「プロフェッショナル意識を持って、不具合の真因追求に取り組む」
「要因解析」を実施するにあたり、「FTA」、「なぜなぜ分析」など世の中にはよく知られた手法は存在するものの、その手法をうまく活用しきれていないケースが多い。大事なことは、その分析手法をどのような手順で、どのようなポイントで思考をめぐらせるのか、その思考法にある。その思考法がおさえられていないと、要因を1つに決めて展開する「1点突破型」、結果と要因の関係に矛盾を引き起こしている「因果不整合型」の要因解析が実施され、真因を特定できずに苦労することになる。
このような状況にならないために、以下の思考が大事である。
Point1:「なぜなぜ」の前に「なになに」
「なぜなぜ」と要因を考える前に(要因解析の手法を適用する前に)、発生している問題の事実を正しく把握することが必要不可欠である。4W1H(WhyのWを除く)を3現主義で徹底的に把握することなく、なぜなぜの手法に飛びつく、あるいは経験とカンで対策に進んでしまうケースがあるが、それでは真因にたどり着かない可能性がある。思考の順番は、まず、「なになに」である。
Point2:「場当たり的調査」の前に「要因仮説の洗い出し」
要因を絞り込んでいくためには、不具合品の測定、再現試験などを実施するが、「過去に実施している調査」などその時に思いつく調査だけを実施することが多い。調査には目的があり、その目的は、仮説の検証にある。従って、想定される要因を原理原則より洗い出した上で、要因を絞り込むための「目的を明確にした調査設計」を実施することが大事となる。
Point3:事実、解析(調査)結果に基づく要因の絞込み
「今回の不具合の原因は、本当にそれですか?」と聞かれた時に、論理的に説明をすることができるだろうか。発生した不具合の事実情報、調査結果に照らして、当該事象に該当しない要因をつぶしこみ、真の原因に絞り込んでいくプロセスが行われない、あるいはその絞込みのプロセスが見える化されていないことが多い。この絞込みのプロセスの中に、事実情報、調査結果、要因情報を同時に見える化し、論理チェックをしていくことにより、担当者以外のメンバーからの意見も引き出しやすくなり、真因特定の精度を向上することができるようになる。
上記のように真因を追究していくステップを考えた時に、「総合診療医ドクターG」というNHKの番組を見ていて、医療現場における総合診療でも同様の思考が行われているのではないかと気付かされたことがあった。
この番組は、患者の病名を当てる番組である。患者の症状をインプットした上で、研修医が可能性のある病名を挙げ、さらに検査、触診、過去の病歴、食生活を問診するプロセスを通じて、病名を絞り込んでいく。出した病名に対して、「症状と合わない事実情報はありますか?」と医者が研修医に問いただしながら、真の病名をつきとめていくのである。
このアプローチこそ、発生した不具合事象の真因をつきとめるアプローチと同じではないかと私は考える。
- 起きている症状は、不具合事象、不具合の顔(事象)であり、発生数であり、程度である。
- 医者からの問診は、発生工程、発生職場の異常の有無、変化点、作業者の理解度などである。
- 検査は、寸法の測定結果、同じ状況を作り出しての再現試験などである。
- さらには、その患者の過去の病歴、処方薬なども聞き取るが、それは、工程の過去のトラブルや不具合であり、それと今回の比較をすることであり、そこに要因を挙げるヒントが眠っていないかを探るアプローチである。
ものづくりの問題解決で大切な「3現主義」の原則をあらゆる手段を使って適用しているのである(Point1)。
そこから見えてきた要因仮説(病気の仮説)を洗い出し、必要な調査(問診、検査など)を瞬時に考え(Point2)
事実情報と調査結果を突合せ、「当てはまらない点はないか?」と追求していく(Point3)
これらのPointを繰り返しながら、真の要因(病気)を見つけていくアプローチは、まさに、ものづくりの真因追究のアプローチと同じではないだろうか。
病名の診断を間違えることで、人命に影響を及ぼしてしまうことがないよう、医療のスペシャリストとして臨む医者の姿勢と同様、製品設計、工程に潜む問題(要因)を見逃し、それが顧客、後工程へ影響することがないよう、ものづくり、不具合解析のプロフェッショナルとして、真因を特定し、再発防止を実現していく意識を持って業務に当たることがとても大切ではないかと思う。
その姿勢を個人で、そして組織で持ち続けていられれば、真因追求のアプローチ(Point1,2,3)で何度も思考をめぐらすことができ、問題解決力の向上は大いに期待できるのではないだろうか。
コンサルタントプロフィール
チーフ・コンサルタント 辻本 靖
自動車機械部品メーカーでの設計業務を経て、JMACに入社。モノづくり領域を中心として、開発・調達・生産領域の問題解決と定着化支援に従事。
生産領域では、コストダウンや品質改善等、工場における全社課題の解決を支援。現場と一体となった活動による人材育成、体質改善も進めている。
近年は、品質に関するコンサルティングを多く手掛けており、特に、開発から生産領域にいたるまで「未然防止」をコンセプトに活動している。
品質保証体制構築支援、開発段階からの問題発見力強化などをテーマに、単なる手法の導入ではなく、マネジメント課題を捉えた上での未然防止体制の構築を心掛けている。
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