第3回 JMAC品質保証実態調査からあらためて問う 『品質に強い現場と未然防止型の品質保証体制実現』
1.品質トラブルの未然防止は「品質に強い現場づくり」から
2018年度、JMACは第3回の「品質保証実態調査」を行った。
その報告書の冒頭で示された品質保証レベルについて、以下のような総括がなされている。
「依然として再発防止レベルの企業が大多数。未然防止へのレベルアップが進まず」
未然防止型の品質保証体制は単にマネジメントシステムを導入しただけで一朝一夕に実現できるものではなく、モノ作りの核となる現場の品質管理や日々の作業実践、従業員一人一人の品質意識などに依存するものである。
このような観点から未然防止へのレベルアップに向けた改善・改革のヒントを「品質に強い現場作り」という視点で述べてみたい。
2.なぜ品質トラブルはなくならないか
品質トラブルといっても、顧客のクレーム、工程内不良や現場の4M不具合に至るまで、様々な事象が存在する。ここでは製造工程における「製品の品質不具合」を念頭に置き、あらためて品質トラブルがなぜ撲滅できないか、代表的な3つのケースを挙げて考えてみたい。
- 1) 顕在化したトラブルに対する「原因追究の踏み込みが弱い」ケース
- なぜなぜ分析は行うが、品質トラブル発生の問題構造やメカニズム解析ができず、真の原因に到達できない。対策も作業者個人のチェック強化や教育面に限定され、仕組みの見直しや基準のあり方を抜本改定するような活動への踏み込みが弱い。
- 2) 品質トラブルの個別対応に終始し、潜在的な品質リスクに対する「体系的取り組みが弱い」ケース
- 品質トラブルに対し、都度対応しているが後追い的活動にとどまっている。工場全体の品質管理水準の底上げや、「品質リスク」への抜本的対処といった未然防止の活動が体系的に行われていない。
- 3) 品質トラブルを未然に察知する「人の感知力が弱い」ケース
- 日々の作業の中で、品質リスクの洗い出し、見える化、リスクに関する啓蒙活動など、現場担当者のリスク感知力を醸成する組織的な取り組みが弱い。
以上の3つのケースを念頭に、改善の方向性を考えてみよう。
3.品質に強い現場作りに向けた活動の考え方
3-1. なぜなぜ分析(原因追究)をあらためて見直す:再発防止は未然防止への土台
「なぜなぜ分析」は、「なぜ」を繰り返すことで、真の原因を追究しようというものである。これを実施する際には以下の点に留意することが大切である。
- しっかりとした事実確認が4M視点でなされ、問題が正しく特定された上で原因追究を行うこと。
- 現場の担当者に加え、品質管理や設備管理など必要な担当者も参加すること。
- 原因追究は、作業のやり方やその教育・指導にとどまるのではなく、作業そのものを設計し基準や背後にある仕組みの課題まで追究すること。また、問題事象発生のメカニズム解析まで落とし込むこと。
- 以上を踏まえ、なぜなぜ分析のフレームワークを明確にし、現場で使いやすい品質改善のツールとして定着化させること。(「問題関連構造図」やTPM活動で指導展開している「PM分析」は、「なぜ」を掘り下げるフレームワークの一助となる)
なお、なぜなぜ分析は、「ここが真の原因で、そこに手を打とう」という関係者の「合意形成」の道具として、また、改善の途上で原因の再考など、課題があれば立ち返るための「拠り所」として位置づけ、あらためて見直しを進めてほしい。
3-2. 品質リスク対策を体系的に展開する
品質リスク対策を体系的に進める観点として、化学プラント系はHAZOP、自動車・電気では工程FMEA、食品ではHACCPといったように、業界それぞれに重点対処すべきリスク評価の手法が導入されている。JMACでは、これらの手法適用に加え、現場が主体となった品質リスク管理の必要性・重要性を訴えつつ、以下の勘どころを押さえた品質リスク管理を展開している。
① 工場の稼動モードに応じたリスクの洗い出し行うこと。
② 洗い出したリスクは、現場で見える化すること(リスクマップなどを掲示する)
③ ヒューマンエラーの防御策を組み込むこと(認知・判断・行動といった、人のエラーモード別に対策をとる)
ここでは、①の「稼動モード」に応じたリスクに焦点をあて、定常稼動時におけるOCVTのリスクについてそのとらえ方のイメージを紹介する。
■工場の稼動モードとOCVTのリスク抽出
下表に、工場の稼動モードとそれぞれのリスク洗い出しの観点を整理した(稼動モードは工場の稼動特性によって異なるので注意)。これらモードの特性を製造現場のオペレータがしっかり把握し、品質リスクを特定する活動へと展開することで、抜け漏れのないリスク抽出を実現しようというものである。
■OCVTのリスク対策(Operation、Change、Validation、Troubleのリスク)
