第5回 サプライチェーン全体の連携による共同化 (その2)
前回は、サプライチェーン全体の連携による共同化とは、「荷の移動距離最小化」目的とした活動であり、その実現に際しての成立条件と実現に向けた課題を説明した。
今回は、サプライチェーン全体の連携による共同化の具体的な潮流に関して、「メーカー」「卸売業」「小売業」というサプライチェーン上の各プレイヤーにおける特徴的な動き、取組み内容を紹介したい。
パターン1:卸主導
サプライチェーン全体の連携による共同化の「ねらい」と「意図」から見た場合、本来は中間流通を担っている「卸売業」がその機能を果たすことが求められている。卸売業の存立理由は、サプライチェーンの中間にあって、メーカーと小売間の取引回数を最小化することである。中間流通を担う事業者が少なくなればなるほどメーカー・卸・小売の流通三層までの総取引回数は少なくなる。
また、卸事業者数が統合されればされるほど、メーカー・小売との取引パイプが太くなり、とくに小売業からの販売情報の入手量・レベルが向上する。
昨今、卸売事業者間での合併の潮流の背景には、合併による荷量の確保がある。一方でその潮流をサプライチェーン全体の連携による共同化という側面から見ると、中間流通事業者数の減少による「サプライチェーン全体としての取引回数の最小化」≒「総移動量の最小化」が構造的に推進されている。さらには小売からの販売情報の取得量の向上、販売情報の分析レベルの向上により、卸売事業者としての需要予測機能が高度化している。こられにより、保有在庫量が削減されてメーカーから卸への荷の移動量も削減されている、という動きに結び付いている。
パターン2:メーカー主導
これまで日本の取引制度では、「建値制度」に代表されるメーカーが卸売業を特約店として組織化し、小売での販売価格を統制することでチャネルキャプテンとしての役割を果たしてきたと言える。しかしながら現在は、小売業の台頭による「建値制度」の崩壊とともに、メーカーによるサプライチェーン全体の統制が機能しなくなっている。その中で、メーカーが主体となってサプライチェーン全体の最適化を志向している企業としての代表格の1社が「花王」である。
花王は、自社資本で卸機能を保有し、小売店頭まで自社のネットワークで商品を配送している。ここまでは、ただ単に自社の効率化の域を出ないが、花王は自社で構築した小売店頭までの配送ネットワークをサプライチェーンへ開放し、自社構築ネットワークの存在価値を強化するため、小売業への共同配送企画会社として「花王システム物流」を設立している。
「花王システム物流」は3PL事業者として小売業物流センターの受託も推進しており、日用雑貨カテゴリーにおいては、一定の事業規模を獲得している。この動きは、自社が構築したネットワークに他社も相乗りしてもらうことで、花王・委託先企業双方の効率化を推進することにある。ただし、物流委託先として花王が評価されている理由は、ネットワークの効率化面だけではない。花王のサプライチェーンネットワークで忘れてはならないのは、店頭に対する高度なマーチャンダイジング機能であり、花王主導のネットワークに参加することで、花王のマーチャンダイジングサービスを直接的・間接的に受益できるという点が非常に重要である。
チャネルキャプテンとしてその影響力を行使するためには、ただ単に物量を有しているだけではなく、ネットワークに参加しなければならない、特別な理由、すなわち他のプレイヤーにはない差別的なサプライチェーン運営上の優位性を保有していることが必要となる。
パターン3:小売主導
現在、メーカーに変わりサプライチェーンにおける支配力を有しているのが、小売業である。自社の物流センターを保有し、自社物流センター経由で納品することで、共同配送化を実現している。その中で、小売業が主体となり、サプライチェーン全体の最適化を志向している企業の代表格がイオンである。
イオンは、花王と同様に卸機能を自社で展開しており、イオンの機能子会社である「イオングローバルSCM」を通じ、自社に最適なサプライチェーンネットワークの構築を推進している。
イオンの取組みで特筆すべき点は、卸の活用を前提とした取引から卸を活用しない「メーカーとの直接取引」の推進である。
これまで小売業は、卸の各種運営コストおよび卸の利益が加味された「卸からの店着価格」での取引を前提としていた。これに対してイオンは、メーカーから自社までの配送ネットワークを整備し、「メーカーからの工場出荷価格」によるメーカーとの直接取引を推進している。卸の配送ネットワークコストおよび卸が確保していた利益は管理不可能となるため、直接取引により管理可能なコストの対象が拡大することになる。すなわち、管理不可能なコストから管理可能なコストにするのである。
また、チェーンとしての需要計画をメーカーに提示し、生産効率化・在庫を適正化へ向けた協業を推進することで、メーカーでの生産コスト低減およびメーカーの在庫保管コスト低減をドライブし工場出荷価格そのものの低減も視野に入れている。現在、PB(プライベートブランド)品より需要計画の提示が実際に開始されている。
物流機能の推進における実際のオペレーションは3PL事業者に委託しているが、イオンでは小売業自らがサプライチェーンネットワークを再構築し、管理統制範囲を拡大することで仕入価格、すなわちモノの保管・移動に関わるコストまで踏み込んだ改革を推進している。
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