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第48回 事業課題を構造化する

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

これまで事業ユニット設定と事業評価により事業課題を抽出する方法をお話ししました。今回は、課題全体を俯瞰するため、構造的にまとめる考え方と方法について触れておきたいと思います。

事業課題とは

経営改革の事業課題は、事業全体および事業ユニットごとの戦略上の課題と機能上の課題の2つを指しています。事業課題のレベルや領域の違いを峻別して経営改革に取り組む考えです。

①戦略上の課題
事業全体の事業領域や事業ユニットの方向づけに伴う課題、事業ユニットごとの市場顧客/商品サービス戦略や事業モデルに関わる課題。

②機能上の課題
事業全体および事業ユニットの拡販とコストの改革に結びつく機能(開発、営業、生産、管理など)別の課題。また、経営改革における事業課題は、現状の課題解決か将来の課題解決かによって次の2つの性格分けができます。事業課題の解決緊急度、優先順位付づけを決める際に必要な考え方です。

①現状の事業課題
現時点で思い通りにいかない問題や現状の経営環境変化に対応する問題で、解決すべきと判断した事業問題。

②将来の事業課題
将来の経営環境変化に対応する課題で、将来に向けて解決すべきと判断した事業命題。

個別に抽出された事業課題

これまでにお話しした事業ユニット設定や事業評価を通じて認識された事業課題は、つぎの2つがあります。

①事業KFS(Key Factors For Success)からの課題
事業KFSからの課題とは、市場顧客、商品サービス、競争の事業特性から導きだした事業KFSと現状とのギャップである事業課題です。事業KFSとの関連で抽出された課題は、事業評価から抽出される課題と重なりますが、本質的な重点課題と言えます。

②事業評価からの課題
市場性・競争力・収益性の3視点事業評価からみた事業課題です。 市場性評価から見た課題は、市場の魅力度(市場の規模と伸び)と市場の環境変化(機会・脅威)に関わる事業課題です。企業の外部にある市場の動きと自社の市場対応とのギャップである事業課題が抽出されています。

競争力評価から見た課題は、事業KFSを実現する事業競争力の水準改革に関する事業課題です。企業の内部にある機能別の課題が抽出されています。

収益性評価から見た課題は、事業の収益性水準(事業の付加価値や貢献利益の水準)の改革に関わる事業課題です。経営改革の成果面から見た、事業構成、拡販、コストの改革課題が抽出されています。また、管理会計システムなど管理面の改革課題も抽出されています。

事業課題の構造化

事業ユニット設定と事業評価において、個別に抽出された事業課題は、事業課題のレベルや領域の違う課題が抽出されています。事業上の課題から個別の機能上の課題まで混在しているので、全体観をもって整理して構造的に俯瞰する必要があります。(下図参照)事業課題を構造的に整理して全体を俯瞰することによって、次の2つのことを可能とします。

①事業課題の共通認識
事業関連メンバーが、事業課題の構造を共通認識して全体観をもって経営改革を進める。

②事業構想のまとめ
事業関連メンバーが、事業課題に対する有効な事業戦略や機能戦略を発想する。

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事業課題の構造化例

事業課題の構造化をどのように行うかについて、S社の事例を紹介します。S社は日配食品メーカーを顧客とし、設備機械を製造販売している企業ですが、次の表はS社の事業関連メンバーが、抽出した個々の事業課題をまとめたシートです。

mg48_2.jpg

事業と機能の両面から事業課題を見えることを念頭に、次の流れで事業課題の構造化シートを作成しました。

① 事業と機能の分類
事業面は、事業全体とBU別に分ける。機能面は、開発・営業・生産・管理の機能別に分ける。

② 事業の方向づけ
事業全体とBU別のポジショニングに基づく事業の方向づけを明示する。

③ 機能面の方向づけ
事業全体の方向づけとの関連に留意して、機能別の方向づけを明示する。

④ 個々の事業課題の位置づけ
今までにBU別に抽出された個々の事業課題を該当するBUに位置づける。戦略上の課題は、各BUの事業欄に位置づける。機能別の課題は、該当する機能とBUが交わる欄に位置づける。

⑤ 事業課題の吟味
事業面と機能面の方向づけから見て、個々の事業課題は適切かどうかを吟味する。たとえば、事業の方向づけを「維持」ないしは「縮小」としたが、開発機能面で「商品開発の強化」という課題が抽出されている場合は、事業課題を見直す必要がある。

⑥ 事業課題の相互関係や重点化
個々の事業課題が相互に関連する場合は、連携課題として考える。また、課題の重点化に留意する。

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