第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
毛利 大
神山 洋輔
本連載では、多くの企業がDXを推進する際に誤解しているデジタル人材の採用、育成の考え方を紹介してきた。最終回ではデジタル化へのステップとそれぞれに求められる人材の配置について紹介する。
DX成功のポイントは、自社の課題と経営戦略、事業戦略がつながっていること、DX人材の役割が明確化されていることである。そのステップを実行していくには、まずは適切な役割を担う人材を配置することから始めていく。
第3回で紹介したDX推進の6つのステップをもとに、今度は実行のためのDX推進段階を考えていく。ステップ1は「DX検討」である。これを経て、ステップ2と3の「DX実装」、ステップ4と5の「DX普及」、ステップ6の「After DX」へと進めていくことになる。
この6つのステップに沿って、求められるデジタル人材の育成ポイントを紹介しよう。
ステップ1:DX検討 戦略の根幹を支える人材を選び出す
自社の経営課題を洗い出し、事業の課題を明らかにして、5年、10年先の事業の未来図を構想する。この戦略へとつなげるDX戦略を立案していかなければならないのが、DX検討段階である。それには全社の経営状況を把握できる立場で、かつ経営陣との連携もできる人材が求められる。キー人材はこの段階では、デジタルマネジャー、デジタルビルダー、デジタルインストーラー、デジタルプレーヤーとなる。
これらのキー人材はDX戦略の策定とともに、DXを全社展開する成功体験を獲得したい。1つの事業や1つのプロジェクトで成功へのシナリオをつくり、DXで事業成果を獲得できることを全社に知らしめる重要な役割である。
では、キー人材は何をポイントに推進していくのか。デジタルマネジャー、デジタルプレーヤーは、DXを実際に推進する内部人材を選出し、コアとなる編成チーム、実行部隊をつくっていく。つまり、内部の人材の顔が見える立場として、人材選定とその役割を担えるかどうかを判断していくことになる。
同時に、デジタルビルダー、デジタルインストーラーは、コンサルティングファームなどの外部ベンダーの選定と有効な活用を検討していく。このように、内部の適切かつ成果を導き出せる優秀なスタッフをチームに迎え入れること、そのための制度変更やその整備をしていく。
DX検討段階は、戦略の根幹を支える人材を選び出すための重要な段階である。
ステップ2・3:DX実装 専門人材に頼る前にすべきこと
戦略を実行に移す段階である。ここでは、前段階で策定されたDX戦略を実行するために、短期間で社内でも目立つ成果があるプロジェクトを展開する。この段階では、デジタルビルダー、デジタルインストーラー、デジタルトレーナー、デジタルプレーヤーがキー人材となる。
DX実装段階においては、実際のプロジェクト規模に合わせて、現存する仕組みを改良していかなければならない。推進にあたっては抵抗勢力も少なからずあることが想定されるため、突破力のある人材を配置していく。これが、DX成功へ導く土台づくりであり、担当を任されたデジタルトレーナーの醍醐味である。社内での仕組みを構築しつつ、社内の人材を育成していくことが、デジタルビルダーとデジタルインストーラーに委ねられる。
ここで、やっと専門人材を受け入れるのがよい。こうした段階でないと専門人材を効果的に活用することは難しい。第1回のコラムである企業の失敗例を紹介したが、この点を考慮せずに専門人材に丸投げした結果にあった。
ステップ4・5:DX普及 誰もがDXを志向する人材に
DX普及段階では、ここまで蓄積してきたデータをいかに利活用していくかを検討する。データを分析し、課題を見つけ出していく。次の策を打つために、個別最適から全体最適に向けたDXの実行である。
この段階では、チーフデジタルオフィサー(CDO)、デジタルマネジャー、デジタルスペシャリストがキー人材となる。
1つの工場で展開してきた成果を他の工場へ横展開していくには、CDOの決断と経営幹部への徹底した働きかけを図っていかなければならない。CDOには組織間の整合性をとること、全体最適のテーマを決めていくことが求められる。
それら改革の主導を行うのが、デジタルマネジャーである。経営に直結する人たちの関与があれば、DX普及も社内でスムーズに行えるのだ。
さらに、この段階では全社員をDX人材に育成していくための整備を行う。前回、紹介した学習する組織が、VUCA時代には求められるからだ。実際の事業を展開しながら、全員で知恵を出し合い、課題解決していく組織の実現を目指す。
ステップ6:After DX 組織全体で取り組むDX
初期のDXからサステナブルなDXへしていくために、経営環境に合わせた技術を取り込むことのできるDX人材を育成していく。7人のすべてがキー人材であり、ここでやっと有機的に組織が働き始め、DX活動が回っていく。また、外部の専門家に頼っていたのが、社内でも専門家を養成できている段階となる。これによって、組織全体で取り組むDXが実現できる。
DXの推進と成功には、デジタル人材の有効な活用は欠かせない。推進のステップに合わせ、デジタル人材がすべき役割を明確にし、適切な配置を行いながら社内体制を整備していくのがよい。これがDX成功への近道でもある。
経営トップから丸投げされたDX推進が、数人のデジタル人材やチームで解決できるわけはない。デジタル人材は全能の神ではないのだ。この誤解を一刻も早く解き、全社で社員全体による推進体制づくりを進めてほしいと願っている。
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