第86回 中小企業のIT活用のリスクと成功ポイント
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
中小企業の経営改革にも、IT活用は欠かせません。今回は、中小企業によるIT活用のリスクと成功ポイントをお話しします。
中小企業のIT活用リスクとは
IT活用の成功事例が、雑誌やネットを通じて紹介されていますが、中小企業固有のリスクも認識しておく必要があります。私は、中小企業のIT活用リスクは次の3点と認識しています(上図参照)。
1.人・金・技術の3資源リスク
2.トップの関与リスク
3.業務管理水準リスク
W社は、特徴のある化粧品を企画製造販売している優良企業です。購買管理、販売管理、財務会計の領域が、情報システム化されています。しかし、それぞれの情報システムが個別にあり、全体として統合されていません。原価計算や経営管理の領域は、情報化の課題を抱えています。そこで、全社的に情報システムの見直しプロジェクトに着手しましたが、上記のIT活用リスクは次のように認識されました。
1.人・金・技術の3資源リスク
情報システムリーダーは、事業ラインから異動したばかりでIT経験は浅いのですが、業務理解力と改善マインドもあり、推進人材として適任と評価されました。しかし、情報システムが部分最適でシステム間がつながっていない点については、全体最適でシステム開発をする発想・技術が不足していました。
2.トップの関与リスク
経営トップは事業家ですが、IT活用については情報リーダーやSI企業に丸投げをしてきました。IT活用に対する経営トップの関心不足によるリスクが内在していたのです。この点については、経営改革にITを活用することの重要性とメリットを認識してもらいました。
3.業務管理水準リスク
業務管理面については、事業ラインの製造現場でのデータ処理に、エラーや入力遅れが見受けられました。また、業務処理の例外処理も多いため、業務の標準化が進んでいません。情報システム運用力や業務標準化の面で、業務管理リスクが認識されました。
W社は、これらのIT活用リスクを認識した上で、業務改革を実行しながら新しい情報システムの構築に成功しました。その成功要因は、経営トップの適切な関与、事業ラインと情報化リーダーの連携でした。
IT活用の成功ポイントは何か
中小企業のIT活用の成功ポイントは、前述したような活用リスクを回避することだと言えます。具体的に、次の3点を挙げておきましょう。
1.自社能力を考えたIT導入
中小企業は、大企業に比べて、人・金・技術に制約があります。人・金・技術を考えないで、一度に情報システムを再構築することは、リスクを伴います。将来の全体最適な情報システムを描きながらも、ホップ・ステップ・ジャンプで情報システム化を進めることが現実的なアプローチです。中小企業は、IT活用に対するトップの関心や業務管理水準が必ずしも高くありません。自社の身の丈に合った情報システム導入を着実に進めることがポイントです。たとえば、上図に示すIT活用成熟度を把握した上で、自社のに合った情報システム化を進めることが肝要です。
2.トップの役割発揮
これからは、ITを経営に生かすことを考えるのは中小企業トップの仕事です。経営改革とIT活用の目的を明示することは、企業規模に関わらずトップの役割と言えます。また、IT導入にあたって、成功する組織づくりや情報リーダーの配置もトップの仕事でしょう。一方、ITを得意とし自信を持つトップは、情報システム化に過剰介入するケースが見られます。介入し過ぎて細かい点まで口を出し過ぎると、情報化リーダーやSI企業に戸惑い・混乱を引き起こす場合もあります。トップの適切な関与が重要です。
3.業務管理水準の整備
W社の事例に見るように、中小企業には、業務の改善や標準化が進んでいない企業もあります。業務の改善と標準化を進めてITを活用することがポイントです。また、IT活用意識を高める意識改革も必要です。
これからのIT活用
中小企業のIT活用リスクと成功ポイントを、やや保守的にお話ししましたが、今後のIT活用に関して補足をしておきます。
1.事業モデルやフロント業務へのIT活用
これからのIT活用は、事業との結びつきがより強くなります。中小企業の小回りの利く体質・強みに合った事業モデル改革に、ITを活用することが想定できます。また、技術はあるが流通チャネルが弱い企業も多く、顧客との接点業務にITを活用するWWEBマーケティングも、まだまだ市場開発の余地があります。
2.広がるIT活用の選択肢
IT資産を全て保有するIT活用から、外部のITサービスを利用するクラウド・コンピューティングの時代も見えています。中小企業は、少ない人数で情報システムを運用することが基本です。このことからも、クラウドによる新しいサービスも、IT活用の選択肢として考える時代になっています。
3.第三者の専門家活用
少ない人数で情報システムを運用する中小企業は、経営とITの橋渡しをするITコーディネータ的な役割をもった、第三者の専門家を活用することも視野に入れておく必要があります。リタイアするベテラン人材にも、優れた人が多くいます。これからは、経営とIT活用に経験をもつ外部人材を活用することもトップの仕事と言えます。
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