第26回 可能性と必要性からの財務目標設定
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
24回では3姿勢発想からの財務目標設定の考え方を紹介しました。
3姿勢発想とは、可能性・必要性・将来性の3つの姿勢(スタンス)より財務目標を発想し、最終的に目指す財務目標を設定する考え方です。
今回は、可能性と必要性の2つの姿勢について理解を深めたいと思います。
「可能性からの目標設定」は裏付け重視で着実な目標設定
可能性からの目標設定は、過去の財務数値推移や現在の財務数値をベースに経営改革の最終成果としての財務目標を設定する姿勢です。
その特徴は、過去や現在の財務数値をベースに個別積み上げで財務目標の水準を決めることから、実現可能性を重視した着実な目標設定といえます。言い換えると、会社の経営改革の実力を考慮した目標設定ともいえます。
逆に、過去や現状に引っ張られた目標水準となりやすく現状の実力に甘んじた数値になるといえます。地道な改善体質をもった企業に適した方法といえますが、戦略や施策がブレークスルーしない点が弱点となります。
経営環境が厳しい時期には限界があるといえます。
「必要性からの目標設定」は改革重視で論理的な目標展開
必要性からの目標設定は、経営側の必要性から財務数値を展開し、財務目標を設定する姿勢です。
その特徴は、経営の必要性を重視した論理的な目標設定といえます。また、中期の数値を設計する姿勢で財務目標の水準を決めるデザイン方式もいえます。過去や現在の財務数値分析も行いますが、過去や現状に引っ張られない姿勢を保つことが求められます。しかし、実現可能性とかけ離れた財務目標の水準となる場合もありますので、注意が必要です。
必要性からの目標設定は、経営スタッフが経営側の意思を反映して論理的に目標展開することが多いと思いますが、論理的ということは、目標設定が体系的に展開されることを意味し、同時に財務目標の水準を設計していくことも意味しています。
個別積み上げにこだわらず、財務目標の水準を決めていくデザイン感覚の姿勢がポイントといえます。
欧米企業に多い方法といえます。
可能性と必要性との目標ギャップ認識
可能性と必要性の両面からの財務目標設定の特徴を述べましたが、実際の経営改革に当っては、両方の姿勢が必要といえます。
経営改革マスタープラン策定において、財務面からは過去や現在の数財務値分析を行います。
次に主な財務目標の設定を可能性から行います。さらに必要性からも財務目標の設定を行います。ここで、可能性と必要性からの目標数値には、当然ですがギャップが生じることになります。このギャップ認識が実は重要となります。このギャップを解消するために戦略や施策をどうしたらよいかという発想を促すからです。
JMACでは、過去や現状の財務数値分析から中期の財務数値を厳しく見る「成行予測」という技を活用しています。これは、財務数値を可能性から厳しく予測して、必要性からの目標とギャップを認識して戦略・施策発想を促す技です。
「成行予測」については、次回紹介したいと思います。
将来性からの目標設定はありたい姿の追及
将来性からの目標設定は、財務目標のありたい姿の追及や経営者の思いが中心となります。
財務目標の水準は、可能性よりも必要性、そして必要性よりも将来性が一般的には高くなりますが、中期目標の設定に当って、必要性に将来性の要素を加味して目標が設定される場合もあります。それだけ、より挑戦的な目標となります。
たとえば、韓国のグローバル企業であるS社は、投下資本利益率10%以上と売上利益率10%以上を事業の収益性指標の在りたい姿として示し、経営改革を進めることを行っています。
また、1000億円の売上をあげる優良小売業のT社は、売上に対する販管費率15%をありたい姿として、中期の経営改革に取り組んでいます。T社のオーナー経営者は、世界最大の小売業であるウオールマートをベンチマーキングして、販管費率が15%をキープしていることから、販管費率15%をありたい姿としているとのことです。
一方、自社も含めて日本の流通企業は、売上総利益率を20%以上あげても販管費率が20%近くになってしまい営業利益率が低い企業が多いということに気づきました。T社では、このようなことから販管費率を15%以下にするビジネスモデルを実現する経営改革を常に推進しています。
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