうしても実業務の方が気になるとは思いますが、 そこを突き抜けて 『もう 1 年、 私にやらせてほしい』 と言っ てくれるのをわれわれは待っているのです」 事務局は、多忙な実業務とプロジェクト活動の両立をど のようにフォローしているのであろうか。事務局リーダー の矢部文彦氏(同 新機能研究室)は、メンバーの上長に 対して活動への理解をいかに浸透させるかが重要であると 述べる。 「昨年、2 年目のメンバーたちから『両立は結構 しんどかった』という声がありました。上長に自分たちの ワーキングのたいへんさをもっと周知してほしいとの要望 もあったので、今年の活動では上長への情報発信を念入り に行っています」 プログラムも、試行錯誤しながら「メンバーのモチベー ション向上」と「実務・事業貢献」の両立を図れるよう、 調整を続けてきた。濱田氏は「現実との折り合いが難しい
目指すはプロジェクトのルーチン化 財産を残し、未来への架け橋を築く
今後のあるべき姿について、浜岡氏は「こういう活動を 通じて、新たな技術を生み出していくことを当たり前にし ていきたいと思っています。今後検討するかもしれない財 産としてしっかりと形に残し、欲を言えばそれを着実にビ ジネスにつなげていきたいですね。1 年ではなく継続でき る体制にしていくと、もっと目に見えてわかりやすい成果 物になってくるのではないかとも考えています。事務局と しても、そこをしっかりサポートするためにメンバーの中 に入っていかなくてはいけないと思っています」と語る。 矢部氏は「事務局としては、彼らがいかに楽しく良い活 動ができるかというところを支えていきたいと考えていま す。技術者としては、やはりもっと新しいこと、楽しいこ とをやりたいですね。こういう活動も通じて、いかに良い 爪痕を残していけるかということだと思います。そして、 その成果を認めてもらっていくことになるのではないかな と思っています」と語る。 そして、濱田氏はプロジェクトの統括者としての想いを こう語った。 「今やっていることは、本当に研究開発の仕
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事そのものなのです。それを今はプロジェクト活動として 行っていますが、そこをいかに浸透させ、本業の中に取り 込んでいけるかが課題です。そして、こういう活動を通じ て一人ひとりのポテンシャルが上がっていってほしいです ね。一人称で『私はこれをやる』となって、互いに『君の その研究いいね』と言い合えるような関係を築き、それが 将来も横でつながっているというのが理想です。そういう ところを JMAC さんにきっちりと高めていただきたいで すし、本業の中にいかに取り込んでいくかを一緒に考えて いけたらいいなと思っています」
若手技術者の自由闊達なコミュニケーションが同社の付加価値開 発の仕組みづくりを後押しする。
粗削りでも自分にしかできない 新価値創造を目指せ
腹巻氏には、 「この活動を、メンバーに選ばれることが 誇りになるような活動にして、 『ようやく自分もこの活動 に声がかかった』と思えるような幹部候補の登竜門にした い」という想いがある。 そして、今後の活動に期待することは 2 つあるとした。 1 つ目は、 「闊達なコミュニケーションを横の軸で広げて いってほしい」というものだ。 「今回のように若手層だけ で同じ目標に向かってコミュニケーションをとるという シーンは、今の業務形態の中ではまずありません。若い人 たちが目的を 1 つにして、いろんなことを考えて論議で きる場は今までなかった。これはやっていけばいくほど線 から面になっていくと思うので、こういう活動でしかでき ないコミュニケーションを活発に行ってほしい」 2 つ目は、 「付加価値開発の仕組みづくり」だ。 「温水機 担 当 コ ンサルタントからの一言
器事業はわれわれの事業の中心であると同時に、かなりコ モディティ化(汎用品化)しています。今後は、差別化で きる新商品を毎年ではなくともせめて 3 年か 4 年に 1 回 ぐらいは出せるような『付加価値開発の仕組みづくり』を していきたいと考えています。とくにメンバーが組織内で 上に行けば行くほど、これはかなり現実味を帯びていきま す。ですから、発想が豊かな 30 代のころに、粗くてもい いから付加価値開発につながる発想をこの活動を通して生 んでもらいたい。そして、JMAC さんにはぜひ、私たちに は見えないキラリと光る個性を引き出してほしいですね」 「お風呂は人を幸せにする」――この想いを胸に、ノー リツの若き技術者たちは、今日も新たな価値創造を目指し て走り続ける。
前向きに 失敗を恐れず 行動しましょう
想像力とクイックアクションが RD の創造性を高めるポイント
ノーリツ様に限らず、企業研究所には真面目で優秀な人材が多くいらっ 仮説を有識者にぶつけるのは時期尚早」として、せっかくの技術アイデア を自ら取り下げてしまうケースも散見します。確かに技術としてはまだ未 しゃいますが、その一方で、優秀であるがゆえに、 「ジャストアイデアの
高橋 儀光
チーフ・コンサルタント
成熟であっても、 「限定的な用途でもいいから使ってみたい」という潜在 自らのプライドの殻を破り、 「バカにされるかもしれないが、仮説をぶつ
