第4回 サプライチェーン全体の連携による共同化(その1)
前回までは同業種による共同物流を取り上げた。最近では共同化対象として同業種間のみならず、サプライチェーン全体まで踏み込んだ連携による共同化を目指す動きが始まっている。
これまでの物流共同化のねらいを一言で言うと、「荷量の集約」である。共同化により荷量を集約することで車格・積載率を向上させ、移動単位当たり物流コストを低減することが主たる目的であった。それに対してサプライチェーン全体の連携による共同化のねらいは、「荷の総移動距離最小化」である。メーカー・卸・小売の流通三層が協働して「モノの移動そのものを発生させない」ことにより、物流コストダウンを志向するものである。
この「荷の総移動距離最小化」は、これまでほとんど手がつけられていない領域であり、大きなチャンスが存在している。これまでの共同物流は「荷を動かすこと」を所与としており、その中でいかにローコストで移動させるかが活動の中心だった。一方、サプライチェーン全体の連携による共同化は「荷を動かすこと」を所与とせず、サプライチェーン全体で「荷そのものをいかに動かさないか」をゼロベースで見直す活動である。
サプライチェーン全体の連携による共同化のゴールである「荷の移動距離最小化」を現実的に実現するためには、鍵となるいくつかの成立条件をクリアする必要がある。
サプライチェーン全体の共同化 その成立条件
■「流通在庫量の適正化」の同時実現
成立条件の第一は、サプライチェーン全体で「流通在庫量の適正化」の同時実現を達成することである。物流とは本来的に「時間的・空間的ギャップ解消を実現するための業務機能」である。とくに「時間的なギャップ」を埋めるために必要な機能が「商品在庫」による納品リードタイムへの対応である。荷の移動量をサプライチェーンレベルで適正化するためには、サプライチェーン全体で、どの拠点にどの商品をどの程度在庫しておくのか、という拠点の構造設計とコントロール機能が必要となる。
■取引制度の変更
成立条件の第二は、取引制度の変更である。現状の取引制度の多くは、販売(購入)した量や車単位でのまとまった発注に対して還元する「応量リベート」が中心となっている。すなわち、取引量が多ければ多いほど、リベートとして「販促奨励金」が支払われるものである。
こうした取引制度は、実需と比較してサプライチェーン全体の取引量すなわち移動量を多くする要因となっている。「荷の総移動距離最小化」の方向とは逆行した行動をサプライチェーンプレイヤーに誘引させてしまうのだ。
■チャネルキャプテンによる積極的な関与
成立条件の第三は、サプライチェーン全体を見直すだけの影響力を有したプレイヤーが「チャネルキャプテン」としてメーカー・卸・小売の流通三層間の連携に対して積極的に関与することである。
どの物流共同化のパターンにおいても、共同化を中心となって推進する企業が必要である。とくに、サプライチェーン全体の連携による共同化においては、サプライチェーン間の利害調整が必要不可欠である。利害を調整できるだけの影響力を持つプレイヤーが全体最適の視点からその影響力を行使し、主体的にサプライチェーン構造を再構築する必要が出てくる。
サプライチェーン全体の連携による共同化は、以上のような成立条件を満たすことではじめて実現できるのである。ただし、この成立条件をクリアするには、乗り越えるべき課題が存在する。
成立条件を満たすための乗り越えるべき課題とは
■物流インフラの大規模改廃への対応
第一の課題は、物流インフラの大規模な改廃への対応である。「荷の移動距離最小化」を実現するには、物流・在庫拠点数をサプライチェーン全体で最適化する必要ある。実現に際しては、自社物流拠点の統廃合が必要となるケースや在庫資産を預託在庫化するなどの事業構造の改革が求められるため、総論は賛成でも各論となると活動が停滞する場合が多い。
昨今の卸売業の合併は、資本が異なることによる「共同化の限界」を打破し、サプライチェーンネットワークの再構築を自社のコントロール下で強力に推進しようという動きにほかならない。
■需給調整機能の高度化
第二の課題は、流通在庫量の最適化を実現させるサプライチェーン全体の需給調整機能の高度化である。QR・ECR・CPFRといったメーカー・卸・小売との協業の仕組みは、これまでにさまざまな形で提示されている。こうした仕組みを具体的に動かすメカニズムが、「取引制度」と「企業間の情報システム連携」という2つの運用上のシステムである。
取引制度に関しては、これまでの「応量リベート」からサプライチェーン最適化のための業務「機能」により提供された価値に対価を支払う「機能リベート」へと変更する動きがある。事実、取引先の在庫管理業務に対して対価を支払う取引制度が一部メーカーで具現化している。
情報システムに関しても、業界全体もしくは企業グループレベルでのプラットフォーム化が進んでいる。日用雑貨業界においては、プラネットといった業界共通のEDIがソフトの基本インフラとして整備されており、プラネットそのものを運営する企業が独立企業として存在している。実需への効率的な充足を達成するためには、情報の共有化レベルの向上による「計画に対する調整の意思決定活動の短サイクル化」が必要不可欠となっている。
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