第2回 DX推進6ステップにトップ自らが取り組め
毛利 大
神山 洋輔
破壊的イノベーションを恐れるな
ハーバード・ビジネス・スクールのクリステンセン教授が著した『イノベーションのジレンマ』には、既存事業の秩序を破壊して業界構造を変えていく「破壊的イノベーション」が触れられている。DXとは、ITの延長戦上にあるものではなく、破壊的イノベーションそのものであるといわざるをえない。
経営の危機感を募らせたトップが「AIを使って何かやれ」と号令を出したというのは、よく聞く話だ。明確なビジョンが描ききれないトップは、部下に丸投げして考えさせる。まさに、戦略なき技術起点のPoC(Proof of Concept)であり、部下が疲弊するだけで結果としてDXは失敗する。経営戦略やビジョンが提示できていないトップと、それをどう解釈すればいいのか悩む部下。まさに両者にとって不幸な出来事である。
データとデジタル技術の活用が、どの事業分野でいかなる新価値を生み出すか。新ビジネスの創出、即時性やコスト削減をも考慮したビジネスモデルの構築。これがDXなのである。DX推進による「破壊」を恐れてはならない。
DXを推進するには、ビジネスや仕事のやり方、組織・人事の仕組み、企業文化・風土そのものを変革していかなければならない。経営トップは自らがこれらの変革に強いコミットメントを持って取り組む表明をすることが大事なのである。なぜなら、社内での抵抗勢力が大きな場合に、トップのリーダーシップがあればこそ、その方向性が示され、英断がなされるからだ。
DXに求められる6つのステップ
ものづくり企業のDX化に向けたプロセスには、DXの方向性の提示し、仕組みの構築と運用や成果を出すことが求められる。そのプロセスの全体像は「6つのステップ」と「3つのポイント」で行われる。このプロセスを着実に、かつ技術の進展をにらみながら組織にビルトインしていかなければならない。
以下に、DX推進の6つのステップでやるべきこと、ステップごとの人選(その役割を担う人)を整理する。
【ステップ1】改革テーマの設定・改革の主導
自社の経営課題や事業課題の解決につながるデジタル戦略を立案し、DXをけん引・推進する。全社の経営を把握できる人材でなければならないので、会社の規模や推進形態によっても異なるが、社長、DX推進プロジェクト責任者や各機能部門のトップ層が担うべきである。
【ステップ2】DXテーマの構造設計・仕組み構築
DXテーマを実現するための仕組みの設計やリソースの調達、ソリューションの具体化、実装までを推進する。ここでは、規模の小さい会社なら社長、DX推進プロジェクトチームや製造テーマであれば生産技術部門の担当者がふさわしい。
【ステップ3】仕組みの実装
要件定義されたDXテーマの実装を行う。生産技術部門や情報システム部門の人材が担当する。しかし、専門的なことはSIer、システムベンダーの協力をあおぐとよいだろう。
【ステップ4】デジタルツールの浸透・教育
DXツールを使いこなして社内に普及していく。各機能部門からの選抜やDX推進プロジェクトチームから選出するとよい。ここでも、専門的なことは教育会社やシステムベンダー、ツールベンダーを活用していく。
【ステップ5】デジタルツールの活用・成果創出
DXツールを活用し、業務成果を出すことが求められる。選出すべき人材は、例えば製造機能のDXであれば製造部門の中核人材といった、ツールを実装する各現場の中核となる人材がよい。ここでも、システムベンダー、ツールベンダーの専門家に支援をあおぐとよい。
【ステップ6】蓄積データの利活用
DXツールから出てきたデータを活用し、新たな示唆・課題設定を行う。製造部門からの選抜や、DX推進プロジェクトチームや情報システム部門からの人選がよい。ここでもSIerやコンサルティングファーム、分析ベンダーの支援は欠かせない。
以上のステップを着実に行うことがDXには求められる。さらにこの6ステップを統括する役割も非常に重要である。経営戦略との調整、自社内に留まらない組織間との連携や社内にある別のテーマとの整合性をとることなど、経営に近いところで意思決定できる人材が担うべきである。これを「チーフデジタルオフィサー(CDO)」と呼ぶ。
衝撃的なビジネスを生み出せ!
コロナ禍で日本でもよく見かけるようになったUber Eatsは、もともとは自動車配車のUberである。滞在型旅行を実現した宿泊施設貸出しのAirbnbは、5年ほど前の映画『ホリデイ』(キャメロン・ディアス、ケイト・ウィンスレット主演)で見知らぬ同士のホーム・エクスチェンジ(休暇中にお互いの家やクルマを交換する)として描かれたものだった。この映画を観て、衝撃的なAirbnbのビジネスモデルの全容を知った人も多かっただろう。
CDO Club Japanによれば、4~5年前から使われ始めたCDOという役職は、欧米ではすでに6000人を超えているという。「CDO元年」といわれた2018年以降に、日本でも国内企業でCDO、それに準じる肩書きを持つ人が40人はいるといわれている。
一方、よく似た役職にCIO(Chief Information Officer)がある。CDO Club Japanによれば、CIOは「デジタルで既存事業を守る」役割であり、CDOは「デジタルで企業を変える」と指摘する。
デジタルに立脚したイノベーションには、経営資源である資金調達力、強固なブランド力、顧客基盤をも動かせる立場のCDOにしかできないことだ。事業モデルの再構築を意味するのである。
次回以降は、DX構築に向けたステップごとの人材のコアスキルと自社に導入する場合の具体的な方法を述べていく。
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