第67回 組織改革(2) ~組織運用を改革する~
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回は、組織が有効に機能するための組織運用面の改革について、ご説明します。 組織の分業と協業による組織連携力、権限と責任の明確化によって迅速な意思決定を可能にする組織スピード力、人事制度改革・人材開発による組織活性化。 これらがポイントになります。
組織運用に見られる問題
経営戦略に適合した組織を設計しても、その組織を有効に運用する必要があります。 しかし、組織運用に関しては、次のような問題が見受けられます。
成長期にあるA社は、機能別組織を採用しています。 経営環境の変化と共に、新しい業務が発生しますが、組織の分業が曖昧なため、どこの部門が担当するのか議論している間に、時間が過ぎてしまうことがあります。 時には、顧客とのビジネスにおいて、販売機会損失を生むこともあります。
成熟期にあるB社は、事業部制を採用し、各機能部門が担当する業務は明細に決まっています。 しかし、部門間の連携がうまくいきません。事業部長と部門長の連携にも問題があります。 組織の分業は明確だが、協業できない、事業競争力を形成できない例です。
行動力のあることで知られる流通業のC社では、頭越しの指示と行動が日常茶飯事に起きています。 トップが、担当役員を超えて部長に指示を出すことがあります。 また、部長が、課長を超えてメンバーに指示を出してしまう部門もあります。 上の職位と下の職位が連携して組織を動かすことが苦手なC社ですが、信頼感の醸成不足から、組織はいま一つ活性化していません。
事業の多角化を推進するD社は、事業部制を採用していますが、事業部の権限が明確化していません。 事業部の営業利益目標の達成責任は明確ですが、事業投資や人材採用などに関する権限が曖昧で、結局のところは、トップ集中の経営スタイルから脱却できていません。 事業部制の狙いの一つである、経営者の育成が進まない例です。
E社は、海外に事業展開をする、歴史のある中堅企業です。 海外に生産拠点や販売拠点を持っています。 海外の地域責任者の権限と責任は明確に決まっていますが、権限の裁量は小さく、日本の本社にお伺いを立てるスタイルです。 本社の官僚的な対応も目立ち、海外現地の評判もよくありません。 権限の委譲ができていないために、意思決定のスピードが遅い例と言えるでしょう。
組織運用の基本ルールとは
会社は、その成長と共に組織規模も大きくなります。 規模が大きくなると、組織の分業化や分権化を行いますが、運用ルールとその活用が重要になります。
組織運用の基本ルールとしては、次の3大規程があります。
1.分掌規程
「分掌規程」とは、各組織の果たす役割と機能・業務を具体的に文章で記述した規程です。 事業部・開発・生産・営業などのライン部門や、経営企画・財務・人事・総務などのスタッフ部門が果たす業務管理の範囲を示します。
2.職位規程
「職位規程」とは、トップマネジメント・部長・課長などの各職位の果たす役割と機能・業務を、具体的に文章で記述したものです。 組織の分業は、ヨコの分業とタテの分業があると言われますが、「分掌規程」はヨコの分業、「職位規程」はタテの分業と言えます。
3.権限規程
「権限規程」は、人・金・ものなど、経営資源の調達と運用に関する意思決定権限を示します。権限は責任を伴いますので、権限・責任規程とも言えるでしょう。経営資源の調達と運用に関して、「起案~検討~承認・決定~伝達」の意思決定プロセスを、図解で明確に表現します。
「組織運用規程」は、組織運用のルール(ハード)ですが、ルールだけでは組織は動きません。 そのルールをどう活用するか(ソフト)の考え方が重要なのです。 また、「組織運用規程」は、人が主体となって活用しますので、一人ひとりの役割意識や職位に適合した力量が関わってきます。 人事制度や人材開発との関連に留意することが求められます。(上図参照)
組織運用ルールの活用
組織運用ルールは、企業・事業活動における意思決定と業務執行の場面で活用されますが、その活用の考え方を身につけることが重要です。
1.分業と協業による、組織連携力の発揮
組織運用は、分業と協業が基本です。 分業は協業を前提として成り立つと言えます。 ヨコの分業と協業、タテの分業と協業を心掛けることです。 特に、上の立場にいるトップマネジメントと部課長が、全体観を持って組織を動かすことが肝要でしょう。
2.スピード意識の醸成による、組織スピード力の発揮
組織運用のルールは、スピードを意識して活用しなければなりません。 組織間の連携スピードや意思決定スピードなど、組織スピードをあげることが、グローバル時代には不可欠と認識する必要があります。
3.人事制度・人材開発による、組織活性化力の発揮
組織運用は、組織メンバー一人ひとりが力量を発揮し活性化して、仕事に取り組むことが理想です。 このためには、ビジョン・戦略や人材ビジョンの明確化と共に、前向きな人事制度改革や人材開発が行われていることが重要です。
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