第91回 オーナー経営と経営改革
- 経営改革の知恵ぶくろ
神奴 圭康
今回は、中小企業に多いオーナー経営の特性についてお話しします。オーナー経営の強みや弱みを認識して経営改革に取り組むことが必要です。
オーナー経営の強みと弱み
オーナー経営は過半数の株主=出資者が、多くの場合、オーナー経営者として会社の舵取りをする経営スタイルを指します。大企業にも存在しますが、中小企業に多く見受けられます。
オーナー経営と言えば、M&A(売却&買収)や設備投資など、戦略的意思決定が素早いスピード経営が思い浮かびますが、上の表に示すような強み弱みがあります。強みは、裏を返すと弱みになることを示しています。
オーナー経営でも、創業者は特に強い事業意欲を持っています。事業規模の拡大をねらう事業成長や、様々な事業に進出する事業多角化への意欲です。企業家精神の表れと言えますが、逆に、事業欲が空回りする弱みとなることもあります。過大な売上目標を掲げる事業成長に、人材成長や資金が追いつかない場合は、事業膨張となって経営破綻につながる可能性もあります。
スピード経営の発揮は、素早い意思決定が強みになります。オーナー経営は、株主としての立場から、投資に対するリターンを常に考えていますので、魅力ある事業機会に対する意思決定は素早く反応する、という強みをもっています。また、多少の失敗リスクを許容する行動重視の社内風土も、強みでしょう。しかし、スピード経営は権限や情報がオーナー経営者に集まり、何もかも意思決定をする、というワンマン経営の弱みにつながります。一方、ワンマン経営は、後継者育成の遅れ、時には後継者選びの失敗を招くことがあります。また、組織メンバーがオーナー経営者の判断に全てをゆだねる拝命体質につながります。拝命体質は、優れた人材が会社を離れる原因ともなります。
オーナー経営は、オーナー経営者の人間的魅力によって組織や人を先導する、という強みをもっています。会社の業績だけなく社会に貢献する、という情熱とリーダーシップに、組織メンバーを引っ張る強さがあります。また、苦労人としての人間的魅力もあります。創業者や二代目経営者は、事業の立ち上げから成長段階で、顧客開拓や技術開発、人材採用、資金調達などの苦労をしています。苦労に裏打ちされた言動が、人を引きつける魅力の要因となります。一方、オーナー経営は、マネジメントに対する意識が希薄となる弱みがあります。オーナー経営者の価値観が全面に出るため、人材マネジメントの制度運用がスムーズにいかないことがあります。経営の実態がよく見えない経営管理システムの不備も、組織メンバーのやる気に火をつけることができません。
オーナー経営の成功と失敗
オーナー経営には、成功も失敗もあります。上図は、事業面と人材面の成功と失敗の例を示しています。一つひとつを説明できませんが、優良流通業I社の例をご紹介しましょう。
多様な業態を展開するI社は、創業者の情熱とリーダーシップで事業を成長させてきました。現在は、二代目に経営を任せていますが、高所大所から経営助言をする相談役となっています。同社の事業成長は、創業者が明確な事業の目的・目標を提示してきたことが、大きく寄与しています。生活支援産業としての使命を果たすために、事業成長の目標として、売上と店舗数、投資と利益、人材の質と量を掲げてきました。
事業成長に関しては、明確な事業目標を提示することが経営改革のキーワードとなりました。たとえば、店舗数が将来300店舗になったら、今の仕事のやり方で良いのか、商品品質・スピード・コストは、お客さまに満足していただけるのか、が問われました。また、店長を始めとして、人材の質・量は事業成長に対応できるのか、が検討されました。事業意欲が空回りすることはありませんでした。
オーナー経営の強みである、スピード経営を実現するには、人・金・商品などの経営資源に関する権限と責任を明確にして経営することが、改革テーマとして核になりました。人材採用・配置・育成、立地・店舗開発、商品企画開発・商品仕入、資金の調達・運用などに関して、マネジメント階層別に権限と責任を明確にしました。その運用が定着するまでには、数年かかりましたが、素早い意思決定スピードを意識する、経営幹部育成を実現することができました。オーナー経営者がワンマン経営におちいることも防げました。
人材面では、多店舗化に合わせて、店長や部課長など経営幹部の成長が欠かせませんでした。この点については、創業者自らが生え抜き人材の成長を見守る、という基本姿勢をとりました。このことが、トップへの信頼形成につながり、経営幹部がお互いに切磋琢磨する、という好循環な流れになったのです。また、将来の経営ビジョンに沿った、人材マネジメントを導入しました。海外の店舗視察、人材育成を重点とした目標管理、業態の多様化に対応した異質人材の採用など、特徴のある人材マネジメントと言えるでしょう。
なお、I社の後継者には創業者の子息がなりましたが、創業者は彼に他社で様々な経験を積ませました。その後に自社に入社させ、主だった現場を踏ませてから、経営層に配置しています。創業者の後継者選びとしては、予想された形でしたが、経営者としての力量評価は、社内外から厳しく暖かい目で行われていることを付記しておきます。
オーナー経営者とサラリーマン経営者
オーナー経営者とサラリーマン経営者は、対比されることがあります。オーナー経営者は、自らの資金をつぎ込んで経営に当たります。また、自分の個人資産まで、資金の借入担保にとられます。サラリーマン経営者は、そこまではやりませんので、オーナー経営者に比較して厳しさに欠ける点があります。
また、私の先輩コンサルタントは、オーナー経営者はマラソンランナー、サラリーマン経営者は駅伝ランナーに、それぞれ例えています。オーナー経営者は、すべての距離(区間)を走り続けることが宿命とのこと。サラリーマン経営者は、一定の距離(区間)を走りきり、次の走者にバトンタッチすれば良い、失敗しても次の経営者がリカバリーすれば良いとのことです。
いずれにしても、経営者の役割は、第2回でお話ししたように、「会社をつぶさないこと」、言い換えると「会社を継続成長させること」です。そのためには、オーナー経営者もサラリーマン経営者も、経営環境に応じて、経営改革にたえまなく取り組むことが必要です。
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