的なシーン・お客様は存在します。そこに対して前向きな想像力を働かせ、 けてみよう」という行動を素早く起こせたときに事業成果を出せるのです。
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人と組織(チーム)の力を最大化することを目的に JMAC が 支援した企業事例をご紹介します。
技術者の「自覚」と「覚悟」が 組織を変え、未来を変える
〜全員野球で「勝てるチーム」になる〜
製品開発の要は「人」 技術 KI で人材育成を強化する
大日精化工業株式会社は 1931 年(昭和 6 年) 、顔料の 多くを輸入に頼っていた時代に、その国産化を目指して創 業した。以来、 「有機無機合成・顔料処理技術」 「分散・加 工技術」 「樹脂合成技術」の 3 つのコア技術を駆使してさ まざまな製品をつくり出してきた。 今回、取材で訪れたファインポリマー事業部は、ウレタ ン樹脂合成技術と分散加工技術を用いた各種コーティング 剤や接着剤等を供給している。この 6 年は増収増益を続 けており、 業績は順調だ。しかし、 新製品の数が少なくなっ ているという課題を抱えていた。本活動を導入し、主導し てきた佐藤浩正氏 (同事業部 技術統括部 統括部長) は、
改革に踏み切った理由をこう語る。 「新製品をつくり出す のは人ですから、人材育成の強化を図りたいと考えていま した。また、誰が何をしているかを見える化し、個人任せ の『個人商店』から強い技術体制の『百貨店』に変貌した いという想いもありました」 コンサルタントの選定にあたっては数社から提案を受 け、 比較検討した。その過程で、 JMAC の技術 KI セミナー に参加し、技術 KI が課題解決手法として非常に有効であ ると実感したという。 「ファインポリマー事業部は『全員 野球』をモットーにしています。そうした組織風土や組織 課題を考えると、全員参加で力を合わせて取り組む技術 KI の手法は合っているなと感じ、JMAC に支援をお願い しようと決めました」 (佐藤氏) こうして 2015 年 11 月、ファインポリマー事業部は JMAC をパートナーとして、技術 KI への取組みをスター トした。
技術 KI®️ とは
技術 KI(Knowledge Intensive Staff Innovation Plan) は 1990 年代前半に日本能率協会グループが開発したプ ログラムで、組織全体で変革活動に取り組み、組織風
課題の明確化で 「自覚」と「覚悟」を引き出す
技術 KI では、チームで知恵を集め、力を合わせること で仕事の生産性を向上していく。これを日常業務の中で行 うのが特徴で、技術統括部では全員参加で日常業務の効率 化や生産性向上を目指している。 実際の活動について、技術統括部第 1 部 部長の福井 克幸氏は、 「最初にかなりの時間をかけて個人面談をする
(ビジネスの成功) の同時実現を目指す。最大の特徴は、 単なる研修や体験ではなく「日常業務をダイレクトに 変える」ことへの挑戦である。技術 KI は四半世紀以上 社以上、6 万人以上の導入実績があり、欧州・アジアな どグローバルにも展開している。
土の活性化(人・チーム・組織の成長)と生産性向上
にわたって産業界の発展に貢献しており、すでに 200
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大日精化工業株式会社
「個人プレー」から「チームプレー」へ――大日精化工業・ ファインポリマー事業部は 2015 年 11 月、技術体制の強 化を目指し、技術 KI を導入した。活動開始から 3 年目を
迎えた今、技術者の意識と行動は変わり、組織も大きく変 わり始めている。技術 KI を通じて開発現場はどう進化し ていったのか。未来を見据え、10 年後を支える若手技術 展望を伺った。 たのか。 そして、 組織間の高い壁をどのようにして取り払っ 者の育成にも乗り出した同事業部の、活動の軌跡と今後の
ファインポリマー事業部 技術統括部 統括部長
佐藤 浩正 氏
Hiromasa Sato
ようになりました」と振り返り、 「それまではわれわれの 方で研究テーマの振り分けをしていましたが、 面談では 『何 がしたいか』 『そのためにはどうするのか』 『1 年後はどの ような形になっていたいか』といった問いかけをして、 『自 分で目標を決めて、そこに向かってガンバっていく』とい う形にしていきました」と説明する。その後、彼らはどう 変わっていったのか。福井氏は「少なくとも、指示を待つ 状態はなくなりました。最近では、 『ここまでできました』 『ここからはできませんでしたが、こう考えています。こ れでいいですか』という打ち合わせができるようになって きました。自分のやりたいことを宣言し、それに対して向 かっていくことで、個人の責任を持つようになってきたの かなと思います」と語る。 技術統括部第 2 部 部長の廣瀬正純氏は、 「最初は、若 手にどこまで仕事を任せるかが非常に難しかった」と振り 返る。そこで、業務をばらして見えるようにし、合意と納 得をしたうえで、どんどん業務を任せていったという。そ の場では口を出さず、 後でフォローするという方針をとり、 時には我慢を重ねることもあったが、 「彼らは技術 KI で確 固たる方針と根拠を持つようになったので、今では自信を 持って『ここをやっていないから、ここをやりましょう』 と言えるようになりました。リーダーとして育ってくれた なと思います」 (廣瀬氏) 佐藤氏が彼らの成長を強く感じたのは、 「朝礼と夕礼」 で各人が報告している姿を見たときだったという。 「各人 が YWT(Y:やったこと、W:わかったこと、T:次にや
