お問い合わせ

第2回 定番の手法「CS調査」を見直す

顧客理解・洞察の有効なツールになり得ているか

 「CS」というテーマと「CS調査」は切り離せないものとして普及している。しかし、本当に有効なCS調査ができている企業は少ない。自社に以下のような「症状」が出ていたら要注意である。

col_cs_0201.jpg

1.調査が年間の「恒例行事」になっている

2.調査結果を「経年で比較」している

3.満足度が「高止まり」している

 「恒例行事」になるのは定着化の証ではないか? という意見もあろう。おっしゃるとおりなのだが、私の真意は「毎回毎回、改めて目的と活用方法の確認・合意プロセスを経て実施してほしい」ということである。大前提としてお客さまの評価は変化するからこそCS調査を実施しているはずで、その背景にはお客さま・自社・競合・環境などのさまざまな変化があるはずだ。この変化を捉えるための1つの手法がCS調査なのであり、その調査自体が「恒例」ではいけないと考えるのである。とくに2つ目の症状のように、「経年比較している」場合は要注意である。コンサルタントとしてCS調査の再構築を提案することも多いが、「確かに見直すべきだ。しかし、調査項目は経年比較しているから簡単には変更できない」という企業は非常に多い。これは完全に手段が目的化している状態で、こういう場合のCS調査はほぼ無意味である。

 このような目的の再考、顧客の期待の捉え直し、結果としての調査の要否、内容の見直しといったプロセスを経ていないCS調査には、たいてい上記3つの症状が出る。ある時点ではチャレンジングであった設問内容も2、3年もすれば「できて当たり前」になるものであり、結果として満足度は高まり、不満度は低下する。このような調査も「顧客とのコミュニケーションの中に、年に一度はアンケートという刺激が加わる」という点では意味があるが、それ以上の効果はない。

意義あるCS調査のための要件

 では、どのような要件をクリアすれば、「顧客と自社の関係強めるために有効なCS調査」になるのだろうか。ポイントは3つである。

1.評価ではなく背景にこだわる

 「顧客満足度調査」という言い方が思考や企画の幅を狭めているのかもしれない。「評価」だけでは「問題はどこにあるか」はわかっても「問題の背景」はわからない。背景にある期待や生活実態(B to Bの場合は業務実態)を明らかにするように調査を設計する必要がある。設問自体は評価を問うものであっても、その背景にある期待や実態が設問の表現になければならないし、その前提の仮説として期待や実態を描けていなければならない。

2.前例・通念を捨てる

 「経年比較」を1年間でよいから止めてみてはどうか。せめて経年比較の調査と、本当に必要な調査を分けて実施してはどうか。

 自社内に問いかけるべきは「経年比較し続けた結果、われわれは知るべきお客さまの姿に迫れたか?」である。また、「お客さまにこんなことを聞いては失礼だ」であるとか「お客さまもそこまでは考えていないだろう」といった通念を捨てることも重要である。知りたいという真摯な思いで調査を設計することで、お客さまにも役立つ調査にしていかなければならない。

3.「アンケート」にこだわらない

 上記の点から考えると、慣れた「アンケート」でよいのかという点も考えてみたい。アンケートはその特性上、顧客評価の全体像をつかむことに長けている。しかし、マーケティングに求められるのは、「大多数の認識」ではなく「先駆的な小数の認識」であることも多い。そのためには、アンケートという手法を捨て、インタビューや観察といった手法にトライしてみる価値がある(本コラムのいずれかの回で紹介予定)。

CS調査はマーケティング同様「全社として担う」もの

col_cs_0202.jpgCS調査は「CS推進部」が企画・実施することが多い。調査の主幹部門はCS推進部でよいが、その企画から活用に至るまでは、きわめて多くの部門が関与し結果に関わる責任を持つべきものである。そもそもCS調査は「顧客とのコミュニケーションの1つ」なのであり、かつマーケティング機能の1つなのである。「顧客を生み出し、顧客との関係を強める」ことは、マーケティング部門だけの仕事ではないし、CS推進部だけの仕事でもない。CS調査についても、経営トップを初め、各部門が役割を果たさなければ目的を実現することはできない。

 改めて自社のCS調査について、トップとしてどのような目的・意義を認識しているか、その目的・意義が実現できるように各部は「自分ごと」として参画しているかといった点を、ぜひ見直していただきたい。

※次回はCS調査と並んで顧客理解の重要なツール・素材であるVOC(Voice Of Customer)の活用についてマーケティングの観点から考えていきます。

オピニオンから探す

研究開発現場マネジメントの羅針盤 〜忘れがちな正論を語ってみる〜

  • 第30回 心理的安全性は待つものではなく、自ら獲得するもの
  • キャリア面談で人は変わる!イノベーション人材とキャリアプランの密接な関係
  • TCFDに基づく情報開示推進のポイント
  • オンラインサービスは新たなCXをもたらしたのか? オンラインサービス体験から見えた、メリットデメリット
  • 一人一人の「能率」を最大化させる、振り返りのマネジメント「YWT」のすすめ
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 第5回(最終回) 全社員をデジタル人材に!
  • 【業務マニュアル作成の手引き・後編】マニュアルが活用されるための環境づくり
  • 品質保証の「本質」を考える ~顧客がもつ、企業に対しての「当たり前」~

オピニオン一覧

コラムトップ