ビジネスインサイツ68
- ページ: 8
- 8
アドバイスを受けながら、一緒に探索していきました」と 説明する。探索した 100 の技術は JMAC が提示した評価 項目(尖鋭性・応用性・実現可能性など)で点数付けして、 次のステップに進める技術を選抜した。 これと並行して行ったのが、マクロトレンド調査だ。世 の中の成長商品を調査して、その成長要因から将来のニー ズを予測する。このマクロトレンドと選抜した有望技術を 掛け合わせてアイデアを発想した。 「仮想カタログ」には、 これらのアイデアを 1 つずつ「顧客価値」 「製品・サービ スイメージ」などの視点でまとめていった。 このアプローチの特徴は、それまでの「社会課題起点」 から「技術起点」に転換したところにある。菅野氏は当時 の様子を「われわれは技術者ですから、技術起点になって からはさらに発想が豊かになり、 議論も盛り上がりました」 と振り返る。 翌年の 2015 年は、①「メガトレンド起点」に再度取 り組んだ。2016 年には④「保有コア技術起点」で自社が 保有する技術の進化により展開できる新規事業を企画し、 2017 年には⑤「社会課題 SDGs 起点」で国連が掲げる SDGs(持続可能な開発目標)をヒントに社会課題の解決 を目指して企画した。こうして毎年アプローチを変え、時 には過去のアプローチを深堀りしながら、多角的に新規事 業の企画に取り組んできた。 菅野氏は、 「アイデアを出し続けることは非常にたいへ んですが、JMAC は『どうやったらアイデアをひねり出せ るか』という知見と経験が豊富なので、そこに一番期待し ています」と語る。 JMAC 小田原は、 「新規事業の企画では、日常的にアン テナの感度を高めることが大事です。研究者の方はその専 門性の高さゆえ自分のテーマに集中しがちですが、この活 動で外に目を向けることで視野が広がったのは大きかった と思います」と語る。
ることなく活動を続けられるかが重要となる。 菅野氏は、メンバーの参画意欲を醸成するため、日ごろ から活動の意義を伝えるよう心がけているという。 「研究 所のミッションは事業の未来を担えるような研究をしてい くことであり、未来 Create 活動はそのための活動である、 ということを機会があるごとに話しています」 また、成功のイメージを持つために、新規事業を実際に 成功させた経験者を他社から招き、講演を聞く機会を設け ている。JMAC を介してこれまでに 2 回開催したが、菅 野氏は「社外の講演会では一方的に話を聞いて終わること が多いのですが、この形式だと直接いろいろと話を聞くこ とができたので非常に役立ちました」と話す。 さらに、研究所の中だけで活動を完結させるのではな く、全社に向けての情報発信も積極的に行っている。たと えば、年に一度行われる全社に向けた「研究所の成果発表 会」では、未来 Create のコーナーをつくり、研究者が自 らパネルを使って紹介している。会場には東芝テックの経 営層や各部門の社員が何百人と来場するため、今では「未 来 Create 活動」という言葉は全社的によく知られるよう になった。 「とくに経営層やマーケティング部門からの関 心が高く、その場で参考になる助言を直接受けることがで きるため、メンバーにとって非常に大きなモチベーション になっています」 (菅野氏) JMAC 小田原は、 「今回のような技術を核にした新規事 業開発では、技術者自身が企画に取り組むことで、テーマ に対する夢・意欲を醸成することが大事です。技術者のみ なさんには、事業立ち上げまでのさまざまな課題を解決し ていく中心人物として、 事業化まで諦めない 『覚悟』 と 『粘 り強さ』を持ってほしいと思います」と語る。
さらなる成果を目指して
足跡を見つめ直し、前進する
こうして 2011 年から 7 年間にわたり未来 Create 活動 を続けた結果、いくつかの成果を残すことができた。1 つ の例としては「研究テーマの創出」で、2014 年の③「社 外有望技術起点」から出た研究テーマを事業部に移管し、 研究を継続している。他の例としては「技術中期計画への テーマの反映」で、2016 年の④「保有コア技術起点」か ら出たテーマがこれにあたる。未来 Create 活動から技術 中期計画に反映するようなテーマが生まれたことは、大き
千三つの世界で必要なのは
諦めない「覚悟」と「粘り強さ」
未来 Create 活動では、事業提案のスキルを磨くのと同 時に、メンバーのモチベーション維持にも注力してきた。 本活動のような新規事業の企画はなかなか成果が出にくい ため、千三つ(千のうち三つしか成功しない)とも言われ ている。そのため、いかにモチベーションを保ち、心折れ
- ▲TOP