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第70回 人材ビジョンを実現する人材開発

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回は、人材ビジョンの実現を目指した人材開発についてお話しします。 前々回および前回にご紹介したH社の、人材開発ステップとポイントをご説明します。

H社の人材開発ステップ

H社は、商業印刷・販売促進を手がけています。 将来は、事業規模3倍のマーケティング・カンパニーを目指す優良企業ですが、これまでは、人材ビジョンの実現を目指して人材開発を計画的に推進する、という考え方がありませんでした。 会社の経営理念において、人材の重要性は明示していましたが、職場のOJTや必要最小限の階層別研修が中心でした。 しかし、今回の戦略・ビジョンに基づく人材ビジョンの実現には、人事制度改革と並行して、人材開発を計画的に推進していくことが必要不可欠とされました。 同社の人材開発ステップは、次の通りです。

ステップ1: 人材開発の考え方の明確化

人材開発の考え方の明確化とは、人材開発理念・人材ビジョンを明らかにして、全員が共通認識をすることです。 H社の人材ビジョンは、各層各職種において「プロフェッショナル人材」を目指すことです。 プロフェッショナル人材とは、専門領域におけるプロ人材を意味していますが、同社は人材開発の理念として、「信頼される一流の社会人・ビジネスマン」、そして仕事人間だけに終わらない「人間的魅力を備えた人」になることを明示しました。

ステップ2: 人材開発の体系化とプログラム想定

上図は、H社の人材ビジョン実現に向けた、人材開発の体系と重点プログラム(重点施策)を示したものです。 人材開発プログラムの関連づけに留意して、人材開発の全体像を示していますが、当面は次の重点プログラムを優先して取り組むことを決めました。

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 1.キャリア開発/目標管理の取組み
 OJTにおいては、キャリアコースに示された資格能力要件を意識して、キャリア開発を進めていくことにしました。また、目標管理の運用も、キャリア開発を意識して行うことにしました。

 2.社内外集合研修の取組み
 OFF-JTにおいては、人材ビジョン実現に直結する、次の3つの研修を想定しました。
   (1)社内外階層別研修: マネージャー振りかえり研修他
   (2)社内外職種別研修: 案件企画提案やQCD改革提案の研修
   (3)社内外課題別研修: WEB活用のマーケティング研修他

ステップ3: 人材開発の3ヶ年実行計画策定

個々の人材開発プログラムを計画的に実行するために、3ヶ年の人材開発実行計画を策定しました。 3ヶ年で人材開発を軌道に乗せる計画です。

ステップ4: 人材開発プログラムの企画と実行評価

各部門は、キャリア開発/目標管理の次年度計画を策定し、半年ごとに実行評価をするようにしました。 個々の研修プログラムは、実行のタイミングに合わせて企画し、その評価を行うことにしました。

H社人材開発のポイント

H社の人材開発は、試行錯誤を重ねながらも、人材ビジョンの実現に向けて前進しています。 そのポイントとして、次の点があげられるでしょう。

1.人材開発の方向が明確なこと
戦略・ビジョンに基づく人材ビジョンの実現を目指して、人材開発を推進する

2.人材開発を重視して、目標管理を展開していること
業績実現に必要な意識・行動改革や能力開発に関する課題を中心に、目標管理に取り組む

3.課題解決実践研修を企画し、実行に取り組んでいること
集合研修は、研修のための研修に陥ることなく、会社の現場で課題となっている生の素材を採り入れた、課題解決型の実践研修を行う

4.人材開発の土台づくりを推進していること
人事部は、人材開発の土台づくりのために、上記の人材開発ステップを、マネジメント・サイクルとしてまわるように推進する。 また、各部門は、自部門の人材開発マネジメントを、目標管理を通じて推進する

経営改革の一環としての人材開発

人材開発も、人事制度改革と同様に、経営改革の一環として常に意識される課題と言えます。 日本企業は厳しい経営環境変化に置かれていますが、経営改革を前向きに進めている企業は、次のような人材開発の課題解決に取り組んでいます。

グローバル対応人材の登用と開発 ・・・ 事業経営者、現地マネージャー、専門職人材など
グループ経営に伴う人材強化 ・・・ 事業経営者、マネージャー、経営スタッフなど
次世代経営幹部の登用と開発 ・・・ 次の経営者候補となる人材の推進
改革人材の開発 ・・・ 経営改革人材、業務改革人材、IT活用人材など
第一線人材の能力開発・キャリア開発 ・・・ リーダー育成のための教育やキャリア開発支援

日本企業の強みは、人材開発力にあると考えています。 長期的には、人材開発の取組みの優劣が、企業成長力や事業競争力の差につながるのではないでしょうか

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