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第71回 経営管理システムを改革する

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

今回から、経営管理システム(経営の意思決定と業績向上に役立てる経営計画と実行評価の仕組み)の改革について、話を進めます。

経営管理システムの改革とは

経営管理システムの改革とは何かについて、第65回 「管理面からの経営改革」で、次のように説明しました。

・経営の意思決定と業績向上に役立つように、経営計画の策定から実行評価の仕組みを機能させること
・経営計画策定システムと経営実行評価システムの両面から、改革に取り組むこと
・経営管理システムを、企業戦略や事業戦略の策定と実行評価を行う、経営改革の土台・場として機能する高性能な仕組みにすること
・経営管理システムが有効に機能するように、業績向上や意思決定に役立てる管理会計システムを活用すること

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経営管理システムは、「経営のPDCAをまわすマネジメントシステム」ですが、その改革は、BPRで述べた組織・システム・人の3つの視点から取り組むことだと考えています。 経営管理システムと言うと、数字中心の仕組みや情報システムをイメージしがちですが、「経営管理組織」や「トップマネジメントやミドル・マネージャーの経営管理力」についての改革も含むことに注意してください。 上図は、経営管理システム改革の枠組みを示したものです。

経営管理システムに見られる問題

多くの会社は、経営計画から実行評価の仕組みである経営管理システムを運用しています。 しかし、次のような問題が発生している企業は、経営の意思決定と業績向上に役立つように、経営管理システムを改革していく必要があります。

1.計画システムの問題
 ・中期計画のテーマが総花的で重点が明確でなく、経営資源配分が分散している
 ・経営環境変化に対応する戦略オプション案が、計画段階で検討されていないために、経営環境変化に対応する意思決定が遅れる(後追いになる)
 ・中期計画(戦略)と年度計画(施策)がうまく連動する仕組みになっていないので、戦略が施策に落とされず、具体化されない
 ・重点テーマ実行計画書の活用が形式化しており、経営成果と現場成果の関連付けが弱い
 ・経営計画の策定が数字中心で、戦略・施策の検討が不足している
 ・経営計画の策定に時間がかかりすぎて、スピード感もなく、計画コストも高くついている

2.実行評価システムの問題
 ・経営成果や現場成果の把握が遅くて、分析・対策まで結びついていない
 ・計画は時間をかけて策定するが、実行に伴う検証の仕組みが弱く、不十分なまま次に進んでしまう
 ・現場成果を経営成果につなげる仕組みがなく、現場の達成感向上が今ひとつである
 ・現場成果を図るモニタリングの仕組みは導入されているが、現場施策の実行度評価の仕組みがない
 ・今後の見通しや先行予測を支援するシステムが十分でないため、対策が後手になる
 ・中計のどこが達成できてどこが達成できていないか、が見える仕組みになっていない

3.経営管理組織の問題
 ・「経営会議」の場が、会社全体や問題事業の中計実行評価といった、「経営改革の場」として機能していない
 ・「事業会議」の場が、短期の業績検討中心の性格となっているため、「経営改革の場」として機能していない
 ・グループ本社・本部と現地本部・拠点との経営管理上の役割・機能分担が曖昧になっており、相互不信や調整業務が発生している
 ・経営企画室と管理部の役割分担が曖昧で、お互いの調整業務に時間がとられてしまう

4.人の問題
 ・トップマネジメントによる経営改革の全体像が中計に明示されていないので、経営改革の方向が伝わらない
 ・事業ラインサイドで有効な事業戦略や諸施策を立てる力が不足しているため、中計や年計の数値の裏付けが弱い
 ・年計はトップと各部門とのコミットメント(約束)という意識が弱く、各部門が早め早めに手を打てていない原因となっている
 ・スタッフは、毎月の実績分析力はあるが、今後の見通し力・予測力が弱く、対策を打ち出せていない

5.管理会計システムの問題
 ・事業別生販一体損益や顧客別損益が見えないため、戦略・施策の意思決定ができない
 ・毎月の損益管理情報がでる仕組みはあるが、今後の先行損益管理や先行資金管理の情報が見える仕組みがない
 ・グループの事業連結管理会計情報の把握に多くの時間をかけており、非効率になっている
 ・事業部や関係会社の管理スタッフや本社スタッフは数字把握に時間がかかっていて、本来の改革提案ができていない

この他にも、様々な問題があると思いますが、経営管理システムが経営の業績向上や意思決定に役立つように、有効に効率よく機能しているかどうかを見極めてください。

経営管理システムの拡大

グループ経営が進み、個々の単体企業の経営管理に加え、グループ経営管理の時代になりました。 また、経営のグローバル化に合わせて、グローバル経営管理の時代になったとも言えるでしょう。

経営管理システムは、グループ・グローバルレベルでの経営の意思決定と業績向上に役立つシステムへと拡大していますが、日本企業は新たな課題に直面しています。 足元の課題としては、事業連結ベースでの経営管理数字の集計・分析を迅速に行うためのIT活用があります。 連結企業と親会社もしくは持株会社が、経営管理数字の集計・分析に時間をかけていることから、ITを活用して経営管理業務を効率化しようというものです。

本質課題としては、事業連結ベースでの経営管理システムの確立があげられます。 このためには、事業連結管理会計システムの導入と活用が必要です。 事業部長や事業スタッフの事業連結ベースでの経営計画策定力や経営実行評価力の向上が、不可欠になります。

日本企業は、経営管理基盤としてのIT活用が遅れているとよく言われますが、事業連結管理会計システムを早く導入して、その活用力を高めることが大きな課題でしょう。

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