第83回 経営の見える化とIT活用
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回は、N社における経営の見える化とIT活用をご紹介します。経営の見える化とは何か。さらに、IT活用は不可欠だが人の情報分析力と意思決定スピード力が重要である、ということをご説明します。
N社の課題
N社の事業は、不特定多数の消費者に、主に流通チャネルを通じて、生活衣料雑貨を提供しています。一部には仕入商品もありますが、自ら商品企画と製造を行い、国内外に販売する、というビジネスモデル(業態)です。このビジネスモデルは、生活者のライフスタイル研究を起点に、「商品企画開発~展示営業~仕入・生産~商品物流~店頭販売」の諸機能を、全体最適を実現するために有効に連携させることが必要不可欠です。
同社は、このビジネスモデルの仕組みにITを活用してきました。社長も、日常的なオペレーション業務のIT活用については、一定の評価をしています。しかし、経営の見える化とIT活用ついては、不満を感じていました。特に、次の点について課題があると認識していました。
1.事業評価を可能にする見える化
BU、得意先、商品群など、有効な事業セグメント別に売上・利益が見えない
2.マーケティング情報の見える化
商品・得意先・エリアの3次元をクロスさせた販売情報が見えない
3.商品ライフサイクルの見える化
「新商品の投入~商品の継続販売~商品の販促処分」の商品ライフサイクル・マネジメントができていない
これらを実現するには、経営の見える化とは何か、見える化をしてどうするのか、ITの有効活用はどうすればよいか、などを詰めること、そして情報活用のマネジメント意識を改革することが必要でした。
N社の経営の見える化改革とは
N社では、社長の課題意識を受けて、経営企画室が音頭をとり、事業部門とIT部門のメンバーが参画して「経営の見える化改革」をスタートさせました。
上の図は改革推進手順の大きな枠組みですが、以下はその概要です。
1.方向づけと実態把握
(1)経営の見える化とは
事業経営に役立てる経営管理情報を可視化し、経営各層が情報分析に基づく意思決定スピード力を向上させて、事業の成長と利益を実現すること
(2)経営の見える化の実態
◇会社全体、組織別の売上・利益は見えているが、事業セグメント別の売上・利益は見えていない
・・・BU(流通チャネル)別や得意先別に、マーケティング利益が見えていない
◇商品の単品別の売上金額・数量は見えているが、たとえば商品別得意先別や得意先別商品別のクロス販売情報は見えていない
・・・担当者のパソコンでデータ化されている
◇商品ライフサイクル別の売上・粗利益・在庫は見えていない
・・・商品・継続商品・処分品の区分基準が曖昧で、意思決定が遅れて、販売機会損失や不良在庫が発生する
◇商品別や顧客別の時系列ビックデータは、担当者が労力をかけてエクセルベースで管理しているが、組織的に共有化されていない
・・・有効なIT活用が求められている
・事業部門とIT部門がお互いに忙しく、経営の見える化について意識合せが十分できていない
2.改革策の立案
(1)見える化のシステム面
◇事業評価のための管理会計情報の見える化
・・・商品系と得意先系に分けて、商品および得意先の管理階層(レイヤー)別の売上・利益や在庫など管理会計データベースを再設計して活用する
◇3次元マーケティング情報の見える化
・・・商品・得意先・エリアをクロスさせた販売情報(金額・数量の時系列データ)分析が可能なDWH(データ・ウエア・ハウス)の仕組みと情報分析ツールを導入する
(2)見える化の活用面
◇経営各層が経営管理サイクル(PDCA)をまわす中で、管理会計情報やマーケティング情報をどのように活用するかを、マネジメント・ガイド・ブックとしてまとめて活用する
3.改革策の実行
◇中計および年計の策定段階で、管理会計情報とマーケティング情報を活用して、商品政策や得意先政策を意思決定する
◇新商品・継続商品・処分品の区分基準に基づき、商品ライフサイクル・マネジメントを実行して、売上・在庫・利益を最適化する
◇計画実行段階でKPI(重要業績指標)をモニタリングして、実行を徹底する
情報分析力と意思決定スピード力
その後、N社の経営の見える化改革は、紆余曲折を経ながらも、着実に前に進んでいます。成功事例との評価を受けています。その要因は、社長のマネジメント意識の高さにあります。複数の流通チャネルに多数の商品アイテムを販売する業態であり、情報分析とシミュレーションに基づき意思決定スピードを重視するマネジメント意識を持っていたのです。
経営の見える化は、上の図に示すBI(ビジネス・インテリジェンス)と呼ばれる情報系システムを併せて活用することがトレンドになっています。
しかし、経営の見える化とは、最新のITによる情報系システムは導入できても、その情報を活用する人の情報分析力、さらにシミュレーションに基づく意思決定スピード力が伴わないと、経営成果が実現できないものなのです。このことを、N社の事例は語っています。
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