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第81回 IT活用の3領域とこれからの姿

  • 経営改革の知恵ぶくろ

神奴 圭康

まず、IT活用には3領域があることを認識しましょう。その上で、事業強化・開発と経営の見える化に、ITを活用することがいかに重要であるか、をお話しします。

IT活用の3領域とは

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企業の業務改善や経営改革におけるIT活用は、上図に示す3つの領域に集約できると考えます。

1.業務改善

一つ目は、業務改善の領域です。社内を中心とした第一線業務処理プロセスの効率化と内部統制を目的としたIT活用です。第一線業務処理プロセスには、次のような基本業務処理があります。

・販売や購買に伴う、受発注業務
・製造や入出荷に伴う、受払残業務
・経理業務(売上・仕入・棚卸、一般経費、原価計算、決算など)
・人事・勤労業務、給与業務
・ワークフロー業務  ・・・ 稟議書、出張申請許可、旅費交通精算、残業申請許可など

これらの基本業務処理は、定型繰り返し業務であることから、標準化して業務用パッケージを活用する企業も多くなっています。業務のQCDを改善することが、成果になります。また、メールやスケジュール・会議といった、情報伝達や情報共有化など、コミュニケーションの活性化につなげるIT活用も、業務改善の領域としています。

2.事業強化・事業開発

二つ目は、事業強化・事業開発の領域です。事業強化は、顧客満足と競争優位の実現につながる、事業の競争力強化を目的としたIT活用です。企業内および企業間のビジネスプロセスを対象に、BPRによる業務改革を行い、ITを上手に使うのです。製造業で言えば、グローバル対応するためにも、開発力・供給力・拡販力を強化する業務改革とIT活用として、次の3テーマが重要です。

(1) PLM(プロダクト・ライフサイクル・マネジメント)
製品戦略に基づき、事業関連部門が「製品の企画~設計~生産~流通~ユーザーサポート~企画反映」における製品情報・ナレッジを活用して、開発競争力を改革する統合的な製品マネジメントです。

(2) SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)
供給連鎖戦略に基づいて、事業関連部門が「原材料・部品の調達~生産~販売~流通」のプロセスで、販売機会損失、在庫と流通コストを最適化する供給連鎖マネジメントです。

(3) CRM(カスタマー・リレーション・マネジメント)
顧客戦略に基づき、事業関連部門が「顧客情報の収集~蓄積~活用の仕組み」を構築・運用して、顧客満足を実現し続けることによって、顧客との長期的信頼関係を築く顧客マネジメントです。

これら3つのテーマは、事業戦略に基づき、社外のビジネスプロセスも改革対象になるだけに、一朝一夕には構築・運用できません。しかし、グローバルで他社より競争優位に立てば、事業の成長と利益に貢献できるIT活用の領域になるでしょう。

また、事業開発は、新しいビジネスモデルの開発を目的としたIT活用です。次々と進化するインターネット関連ビジネスは、ITを活用した代表的なビジネスモデルと言えます。自動車業界や住宅業界に見られる、自社製品にITを組み込んで付加価値を提供するシステムも、新しいビジネスモデルとして期待されています。

3.経営の見える化

三つ目は、経営の見える化の領域です。経営の見える化は、データベースを活用して経営の意思決定を支援することを、目的としています。管理会計情報による意思決定支援は、経営の見える化の基本テーマです。また、商品情報や顧客情報など、ビッグデータ活用による意思決定支援も、経営の見える化に関連したテーマです。

経営の見える化は、IT活用によってそのシステムは導入できても、情報を活用する人の分析力や判断力、そして意思決定のスピード力が伴わないと、経営成果が実現できないテーマであることに留意してください。

IT活用3領域の比較

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IT活用3領域について、その要点を上の表に示しておきます。

これからのIT活用

これからは、次のことから、事業強化・事業開発と経営の見える化を内容とした経営改革に、ITを活用することが重要です。

1.業務改善へのIT活用は、あくまでも前提

業務改善へのIT活用は、社内の業務効率化と内部牽制のために必要です。しかし、各企業とも類似のパッケージを活用するなど、顧客満足や競争優位の実現につながる要素は、多くはありません。グループ経営やグローバル展開を進めていく上で前提となるIT活用と言えますが、顧客満足や競争優位に直接つながるものではありません。

2.事業の競争激化・グローバル展開・M&A推進への対応

事業強化・事業開発のIT活用は、顧客満足や競争優位の実現につながる直接要因となります。グローバルに通用する先進企業では、自社独自のビジネスプロセスに合わせて、IT活用を進化させています。しかし、多くの企業においては、ビジネスプロセスを見直し、ITを有効に活用する余地はまだまだ大きいと言えるでしょう。

3.意思決定スピード力の競争への対応

経営の見える化によって意思決定のスピード力を上げることは、日本企業の大きな課題です。経営管理に不可欠な管理会計の重要性に対する認識が不足していることもあり、管理会計情報による経営の見える化はまだ課題です。また、商品情報や顧客情報のデータベースの活用は、先進のマーケティング企業では進んでいます。こうした先進企業に学びながら、BI(ビジネス・インテリジェンス)と呼ばれるITを有効に活用することが、これから多くの企業に求められるでしょう。

前回も触れましたが、経営改革のためのIT活用には、経営とITの融合、事業・業務とITの融合という発想が、ますます必要になります。

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