第3回 デジタル人材の役割
毛利 大
神山 洋輔
これまで2回にわたって、DX構築のために必要な考え方と役割について紹介してきた。第3回は前回のコラムでも触れたDXに向けた改革のステップごとにデジタル人材から見た役割とそのコアスキルを考えてみよう。
7人のデジタル人材は7つの使命を持つ
突然だが、有名な童話「白雪姫」を題材に登場人物たちのそれぞれの役割について考えてみよう。主人公はいわずと知れた白雪姫本人である。しかし、話は白雪姫の主観(視点)で進行するわけではない。話の中で白雪姫そのものの存在は実は薄い。周りの登場人物たちが生き生きと(悪役も含めて)描かれてストーリーが進行することで、「白雪姫」の物語を魅力的にしている。白雪姫を支える働き者の7人の小人たちもひとまとめではなく、それぞれの性格や役割も鮮明に描かれている。
では、そんな「7人の小人たち」を題材に、企業DXにおけるデジタル人材を担うキャストを「7つの役割・機能」と設定してみた。7人のキャストは、どのような役割があるのだろうか(デジタル化推進のためのステップについては、前回のコラムを見ていただきたい)
以下にものづくり企業DXにおけるデジタル人材の7つ役割を紹介しよう。
【デジタル化の方向性を司る】
1:デジタルマネジャー
自社の経営課題や事業課題の解決につながるデジタルテーマを立案し、DXをけん引・推進する人材を指す。その要件として、自社の経営課題・事業課題・担当機能の課題を理解していること。そしてデジタルの諸技術を概括的に理解していること。さらに自社の課題に対してデジタル技術を活用した解決の姿(UX、プロセス、マネジメント)をデザインできることが求められる。
【DXの仕組みを構築する】
2:デジタルビルダー
DXのテーマを実現するための仕組みの設計やリソースの調達、ソリューションの具体化、実装までを推進できる人材のことである。そのためには、自社のシステムを理解していることに加え、課題から展開されたDXテーマについて必要なデジタルツールの見当を付けることができなければならない。また、デジタルツール導入のための業務要件・システム要件の定義も行う。そうした業務を遂行する際には、外部パートナーを使いこなせる、協業の力量も必要である。
3:デジタルインストーラー
要件定義されたDXテーマの実装を行う人材を指す。デジタルソリューションやツールに関する知識が豊富なことはもちろんのこと、現場の実態や課題を把握し、スムースな現場導入が行うことが役割である。そのための実装に関する知識、技術、経験が求められる。
【社内で運用・成果を創出していくための橋渡し役】
4:デジタルトレーナー
DXツールを使いこなし、社内に普及する人材をいう。ここでいうDXツールとは、クラウドやAI、IoTといった最新のデジタル技術だ。DXの本質と導入されたツールの内容・使用方法を理解しており、不慣れなメンバーに教育・普及することができなければならない。つまり、デジタルツールを活用した業務を浸透させる能力が求められる。
【全社内で運用し成果を創出していく実行役】
5:デジタルプレーヤー
DXツールを活用し、業務成果を出す人材である。導入されたツールを理解し使いこなすことができ、想定していた成果を出すことが求められる。よって、現場にある不足点や改善点を洗い出し、ツールそのものの改良に貢献できなければならない。
6:デジタルスペシャリスト
DXツールから出てくるデータを活用し、新たな示唆・課題設定ができる人材をいう。蓄積されているデータを理解し、その分析と解決方向を導き出す。さらには、新たな改革への仮説を導き出すことができなければならない。世間でいうデータサイエンティストやアナリストのイメージといえる。
【一連のDX推進フローを全体統括する】
7:CDO(チーフ・デジタル・オフィサー)
CDOとは、自社のデジタル化全体の戦略立案と部門間・テーマ間の調合・調整を行う。もちろん、自社の経営課題・事業課題・担当機能の課題を理解していなければ全体像は描けない。自社にとって必要なデジタル戦略の立案と必要なリソースを集め、組織化やプロジェクトを組成できる立場であり、その手腕を持つ社内でも優秀な人材だ。デジタル化が浸透したときの組織風土の構築もする必要がある。
ものづくり企業におけるCDOの重要性はとても大きい。キャストとともに、全社もしくは協力会社などを巻き込み、新たな事業を生み出す手腕を持つ人でなければならない。
デジタル人材に求められるスキル
ものづくりにとって必要な技術全般とデジタル人材が持つべきスキルの関係を下図に示す。これらのスキルは、DX推進にとって欠かせないものなのである。
どの人材にとっても、共通で必要なのが「デジタルマインド」「業界知識」「機能知識」「自社知識」である。
個別に求められる技術は役割ごとに異なる。たとえば、CDOとデジタルマネジャーには、DXツールに詳しいだけでなく、社員個人の目的と企業の目的が一致していないとならないことを熟知して行動していかなければならない。そうした企業のねらいを理解した人材であり、ものづくり企業であれば現場に精通していることが求められるため、管理技術や問題解決技術は必須だ。そのため、ITやデジタルの知識は不可欠だが、必ずしも専門家である必要はない。
CDOとデジタルマネジャーの違いはどこにあるのか。CDOは技術を企業戦略に適用するために、チーム、部門、業界を超えた行動が求められる。さまざまな役割の人たちとのスムースなコミュニケーションのために"翻訳"のスキルは必須である。
次回からデジタル人材の7つについて、その育成の進め方を紹介していく。
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