ること)を明確に報告できるようになりました。以前は夕 礼などやっていませんでしたし、朝礼もおはようで終わっ ていたので、こんなに進化するものかと驚いています」 。 また、技術 KI を通じて技術者たちが「自覚」と「覚悟」 を持つようになってからは、 組織も大きく変わったという。 「とくに若手技術者が自分のやるべきことを明確にして取 り組み、近くに困っている人がいたら助けてあげるなど、 組織内で責任ある行動がとれるようになってきました。や はり根底には『ものづくりで社会貢献したい』という思い がみんなにあって、個人も組織も成長して双方のイノベー ションが進んできていると感じます」 (佐藤氏) JMAC チーフ・コンサルタントの星野誠は、 「自覚と覚 悟をみなさんに持っていただきたいというのが 2 年目の 1 つの焦点で、それが目に見えて風土になってきたところは 素晴らしいですね。 一人ひとりが変わりましたし、 リーダー やマネジャーなど、それぞれの階層の役割意識もかなり変 わってきたと思います」と語る。
福井 克幸 氏 (ファイン ポリマー事業部 技術統 括部 第 1 部 部長)
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「若手技術者の育成」においては、若手技 術者が新技術開発に挑戦できる場として「未 来会」を発足した。2016 年 6 月に始まり、 現在は 3 期目だ。 「未来会」では自主性が重視されており、 参加するかどうか、何を研究するかも本人が 決めている。 「こういう技術をやりたい」と いうシーズをもとにマーケティングや社外調
廣瀬 正純 氏 (ファインポリマー事業部 技術統括部 第 2 部 部長) 橋本 明弘 氏 (ファインポリマー事業 部 技術統括部 技術企画推進部 技術 企画推進課 課長)
査を行うメンバーもいれば、何をやりたいの か模索しながら仲間をつくってさまざまなこ とを調べ、何か新しいことをしたいというメ
組織の壁を越えて、 ともに課題解決に挑む
それぞれの部課で全員参加の技術 KI を進める一方で、 同事業部では同手法を活用した「中長期テーマの推進」と 「若手技術者の育成」への取組みも開始した。 「中長期テーマの推進」においては、 「とくに重要なテー マ」や「中長期テーマ」の必達を目指す「テーマミーティ ング」を実施している。テーマ関係者が集うこのミーティ ングで、各テーマの状況を共有し、意見を出し合う。 また、製品部門の重要テーマに関しては、他部門から専 門知識を持った技術者をゲストとして招き、協力を仰いで いる。 「KI を導入する前は、他部門との壁が非常に高く、 自部門のみで活動していましたが、組織の壁を越えてゲス トを呼ぶようになってからは、その壁をいかに低くするか という取組みも行っています」 (佐藤氏) その結果、日常業務においても部や課を越えてアドバイ スし合うようになり、アイデアも集まるようになった。こ の点について廣瀬氏は、 「壁がなくなったのは間違いない と思います。その昔は『他部署に配合は教えない』という 感じがありましたが、今はまったくそういうことはなく、 若手同士で情報を交換しています」と話す。佐藤氏は「壁 がなくなり、 違う視点でものを見られるようになりました。 自分たちだけでは視野が狭くなりがちなので、部外の人に 来てもらい、まず壁を壊してもらって、いろんな考え方を 加えていく。すごく相乗効果がありますね。横串が刺さっ てきたのかなと思います」と語る。
ンバーもいる。 このように、かなり自由な活動ではあるが、年を追うご とにその内容は進化している。これについて、活動推進を 担う事務局の橋本明弘氏(同事業部 同部 技術企画推進 部 技術企画推進課 課長)は、 「1 年目は事務局主導に よる運営でしたが、2 年目以降は参加者主導の活動に変え ていきました。たとえば、2 年目からはキックオフ時に経 営層と参加者が宣言し合い、想いを共有して、双方で未来 会の位置づけがズレてきていないかを確認しています。発 表会の後には、経営層や管理職からのフィードバックや表 彰を取り入れました」と説明する。 佐藤氏は「未来会を通じて、若手技術者が市場調査をし て、技術を使ってどうやって売っていくのか、ということ を自ら考えるようになりました。 『若手技術者の育成』 と 『未 来会』と『MOT(技術経営) 』がうまく融合していて、非 常に成果が出る取組みだと思います」と語る。 JMAC の星野は、 「こうした活動では、経営層の想いと 事務局のサポート・運営がぴったりかみ合うとうまくいく はずですし、実際に良い取組みにつながっていると思いま す。また、自走化できるか否かの転換点は、与えられた枠 を超えて、 『自主的にどうしていきたいのか』を沸き起こ していけるかというところにあります。 そうした意味でも、 橋本さんはきちんと枠を与えて、少し窮屈になってきたら もう 1 回、 『ではどうしたいんだ』というところをうまく 引き出しながら活動を進めてくださっていると思います」 と語る。
