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第2回 主体性発揮の第1段階 自分のことを探求する時間をとれているか?

 5月下旬に米・デンバーで開催された「ATD2016ICE」(人材開発、トレーニング、パフォーマンスをテーマにした世界最大規模のカンファレンス・展示会)に参加してきた。リーダーシップ開発や人の学習、成長をテーマにしたセッションなど、パフォーマンスの発揮するチームづくりに関連づけて興味深く聴いた。ニューロサイエンス(神経科学)の側面からやる気を促す発表や、マイクロラーニング(数分単位の細切れ学習)、また従来の目標管理型の評価からより日常におけるフィードバックを重要視する話題が印象的だった。あらためて、より個の特性に合わせて学習環境をつくり、マネジメント、サポートすることが求められるように感じた。

 前回(第1回)からチームづくりを考えようという主旨で本コラムをスタートした。メンバーの主体性発揮を促すことをねらいにJMACエンパワー促進モデルを紹介した。職場において継続的に成果を創出するためには、仕事の仕方やプロセスを見直すだけではなく、個々の人や組織がパフォーマンスを発揮し、学習、成長していける状態をつくることが欠かせない。

 今回は主体性発揮(4段階) 1)の第1段階として、自己理解を深め自分らしさを発揮するテーマについて3つのポイントから考えてみたい。

そもそも自己理解とは何か

 最初にこのコラムでの職場における自己理解を定義しておく。

 自己理解とは、自分がいまいる環境、立場の中で、以下の視点で自分自身に関心を向け、探求することである
・大切にしたいこと(価値観)
・目指したい状態
・自分の強みやスキル、経験などの活用可能性 など

 これらのことは自分の中に内在するものではあるが、日々の忙しさに見過ごされがちなものでもある。また、突然考えてみたところですぐに明確に表現できる類のものでもない。ただし、だからといって放っておくのではなく、ときどき自分のために立ち止まって考えるほうが賢明だ。そうしないと、いざ業務上、過大な負荷がかかったり、難しい人間関係の渦中にはまり込んだり、公私において大きな環境変化に直面したとき、悩みから抜け出せず身動きがとりにくい状態に陥ってしまうことがある。私のこれまでの支援経験からみると、業務上は何をやるべきかを理解していても、自分が何をしたいか(したくないか)は脇において無自覚な状態が多いと感じる。

ポイント1:日常の関係性から離れて自分自身のことを振り返る

 問い:「あなたが最近、意識した自分の特徴、自分らしさにはどのようなものがあるだろうか?」

 自己理解の深め方はいろいろあるが、私が今回おすすめするのは2つのやり方である。1つは日常的に行う個人振り返り(セルフリフレクション)であり、2つ目は職場を離れて個人で参加するセミナーやワークショップなど他者の力の活用である。

 個人振り返りは通勤途中や仕事帰りの電車の中、行きつけのカフェ、家に帰って一息ついた入浴中などに行うのがよい。日々の生活の習慣化した行動の中で振り返ることで内省に集中しやすくなる。また、私がセミナーやワークショップを主催する立場だからではないが、自分の意思で参加するセミナーやワークショップなども効果的である。似たような悩みや問題意識を持つ人たちとの意見交換が思いのほか自分の思考の刺激やヒントになる。また、講師から自分の悩みに合わせたフィードバックを得られる場合もある。

 強み弱みなど自分らしさを知るには、世の中にあるいろいろな診断ツールなどを活用するとよい。JMACでもリーダーシップ開発やマネジメントトレーニングなどの機会やツールを提供しているので活用していただきたい。

ポイント2:ストレッチ状態をつくり自分に良質な刺激を与える

 問い:「あなたがたいま、もっともストレッチして取り組んでいることはどのようなことだろうか?」

 自分のためにストレッチできる状態をつくっているだろうか。もし自分が慣れ親しんだ環境、習慣化した行動に埋没し、自分の成長実感が得られない状態に陥っていると感じている場合は、自分のためにストレッチできる目標なり行動をとることをおすすめする。

 一方で職場や家庭などで自分の想定を超える環境変化などに直面し、心理的・物理的負荷が高まっている状態(パニックゾーンにいる状態)に陥ったときには、いったん冷静になり、周囲に相談する、助けを求めることも大切である。そして自分の経験に立ち戻り、対応の仕方を考えるとよい(下図)。

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 余談になるが、「ATD2016ICE」で基調講演を行ったブレネー・ブラウン氏はヴァルネラビリティについて語っていた。ヴァルネラビリティとは不確実性、傷つく可能性、リスク、生身をさらすことと訳される2)。人は弱さの露呈を怖がるが弱さとは欠点ではなく勇気を測る正確な基準であると言っていた。リーダーが相手を信頼して自分の弱い部分を素直に出し、話すことで相手との信頼関係が向上するとも説いている。なお、他者に対して自分自身を伝えていく自己開示については、次回に考えてみたい。

ポイント3:リーダー自らの「自己理解」を深め、メンバーが自己理解できる機会をつくる

 問い:「あなたはリーダーとして、チームメンバーの自己理解にどのように関わっているだろうか?」

 リーダーは自分自身を健全な状態に保ち、力を発揮できる状態をつくるために自らの自己理解を深めることが求められる。また、メンバーの自己理解を促進する機会をつくることも重要である。「ジョハリの窓」で盲目の窓、未知の窓と言われるように、自分だけでは気づかない一面もある。成果創出と組織成長に向けたメンバーの状態に応じた関わり方、機会づくりを行ってほしい。

【参考文献】
1)JMAC WEBコラム 堀毅之:リーダーとして「チームづくり」を考えてみよう
2)『本当の勇気は「弱さ」を認めること』(2013)ブレナー・ブラウン(著)、門脇陽子(訳) サンマーク出版 p43

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