第89回 サービス業の経営改革
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
サービス業について、事業タイプ分けの視点と経営改革のポイントをお話しします。また、サービス業に共通の経営改革の枠組みをご紹介します。
事業タイプ分けの様々な考え方
サービス業の基本特性は、サービス財を顧客に提供することです。したがって、「サービス財=業種」の視点から事業タイプ分けを行い、経営改革に取り組むことが基本です。第87回では、サービス業の主な業種として、「電気・ガス・熱供給」、「情報通信業」、「運輸業」、「卸売・小売業」、「金融・保険業」、「不動産業」、「飲食店・宿泊業」、「生活関連・娯楽業」、「医療・福祉」、「教育・学習支援業」、「複合サービス業(郵便局・協同組合)」、「サービス業(他に分類されないもの)」を挙げました。
この他にも、顧客の属性をもとに、「事業所向けサービス業」と「消費者向けサービス業」に、事業タイプを分ける考え方もあります。また、物販を伴ったサービスかどうかによって「物販サービス業(卸・小売業、飲食店)」と「非物販サービス業」に分類する考え方もあります。
一方、前回、製造業の例でご紹介したように、市場・顧客と商品・サービスの違いから、大きくは「Ⅰ顧客密着型」、「Ⅱ顧客開拓型」、「Ⅲ市場開発型」の3つの事業タイプ分けをし、その特性・KFSを把握して経営改革に取り組むことも考えられます。「事業所向けサービス業」は「Ⅰ顧客密着型」と「Ⅱ顧客開拓型」に、「消費者向けサービス業」は「Ⅲ市場開発型」に該当します。
提供サービスの特性
顧客に提供するサービスの特性が、人的ウエイトが高いかどうか、設備ウエイトが高いかどうかによって、上図に示すように、大きく4つの事業タイプが考えられます。このような事業タイプ分けは、提供サービスを生み出す経営資源のウエイトの違いからにもとづいた見方です。サービス産業の大きな業態(事業形態)分けとも言えるでしょう。
1.小規模設備サービス業
・設備ウエイトも人的ウエイトも小さい業態で、個人や中小企業による経営が中心
・飲料自販機、たばこ自販機、貸しロッカー、駐車場、駐輪場、ゴルフ練習場など
・商品・サービスの品揃え限定、立地選定、省力システム化がポイント
2.人的サービス業
・設備ウエイトが小さく人的ウエイトが大きい業態で、個人や中小企業による経営が中心
・中小の飲食業や小売業、中小情報サービス業、生活関連サービス業、専門サービス業(弁護士・会計士などの士業)、教育・学習支援、中小の医療・福祉など
・商品・サービスの差異化、人的サービスの専門性や品質の向上がポイント
3.大規模設備サービス業
・設備ウエイトが大規模であり、人的ウエイトが相対的に小さい業態で、大企業による経営が中心
・電気・ガス・熱供給業、大規模な倉庫業や不動産賃貸業、通信業、データセンター業など
・インフラ事業であり、操業度アップによる固定費回収、立地選定、顧客の信頼度確保がポイント
4.複合サービス業
・設備ウエイトも人的ウエイトも大きい業態で、大企業による経営が中心
・運輸業(鉄道業・運送業・航空運輸業)、金融・保険業、レジャー産業、大規模小売業、情報サービス業(大規模システムの開発・運用・保守、クラウド・サービスなど)、大手の教育・学習支援、大規模医療センターなど
・商品・サービスの品揃え多様化・専門化、立地選定、人的サービスの専門性や生産性の向上、グローバル経営の展開がポイント
情報システム企業G社の事例
情報システム会社G社は、グループ企業各社を顧客に持ち、グループ内情報システムの開発・運用・保守を行う、情報システム企業としてスタートしました。その後、グループ外企業への顧客開拓などによって、3000億円の売り上げを目指すまでに成長しました。同社では、中期経営計画において、グループ外企業への顧客開発拡大、データセンター・サービスやクラウド・サービスの新事業進出を明示しました。
上の図は、G社の中期経営計画において、どんな事業ユニットで事業領域を形成するかを明示したものです。
一つ目の柱は、少数特定顧客(グループ企業)に、人的ウエイトの大きい情報システムの開発・運用・保守サービスを提供する、顧客密着型SI事業です。二つ目の柱は、グループ企業外の多数特定顧客に対して、人的ウエイトの大きい情報システム開発やパッケージ導入を行う顧客開発型SI事業です。三つ目の柱は、グループ外企業の多数特定顧客に行う、設備サービス(データセンターサービス)や複合サービス(各種ソフト利用を含むクラウド・サービス)といった新事業です。
サービス業の事業タイプを把握して事業領域を明示した例です。G社は、現在これら3つの事業領域の特性・KFSを認識して、中期経営計画の実現に向けて奮闘中です。
サービス業の経営改革の枠組み
サービス業は、顧客満足・感動を生み出すサービス経営が基本です。業種や事業タイプは異なっても、サービス経営の基本を実現する経営改革の枠組みは、大きくは次の3つの領域・柱から形成されていると考えます。
1.サービス経営戦略力(戦略構想競争力)
・「サービスビジョン力」・・・サービス経営による価値創造のありかた
・「事業戦略策定力」・・・市場・顧客/商品・サービス戦略、業態開発戦略など
2.サービス経営実現力(事業システム競争力)
・「サービス開発力」×「サービス供給力」×「サービス営業力」
・3つの「価値創造」・・・「価値開発」×「価値づくり」×「価値提供」
3.サービス経営資源力(組織能力の競争力)
・組織と人材のマネジメント、経営管理システム力
・人材・資金・ブランド・ノウハウ・ITなどの経営資源力
高いサービス経営力を持つ企業は、上図に示すように、3つの領域・柱が有機的に噛み合って経営改革が進んでいます。サービス業の成功のカギは、多様化する顧客ニーズ・ウオンツを把握し経営改革に取り組んで、顧客満足・感動を生み出すことにあります。
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