経営層と想いを共有し 未来をつくり出す
基盤はできた、次は全員で 勝てるチームづくりだ
今後のビジョンと課題について事務局の橋本氏は、 「活
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動の自走化に向けて今後も自分たちで考え、方向性を決め ていきたいと思っています。テーマミーティングの改善が 本年度の課題ですが、今後はテーマオーナーとだけではな く、これからの技術統括部をつくっていく若手リーダーと も一緒に考えて、同じ方向を向いてやっていく必要があり ます。とはいえ、自分たちだけではできないこともありま すので、今後も JMAC さんに相談しながら進めていきた いと思います」と語る。 第 1 部 部長の福井氏は、 「みんなで苦労しながら、小 さいことでもいいから新技術開発の成功体験をつくってい きたいですね。それができていくと、とてもいい形でサイ クルが回り出すのではないかと思います。将来、みんなで 『あのとき、汗水流してこんな苦労したよね』と語り合え たり、個人個人が『こうやってあのときみんなに助けても らった』 と思えたりすれば、 それが 1 番いいですね」 と話す。 第 2 部 部長の廣瀬氏は、 「まずは中長期テーマの成功 を目指します。そのためには組織力を強化して、全員で勝 てるチームにしなければなりません。今、若手リーダーた ちが少しずつ育ってきていますので、今後は彼らがさらな る成長を目指すことを期待して、活動を続けていこうと 思っています」と語る。
▲自主性が尊重される 「未来会」 。会社の未来を若手が真剣に 議論する。 (写真提供:大日精化工業)
後さらに出てくることでしょう。JMAC さんには何でも相 談でき、課題解決していただけるので、パートナーに選ん で間違いなかったと思っています。課題解決に向けての ゲスト招致や未来会など、今やっていることの一つひとつ は JMAC さんのアイデアによるものです。今後は事務局 がそういった創意工夫をしていかねばなりません。それも JMAC さんと一緒にやっていきたいという想いがあります」 今後のビジョンと課題については、 「近々の課題は『中 長期テーマの成功』と『若手技術者の育成』であり、将来 的には技術 KI による活動の幅を広げていきたい」と語る。 「未来会の見学に来た他の事業部から、 『若手の育成にはす ごくいい手法だ、ぜひ参考にしたい』との評価をもらうこ ともあり、技術 KI の有効性が認識されてきたと感じてい ます。当事業部の現場では、いかに人を育て、知的生産性 向上サイクルの循環を良くしていくかを目指しています。 その点、技術 KI はとても良い手法ですから、これからも 活用していきたいと思っています」 「個人プレー」から「チームプレー」へ――ファインポ リマー事業部の技術者たちは、 強力にタッグを組みながら、 今日も新技術開発に挑み続ける。 未来をつくります マインドが 自主経営の
今後のさらなる成果に期待 若手技術者を育て、未来を託す
統括部長の佐藤氏は、活動の成果と今後への期待をこ う語る。 「組織間の壁がなくなり、オープンな雰囲気で何 でも相談し合える技術体制になりました。技術開発も進 み、特許の件数もかなり増えています。その事業成果は今
担 当 コ ンサルタントからの一言
技術部門の改革は職場づくりから
仕事に追われる技術部門においては、改革・改善活動がやらされ仕事になって しまい、当事者が十分なメリットを感じられないまま、一過性で終わってしま うことがあります。幹部が掛け声をかけても、技術者一人ひとりの自分ごとに ならないと改革は進みません。大日精化工業様では、幹部の想いと技術者の意 思がつながり、自ら「良い職場をつくる」 「未来をつくり出す」といった自覚 と覚悟の風土を醸成できたことが本質的な活性化を生み出しています。大日精 「未来に興味を持とう」の DNA が伝承されています。
チーフ・コンサルタント
星野 誠
化工業様の企業理念である「人に興味を持とう」 「新しいことに興味を持とう」
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経営基盤の強化に向けたさまざまな取組みについて、
JMAC が支援した事例を紹介します。
〜「自分ごと」だと気づいたときに、活動は回り始める〜
組織横断プロジェクトで 人をつなぎ、強い工場をつくる
コストダウンを徹底し 赤字経営を立て直せ
