第8回 評価制度運用上のコミュニケーション
近年、職場におけるコミュニケーションを改善するためのさまざまな取組みがなされている。今回はそのコミュニケーションについて、とくに評価制度を運用するためのコミュニケーションの視点から考えてみたい。なお、制度運用のためといっても、基本的な聴き方や伝え方などがあまりに雑にならないことはベースとして必要である。
評価制度運用に不可欠な「双方向」コミュニケーション
評価制度を部下の指導・育成に活用するためには、部下とのコミュニケーションは欠かせない。その場面として仕組みの中に各種面談が設定されているが、このような場だけでなく、日常の中で(設定した目標の進捗管理や指導の場面など)、コミュニケーションを取ることになる。
このときのコミュニケーションには、当たり前のようだが、双方向の対話(会話)が成立していることが重要となる。コミュニケーションという言葉自体に双方向であることが含まれているが、実態として一方通行になっていることがあり、あえて「双方向の」コミュニケーションという言い方をすることも多い。話し手側(とくに上司)が一方的に話している、あいさつはするが他に話をしていない、また席は近いが話をしていないなど、コミュニケーションを取っている「つもり」に注意しなければならない。
「双方向」を意識しなければならない理由にはいくつかある。部下の指導・育成を行うためには、上司が部下の現状と課題をどのように認識しているかについて、部下に伝え、部下がそのことを理解し、共有する(本人が自覚する)必要がある。また、評価項目によっては、部下の現状を把握するために、部下の実績・行動を聴いて、引き出して確認することも必要となる。たとえば、「部下の指導・育成」といった項目では、(部下とその後輩が話している場面は見たとしても)その中でどのようなアドバイスをしたかなどは、目で見ているだけでは把握できない。さらには、部下の仕事の状況を把握するには限界がある(すべてを見ることができない)中で、納得感の高い評価を行うために、部下が「上司は自分を見ていてくれている」「上司と話ができた」と思えるようにしていくことがポイントとなる。
評価制度運用上のコミュニケーションの留意点
さて、実際に面談で部下を目の前にすると、なかなか言いたいこと(とくに不足している点、弱い点の指摘など)が言えない上司もいるようである。その際、制度をうまく使って話すことを心がけてはどうだろうか。
評価は期待水準に照らしてその過不足を判断する仕組みである。そのため制度運用上のコミュニケーション内容で前提となるのは、会社・職場でどのような仕事(役割・能力など)をしてほしいかという期待である。その期待を部下に伝える際に、たとえば、それを示す仕組みである等級基準、評価項目名やその着眼点を活用し、お互いに読み込み、共有するというやり方もある。評価は評価者の判断によるので「私としては◯◯◯と思っている」という表現になることは否めないが、その判断の拠り所については「ウチの仕組みでは◯◯◯である」と伝え、自社の社員にとって共通の土俵の上での判断であることを伝えるのである。
期待を伝えることは、評価上で部下をほめるために必要となる。あえて「評価上」と言ったのは、部下の動機づけや指導・育成のための「ほめる」と異なる場合があるからだ。評価上の「ほめる」は期待水準を超えたときにほめることになるが、部下の動機づけや育成のためのほめるは(たとえ期待水準に満たなくても)、以前より良くなったことをほめることもある。これはこれとして大事なことであるが、このときに「以前より良くなっているが、目指すところはここ(=期待水準)だよ」と本来の期待を合わせて伝えておくことを留意しなければならない(下図参照)。
また、評価理由を説明するときには、「〜のような仕事では〜をしてくれた(していなかった)」という具体的な仕事の場面をあげながら説明すると納得感が増す。だからといって、評価対象期間中の具体的な実績・行動を数多く取り上げて説明することは現実的ではない。そのため評価根拠として話題に出す具体的な実績・行動をどのように選択するかは、評価者にとって重要なスキルである。そこで取り上げられた実績・行動が、今期の部下の重点業務に関わること、時間をかけた(かかった)こと、あるいは成否の分岐点になったことなど、重要なことであるかどうかがポイントとなる。日常の中でお互いにそれらを共有するとともに、仕組み上の面談の場面を活用し、期初の目標設定面談時に今期の取組みの重点(目標達成のための重点施策・手段)を、また期末の評価面談・フィードバック時に来期以降の重点(上司から見た育成ポイント、部下から見た成長ポイント)を共有しておくことが大切である(実際の評価に際してはその重点だけで判断するわけではないが)。
コミュニケーションを取るための部下との接点づくり
これまでコミュニケーションの取り方につて述べてきたが、「コミュニケーションが大事なことはわかってるんだけど、そもそも部下と接する場面が(お互い忙しくて)取れない」「物理的に距離が離れていて面と向かって話すことができない」あるいは「シフトなどで勤務時間が部下と合わずに直接接することができない」といった声も数多く聞く。
もちろん、評価制度上は直接評価者が見ることができない場合の評価者体系をどのように組み立てるかということはあるが、上記のような事態に対しては、たとえば1日の行動を振り返り、「どのくらいの接点が取れるのか」また「短時間でもいいから部下との接点は本当につくれないのか」といったことを再確認してもらうこともある。それにより、実は話す機会があったことに改めて気づく評価者の方が多い。評価上のコミュニケーションでは、「部下との接点をどのようにつくるか」から考える必要がありそうだ。
なお、今回は評価者の立場から見たコミュニケーションのあり方について述べたが、被評価者も自社の人事制度の内容を理解し、うまく活用しながら、また上司との接点をつくりながら双方向のコミュニケーションを心がける必要がある。評価の納得感は他の人から与えられるだけではない。自分からも納得しようとする気持ちで評価制度に向かい合ってほしい。
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