第4回 学習する組織のラーニング・ジャーニーとは
毛利 大
神山 洋輔
パンデミックで大きく変化した「人材の要件」
これからの経営環境には、いかなる業界であっても、誰がやっても、決して順風満帆な状態が待ち受けているわけではない。私たちは不透明な時代を生きているのである。
では、これからの時代を生き抜く人材とはどのようなものであろうか。あっさりと言えば、「何をやるかを自ら考えられる人」である。ビジネスや経営に携わる者にとっては、すでに指摘され、誰もが認めている人材像だろう。
先が見通せる経営環境なら、明確な戦略のもとで効率的に成果を上げる"How"のスキルが求められる。どのようなシステムを構築し、どのように活用すればいいか、得たデータをどう分析するか、それを社内や担当者にいかに教えていくか。これを軽やかに推進できる人材である。
しかし、ある日突然、世界を襲った新型コロナのパンデミックによって、ビジネスも私たちの生活もこれまでに経験したことがない脅威にさらされた。こんな時代には、Howだけでは通用しない。ことの本質を見極められる能力が必要なのである。すなわ「Whatを見つけられる人材」である。
Whatを見つけられる人材とは、
- 今ここにある課題とは何か?
- 現状のデータから何が示唆できるか?
- 顧客のために何を解決していけばよいのか?
といった視点・考えを持つ人材である。
Whatの人材は、これまでも声高に望まれてはいたが、パンデミックがその重要性に気づかせてくれたのである。
今回のパンデミック同様に、DXがもたらす世界は誰も見たことのない未知のものである。だからこそ、DX時代にはHowのわかる人材だけでなく、Whatがわかる人材が必要なのである。
実際のプロジェクトでDXスキルを身につける
デジタル人材のスキルを個人の学習や研修で身につけるのは難しい。日々変わる生き物のような組織の中で、実際のプロジェクトを推進しながらでしか学べない、こうした学びだからこそ意味がある。
実際のプロジェクトでトライ&エラーを繰り返し、目標に向けて不具合を修正していく。このプロセスが社員の学習能力を高め、組織能力も蓄積させる。組織の全員が能動的に「プロジェクトを推進しながら学ぶ」ことでDXに必要な知識とスキルが身についていく。
これまで知識の習得の場は座学や研修が主流だった。受講履歴や成績の管理でより効率的な学習効果を得るために、LMS(Learning Management System/学習管理システム)を活用したE-ラーニング教育も普及している。さらに進めて、課題設定型の研修(PBL)による学びもある。
しかし、いずれも経営者や人事によって課題が設定されたものであって、個人の学びという観点からすると「受動的」な学びである。
DX時代に求められるのは、組織の全員が知識と技術を総動員して経営課題に取り組むことだ。「能動的」な学びと、プロセスが重要なのである。そのためには「学習する組織」でなければならない。
学習する組織がDX推進をドライブする
学習する組織については、ピーター・センゲが30年前に自著『学習する組織』の中で、不確実性が増す事業環境にあっては、常に進化し続けるために高度な「学習能力」が必要なると指摘している。
目的に向けて効果的に行動するには、集団としての意識と能力を継続的に高めていく組織でなければならない。組織の中で社員は自己との向き合い方、本質を見抜く思考法、幅広い視座、対話する力を習得しながら理念や価値観を共有していく。あらゆる課題に対し、創造と再創造を繰り返す組織開発メソッドである。
日本でも先進企業を中心に取り組んできた例はあるものの、広くは定着しなかった。しかし、ここにきてパンデミックという脅威の中で、DXという解のない経営環境を乗り切るために、改めて学習する組織が求められているのである。
多くのビジネスパーソンが、個別の言葉は聞いたことがあるだろう。「自己マスタリー」「システム思考」「メンタル・モデル」「チーム学習」「共有ビジョン」、この5つのディシプリンで組織の課題に取り組んでいくことが求められる。不透明な時代には、全社員の知恵を結集していくラーニング・ジャーニー(学びの旅)が必要となり、これはDX成功への近道であり、未来の組織のあり方をも示している。
今回は、DXを進めていくための「人材育成の考え方」を紹介した。DX人材の採用や育成は人事部門で片付くものでなく、経営者やCDO(チーフデジタルオフィサー)との連携で採用や教育をしていかなければならない。その役割はこれまで以上に大きい。改めてこの考えに基づき、自社のDX戦略の策定・見直を実施していくべきだ。次回(最終回)は、デジタル化へのステップと求められる人材の配置を紹介したい。
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