兵庫県尼崎市に本社を置く SEC カーボンは、1934 年 (昭和 9 年)の創業以来、一貫して炭素(カーボン)の世 界を追究し、その機能を活かして日本の産業の発展に貢献 してきた。アルミニウム製錬メーカーの電解炉に用いられ るカソードブロック(SK-B) 、鉄鋼メーカーの電気製鋼炉 に用いられる人造黒鉛電極、半導体や宇宙航空分野をはじ めとした先端技術を支える特殊炭素製品など、 独自の技術、 生産体制から生まれる高機能製品は、現在では国内のみな らず海外でも高い評価を受けている。 今回、取材で訪れた京都府福知山市の京都工場は、50 万平方メートルの敷地を有し、世界トップクラスの一貫生 産工場である。1974 年の竣工以来、盤石の体制で国内外 への製品供給を行ってきた。しかし、3 年前に市場の需給 バランスが崩れて生産量が激減してからは、赤字経営を余 儀なくされてきた。 同社は厳しい経営環境のもとで、経営の立て直しを図る べく外部機関の支援を受けることを決断した。当時、京都 工場長として本活動を導入し、その後 2018 年 5 月に代 表取締役社長に就任した中島耕氏は、 「国内外の同業他社 と戦っていくためのコスト削減は従来から行っていました が、それは自分たちのやり方の延長線上でしかなかった。 ですから、今度はコンサルタント会社に入ってもらい、違 う切り口で取組みをしたかったのです」と語る。また、ど ちらかというと保守的な職場環境だったため、 「新しいこ とに自ら取り組むパワーを養ってほしい」という想いもあ り、部門を超えた組織横断的なプロジェクトという方法を とることにしたという。 コンサルタントの選定にあたっては、数社から提案を受 けて比較検討した。選定に関わった岩井清一氏(執行役員 経営企画室長)は JMAC を選んだ理由について、 「JMAC は実績がとても豊富で、提案内容もわれわれ製造業に一番 フィットしていました。Q(品質) ・C(コスト) ・D(納期) を基本に、製造業がどう体質改善し、コスト削減をしてい けばよいのかを提案してくださったので、経営陣の理解も 得やすかった」と述べる。 こうして 2015 年 8 月、SEC カーボンは JMAC をパー トナーとして、コスト削減に向けた新たな取組みへと踏み 出した。
「またやるの? 」 逆風の中のスタート
プロジェクトのスタートにあたり、まず行ったのは「工 場診断」だ。現状を分析し、あるべき姿との差異を「削減 余地(ロス) 」として導き出す。現場測定やヒアリングな
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SEC カーボン株式会社
改善活動においては、時として活動の真の意味が理解されず、なかなか動 京都工場でも、コスト削減プロジェクトにおいてこれまでに経験のない新 3 年目の現在では自走化が進んでいる。いったい、何がメンバーたちをこ き出さないメンバーたちに頭を抱える企業も少なくない。SEC カーボン・ たな取組みに戸惑いながらのスタートを切ったが、次第に積極的になり、 こまで変えたのか。そして、全社的な取組みを目指す中で、工場で「自分 のところは自分でやる」ことが習慣となっていたメンバーたちはどのよう に変わっていったのか。今回、活動の軌跡と今後の展望を伺った。 代表取締役社長
中島 耕 氏
Koh Nakajima
どを通じて現状を分析した結果、約 5 億円のコスト削減 が可能と見込まれた。実際の活動では、購買、保全、電力 など、 コストダウンの切り口ごとに 6 つのチームを編成し、 チームリーダーが中心となって進めていくことにした。 こうして本格スタートしたプロジェクトであったが、メ ンバーはみな、 「 『またやるの?』という面もあった」と語 るのは泉司氏(執行役員 京都工場 技師長)だ。ちょう どそのころは、コスト削減のほかにも複数のプロジェクト が動き始めた時期で、活動を掛け持ちしているメンバーが 多かったのだ。 そのうえ、 工場では工程ごとに仕事が決まっ ていることから「自分のところは自分でやる」という慣習 が根付いており、組織横断的な活動にはなじみにくいとい う背景もあった。 しかし、スタートから 3 年目に入った今では、メンバー の意識と行動は大きく変わり、着実に成果を出し続けてい る。当初打ち立てた社内目標の「2 年間で 3 億円のコスト ダウン」はすでに達成し、現在は新たな目標に向かって邁 進しているところだ。逆風の中で始まったこのプロジェク トは、いったいどのような経緯でここまで大きな変化を遂 げたのであろうか。
活動が軌道に乗るきっかけとなったのが、チーム同士の 「相互刺激」だ。先陣を切ったのは購買コストダウンチー ムで、ここでは主に工場で使う消耗品や工具を調達してい る。それまでは 1 社購買だったが、2 社購買にして競争購 買を行い、購買価格の低減に成功した。1 社購買の時代に は要求仕様書を作成していなかったため、メンバーたちは その作成方法を習得し、競争購買に臨んだ。当初、新たな 取組みに戸惑いのあったメンバーたちは、成果が目に見え るようになってからは積極的に取り組んでいった。 その様子を見て次に動き出したのは、保全チームだ。そ れまでは設備の修繕を外注していたが、内製化を進めて修 繕費の低減に成功した。当初は工作や溶接などのスキルを 持つメンバーが自分の職場の設備を修繕していたが、2 年 目に入るころには、そのスキルを駆使して自分の職場以外 の設備も修繕するようになっていった。 この間のメンバーの変化について泉氏は、 「最初はみん なバラバラで動いていましたが、集まって半年ぐらいやっ ていると少しずつ成果が出始めたので、活動に対する理解 が徐々に深まり『みんなで協力してやっていこう』という 雰囲気になっていきました」と振り返る。 JMAC のコンサルタント吉川太清は、 「最初はなかなか メンバーが動いていない状態があったのですが、中島社長 の説得で活動の真の意味を理解したメンバーが動き出すと 他のメンバーも動き出し、成果が出てよく回るようになり
