第84回 ユーザー企業イニシアティブ
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回は、ITを活用するユーザー企業が情報システム導入のイニシアティブをとることの重要性について、お話しします。
情報システムの丸投げが問題
近年、ITを活用するユーザー企業の情報システム開発の先駆者や学識者の間で、「情報システムの丸投げからの脱却」が言われています。言い換えると、「ユーザー企業イニシアティブの重要性」ということです。経営のインフラとして情報システムは欠かせない時代になりました。にもかかわらず、SI(システム・インテグレータ)やパッケージベンダーなどのIT企業に、情報システム導入を過度に依存してしまうこと、時には情報システムの戦略や企画さえも安易に頼ってしまうような、主体性の欠如を問題視しているのです。
この問題の背景には、企業外部要因として、情報システムの技術高度化やパッケージ化など、IT進化によるIT企業依存度の高まりがあります。IT企業の顧客囲い込み戦略もあるでしょう。一方では企業内部要因として、アウトソーシング問題や人材問題も、ベンダー依存度を高めた要因です。アウトソーシング問題とは、情報システム部門自体の子会社化・アウトソーシング化による技術蓄積の低下です。人材問題は、ベテラン人材の退職、IT部門人員の絞り込み、情報システム企画人材の育成不足による技術力低下です。底辺には、IT活用の重要性に対するトップの認識不足もあります。
しかし、情報システムの導入や運用に、IT企業の活用は欠かせません。ユーザー企業がイニシアティブを発揮して経営改革にITを活用するためには、IT企業と良き関係(パートナー関係)を結ぶことが重要です。
IT業界のプレーヤーとは
経営改革にITを活用する上で、ユーザー企業を取り巻くIT業界のプレーヤーを認識しておく必要があります。上の図はその概要です。ユーザー企業がIT業界のプレーヤーとどのような関係にあるかを簡単にご説明します。
1.SI企業
ユーザー企業の情報システムを受託開発して、保守・運用までのサービスを提供します。また、パッケージやクラウドサービスの導入を支援するSI企業もあります。大手SI企業は限られており、多くが中小SI企業です。中には、ユーザー企業の情報システム部門が子会社からスタートして成長した企業もあります。
ユーザー企業から見ると、SI企業は身近なITプレーヤーです。パートナー関係にあるSI企業は、ユーザー企業の業務にも精通していて、競争優位を生み出す情報システムを開発する頼りになるプレーヤーと言えるでしょう。
2.パッケージベンダー
パッケージの企画開発販売をするITプレーヤーです。グローバルに展開する外資系のパッケージベンダーと、主に国内展開をする国内系のパッケージベンダーがあります。中堅以上のユーザー企業は、標準化できる業務については、ERPパッケージを導入して効率化を進めています。情報システムは効率的な面も持っていますが、必ずしも競争優位の創出にはつながりません。
多くのユーザー企業が、パッケージメーカーと提携しているSI企業から、パッケージ導入のサービスを受けています。したがって、パッケージベンダーとの関係は、SI企業との関係づくりと並行しながら進めていく形になります。
3.クラウドベンダー
ソフト・ハード・施設インフラなどのITリソースを、ユーザー企業のニーズに応じて組みわせて、ITサービスを提供します。自社内のITリソースを所有せずにITサービスを利用する、クラウド・コンピューティング時代に登場した新しいITプレーヤーです。
ユーザー企業とクラウドベンダーとの関係は、情報システムの委託範囲によって異なります。自社の情報システムを全てクラウドベンダーに託す企業にとっては、クラウドベンダーとは一身一体のパートナー関係になります。クラウド・コンピューティングは、まだ発展途上のビジネスモデルと言え、ユーザー企業との関係づくりも、契約関係を含めて進める必要があります。
4.コンサルティング企業
ユーザー企業と一緒になって経営改革にITを活用するIT関連プレーヤーです。SI企業をはじめとするITプレーヤーと連携して、ユーザー企業を支援することもあります。具体的には、情報システムの上流工程である経営改革とIT活用の企画、IT資源の調達、業務改革の実施、IT導入後の成果出しのフェーズで、ユーザー企業を支援します。
コンサルティング企業は、前出のITプレーヤーとは独立して、客観的な第三者の立場からユーザー企業を支援する関係にあります。ユーザー企業からは、「経営とITの橋渡しを支援するITコーディネータの役割」を期待されます。
イニシアティブ発揮のために
ユーザー企業がイニシアティブを発揮して、経営改革にITを活用するためには、IT企業と良き関係(パートナー関係)を結ぶことが重要だと述べました。これは、ユーザー企業自身が、ITプレーヤーを引っ張るしっかりした存在になることを意味しています。
ユーザー企業がしっかりした存在となるためには、これからは特に「経営改革のためのIT活用」と「IT活用の人材マネジメント」という攻めのIT活用課題に積極的に取り組む必要があります。攻めのIT活用課題は、情報システム部門だけでは解決できません。「トップ・事業ライン・経営スタッフの三位一体」による組織的取組みが欠かせません。次回は、この点についてお話をします。
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