※あるプロセス系の製造企業において、品質トラブルを削減すべく、今まで手薄であった品質リスク対策の強化活動を導入した例
- ・オペレーションリスクへの対処(工程ごとに品質を定義せよ)
- 活動の入り口は、原料処理から最終製品完成までの「各工程ごと」に仕上がり品の品質状態を定義したことである。これは、品質の定義が出来なければ、その品質を損なうものであるリスク(オペレーションリスク)も特定できないという発想に基づいている。その上で定義した品質を損なうようなリスク事象は何か?過去のトラブルや実地作業上の問題はないか?といった確認を各工程ごとに進め、リスクの洗い出しを行った。
品質に強い現場の基本は、各工程ごとに品質が定義され、その共通認識に立って品質リスクが管理されていることと考えている。 - ・チェンジリスクへの対処(変化点を管理せよ)
- 品質リスクを撲滅するためには、現場の変化点管理を徹底して見直すことも重要である。リスクは現場の4M変化点にあるといっても過言ではなく、その管理の手薄さは品質トラブルの発生に直結することになる。「変化があるからリスクがある」という認識のもとに各工程でリスクの洗い出しを行った。品質に強い現場は変化点管理が確立していなければならない。
- ・バリデーションリスクへの対処(根拠の曖昧さを払拭せよ)
- 品質リスクは「根拠が曖昧なところにある」という思考で現場を見ることも必要である。まずは、製造条件や作業手順、現場内の点検項目や方法等について確認することが手始めだが、この進め方は決して難しいものではなく、QC工程表と基準書・手順書に沿って、「なぜ」の問いかけを行えばよい。「なぜ、その温度なのか、なぜその時間なのか、なぜその作業順序なのか、なぜその点検項目・方法・頻度なのか...」。
この、なぜを明確にせず、昔からやっていたからとか前任者から引き継いだからといった事項を見直し、潜在化したリスクを洗い出そうというものである。
品質に強い現場は、オペレータが上記のような「なぜ」に答えられることであり、これは自工程で品質を作り込むための諸条件について、曖昧さ、不安定さを払拭することが実現できた状態と考えている。
なお、トラブル2次被害のリスクについては、過去トラブルに対する「振り返り分析」を行い、時系列で、人の判断、指示、行動、モノの扱いなどの中から、二次的被害を発生させる可能性があったか否かのリスクを検証しておく必要がある。
3-3. 人のリスク感知力を高める
品質に強い現場作りに向け、最後に期待されるのが人の意識であり、特に未然防止に向けた「リスク感知力」の醸成である。
リスク感知力とは、現場の4Mの状態について「何か変だ、これは通常と違う」という気づきであり、そのまま放置すれば品質トラブルを発生させるかもしれない、異常の「芽」の感知である。この力量は一朝一夕に養えるものではないが、まず大切なことは、自工程の仕上がり品質を理解し、その品質を実現するための手順や基準の正しい状態とその根拠を認識することがスタートである。その上で、変化点管理やバリデーションの深化、リスクマップを活用した日々の対策や品質リスク検討会のような勉強の場を積み上げていく中で、より高いリスク感知力が醸成されるものといえる。
4.最後に ~未然防止型の品質保証体制に向けて~
これまで述べてきたような「品質に強い現場作り」には、工場トップのリーダーシップも欠かすことができない。
特に未然防止型の品質保証体制を実現するためには、工場トップの方向付けのもと、工場全体の活動として体系的な品質リスク対策を進めることが重要である。
また、活動を進める中で、現場だけは解決できない設計課題や調達課題も発生する。
このような課題に対処するためには、より大きな視野に立ち、設計・調達・製造を横串でつなぐような部門間連携あり方を再検討することも必要である。
工場トップにはこのような部門間連携の強化を念頭に置きつつ、「品質に強い現場を作り」を積極的に目指していただくことが期待されている。
コンサルタントプロフィール
品質革新センター テクニカルアドバイザー
シニアコンサルタント 技術士(経営工学)
廣田 正人
企業における「経営の質(人・組織)」の向上を基本に、「製造業の品質経営実践」「品質保証・安全性保証体制の強化」「現場の生産性向上・品質向上」といったテーマから、「業務プロセス設計、業務改革、ISO認証取得支援・リスクマネジメント」まで、企業活動全般に渡る幅広い分野のコンサルティングを手がける。
特にプロセス系製造業(化学系、樹脂加工、食品製造、医療機器等)における安全・品質マネジメント、品質改善についての指導経験は豊富であり、最近では、コンプライアンス、事業再生についても取り組み、各企業の経営課題の解決を支援している。
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