「他人ごと」 から 「自分ごと」 へ 納得感が人を動かす
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ました」と振り返る。 こうして、 「他人ごと」 のように捉えられてなかなか軌道 に乗らなかった活動は、 「自分ごと」 としての活動に変化し、 さらにはチームで力を合わせて成果を出すまでになった。
に全員参加でプロジェクトの成り立ちや活動内容をまとめ てもらい、これにあわせて社長や工場長のコメントも掲載 している。その目的は、社内での情報共有はもちろんのこ と、 メンバーの活躍する姿を家族に届けるところにもある。 機関紙を自宅に持ち帰り、 家族から「がんばっているね!」 と言ってもらえることが何よりの喜びであり、一番のモチ ベーションになるとの考えからだ。そのため、できる限り 多くの写真を掲載するよう心がけている。こうした事務局 による地道な盛り上げ活動により、全社的な活動はさらに 加速していった。
全社で活動を共有し、 部分最適から全体最適へ
プロジェクトは、従前より注力してきた電力費低減の活 動も加速した。炭素質の黒鉛化の過程では 2000℃以上の 熱処理を要するが、SEC カーボンでは焼成品に直接通電す るジュール加熱の方法を採用し、3000℃近くまで温度を 上げている。これにかかる電力費は膨大かつ製品原価に占 める割合が大きいため、 その低減はコスト削減に直結する。 プロジェクトの中では、より短時間で通電できる送電方 法を開発したり、電気料金の安い夜間帯で集中的に稼働し たりして、試行錯誤の末に大幅なコスト削減を実現した。 工場長の田畑洋氏(執行役員 京都工場長)は、 「黒鉛化 電力の削減については、以前より技術委員会が地道に取り 組んできました。しかし今回、プロジェクトの中の 1 つ のテーマとして取り組んだことで意識が切り替わり、活動 を加速できたと感じています。改善には多角的な視点を要 するため、そこが難しいところでもありますが、大きな成 果が出たときには達成感がありますね」と語る。 こうして、プロジェクトを通して人と組織が変わり、技 術面での成果をも生み出していった。また、最初こそ組織 横断的な活動に慣れないところがあったが、次第に「全社 的な動きとはこういうものなんだな」と理解し始めてから は、急速に自律化が進んでいったという。 この全社的な活動を盛り上げたのが、事務局(経営企画 室) が発行する機関紙だ。 プロジェクトに関わっている人々
岩井清一氏(執行役員 経営企画室長)
3 年目は体質強化を目指す カギは 「自律」と 「継続」
2015 年にスタートしたプロジェクトは、今年で 3 年目 に入った。市況の回復とともに生産量が大きく伸び始め、 コストダウン活動もすでに自律可能となったことから、現 在は次のステージである体質強化へと活動をシフトしてい る。装置産業である同社は設備強化に注力しており、保全 スキルや設備エンジニアリングスキルの向上を図っている ところだ。 今後の展望について、経営企画室長の岩井氏は、 「今ま では『過去はこうだったからこのようにやっています』と いうやり方が多かったのですが、このプロジェクトで『な ぜそうするのか』というロジックを繰り返し考えるように なり、組織も大きく変わりました。経営陣への説得材料を 自分たちで集められるようになったことも大きな変化でし た。コストの削減は永久の課題ですから、今進めている自 主展開を継続し、今後も自分たちで毎年目標設定をして削 減していくことが必要です。体質強化に関しては、保全ス キルなどをよりレベルアップできるような形で継続できる ように進めています」と語る。 技師長の泉氏は、 「最初は『自分はこの仕事だけやって いればよい』 というところがあったのですが、 このプロジェ クトの中で横のつながりができて、 『自分たちの世界だけ ではなく周囲も見ていこう』という流れができたところが とてもよかったと思います。また、物事を進めるうえで、 私たちではなかなか話が通らないことでも JMAC さんだ とみんなが話にのってくれました。お墨付きをもらうと仕 事が進みやすいので、そういうところは引き続きお願いし たいと思います。ただ、いつまでも見ていただけるわけで
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はないので、今まで自分たちでやってきた ことを継続できるような形を早くつくって いかなければならないと思っています」と 語る。 工場長の田畑氏は、 「やはり弊社は装置 産業ですから、まず設備が第一です。安 全、生産性、品質管理、環境保全といった 工場に求められる基本的なことを検討する 中で、装置の詳細な設計までは必要ないに しろ、 『装置の構成はこうあるべきだ』と
