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技術者の知的生産性向上と職場活性化の現実

第5回 日常業務において効率化すべきもの

星野 誠

 本コラムでは、技術部門の職場の現実を直視しながら「技術者の知的生産性向上と職場活性化」を考えていきます。「慢性的に忙しく元気がない」職場を真に活性化するためのヒントを提案していきたいと思います。第5回目は、日常業務において効率化すべきものについて考えたいと思います。

効率化とは言うけれど......

 みなさんの職場でも効率化やムダとりなど、各種改善に取り組まれているかと思います。

 技術部門にもさまざまな仕事があり、単純になくせばよいという仕事ばかりではありません。むしろ、いろいろとやらなければならない管理仕事や報告仕事が増えており「とにかく忙しくてタイヘンです」との声をよくお聞きします。

 本来、仕事を計画的、効率的にマネジメントする立場にあるマネジャー層の方々が、1日中会議やメール処理に追われてしまっている職場も少なくありません。突発で起こった品質不具合の対策会議や、プロジェクトの各種調整などの対応で休まる暇がないようです。

 このような職場では、グループミーティングや進捗会議においても、限られた時間の中でマネジャーが各プロジェクトの進捗を順番に確認して、状況に応じた個別指示を出すのがやっとです。本来、仕事を楽にするためにやっているはずの会議も、なぜだか「会議が多くて忙しい」「ムダな会議が多い」と悪者の象徴にされてしまっていることがあります。

 日々の足元の会議もこのような状況にある中、技術部門における効率化とは何を対象にすべきなのでしょうか?

思考業務の質を高めて効率化する

 「会議は1時間以内にせよ」「ペーパーレスでムダ削減」などと会議室の壁に貼り紙がある技術部門では、確かに1回あたりの会議時間は短いようです。しかし、チームメンバー間の助け合いや相談もほとんどなく、雰囲気も何となく暗く、おまけに時間外業務も減らない職場。あるいは、さらなる効率化を目指して導入した設計ツールや解析ツールのおかげで、条件を設定するだけで簡単に解が出るように見えますが、技術的な裏づけや詰めが甘く、レビューで指摘され、やり直し、品質不具合もなかなか減らないという職場。

 こうした職場では、よかれと思ってやっている効率化が、どこかで何かのピントがずれていると言わざるを得ないでしょう。一見、スマートに見えますが、スマートの裏側に失われた時間が実は重要です。

 技術部門の仕事は"思考業務"です。思考業務から仮説が生まれ、試行錯誤しながら、企画書や図面、実験、試作...などのアウトプットを生み出していきます。

 思考業務の質が製品やサービスの品質に直結します。取りこぼしがあれば、のちのち甚大な不具合や手戻りになって何倍、何十倍にもなり跳ね返ってきます。裏を返せば、思考業務でないものに対して、いくらムダ取りをしても、たかが知れているとも言えます。

 思考業務の質を高めることで、未来の不要なロスを未然防止・再発防止し、個人でモンモンと考えるロスをなくし、結果として効率化を実現する----といった考え方を基本とすべきです。効率化の指標も単なる削減時間ではなく、思考業務時間とその質、すなわち思考業務の時間を適切に確保できているか、その質はどうか、にむしろ目を向けるべきでしょう。会議を例にすれば、単に会議時間や回数を減らすのではなく、会議の中で思考業務の割合はどれくらいかを見極めて、思考業務の質を高めるためにむしろ時間を増やす必要もあるということです。「効率化のため会議時間を減らしました!」と喜んでいても、思考業務の時間までも削減してしまっては逆効果です。

 生産性向上の観点からいえば、業務の有効性(目的達成の程度)を失わせるような業務の効率性(資源の合理的消費)向上は意味がないということです。

"作戦"を口グセに

 日常的には、日々のいわゆる"会議"の"効率化"も重要ですが、「会議」の目的は「事前段階の問題発見と解決作戦」になっているでしょうか?

 問題が発見されない・知恵が集まらない会議は、価値がつかないムダな会議です。会議で議論した結果、事前に問題が発見されたか、解決につながったか、が生産性に直結します。

 たとえば、自動車メーカーA社のある技術部門では、職場で業務の見える化を徹底し、日常的に生産性の高いチームミーティングを実施しています。

 ここでは、

  • 全員参加で全員が役割を発揮する
  • 作戦と振返りに時間を割く
  • 事実(モノ、データ、図面などの現物)に基づき議論する
  • 思い込みを排除し、安易な「〜だろう」に陥らないように注意する
  • 先人や有識者の知恵を集める
  • 部門の壁を越えて自ら関係者を巻込む
  • 意見やアイデアをどんどん書いて残し、議論の空中戦を防止する
  • その場で決着をつける。結論と課題を明確にする

など、会議の基本型が定着しています。

 特筆すべきは、この部では、これらの考え方の前提として、自分たちが仕事をするうえでの「部員の心得」が明文化されていて、自らの仕事のやり方や会議のやり方と日々照らし合わせ、振返りながら仕事をしているということです。

 スローガン的に壁に貼ってある効率化の啓蒙ポスターではなく、自らの仕事論、効率化論に基づいて仕事をしていることが、納得感や実行力を生み出し、継続的な工夫を生み出し、活きた効率化につながっているのだと思います。

 「会議をやるのではなく、作戦を立てる」

 「会議に時間を取られる(受身)のではなく、計画と作戦に時間を取る(能動)」

 この事例のような活性化した職場では、"作戦"が口グセになっています。

過去と未来の効率化

 実践的な効率化は、過去から未来へと時間軸を広げて考えたいところです。

 担当者が一人でモンモンと考えていた課題が、過去の経験を持つ有識者からの助言や過去の蓄積情報がきっかけで解決し、ムダな悩み時間を大幅に削減できることがあります。ところが、これらの先人の知恵や過去の技術資料は、データベースの奥底に眠っていたり、知っている人は知っているという個人情報になってしまっていたり、そもそも誰が何を知っているのかも共有されていなかったり、ということが意外と多かったりします。チームで一斉に過去資産を掘り出して、現代版の標準化資料としてリニューアルし、資産活用を図っている職場もあります。過去の知恵や資産が埋もれてしまっていないか改めて見直したいところです。

 未来に向けて、計画や作戦に知恵を集め、事前段階で課題解決を図ることができれば、知恵集めに費やした時間の何倍〜何十倍のロス削減につながります。目先の効率化にとらわれずに、全体視点での効率化を目指していただきたいと思います。

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 次回は、知恵を集めるチームの姿を考えてみたいと思います。

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