田畑 洋氏(執行役員 京都工場長) 泉 司氏(執行役員 京都工場技師長)
いう考え方の整理くらいは自社でできるようにしていかな ければなりません。弊社の工場には保守的なところがある ので、そういうところを打破して、新しいものに取り組ん でいく文化を根付かせていかなければいけないと思ってい ます」と述べた。
適所で人事異動を行い、刺激を与えながら組織づくりをし ていく予定です」と述べる。 また、 今年から新たにスタートした中期経営計画のもと、 「この 3 年間でさらなる経営基盤の強化を図っていきたい」 とする。その中で、原料を仕入れてモノをつくって売ると いうビジネスの部分については、 「全体最適につながる戦 略をつくり上げて、粛々と進めていく」考えだ。そして、 工場での取組みについてはこう語った。 「当社が行ってい るコスト・設備・品質への取組みの中核にこのプロジェク トを位置づけています。ここから出てくるコストダウンの 効果もさることながら、プロジェクトを進めることによっ て、人と人との関係がうまくいくようになったり、組織力 が上がったりして、それが経営基盤の強化につながってい くことを期待しています」 コストダウンから体質強化へ——新たなステージを目 指し、SEC カーボンの挑戦はこれからも加速し続ける。 「自分ごと」
経営基盤強化の要は 「人」 プロジェクトを核に飛躍する
中島氏は、今後の最大のテーマは「設備投資」と「人と 組織づくり」の2つであるとする。竣工から 44 年経った 京都工場の設備は老朽化しているため、向こう 2、3 年で 生産能力増強に向けた設備投資を積極的に進めていく考え だ。人と組織づくりに関しては、 「今後は、自ら課題を抽 出し、それに自主的に取り組んでいける人材を育成してい きたいと考えています。そして、彼らがこうしたいと提案 してくれたことに対しては、できる限り応えていきたいで すね。また、管理職を含め、現場で中心になって引っ張っ てくれる人をもっと育てていきたいと思っています。適材 担 当 コ ンサルタントからの一言
いきましょう
より広げて
マインドを
目的の理解で主体性を生み出し成果で高める
プロジェクト活動がうまく進むためのポイントの 1 つにメンバーの主体性があ ります。主体性を生み出しかつ高めるためには①目的の理解、②成果の実感の ダーを中心に本活動の目的を発信・浸透を粘り強く進めていただきました。そ の後、少しずつ「②成果の実感」が出る中で活動が加速度的に進むようになり 2 つが必要です。 「①目的の理解」 では SEC カーボン様社内でもプロジェクトリー
吉川 太清
コンサルタント
ました。まさに「他人ごと」から「自分ごと」へのシフトです。現在、その主 体性はキーとなるメンバーから広がりを見せています。より多くの社員に広が り、最終的には企業風土・文化として定着していくことを期待しています。
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JMAC EYES
最新のコンサルティング技術・事例・実践方法などについて コンサルタント独自の視点で語ります。
経営を支える人づくり 〜変化に対応できる組織能力とは〜
ラーニングコンサルティング事業本部 副本部長 人材・組織開発ユニット担当 シニア・コンサルタント 側から気づきにくい自社の長所を発掘
伊藤 晃 Akira Itou
「変わる・変わらない/変える・変 えない」をマネジメントする
企業の持続的成長には革新が不可欠で す。人づくりはその基盤であり、もっと も影響力の大きい要素です。誰が何を意 思決定し、どのように取り組んだか、す なわち人と組織の行動が結果を左右しま す。個人と集団が持つポテンシャルを企 業総体としての業績にどうつなげるか が、経営の要諦です。
し、内部人材は外部人材との違いを乗り 越えて経験価値を自社に取り入れる―― つまり、変革の方向に沿って新しい学習 を始める柔軟な「組織学習能力」がある かどうかが、成否を分けるということで す。 では柔軟な組織学習能力を持つにはど うしたらよいのでしょうか?
発意・継続・伝播が 行われているか
2つ目のアプローチは、「発意・継 続・伝播」のマネジメントです。人材マ ネジメントをご支援するときは「iik=意 を活かす経営(iは勇み立つ人、kは支え iikの要素が発意・継続・伝播なのです。
合う姿)」を根底に据えています。この 「発意」とは「何かしたい」という思 いから行動することです。抵抗にへこた れず、結果につなげ、たゆまない「継 続」を続ける。そして、これらを適切に 「伝播」する組織では、結果がもたらす 現在そして将来の意味に目を向けます。 変化対応力の高い組織には自ら発意する 社員が多く、管理職も部下の発意と継続 を支えています。発意が時や場所を超え て伝播する組織風土があるのです。この ような組織には、厳しい環境下で変化対 応を余儀なくされるような局面にあって も、変革を実現できるポテンシャルが十 分あると言えます。
革新への取組みとは「変わる・変わら ない/変える・変えない」を最適にマネ ジメントすることであり、もっとも難し いのは人の価値観の変革です。 優れた変革が実現できたケースとうま くいかなかったケース、その違いは何な のでしょうか?
学びの原則を どこまで実践しているか
1つ目のアプローチは7つの「学び」 の原則です。なかでも前半4つ「学んだ ことをすぐ実践に移す(1.実践)」「経験
したら“今度どうするか”=教訓をまとめ
る(2.教訓)」「当たり前になるまで繰 り返す(3.反復)」「コツやノウハウを 整理して明文化する(4.原則)」は、学 びの文化の有無によって変革能力に大き な差が出てくると感じます。後半3つの
柔軟な「組織学習能力」 =変革能力
発想が革新的であるほど既存の文化と の衝突が起きますが、それらを前進のエ ネルギーに変えられる組織こそ変革能力 が高いと言えます。たとえば既存事業と 新規事業の特性の衝突は、外部人材と内 部人材の関係に表れます。外部人材は内
5.共有、6.伝承、7.触発は他者の言葉か ら自己の行動を変える非常に高度な組織 能力を高める学習性と言えるでしょう。 これらのことが組織風土になっている 企業は、しなやかに変革していく能力が かなり高いはずです。
「発意」の メカニズムを動かす
「ある状況や局面で、個人や職場や会 社のポテンシャル(=潜在的な可能性) を理解し信じる気持ちがあり、そこに何 らかのきっかけとしての出来事が作用 し、ふっと意が生まれる」これが発意の メカニズムです。自己や職場や会社の多 様な可能性に目覚めるほど、発意のきっ かけが増えていきます。 変化対応力を高める人づくりの根幹は 何か?――その見極めこそ、人材戦略の 急所と言えます。
1983 年 JMAC 入社以来、業務改革の推進コンサルティ ングを中心に経験を積む。企業独自のコア・バリュー と直結した「知恵と活力を高める」人材マネジメント 革新を支援。“ 組織や制度を変えても人の意識・行動 がプラスに変化しなければ革新ではない ” という見方 を重視し、組織学習体質を強化するためコンサルティ ングを展開。現在は iik「意を活かす経営」を提唱・支 援している。支援業界は自動車、運輸、繊維、製薬、 精密機械、銀行、商社、経済連。著書『キヤノンの人 事革新がすごい!』 (あさ出版)ほか。
伊藤 晃 プロフィル
本記事は JMAC のホームページで連載中の「JMAC EYES」の要約版です。完全版は www.jmac.co.jp/jmaceyes で。
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編集部からの耳より情報
JMAC トップセミナーのご案内
〜経営革新を推進する先人から学ぶ〜
「JMAC トップセミナー」は、日本を代表する経営トップの方をお招きし、経営者として改革を断行された視点・ 考え方などをお話しいただく経営トップ向けセミナーです。
11 月 27 日 開催
(火) 2018
15:00 〜 18:30
基調講演
オリンパス株式会社 代表取締役社長執行役員 笹 宏行 氏
11 月 27 日 (火)の 「JMAC トップセミナー」では、オ リンパス株式会社 代表取締役社長執行役員 笹 宏行氏 をお招きし、 「グローバルヘルスケアカンパニーへ向けて の挑戦」と題し、ご講演いただきます。 「経営のヒント」 「改革や革新の視点」など、ご本人か ら直接お聞きできる機会です。ぜひご参加ください。
会 場:ステーションコンファレンス東京 定 員:50 名(お申込み順)
(千代田区丸の内 1-7-12 サピアタワー) 対 象:経営トップ層、部門長の方々
参加料:10,800 円(消費税込)※参加者交流費を含む
URL
www.jmac.co.jp/seminar/
東京 大阪
第 3 回「品質保証実態調査」初の報告会を開催
JMAC 提言 「これからの品質保証」
日本能率協会コンサルティング (JMAC)では 実態をまとめております。内容は調査結果の集 計、経営コンサルタントによる分析・考察、提 言という構成になっています。 東京開催 大阪開催 プログラム 2018 年 2018 年 (月) 11 月19 日 約 10 年前から定期的に日本製造業の品質保証 (火) 11 月 20 日
※会場は WEB にてご確認ください。 14:00 〜 16:00
これまでは、各時点で実施した実態調査の 「報告書」の形で公開しておりました。今回は 活動 10 年経過という節目もあり、概要報告と 提言を中心に初の報告会を開催します。 回答にご協力いただいた企業だけでなく、業 結果は実態調査にご協力いただいた企業のみに
第 1 部:コンサルティングの現場から 「品質保証」の最近の傾向 第 2 部:報告 第 3 回 JMAC 「品質保証実態調査」実施結果概要 第 3 部:提言 次世代 「品質保証」 第 4 部:質疑応答 講師&実態調査メンバー
種を問わず広く参加をお待ちしております。自社 どにお役立てください。
の品質保証レベルの確認や目標レベルの設定な
松田 将寿 (シニア・コンサルタント)/ 石田 秀夫 (シニア・コンサルタント) 辻本 靖 (チー フ・コンサルタント)/ 神山 洋輔 (チー フ・コンサルタント)
お申し込みは WEB で (参加無料)
www.jmac.co.jp/seminar/open
機会があって月 1 で半年間ほど 「カメラ講座」 に参加。 10 年以上も前の一眼レフ (レンズはフィルム時代のもの) を持参したら、 講師からは骨董品扱いされ、 新型の購入を勧められた。暗に「この性能の低さをキミの腕でカバー することはできないよ」と言われた感じがした。こんなとき、素直な自分はすぐに新型を購入(ミラーレスです けど) 。今号の取材写真は、すべて新カメラで撮影したもの。 「腕」のなさを性能がカバーしてくれたと信じる。
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- ※会場は WEB のお申し込み時にご確認ください。
東 京 開 催
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ヤンマー株式会社 人事労政部 人材開発グループ 山本 英一郎 氏
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Business Insights Vol.67 2018 年 10 月 発行
編集長:田中 強志 編集:柴田 憲文 ライター:山野邊志保
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